ソニーから、新しいホームシアターシステムとして、サウンドバー「HT-A7000」と、4台のワイヤレススピーカーから成るホームシアターシステム「HT-A9」が発売された。どちらもワイヤレス機能を搭載している点が特長で、HT-A7000は別売のワイヤレスリアスピーカー/サブウーファーを追加可能。HT-A9は4台のワイヤレススピーカーをベースに、ワイヤレスサブウーファーを加えることで更なるアップグレードもできる。今回はこの2モデルを麻倉さんに体験してもらい、そのインプレッションを語っていただいた。(編集部)

 今日はソニー本社にお邪魔して、この夏の新製品サラウンドシステムを体験しました。サウンドバータイプの「HT-A7000」とワイヤレススピーカーシステムの「HT-A9」で、オプションのワイヤレスサブウーファーなどを組み合わせてシステム展開できる点も注目です。

 コロナ禍ということもあって、昨今は大型テレビが人気です。特に4Kテレビは市場の40%に達しており、今後の伸びも期待されます。4Kテレビはサウンドバーとセットで購入するユーザーも多く、ソニーでもこの分野が好調だそうです。今回の新製品もこのような状況を踏まえ、さらに新提案を盛り込んでいるのが魅力でしょう。

サウンドバー
HT-A7000 市場想定価格¥154,000前後(8月28日発売)

画像1: これぞ “ソニーらしい” ホームシアター新提案! ワイヤレスを活かしたサラウンドシステムやサウンドバーが、立体音響の歴史を変える:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート59

●使用ユニット:46×54mmフルレンジスピーカー×5(L/C/R/TOP L/TOP R)、ビームトゥイーター×2(SL/SR)、51×97mmウーファー×2(サブウーファー)
●接続端子:HDMI入力×2(8K/4K/3D/eARC対応)、HDMI出力×1(8K/4K/3D/eARC対応)、光デジタル音声入力×1、アナログ音声入力×1(ミニジャック)、センタースピーカー用出力×1、他
●Bluetoothコーデック(送信・受信):SBC、AAC、LDAC
●消費電力:約65W(待機時約0.5W以下)
●寸法/質量:W1300×H80×D142mm/約12kg

画像: ひとつの筐体に合計9基のユニットを搭載。S-Force PROフロントサラウンドとVertical Surround Engine(VSE)の組合わせで高さ方向の情報まで再現する

ひとつの筐体に合計9基のユニットを搭載。S-Force PROフロントサラウンドとVertical Surround Engine(VSE)の組合わせで高さ方向の情報まで再現する

画像: 「HT-A7000」の開発陣。写真左から、商品企画担当のソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品企画部 橋本琢磨さん、設計(プロジェクトリーダー)のホーム商品設計部 板垣鉄平さんと、設計(音響設計)の根岸賢幸さん

「HT-A7000」の開発陣。写真左から、商品企画担当のソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品企画部 橋本琢磨さん、設計(プロジェクトリーダー)のホーム商品設計部 板垣鉄平さんと、設計(音響設計)の根岸賢幸さん

 まずHT-A7000は「HT-ST5000」の後継機で、ソニーサウンドバーのトップモデル。ドルビーアトモス、DTS:Xなどのイマーシブオーディオはもちろん、同社が提唱する360 Reality Audioの再生にも対応済みです。

 HT-ST5000はサブウーファーとの2ピース構成でしたが、HT-A7000は本体正面にフロントスピーカー5基とビームトゥイーター2基、天面にイネーブルドスピーカー2基、そして正面にサブウーファーを2基搭載し、サウンドバーのみで7.1.2が再生できます。

 水平方向のサラウンド再生にはバーチャル再生技術のS-Force PROフロントサラウンドを使い、そこにVertical Surround Engine(VSE)を加えることで高さ方向を演出しています。

 フロントスピーカー用のS-Force PROフロントサラウンドに加えて、正面両端に配置したビームトゥイーターにより音場を拡大。サラウンド感をより高めるため、音道の大きさや向きにより指向性をコントロールするビームトゥイーターを新たに開発しました。VSE用のイネーブルドスピーカーは20度傾けて設置するなど、細かな工夫が凝らされています。

 これらのバーチャル機能を活かすための配慮として、音場補正機能も準備されています。内蔵マイクを使って壁や天井までの距離を測定し、適切な理想的な音響特性を実現するそうです。

画像2: これぞ “ソニーらしい” ホームシアター新提案! ワイヤレスを活かしたサラウンドシステムやサウンドバーが、立体音響の歴史を変える:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート59

 今回はドルビーアトモスのデモBDや、映画作品『グレイテスト・ショーマン』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』をチェックしました。最初はHT-A7000だけ、次にワイヤレスリアスピーカー「SA-RS3S」とサブウーファー「SA-SW5」を加えた音も聴いています。

 HT-A7000だけでも音場的にはかなりリッチな雰囲気ですね。音調はスケールが大きく、映画の音をたいそうな迫力で再生してくれます。包囲感もワンボックスにしては、充分得られています。

 ドルビーアトモスのトレーラーから『Leaf』『Amaze』を再生すると、確かにこれまでのサウンドバーとは一線を画す、立体的な音場が体験できました。ただ、少しバーチャルっぽさ、アルゴリズムの癖も感じます。ストレートな再生と、バーチャルな音の成分を比べると、アルゴリズムを使ったバーチャル音が強いですね。そういったアーティフィシャルなトーンがもう少し抑えられると、もっとよくなるでしょう。

 それもあり、ワイヤレスのサラウンドスピーカーを加えることで音場の質がぐっと向上します。当たり前だけど、音場が後ろまで広がって、あるべき場所に音が定位する。またバーチャルで包囲感を演出する必要が減るので、癖っぽさがとても少なくなります。音が空間いっぱいに充満する感じで、音場の完成度も高く、うまいまとまりだと思いました。オプションのワイヤレスサブウーファーでは、地を這うような低音感が楽しめました。

 VSEによる高さ方向の再現は、バーチャル処理と天井での音の反射の両方を使っていますが、『Amaze』の雷、雨音の再現性はとてもよかったと思います。

ワイヤレスサラウンドシステム
HT-A9 市場想定価格¥220,000前後(セット)

画像3: これぞ “ソニーらしい” ホームシアター新提案! ワイヤレスを活かしたサラウンドシステムやサウンドバーが、立体音響の歴史を変える:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート59

<スピーカー部>
●型式:2ウェイ2スピーカー+フルレンジ、アクティブ型
●使用ユニット:19mmソフトドーム型トゥイーター、70×82mmコーン型ウーファー+46×54mmフルレンジ
●消費電力:約22W(待機時約0.5W以下)
●寸法/質量:W160×H313×D147mm/約2.7kg
<コントロールボックス>
●接続端子:HDMI入力×1(8K/4K/3D/eARC対応)、HDMI出力×1(8K/4K/3D/eARC対応)、センタースピーカー用出力×1、他
●Bluetoothコーデック(送信・受信):SBC、AAC、LDAC
●消費電力:約15W(待機時約0.5W以下)
●寸法/質量:W150×H52×D150mm/約730g

画像: HT-A9のそれぞれのワイヤレススピーカーには、正面を向いた2ウェイスピーカ-と、上を向けたフルレンジユニットが内蔵されている。パンチングメタルの穴形も用途に合わせて変えるなど、細かな配慮も

HT-A9のそれぞれのワイヤレススピーカーには、正面を向いた2ウェイスピーカ-と、上を向けたフルレンジユニットが内蔵されている。パンチングメタルの穴形も用途に合わせて変えるなど、細かな配慮も

画像: 「HT-A9」の開発陣。写真左から、設計(音響設計)のソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品技術部 酒井芳将さん、設計(プロジェクトリーダー)のホーム商品設計部 堀内雅彦(課長)さん、商品企画のホーム商品企画部 鈴木真樹さん

「HT-A9」の開発陣。写真左から、設計(音響設計)のソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品技術部 酒井芳将さん、設計(プロジェクトリーダー)のホーム商品設計部 堀内雅彦(課長)さん、商品企画のホーム商品企画部 鈴木真樹さん

 HT-A9は、4台のワイヤレススピーカーによるサラウンドシステムという、まったく新しい提案。送信機とワイヤレスのアクティブスピーカーの組み合わせという機器構成は最近話題のWiSAと似ていますが、とてもソニーらしい技術も盛り込まれています。

 それが「360 Spatial Sound Mapping」です。これはいわゆるバーチャル再生とは違い、信号処理負荷の大きい波面合成技術をホームシアター用に簡易化した独自の物理音場再現技術と、音場最適化技術を組み合わせたものです。これにより、設計側の任意の位置に音源チャンネルを形成することが可能です。4台のリアルスピーカーで12個のファントムスピーカーを生成し、イマーシブサラウンドの再現をする仕組みです。

 スピーカーは正面を向いた2ウェイ2スピーカーと、天面にイネーブルドスピーカーを内蔵し、送信機とは5GHz帯域で接続されます。ワイヤレスで問題になる遅延については、非圧縮信号を伝送し、ビット欠落は独自アルゴリズムで対応、信号処理をワンチップで行うことで高速化しています。サラウンド再生時は48kHz/24ビットで伝送していますが、サウンドフィールドを「MUSIC」にしたハイレゾ再生時は96kHz/24ビット信号まで扱えるそうです。

画像4: これぞ “ソニーらしい” ホームシアター新提案! ワイヤレスを活かしたサラウンドシステムやサウンドバーが、立体音響の歴史を変える:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート59

 また4台のスピーカーはそれぞれマイクを内蔵し、自動音場最適化技術を使って、設置時にお互いの距離や位置関係を把握します。その際、4台のスピーカーを正方形に置けない、あるいは左右のスピーカーの高さが異なるといった場合でもある程度までは補正してくれます。これはリビングなどで家具を動かせないといった場合にはとても有効。左スピーカーはテレビラックに置いて、右スピーカーは壁掛けで、といった配置も可能でしょう。

 HT-A9は、サラウンドシステムの歴史の中でもエポックメイキングで、たいへん画期的だと思います。並のバーチャルとはまったく違う、正確な音像形成が刮目です。バーチャルでは、それなりに拡がるのですが、音像位置が不明瞭です。ところが、HT-A9は音場が格段に広く、その中で正確に、音像位置が絶対的に定位するのです。ひじょうに立体音場は広いのだが、その中の音像は、しっかりとイメージを結び、ポジションは揺るがないのです。

 オブジェクト方式のドルビーアトモスでは、正確な距離を、正確なスピードで移動します。これらの効果は、いわゆるバーチャルでは絶対に得られないものですね。ダイアローグはこれも正確に前方中央に定位しています。

●HT-A7000と組み合わせて使いたいワイヤレスリアスピーカー
SA-RS3S 市場想定価格¥44,000前後(ペア)

画像5: これぞ “ソニーらしい” ホームシアター新提案! ワイヤレスを活かしたサラウンドシステムやサウンドバーが、立体音響の歴史を変える:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート59

●HT-A7000やHT-A9と組み合わせて使いたいワイヤレスサブウーファー
SA-SW3 市場想定価格¥44,000前後(左)
SA-SW5 市場想定価格¥83,000前後(右)

画像6: これぞ “ソニーらしい” ホームシアター新提案! ワイヤレスを活かしたサラウンドシステムやサウンドバーが、立体音響の歴史を変える:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート59

 具体的にみていきましょう。まず、スピーカーの置き場所を選びません。これまではリアルスピーカーで聴きたいという人は、きちんとした場所にスピーカーを置かなくてはいけませんでした。さらにそのリアルスピーカーの数で音源位置も制約されていた。

 でもHT-A9は12個のファントムスピーカーを扱えるわけで、この技術はサラウンドの歴史を変えてくれます。現在は最大12個のファントムスピーカー再生を想定しているそうですが、本来はもっと多くの音源を創出できるはずだから、その点はさらに進化して欲しいと思います。

 音の移動感、位置の再現もとても正確で、360立体音響のメリットを感じます。ドルビーアトモス作品を再現すると、あるべき所に音像が出現します。『マッドマックス〜』では、映画のサラウンドとして完成度が高い。効果音もしっかり再現されているし、女性の叫び声も迫力があります。上から音が響いてくるような演出も、迫力充分に再現できています。オプションのサブウーファーを加えると、低音の充実度が格段に充実することに加え、サラウンドとしての表現力もさらにアップします。

 HT-A9は、デジタル技術、波面合成技術を使うことで、これまで不可能だったことを実現しています。テクノロジーが感動を生むという点は、とてもソニーらしいアプローチですね。波面合成で音場を作るというのは、もっともっと大きな可能性を秘めた技術です。さらに追い込んでもらいたいですね。

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