1980年代後半に登場した小型2ウェイ機、アコースティックエナジーAE1の鮮烈な音を覚えておいでの方は多いことだろう。このスピーカーを設計したフィル・ジョーンズ氏は、その後ボストンアコースティックス、プラチナム・オーディオ、AADで家庭用スピーカーの傑作を開発するとともに、PJBブランドでベースアンプを設計、大成功をおさめている。ちなみに彼はアコースティックエナジー入社前、ヴァイタボックスで業務用スピーカーの設計に携わりながらプロ・ベーシストとしてカーディフのロック・サークルで活躍していた（人気ベーシストのピノ・パラディーノは当時の仲間だそうだ）。
そんなジョーンズ氏が長年こだわり続けてきたのが、メタルコーン小口径ウーファーを積んだ小型2ウェイ機。本機はエアパルス・ブランドから発表され、現在大ヒット中の11.5cmウーファー搭載機A80の上位機種となるDAC内蔵2ウェイ・アクティヴ・スピーカーである。
192kHz／24ビットPCMに対応するUSB入力のほか同軸・光デジタル入力、バランス／アンバランスのアナログ入力を装備し、音のよさで定評のあるaptX HD対応のブルートゥースレシーバーも内蔵されている。ウーファーは16.5cmアルミコーン、トゥイーターはホーンロードが与えられたリボン。デジタル入力とAUX入力は右チャンネル用の背面にあり、左チャンネルには無線でロスレス伝送される仕組み。入力切替えや音量調整、トーンコントロールは付属リモコンで操作可能だ。
リボン型トゥイーターのアルミニウムダイアフラムを駆動する磁石にはネオジムを採用。またエンクロージュアには25mm厚のMDFが使用されている。
アキュフェーズのプリアンプC3850とのバランス接続、DELAのミュージックサーバーN1Z／3とのUSB接続、無線のブルートゥース接続でCDやSACD、ハイレゾファイルを聴いてみたが、AE1直系の、よく引き締まった澄明なサウンドを聴かせ、爽快な気分を味わった。背面にバスレフポートを備えたスピーカーだが、密閉型を思わせる曖昧さのないクリアーな低音が出色だ。ジョーンズ氏が手がけてきた歴代の代表モデルを筆者は余さず聴いてきたが、DAC内蔵小型アクティヴ・スピーカーにおいても「ハイスピードな辛口サウンド」という彼のつくるスピーカーの持ち味は変らないことに感心させられた。
本機は基本的に、アナログ／デジタルともに写真の右チャンネル用スピーカーに音声信号を入力（右側の端子部）し、完全非圧縮伝送で左チャンネル用スピーカーに信号をワイアレスで送信、音量などの信号処理は右チャンネル内蔵のDSPで行なう。通常のパワードスピーカーとして使用する場合は左側のアナログ端子に接続する。
とくに感激したのがハイレゾ（96kHz／24ビット）で聴いたパンチ・ブラザースの「ALL ASHORE」。5人の弦楽奏者の音像がリアルに眼前に立ち現われ、そのアンサンブルを精緻に描くさまを息をのんで聴き入った。密やかなヴォーカルのニュアンスに富んだ再現もすばらしい。
PCやミュージックサーバーとUSB接続するだけで、この高解像度で情報量の多い峻烈なサウンドが得られることを考えると、約25万円という実勢価格はたまらなく魅力的に思える。書斎やベッドルームでシンプルなシステムを組んで「アマゾンミュージックHD」等のハイレゾ対応定額制音楽ストリーミングサービスを利用したいとお考えの方にピッタリの製品だと思う。
エアパルス A300 Pro
オープン価格（実勢 ¥250,000前後・ペア）
● 型式：D/Aコンバーター／パワーアンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
● 使用ユニット：ウーファー・16.5cmコーン型、トゥイーター・リボン型
● パワーアンプ出力：ウーファー部・120W+120W、トゥイーター部・10W+10W
● デジタル入力：同軸1系統(RCA)、光1系統(TOS)、USB1系統(Bタイプ・～192kHz)
● アナログ入力：アンバランス2系統(RCA)、バランス1系統(XLR)
● 寸法／重量：W225×H385×D350mm／14.7kg
● 備考：Bluetooth対応。専用スタンド「ST300」（¥20,000・ペア）あり
● 問合せ先：（株）ユキム☎03（5743）6202
