上級機からの技術を継承した高い完成度が特徴

 エラック・スピーカーのシンボリックなアイコンは、誰もが「JETトゥイーター」であるという認識だろう。エントリークラスの一部機種を除く同社スピーカーシステムに全面的に採用されているこのオリジナル・ドライバーは、振動板を細かなプリーツ状に折り畳み、振動面積の拡大と微細な振動での高い音圧、そして超高域再生を実現したリボン型トゥイーターだ。最新鋭のそれは、「JET V」と命名された第五世代である。

 現行モデル中でJETトゥイーターを搭載しているのは、全11機種(センター専用機などを除く)。内訳はトールボーイ型7機種、ブックシェルフ型4機種。なかでもとりわけ人気が高いのが、エンクロージャーにアルミ押出し材を用いたコンパクトなBS312で、日本市場におけるエラックの確固たるポジションを確立したロングセラー機である。

 これら11機種を俯瞰してみると、JETトゥイーターは中堅クラス以上の新製品に必ず採用され、トールボーイ型であってもスリムなプロポーションであることに気付く。これは、細身のエンクロージャーならではの回折現象の少なさ等が、JETトゥイーターのパフォーマンスにマッチしているのではないかと推察する(複数個の小口径ウーファーで必要充分な低域再生を可能とした設計ポリシーも加味されるところであろう)。

 そうした視点からニューモデルSolanoシリーズを眺めた時、上位機Velaの設計アプローチ、すなわち無垢アルミ製ベースの上にエンクロージャーを乗せた構造を踏襲しつつ、アルミダイキャストフレームを擁したドライバーの採用など、最新のメソッドを投入した、文字通りの主力中堅機たる完成度を備えていることがわかる。

Solanoシリーズとは

エラックではブランド・アイデンティティであるJETトゥイーターを搭載した製品シリーズを、最上位Concentroを筆頭にVela400、300、Carina 240と展開している。このSolano 280シリーズはVela400とCarina 240との間に位置する最新製品群で、トールボーイスタイルでスタガー駆動の3ウェイ(エラックでは2.5ウェイと呼称)機FS287、2ウェイのBS283、センター用横置きスタイルのCC281の3製品で構成されている。JETドライバーは最新第五世代「V」仕様で、ユニット周辺にスムーズな指向特性を狙ったウェイブガイドを配置。キャビネットは再生環境の影響を受けにくいダウンファイヤー式のバスレフポートを備えている。いずれもVela400開発で培った技術成果を盛り込んだ格好となる

 双方ともバスレフ型で、グラスファイバー製ポートをエンクロージャー底部に設けたダウンファイヤー方式という点もキーポイント。壁反射の影響を受けにくい上、出口のフレア形状によってエネルギーが全方位にスムーズに放射される点もサウンドパフォーマンスの特徴である。

画像1: 【HiViレビュー】スピーカーシステム、ELAC、Solano 「BS283」「FS287」注目プリメインアンプと組み合わせて極上のサウンドを楽しむ

Speaker System
ELAC
Solano BS283
¥240,000(ペア)+税

●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET Vトゥイーター、150mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:85dB/2.83V/1m
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:2.4kHz
●寸法/質量:W190×H331×D248mm/8.0kg
●カラリング:ハイグロス・ブラック(写真)、ハイグロス・ホワイト
●備考:専用スタンド(LS50、¥65,000ペア+税)

画像2: 【HiViレビュー】スピーカーシステム、ELAC、Solano 「BS283」「FS287」注目プリメインアンプと組み合わせて極上のサウンドを楽しむ

Solano FS287
¥460,000(ペア)+税

●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET Vトゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、150mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:87dB/2.83V/1m
●インピーダンス:4Ω
●クロスオーバー周波数:450Hz、2.4kHz
●寸法/質量:W260×H985×D300mm/19.0kg
●カラリング:ハイグロス・ブラック(写真)、ハイグロス・ホワイト
●問合せ先:㈱ユキム TEL. 03(5743)6202

いまもっとも注目しているプリメイン2モデルで鳴らす

 今回私は、Solanoシリーズの2機種、BS283/FS287を試聴するにあたり、プリメインアンプで鳴らすことを考えた。しかも準備した2機種は、今夏の本誌ベストバイにおけるプリメインアンプのふたつのカテゴリーにおいて私自身がベストワンに推したモデルである。組合せの価格バランスがやや極端になってしまうが、国産・海外で私が一目置くプリメインアンプでSolanoがどんな音を聴かせてくれるか、大いに興味が湧いた次第である。

 マランツMODEL30は、高効率とコンパクトさが売りのクラスDアンプ方式パワーアンプモジュール「Hypex製NC500」を搭載しながら、電源部を充実させることで(プリアンプ部専用電源など)、強力なドライブ性能を実現したモデル。新しいデザインフィニッシュも新鮮で、先頃ブラック・バージョンが追加されている。

 ソウリューション330は、ハイスルーレートと高ダンピングファクターがセールスポイントのスイス・メイド。大容量のコンデンサーバンクを擁したスイッチモード・パワーサプライを搭載し、抜群の駆動力とハイスピードなトランジェント性能を持った秀作アンプである。

画像: 「2021HiVi夏のベストバイ」のプリメインアンプ部門Ⅱ(20万円以上40万円未満)で1位を獲得したマランツの新型プリメインアンプMODEL 30(¥270,000+税)。ハイペックス製デジタルアンプを採用し、200W×2(4Ω)のハイパワーを比較的小さな筐体で叩き出す ●問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL. 0570(666)112

「2021HiVi夏のベストバイ」のプリメインアンプ部門Ⅱ(20万円以上40万円未満)で1位を獲得したマランツの新型プリメインアンプMODEL 30(¥270,000+税)。ハイペックス製デジタルアンプを採用し、200W×2(4Ω)のハイパワーを比較的小さな筐体で叩き出す

●問合せ先 : デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL. 0570(666)112

画像: こちらは「2021HiVi夏のベストバイ」のプリメインアンプ部門Ⅲ(40万円以上)で5位を獲得したスイスのソウリューション330(¥1,980,000+税)。小原さんは本機に☆(ベストワン)を投じている。強力なスイッチング電源を4基搭載、強大なパワーの裏付けとしている ●問合せ先 : ㈱アークジョイア TEL. 03(6902)0480

こちらは「2021HiVi夏のベストバイ」のプリメインアンプ部門Ⅲ(40万円以上)で5位を獲得したスイスのソウリューション330(¥1,980,000+税)。小原さんは本機に☆(ベストワン)を投じている。強力なスイッチング電源を4基搭載、強大なパワーの裏付けとしている

●問合せ先 : ㈱アークジョイア TEL. 03(6902)0480

良質なフルレンジのような見事なバランスのBS283

 まずは本誌視聴室リファレンスのデノンPMA-SX1リミテッドを使ってBS283のサウンドの大筋を掴もう。同機は専用スタンドを使って4点のボルトで固定した状態で試聴した。

 SACD『Higher』で鳴らしたパトリシア・バーバーの女性ヴォーカルは、しっとりとした質感再現ながら音像フォルムががっちりとして逞しい描写。いかにもデノンらしい再生音である。伴奏のガットギターのアルペジオは、爪弾く指の腹がイメージできそうなリアリティだ。当方監修のステレオサウンドリファレンスSACD『クロスオーバー黄金時代』から「マイ・ディア・ライフ/渡辺貞夫」を聴いたが、ソプラニーノの柔らかなトーンが心地よい。L chの奥に定位するギターのカッティングリズムも精妙で、エレピが奏でるメロディーがすこぶるクリアーだ。

 ここでアンプをMODEL30にスイッチした。P・バーバーの歌声はよりしっとりとして艶っぽく、いい意味で女性らしい線の細さも感じられる。ガットギターの伴奏は、指の腹の様子はもちろん、ネックを滑る左手の動きさえ鮮明。

 渡辺貞夫はスタジオの空気がより澄んだような印象で、演奏メンバーのスタジオ内での配置が見えるかのよう。ソプラニーノの高域の抜けも気持ちよい。デノンに比べてベースのビートがやや軽めにはなったが、ステレオイメージの見晴らしはマランツが良好だ。特に印象的なのはドラムで、左右スピーカーの間隔をワイドに活用した広がりのある提示。ニュートラルな質感再現とも相まって、とても生々しいバランスである。

 女流ヴァイオリニスト/ヒラリー・ハーンの新譜『パリ』から、「ショーソン:詩曲」を再生。オーケストラの立体的な楽器配置がよくわかる再現だ。無伴奏による独奏パートのヴァイオリンの音色は、透き通るようでありながら色艶とダイナミクスが素晴らしい。

 96kHz/24ビット/FLACのハイレゾファイル『ジョン・ウィリアムズ・ライヴ・イン・ウィーン』から「スター・ウォーズ/インペリアル・マーチ」を再生。ダイナミックで勇ましく、勇壮な雰囲気が味わえた。管楽器群が織り成すメロディーをがっちり支えるコントラバスのリズム、畳み掛けるような反復フレーズが実に豪快だ。

 良質のフルレンジ・ドライバーを聴いているような2ウェイのつながりのよさが本機の大きな魅力で、重低音さえ欲張らなければエネルギーバランスは整っており、とてもよくできたエラック近年の傑作モデルと私は思う。

ヴァイオリンのニュアンスを実にカラフルに描くFS287

 アンプをMODEL30のままで、スピーカーをFS287に入れ替える。ジョン・ウィリアムズはローエンドの重心が下がり、よりヘヴィで逞しいマーチを再現した。スケール感もアップし、重厚な雰囲気が増したのだが、やや低域が膨らみ気味。P・バーバーでもしっとりとした色艶を保ってはいるが、音像フォルムの下腹部辺りが若干緩く感じられ、もう少し引き締めたい衝動に駆られた次第。

 そこでソウリューション330の出番である。J・ウィリアムズはホールに広がるフワッという余韻がリアルで、ステージ奥行の再現力が素晴らしい。マーチの旋律が醸し出す闇の奥深さ、ダークネスがいっそう濃厚に実感できた演奏だ。

 P・バーバーのヴォーカルには温度感と湿り気が感じられ、等身大の音像フォルムが現われた。ガットギターも高級品になったような響きで、ピッキングの微かなニュアンスはいっそう豊かに。

 渡辺貞夫はL chから聴こえるリー・リトナーならではのカッティングギターがくっきり迫り出す。ドラムはキックペダルの動きが見えそうで、強弱の付け方がよりハッキリした。FS287は音楽性は元より、分解能・解像力がきわめて高いことをここで実感。ドラムのハービー・メイソンの上手さ再確認である。

 ハーンの「詩曲」でも、オケを従えて屹立する独奏ヴァイオリンのニュアンスが実にカラフルに感じられ、メロディーの緩急と抑揚が明確なコントラストを示した。

 今回の取材を通じて、Solanoシリーズがエラックの屋台骨を支える重要かつ強力なラインナップとなるであろうことを強く実感した。

スピーカー端子はバイワイヤリング接続に対応。ネットワークの帯域分割周波数は2.4kHzで、これはFS287やセンター用CC281とも共通している。ホームシアター用途として位相が揃った理想に近い状態でサラウンドシステムが組めるメリットもある。本体底面にバスレフポートを配し、本体とベースの隙間に音を放射する「ダウンファイヤー」方式を採用

リファレンス機器
●SACD/CDプレーヤー:デノン DCD-SX1 LIMITED
●ミュージックサーバー:フィダータ HFAS1-S10
●プリメインアンプ:デノン PMA-SX1 LIMITED

試聴したソフト
●SACD:『Higher/Patricia Barber』、『クロスオーバー黄金時代 1977~1987 FUSION』
●CD:『パリ/ヒラリー・ハーン』
●ハイレゾファイル:『ジョン・ウィリアムズ・ライヴ・イン・ウィーン』(96kHz/24ビット/FLAC)

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