映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第46回をお送りします。今回取り上げるのは、新進気鋭のスタジオ・監督が創り上げた人情作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』。さまざまな映画の背景ともなったフランシスコの風景とともに味読(味観?)したい一作。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
10月9日(金)より新宿シネマカリテ、シネクイントほかにて全国ロードショー

 マイアミの貧困街で暮らす少年の成長を描いて、新人監督の低予算作品ながらアカデミー作品、脚色、助演男優賞を獲得した『ムーンライト』。あの秀作を世に贈った製作プロダクション、ブラッド・ピットらが設立したプランBエンターテインメントと、『ミッドサマー』『WAVES/ウェイブス』などでますます波に乗る気鋭スタジオA24が再びタッグを組んだ人生ドラマ。

 今年29歳の新人ジョー・タルボット監督は、クエンティン・タランティーノなどを世に出したサンダンス映画祭で監督賞を受賞した。これが長篇第一作になる。

画像1: 【コレミヨ映画館vol.46】 『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』変わってゆく場所、変わらない思い出と友情。ノスタルジックな映像で描かれる旅立ちの詩

 映画の舞台は『ダーティハリー』や『ブリット』、最近では『猿の惑星:新世紀』などの背景になっていたサンフランシスコ。ゴールデンゲート・ブリッジや坂の街に映えるケーブルカーで知られる観光名所だが、この映画には主人公たちが歩く馴染みの場所としてしか登場しない。なにかこう、裸電球に照らされた裏通りのような映画なのだ。

 主演のジミー・フェイルズ(アフリカ系)とタルボット監督(白人)はサンフランシスコで育った幼馴染。物語は地価の高騰で住んでいた家を追い出され、露頭に迷ったジミーと家族の実体験が下敷きにされている。愛する街に住みたいのに、ぼくらはどこへ行けばいいんだ。ジミーと友人のモント(ジョナサン・メジャース。いつもお腹にちいさなスケッチブックを挟んでいるかわいいおっさんキャラ)は、スケートボードに二人乗りしてこれからの人生を考えている。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.46】 『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』変わってゆく場所、変わらない思い出と友情。ノスタルジックな映像で描かれる旅立ちの詩

 横移動のトラッキング・ショットが夢のように美しく、インディ・ロック・バンド、ザ・ディグのベーシストだというエミール・モセリが担当した音楽(劇伴)のノスタルジックな旋律が画面にフィットする。

 ノルウェーのジャズ・チューバ奏者ダニエル・ハースケダルと組んだ往年の名曲「花のサンフランシスコ」のアレンジも絶品! Spotifyにサウンドトラックが上がっているから、それをチョイ聴きして気に入ったひとは、この映画絶対にイケるだろう。

画像3: 【コレミヨ映画館vol.46】 『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』変わってゆく場所、変わらない思い出と友情。ノスタルジックな映像で描かれる旅立ちの詩

 それまでのあれこれがふうっと消えてゆくようなラストシーンに涙が出る。新しい作り手はいいなあ。Black Lives Matterの時代に飄々と生まれた人情ドラマ。大海原に漕ぎ出せ。新人ジョー・タルボット監督の未来を応援したくなる。

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

10月9日(金)より、新宿シネマカリテ、シネクイントほかにて全国ロードショー
監督・脚本:ジョー・タルボット
出演:ジミー・フェイルズ、ジョナサン・メジャース、ロブ・モーガン、フィン・ウィットロック、ダニー・グローヴァー
原題:THE LAST BLACK MAN IN SAN FRANCISCO
配給:ファントム・フィルム
2019年/アメリカ/120分/ビスタサイズ
(C)2019 A24 DISTRIBUTION LLC.ALL RIGHTS RESERVED.

公式サイト http://phantom-film.com/lastblackman-movie/

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