いまから約8年前、歌手、今井美樹は家族と共に、生活の拠点を英国・ロンドンに移し、いまも日本との間を行き来しながら音楽活動を続けている。このところコロナ禍の影響もあって、東京/ロンドンの自由な移動もままならないが、2020年11月11日にはデビュー35周年の節目として、新作『Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST』をリリースしている。
これはキャリア初のフルオーケストレーションによるレコーディング・アルバム。「PRIDE」「PIECE OFMY WISH」「瞳がほほえむから」「Goodbye Yesterday」といったお馴染みの楽曲をオーケストラ演奏によってセルフカバーした作品だ。
編曲は千住明、服部隆之、挾間美帆、武部聡志という日本を代表する4人の音楽家が担当。録音はミキサーズラボの内沼映二と三浦瑞生。加えて、ミックスはジョナサン・アレン、マスタリングはアビー・ロード・スタジオのジェフ・ペッシュが行なうなど、著名なスタッフがズラリと顔を揃える。
今井美樹にとってはどれも“サウンドトラック”とも言える思い入れの深い曲だが、いずれも魅力的なアレンジ、本格的なオケ演奏によって新たな息吹が吹き込まれ、彼女自身、「強い個性が際立ち、まったく新しい色を放っている」と満足げだ。
アルバムは「初回限定盤」と「通常盤」の2種類。前者については本編CDに加えて、コンサートの模様を収めた2枚のDVDを付属している。
今井美樹のユーミンカバーSACD&LPは
女性ヴォーカル好きオーディオファン必聴だ
このアルバムの発売を受けて、「billboard classics」と初めてコラボレーションした「billboard classics MIKI IMAI 35th Anniversary premium ensemble concert」を全4公演開催。このプレミアムなステージの中から2020年11月27日に開催された東京公演の模様が2021年2月、WOWOWで独占放送されるという。ぜひ、お見逃しなく。
今井美樹のカバーアルバムと聞いて、まず頭に浮かぶのは、彼女が憧れ、慕っていた荒井由実/松任谷由実(ユーミン)の楽曲をカバーした『Dialogue』(2013年10月9日発売)だ。この企画が彼女の元に持ち込まれた時、ユーミンへの思いが強すぎて、戸惑い躊躇したという。その頃、夫である布袋寅泰とともにロンドンへの移住が決まり、50歳という節目を迎えたこともあり、「このタイミングなら」と、制作を決意したとあるインタビューで答えている。
個性が強く、独特の歌声が脳裏にしみこんでいるユーミンの楽曲を、今井美樹がいかに受け入れて、本人のメッセージとして歌い上げるのか、正直、期待半分、不安半分だったが、根っからの今井美樹のファンとしては、買わない手はない。
「卒業写真」「中央フリーウェイ」「あの日にかえりたい」と、ユーミンの定番ともいえるお馴染みの曲を聴いていくと、今井美樹の天性とも言える澄んだ伸びのある歌声がスッと心にしみ入り、なんとも心地いい。そのCDの内容は不満を感じることはなかった。
でも少しだけ贅沢が許されるのなら、この音源をSACD、あるいはアナログLPレコードで聴いてみたい、そう感じたのも事実だ。
CDの発売から約6年経過し、奇跡的にもこの私のほのかな願いがかなう日がやってきた。2019年の9月、ステレオサウンド社から『Dialogue』のSACD版がリリースされたのである(後に45回転仕様による2枚組アナログLPもリリース)。
アナログレコードコレクション/オーディオ名盤コレクション
『Dialogue-Miki Imai Sings Yuming Classics-/今井美樹』
アナログレコード (ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSAR-041〜042)¥9,000+税
●仕様:45回転180g 重量盤2枚組
●カッティング エンジニア:武沢茂(日本コロムビア株式会社)
SACD (ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSMS-027)¥4,500+税
●仕様:シングルレイヤーSACD(通常のCDプレーヤーでは再生不可)
●マスタリング エンジニア:鈴木浩二(ソニー・ミュージックスタジオ)
●作詞/作曲:松任谷由実(荒井由実)
※アナログレコードは、1〜3曲目がSide A、4〜6曲目がSide B、7〜9曲目がSide C、10〜12曲目がSide Dに収録
■収録曲
1 卒業写真
2 中央フリーウェイ
3 あの日にかえりたい
4 人魚になりたい
5 やさしさに包まれたなら
6 シンデレラ・エクスプレス
7 ようこそ輝く時間へ
8 霧雨で見えない
9 青春のリグレット
10 青いエアメイル
11 手のひらの東京タワー
12 私を忘れる頃
●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_ss_arc/3181
→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/3169
ユニバーサルミュージックが管理するデジタルマスター音源はCDと共通。ただSACD化においては、音づくりを任されたマスタリング・エンジニアが、SACDという器の特質を見据え、細心の注意を払いながら、最終的な音に仕上げた。ちなみにマスタリング(音調整)はソニー・ミュージックスタジオの鈴木浩二氏が担当している。
デジタルマスターは基本96kHz/24bit PCM音源。ただ「中央フリーウェイ」、「ようこそ輝く時間へ」の2曲についてはマスターが44.1kHz/24bit PCM音源のため、独自の手法でアップコンバート処理後、マスタリング作業が行なわれた。
6年間待ち続けて、ようやく聴くことができたSACDのサウンドは、充分に期待通り、いやそれを超える仕上がりだった。艶のある透き通った歌声はイメージと変わらないが、その声の出方、ベースの伸び、そして空間の拡がりと、そのサウンドは躍動感に富んで、開放感に溢れている。
たとえば私が機材の試聴用としても重用している1曲「青春のリグレット」。アコースティックギター、ドラムス、ピアノ、パーカッションと、シンプルな演奏とともに今井美樹の澄んだ歌声が拡がっていく。各楽器から放たれる音の響きの粒子が細かく、ストレスなく空間に浸透し、消えていく感じが実に新鮮だ。
語りかけるようなヴォーカルはハードセンターではなく、バックの演奏に無理なく馴染み、まるで目の前の空間全体が歌っているかのように拡がる。その様子は力みがなく、あくまでも和やかで、彼女が歌っているスタジオの現場が目に浮かぶほど、生々しい。SACDがここまでの表現力を持つとは……、新鮮な驚きだった。
その仕上がりのよさ、品質の高さが高く評価され、ステレオサウンドストアをはじめ、全国の有名オーディオショップでも品切れの状態が続いていたが、このほど再プレスが決定した。
今井美樹のファンはもとより、女性ヴォーカル好きのオーディオファンの方には、必聴の1枚。ぜひ、この機会に入手し、大切に、手元に置いていただきたい。
●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル03(5716)3239(受付時間:9:30〜18:00 土日祝日を除く)