映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第55回をお送りします。今回取り上げるのは、ロシア風の風刺を存分に振りかけた傑作『クー! キン・ザ・ザ』。銀河の果てに飛ばされた二人は、帰郷できるのか? とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
【PICK UP MOVIE】
『クー! キン・ザ・ザ』
5月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
見渡す限りの砂漠の上を、釣り鐘型の大きな飛行艇が滑るように飛んでくる!
今回も、ヘンなもの、面白いもの好きな向きは必見。1989年に日本公開された旧ソ連製のキテレツSF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』(1986年)を、実写版の監督ゲオルギー・ダネリアらがアニメーション映画化した注目作。
冬のモスクワの街。迷子になったという裸足の宇宙人に出会った音楽家の中年男チジョフと青年トリクは、宇宙人が手にしていた小型タブレットで、いきなり宇宙の彼方の惑星プリュクに飛ばされてしまう。
一面が砂漠。住民はチャトル人とパッツ人に別れており、飛行艇に乗って移動するふたり、見かけは似たようなもののチャトル人のウエフは身分が低いパッツ人 ビーに威張っている。そんなウエフもエツィロップ(警官)に出会うと“クー”のポーズをして服従を示さないといけないのだが。
自分の頬を二回叩いて、足を開いてお辞儀をするこのクーのポーズが最高で、当時池袋・旧文芸坐の「ソビエトSF映画祭」で観たときは、知り合いと近くにあったストリップ劇場の前でクーのポーズを真似してゲラゲラと笑ったものだった。
いまの新文芸坐の3倍位の規模の大劇場。ゴミゴミとした場所にあった。映画が終わって外に出るとネオンが瞬いていた。のぞき部屋とかも並んでいた。映画なんて小綺麗なシネコンで観るものではないよ。本来は街の雑踏のなかに転がっているものだ。
今回のアニメーション版(セル画+3D CG)のストーリーは、大筋では旧版と替わっていない。その意味ではリメイクだけれど、絵柄にエキゾチックな味わいがあり、新たな装いで楽しめる。
アニメ版の公開と同時に実写版もリバイバル上映される劇場あり。これは貴重で楽しい映像体験だろう。
監督・脚本のダネリアはロシア、中東、ヨーロッパに囲まれたちいさな国ジョージア共和国(旧グルジア)の出身。この国は周辺の強国にたびたび侵略、支配され、1991年まではソ連邦の一部だった。クーのポーズには、そんなちっぽけな国の歴史、辺境の格差、それでもしぶとく生き抜いてきた生命力とユーモアが隠されているのかもしれない。
そんなこと抜きにしても面白い。人生もひとときの夢という儚(はかな)さも漂っている。ダネリア監督はこの映画を遺作に、2019年に88歳で世を去った。
映画『クー! キン・ザ・ザ』
5月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺、川崎チネチッタほか全国順次ロードショー!
監督:ゲオルギー・ダネリア、タチアナ・イリーナ
声の出演:ミコライ・グベンコ(チェロ奏者チジョフ)、イワン・ツェフミストレンコ(DJトリク)、アンドレイ・レオノフ(チャトル人ウエフ)、アレクセイ・コルガン(パッツ人ビー))
原題:KU! KIN-DZA-DZA
配給:パンドラ
2013年/ロシア/ビスタサイズ/90分
(C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm
公式サイト http://www.pan-dora.co.jp/kookindzadza/