今回、アメリカのオーディオブランドであるBenchmark Media Systems(ベンチマーク・メディア・システム)の製品を一斉に試聴する機会に恵まれたが、筆者の考えるリファレンスサウンド像に見事に合致し、大いに感心してしまった。

 試聴したのは、D/AコンバーターのDAC3 BとDAC3 HGC、ヘッドホンアンプ/プリアンプのHPA4、プリアンプLA4、そしてパワーアンプAHB2の5機種である。

 結論から先に述べると、共通していたのは、スピーカー環境およびヘッドホン環境のどちらでもソース音源に対して徹底的に正しい解釈を志向するサウンドであること。まさに社名通り「指標」となるような音の出方といえる。さらに現代のオーディオ事情にフィットする横幅30cmに満たないコンパクトな筐体サイズや、武骨さと趣味性を兼ねたデザインも気に入った。

スペックと聴感、両方を追い込むメーカー

 ベンチマーク・メディア・システムは1983年に米テキサス・ガーランドでガレージメーカーとして産声を上げた。創業者はアレン・H・バーディックという人物で、当初はテレビ放送施設などで使用されるプロフェッショナル用機器を開発、販売して急成長し、その後プロフェッショナル/コンシューマー用オーディオ市場に進出した。創業者の引退後、現在はジョン・シアウ氏がエンジニアリング兼任ディレクターとして辣腕を振るう。

 製品開発のポリシーで注目したいのは、諸特性を重視していること。各製品に付属する分厚いマニュアルには、SN比や歪率などのスペックに多くのページを割いている。しかしそれでいて、最終的には聴感でリファレンス性の高い音に追い込んでいるという点が興味深い。つまり同社製品は数値でも聴感でも徹底的に色付けのない音を狙っているのだと推測できる。

 また、同社製品のコンポーネントはほぼすべてが米国で生産されており、ニューヨーク州シラキュースの工場で設計、組み立て、テストが行なわれている。

画像1: これぞリファレンスサウンド!ベンチマークの衝撃的な音を奏でる5製品を一斉試聴
画像: DAC機能だけのシンプルな機種。デジタル入力は5系統を備えている

DAC機能だけのシンプルな機種。デジタル入力は5系統を備えている

D/A CONVERTER
Benchmark
DAC3 B
オープン価格(実勢価格22万5,000円前後)

●接続端子:デジタル音声入力5系統(USBタイプB、光×2、同軸×2)、アナログ音声出力2系統(RCA、XLR)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜192kHz/24ビット(PCM)、〜2.8MHz(DSD)
●寸法/質量:W249×H44.5×D220mm/1.36kg
●問合せ先:(株)エミライ TEL. 03(6878)4273

画像2: これぞリファレンスサウンド!ベンチマークの衝撃的な音を奏でる5製品を一斉試聴
画像: DAC3 Bにヘッドホンアンプ機能を加えたモデル。ヘッドホンの左端子使用時は他の出力をカット、右端子使用時には他の出力が有効になる

DAC3 Bにヘッドホンアンプ機能を加えたモデル。ヘッドホンの左端子使用時は他の出力をカット、右端子使用時には他の出力が有効になる

D/A CONVERTER / HEADPHONE AMPLIFIER
DAC3 HGC
オープン価格(実勢価格29万3,000円前後)

●接続端子:デジタル音声入力5系統(USBタイプB、光×2、同軸×2)、アナログ音声入力2系統(RCA×2)、アナログ音声出力3系統(RCA×2、XLR)、ヘッドホン出力2系統(6.3mm標準×2)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜192kHz/24ビット(PCM)、〜2.8MHz(DSD)
●寸法/質量:W249×H44.5×D237mm/1.36kg

 DAC3 BとDAC3 HGCは、ESSテクノロジー社のDACチップES9028PROを搭載する同社最新世代のD/Aコンバーターだ。同チップから出力される8ch分の信号を足し合わせ、2chのバランスアナログ出力を生成する「クアッド32ビット・バランスD/A変換システム」を搭載する。さらにES9028PROチップが持つ2次、3次高調波歪を除去する機能と、独自開発したD/A変換後の高精度なアナログ出力回路を組み合わせ、全高調波歪の低減を実現している。

 ジッター対策も徹底されており、6ミリ秒の位相精度でロックするというジッター減衰システム「ウルトラロック3」により、ジッター起因の歪みとノイズを140dB以上も抑制した。

 さらにデジタルドメインで最大音量となる0dBFSの信号処理時に3.5dBのヘッドルームが確保される「ハイ・ヘッドルームDSP」を搭載することで、クリッピングノイズの発生を防止した。また、電源部から伝わるノイズを徹底的に排除する分散型電源レギュレーション設計を採用するなど、デジタル/アナログ回路から電源部まで全方位的な音質対策が行なわれている。

 DAC3 HGCは、DAC3 Bにプリアンプ機能とヘッドホンアンプを搭載したモデルだ。6.3mmヘッドホン端子が2系統備えられ入出力端子も増えている。ボリュウム調整にはダイナミックレンジを犠牲にせずゲイン調整が可能な独自技術「ハイブリッド・ゲイン・コントロール」を用いる。ヘッドホンアンプ回路も強力で、1.25W(30Ω時)の大出力と0.11Ωの低インピーダンスを両立した独自のヘッドホンアンプ回路「HPA2」を搭載する。また、ホームシアターシステムとの連携に便利なユニティ・ゲイン機能も搭載されている。

画像3: これぞリファレンスサウンド!ベンチマークの衝撃的な音を奏でる5製品を一斉試聴
画像: アナログ入出力に特化したヘッドホンアンプ/プリアンプ。ヘッドホン出力は、6.3mm端子と4ピンバランス端子に対応する

アナログ入出力に特化したヘッドホンアンプ/プリアンプ。ヘッドホン出力は、6.3mm端子と4ピンバランス端子に対応する

HEADPHONE AMPLIFIER / CONTROL AMPLIFIER
HPA4
オープン価格(実勢価格39万8,000円前後)

●接続端子:アナログ音声入力4系統(RCA×2、XLR×2)、アナログ音声出力3系統(RCA、XLRステレオ、XLRモノ)、ヘッドホン出力2系統(6.3mm標準、4ピンXLR)
●寸法/質量:W220×H98.6×D212mm/3.63kg

画像4: これぞリファレンスサウンド!ベンチマークの衝撃的な音を奏でる5製品を一斉試聴
画像: HPA4からヘッドホンアンプ機能を除いたモデル。背面の接続端子は共通している

HPA4からヘッドホンアンプ機能を除いたモデル。背面の接続端子は共通している

CONTROL AMPLIFIER
LA4
オープン価格(実勢価格33万1,000円前後)

●接続端子:アナログ音声入力4系統(RCA×2、XLR×2)、アナログ音声出力3系統(RCA、XLRステレオ、XLRモノ)
●寸法/質量:W220×H98.6×D212mm/3.63kg

 HPA4は、デジタル入力を持たないピュアなアナログ専用のヘッドホンアンプ/プリアンプ。THX社の特許技術「THX-AAA(Achromatic Audio Amplifier)テクノロジー」で最上位の方式となるTHX888アンプデザインと、独自技術であるリレー式ゲインコントロール/入力選択/ミュート機能が特徴。同社らしく諸特性が徹底されており、周波数帯域は0.01Hz~500kHz、SN比135dB、歪率0.0006%という近年あまり聞いたことのないほどの数値を叩き出している。

 ヘッドホン回路周りも充実している。6.3mm標準プラグと4ピンのXLR端子を各1系統搭載し、例えば300Ωもの高インピーダンスのヘッドホンを接続しても11.9Vrms、16Ωのヘッドホンでは6Wの出力を確保するなど強力だ。このHPA4と共通の仕様を保持しつつ、これらヘッドホン回路/端子を省いてプリアンプに特化させたモデルがLA4である。

画像5: これぞリファレンスサウンド!ベンチマークの衝撃的な音を奏でる5製品を一斉試聴
画像: HPA4やLA4と接続できるパワーアンプ。モノーラルモードも備えている。スピーカーへの接続はスピコン端子の使用を推奨している

HPA4やLA4と接続できるパワーアンプ。モノーラルモードも備えている。スピーカーへの接続はスピコン端子の使用を推奨している

POWER AMPLIFIER
AHB2
オープン価格(実勢価格39万8,000円前後)

●出力:100W+100W(8Ω)/190W+190W(4Ω)、ブリッジモード時は380W(8Ω)/480W(6Ω)
●接続端子:アナログ音声入力1系統(XLR)、スピコン端子3系統 他
●備考:「モノ・モード」でモノーラル・パワーアンプとして使用可
●寸法/質量:W280×H99×D237mm/5.67kg

 AHB2は、THX-AAAに加え、電源回路に独自の低ノイズスイッチング電源を採用したパワーアンプ。周波数特性、出力ノイズ、駆動電流、ダンピングファクターを徹底的に追求しつつ高信頼性を確保している。例えばSN比は132dB、周波数特性は0.1Hz~200kHzと特異ともいえる数値を持ち、さらに最大29Aものピーク電流を供給可能で1.4Ωの低インピーダンスの負荷をかけてもフル出力レベルを担保する。背面にあるスイッチを切り替えてモノーラルパワーアンプとしても使用できる。なお、スピコン端子も備えている。

画像: スペックと聴感、両方を追い込むメーカー

4つの試聴テストでフラットな出音を確信

 今回はヘッドホン環境とスピーカー環境の両方を4パターンの組合せで試聴した。まず、DAC3 HGCのヘッドホンアンプ機能を試す(図:接続①)。MacBook ProをトランスポートにしてUSBケーブルでDAC3 HGCと接続、ゼンハイザーのヘッドホンHD800Sで試聴した。ホセ・ジェイムスのハイレゾファイル「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」では、一聴してフラットな帯域バランスで、音調も硬すぎず柔らかすぎず、まさに中立的な表現だ。全帯域ダンピングに優れ、音像を中心としたフォーカスも抜群である。

 次にHPA4をヘッドホンアンプとしてここに追加した(図:接続②)。MacBook ProとDAC3 HGCの組合せはそのままに、DAC3 HGCとHPA4をバランスケーブルで接続して、HPA4でHD800Sをバランス駆動した格好である。先ほど同様、帯域バランスおよび質感表現はフラットだが、中低域の重心がより低くなる印象で、オーケストラ楽曲のジョン・ウィリアムズ『ライヴ・イン・ウィーン』(96kHz/24ビット)は、豊かな情報量をベースにコントラバスやグランカッサの迫力が増す。

 この構成のままDAC3 HGCをDAC3 Bに変えて2台の音質を比較したのだが(図:接続③)、よい意味でほとんど差が出ない。これは各機種の音の傾向が統一されていることを表している。

 スピーカー環境ではどうだろうか?MacBook ProをトランスポートにDAC3 BとLA4を組み合わせ、パワーアンプにAHB2を用いて、モニターオーディオPL300Ⅱに接続した(図:接続④)。ヘッドホン環境での好結果に期待値が上がるが、想像通り同傾向のサウンドが得られた。

 帯域バランスについては聴感上フラットで、全帯域の音のスピードが整っている。ホセ・ジェイムスでは、等身大のヴォーカルが前方に定位して、マスタリングのクセと思われる音像の小さな移動感さえ秀逸に表現する。ジョン・ウィリアムズは、奥行や高さが正確に表現されたサウンドステージが眼前に現れる。しかも適度な抑揚表現も兼ね備えており、分析的一辺倒に聴こえないのは興味深かった。

ヘッドホン用途が好印象。多彩な構成・拡張も魅力だ

 今回試した5機種に共通する最大の魅力は、リファレンスとして絶対的な信頼がおける音質であること。スペックだけではオーディオ機器の音質を推し量ることはできないが、ベンチマークの製品が出すリファレンス的なサウンドは、多くのオーディオファイルや筆者のように基準となる音を求める者にはこれ以上ないほどにフィットする。

 その中でもDAC3 HGCは、DACとヘッドホンアンプが一体型なのでシステムをコンパクトにしたい方に向いているし、DAC3 BとHPA4の組合せはセパレート志向の音質を求めたい方におすすめできる。LA4とAHB2の組合せはリファレンス的なクセのないサウンドをスピーカーシステムで実現したい方におすすめだ。

 また、ヘッドホンアンプが搭載されたモデルは、ドライブ力の高さも印象的だった。現時点で音の色付けのないヘッドホンアンプを探そうとすると、業務用で使われるオーディオインターフェースを利用するのがひとつの手段だと思っていたが、これらの製品は絶対的な駆動力が不足していると感じている。

 いっぽうでベンチマークはデジタル入力時にネイティブ対応するレゾリューションでやや限定されるところがあるうえ、価格も決して安価ではない。しかしながら、高インピーダンスモデルや平面振動板を採用するハイエンドヘッドホンのリファレンスアンプを求めていた筆者にはまさにうってつけ。テストを忘れて長時間聴き入ってしまった。同社の今後が楽しみでならない。

Benchmark
Remote Control
オープン価格
(実勢価格1万5,000円前後)

ベンチマークの製品には専用リモコンも用意されている。アルミダイキャスト製で質感に優れる

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