アリスの音楽と初めて出会ったのは実にタイミングがよかった。これからまさに「冬の稲妻」が大ヒットして人気に火が付きそうだぞ! という時がちょうど中学一年生。深夜に聴くラジオ放送にハマりだした頃だ。大阪でいうと毎日放送の「ヤングタウン」などは人気番組のひとつ。そのパーソナリティのひとりでもあったのがチンペイ(谷村新司)である。軽妙で時にワイ談を挟みつつ気持ちのいい低い声に魅力があった。普通のラジカセで聴いていても声の通りがよかった。

画像: アナログレコード『アリス』は5月30日に発売したばかり。33回転の180g 重量盤で、定価¥8,800(税込)です

アナログレコード『アリス』は5月30日に発売したばかり。33回転の180g 重量盤で、定価¥8,800(税込)です

 そして番組のなかで頻繁に流れていたのがアリスの楽曲だったというわけだ。最新のシングル曲だけでなく、遡って古い曲も流れることもしばしば。「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」。番組の間に挟まれるモーリスギターのラジオCMでもアリスの曲が使われていたこともあり、すぐに口ずさめるようにもなった。なんなら今でも歌詞カードがなくても歌える。

 アリスの曲はラジオ、しかもAM放送が入り口。当時はレコードを買うこともままならず、レンタルレコードもまだ登場前。“高音質”で聴いたという記憶はないに等しい。今回、ステレオサウンド社からアナログレコードが出ることを知り、さっそくに取り寄せてみた次第である。

画像: 酒井さんは、自宅のホームシアター空間でアナログレコードも楽しんでいる。スピーカーはアルテック

酒井さんは、自宅のホームシアター空間でアナログレコードも楽しんでいる。スピーカーはアルテック

 このレコードはこれまでユニバーサル ミュージックが厳重に保管・管理していたマスターテープから選曲されている。マスタリング作業はチンペイとの親交も厚いレコーディングエンジニアでミキサーズラボの三浦瑞生氏が担当。氏の手によってまとめられた384kHz/32ビットのデジタルデータをチンペイやベーヤン(堀内孝雄)のソロ作品をカッティングしてきた北村勝敏氏がアナログレコード化するための作業にあたった。制作体制は万全。まさに渾身の一枚と言えよう。

 なにより選曲がいい。これ以上でもなく以下でもない。どれから聴いてもアリスを代表する名曲とヒット曲ばかりである。A面は「チャンピオン」から始まる。ギターをかき鳴らすイントロでいきなり鮮度の高さとスピード感に驚く。音にガッツもある。力強い。「冬の稲妻」はパーカッションやエレキギターのキレのよさが快感だ。サビの “You’re Rollin’Thunder” “アー” のあたりは思わず笑みがこぼれる。

 カッティングエンジニアの北村氏によるとマスターとなるラッカー盤へのカッティングにあたっては、通常のレコードの制作時よりも“桁違いの時間”を割いているという。なるほどこれはどう転んでも当時リリースされていたレコードよりも高音質なものに仕上がっていても不思議ではない。

画像: アナログレコードプレーヤーにはテクニクスを使用。アンプは複数所有し、好みに応じて使い分けている

アナログレコードプレーヤーにはテクニクスを使用。アンプは複数所有し、好みに応じて使い分けている

 B面のオープナーを飾る「今はもう誰も」は収録曲の中ではもっとも古い録音になるがそれだけに印象は強烈。キンちゃん(矢沢透)のドラムスの音などは当然のことながら当時のAM放送では決して味わえなかった質感と量感だ。これは思わず口から歌が出る。ボクはチンペイもさることながらベーヤンのヴォーカル曲も好きなので「遠くで汽笛を聞きながら」もお気に入りの曲。 “♪暮らぁぁぁしてゆこぉぉぉぉぉん” もよりドラマチックに聞こえる展開は圧巻だ。

 「秋止符」がフォローされているのも嬉しい。全10曲の選曲に異議なし!なのだけれど、両面を通して聴いてみるとあえてB面から聴き始めるのも意外と悪くないのではないかと思った。「今はもう誰も」から始まり「さらば青春の時」で締めるという聴き方もなかなかに胸に迫ってくるものがある。

 ステレオサウンド社がリリースするレコードシリーズにアリスのようなニューミュージックと呼ばれた(潮さん世代に言わせるとフォークということになるらしいが)十代の頃から聴き馴染みのある耳タコの楽曲が次々と高品質なアナログレコードとなって甦るのは大歓迎だ。古い音の記憶が書き換えられる楽しみもある。なに? 時を同じくしてピンク・レディーの『阿久悠作品集』もSACDで出た? そっちも聴いてみたくなるではないか。そういう世代だ。

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