アナログブームと言われて久しい。最近は若いレコード愛好家も増え、中古店では70〜80年代のレコードが人気だという。さらに、最新技術を使って製作された“音のいい”アナログレコードも各社から登場している。弊社のアナログレコードシリーズもそのひとつで、多くのオーディオファンからお褒めの言葉もいただいている。今回はこの4〜5月に発売したディスクを、老舗オーディオショップ・ホーム商会に持ち込んで、同店責任者の船橋康雄さんと、お馴染み潮晴男さんに聴いてもらった。(編集部)

画像: 取材は、衛生対策に充分配慮した上で、5月下旬にホーム商会店内で行なっている。ホーム商会の船橋さん(右)と潮さん(左)は3人がけの大型ソファの両端に座って試聴してただいた

取材は、衛生対策に充分配慮した上で、5月下旬にホーム商会店内で行なっている。ホーム商会の船橋さん(右)と潮さん(左)は3人がけの大型ソファの両端に座って試聴してただいた

--今日は、目黒の学芸大学にある老舗オーディオショップのホーム商会さんにお邪魔して、アナログレコードの音を聴かせていただきたいと思っています。

 ようこそいらっしゃいました(笑)。僕は船橋さんとは昔からの知り合いで、お店にもよくお邪魔しています。ここの試聴室はいつも整備されているから、今日もいい音が聴けると思いますよ。まずは船橋さんにホーム商会の歴史から説明してもらいましょう。

船橋 ホーム商会は1952年創業のオーディオ専門店です。ビンテージオーディオ機器から新製品、レコード、CDまで揃えて。音楽好きの皆さんをお待ちしております。

 ということは、今年で創業68年ですか。こんな都内の住宅地に、これだけの規模のお店を構えている例は他にありませんよね。歴史の重みが違うなぁ。僕も麻倉さんと一緒にウルトラアート(UA)レコードの発売記念イベントをやらせてもらいましたが、これほど落ち着いた環境で機器やソフトの実力を確認できる空間はなかなかありません。

画像: ホーム商会のメイン試聴室。20畳ほどの空間に、憧れの名機がずらりと並んでいる

ホーム商会のメイン試聴室。20畳ほどの空間に、憧れの名機がずらりと並んでいる

船橋 うちは比較的ゆったりとした試聴環境を心がけており、イベントも最大20名ほどの規模にしてもらっています。またいつでもレコードやCDを試聴してもらえるように準備していますので、ふらりと立ち寄ってもらえればと思います。淹れ立てのコーヒーも準備してありますよ(笑)。

 機材はたくさんあるけれど、マンションなどのリビングに近いルームサイズで、しっかり音を体験出来ることもポイントですね。

船橋 ありがとうございます。興味のある方は事前にご予約いただければ、ゆっくり試聴室を使っていただけます。なお毎週木曜日がお休みで、5月末までは11:00〜18:00の時短営業をしていますのでご注意ください。

 今はこういう時期ですが、お近くにお住まいの方は来店して、いい音で気分をリフレッシュしてはいかがでしょう。ハイエンドモデルだけでなく、比較的手頃な製品まで並んでいるので安心できます(笑)。今ヘッドホンオーディオを楽しんでいる人が、一歩進んで2chシステムを手に入れたいという場合など、ホーム商会に相談してみるといいでしょう。

画像: 78回転の再生も可能なガラードのターンテーブル「Model 301」とイケダのトーンアームを使用

78回転の再生も可能なガラードのターンテーブル「Model 301」とイケダのトーンアームを使用

--さて今日は、ホーム商会さんのメイン試聴室をお借りしてアナログレコードを聴いてみたいと思います。弊社から発売中の五輪真弓『恋人よ』と『アリス』のベスト盤、そしてUAレコードの78RPM 12インチ・シングル『小川理子/BALLUCHON78』の3枚を準備しました。

 再生機器も素晴らしいですよ。ターンテーブルがガラード「Model 301」で、イケダの「IT-407SS」トーンアームとミューテックのカートリッジ「耀」を装着しています。フォノイコライザーはソウルノート「E2」で、プリアンプがマッキントッシュ「C53」、パワーアンプはマークレビンソン「No.436L」、スピーカーはB&W「800D3」という構成です。これらはすべて売り物ですよね?

船橋 はい。現在の弊社リファレンスモデルですが、もちろんすべてご購入いただけます。気になる品物があったらご用命ください(笑)。

 個人的には、オーディオを趣味として楽しむなら、今でもアナログがナンバーワンだと思っています。もちろん今日のように理想的な環境があればベストだけど、そうじゃない場合も、アナログは自分の手でシステムを組み立てていく楽しさがデジタル以上に味わえると思うのです。

 また実際にアナログレコード製作に関わってみて、そのたいへんさがよくわかりました。いい音に仕上げるためには、録音、ミックス、カッティング、プレスなどの工程すべてに気を遣わなくてはいけない。でも、手間暇をかけた分だけいい結果が戻ってくる。それはアナログの方がよりダイレクトに感じますね。

船橋 アナログレコードの場合は、再生システムでもカートリッジやアーム、ターンテーブルとユーザーが手を出せる要素がたくさんあるし、それによって音が確実に変わりますからね。そこも趣味としての楽しみではあるのですが。

画像: 右の『恋人よ』は4月に発売済みで、左の『アリス』は5月30日のリリース

右の『恋人よ』は4月に発売済みで、左の『アリス』は5月30日のリリース

--では、弊社が4月に発売した五輪真弓の『恋人よ』から、表題曲とB面1曲目の「ジェラシー」を聴いていただきます。

 このレコードは、オリジナル盤を買って自宅のスピーカーで聴いていました。当時もいい音だと思っていたけれど、今回のレコードも素晴らしいね〜。フランス録音ならではというか、憂いを含んだ音と、Bメロに入るドラムのパートなど格好いい。

 ライナーノートによると、このレコードのラッカー盤は池袋にあるSTUDIO Dedeの松下真也さんによって製作されたそうですが、彼には『BALLUCHON78』のカッティングで僕も一緒に仕事をさせてもったことがあります。今日の音を聴いて、カッティングによる違いが出ていると感じました。

 おそらく1980年のオリジナル盤はノイマンのカッティングマシンを使っていたのではないかと思いますが、今回はスカーリーのカッティングマシンとウェストレックスのカッターヘッドを使っているそうです。

 松下さんはオリジナルの音を尊重したと話していますが、今回のレコードには古くて新しい、そういう音が含まれていると感じました。リバーブが広がって、音に深みがある。当時のレコードを持っている方は、自宅のシステムでその違いを聴き比べてみるといいでしょう。

画像: メイン試聴室の再生機器。今回は写真左側に見えるフォノイコライザーのソウルノート「E2」と、中央右側のプリアンプ、マッキントッシュ「C53」をバランス接続している

メイン試聴室の再生機器。今回は写真左側に見えるフォノイコライザーのソウルノート「E2」と、中央右側のプリアンプ、マッキントッシュ「C53」をバランス接続している

船橋 当時この曲は流行りましたから、僕もよく聴いていました。でも久しぶりに聴き直して、びっくりしました。アナログレコードでここまでの透明感が出てくるとは思わなかった。凄いですね。自宅でお酒を飲みながら聴きたい。

 まったく同感ですね。低音の迫力も出ているし、すごく新しいサウンドとして聴こえました。 “音楽は古くならない” そう感じました。40年前の録音でも、こうやってちゃんとリカッティングする(=作り直す)と、実力がきちんと再現できるんですね。

船橋 確かに音がリフレッシュされていますね。

 このレコードはオリジナルのアナログマスターテープをベースに製作されていますが、アナログマスターが持っていた情報はすべて入っているといってもいいですね。それくらい生々しい音として甦っていました。

--続いて5月30日発売の『アリス』のアナログレコードから、A面1曲目の「チャンピオン」と4曲目「狂った果実」を聴いていただきました。おふたりは当時からアリスの音楽は聴かれていたのでしょうか?

船橋 このレコードの収録曲は1975〜1980年に録音されたものですね。当時はもっぱら洋楽指向でしたが、アリスはラジオやテレビでよく流れていたこともあって、レコードも聴いていました。

画像1: 脳が喜ぶいい音を聴こう! 五輪真弓やアリス、78回転LPシングルを、老舗オーディオショップ、ホーム商会のリファレンスで体験し、アナログレコードの深みに触れた

 その頃はちょうど就職したてでしたが、僕も音楽はピンクフロイドとかツェッペリンといった洋楽ばっかり聴いていました。アリスやチューリップなどのいわゆる70年代フォークは、実は遅れて聴き始めたんです。

 「チャンピオン」は1978年の録音ですが、それにしてもS/Nがいいのに驚きました。音が目の前にぐっと出てくる印象で、パンチもあった。1980年録音の「狂った果実」は、Uマチックのデジタルマスターテープを使ったとのことですが、「チャンピオン」とのニュアンスの違いもきちんと出ていて、ていねいに作業されていることも分かりました。

船橋 僕はオーディオのない人生は考えられないという人間で、学生時代からそれなりのアンプを使っていました。当時聴いていたアリスの楽曲もいい音だと思っていましたが、今日みたいな純度の高い音は初めてでした。再生機器も進化しているのでしょうが、当時からこんな凄い録音をしていたんだと、改めて感動しました。

 いつの時代も、音にこだわるアーティストやエンジニアはいるんですよね。

船橋 ダイナミックレンジ感もありました。元の録音がしっかりできていないと、これは再現できないでしょう。

 当時はフォークソングと呼ばれていたけれど、音楽的にはロックですよね、このビートは。ここまでの “熱量” が体験できるのは素晴らしい。今までテレビやCDでしかアリスを聴いたことがない人にも、ぜひアナログの音を体験してもらいたいですね。特に「チャンピオン」のように有名な曲での違いは一度聴けば実感できるはずです。

画像: ウルトラアートレコードから4月29日に発売された78回転LPシングル『BALLUCHON78』

ウルトラアートレコードから4月29日に発売された78回転LPシングル『BALLUCHON78』

--さて次は潮さんと麻倉怜士さんのレコードレーベル、UAレコードの新譜にして78RPM 12インチ・シングルという珍しい仕様のアナログレコード『BALLUCHON78』です。A面の「OH LADY BE GOOD」を再生しました。

 ありがとうございます(笑)。UAレコードでは情家みえのCD『エトレーヌ』に始まり、同作のアナログレコード、小川理子のCD、アナログレコードをリリースしてきました。今回の78RPM 12インチ・シングルは4月29日に発売したばかりです。これは僕のわがままで作ったレコードで、アナログの理想を追求した一枚です。

 78回転でも頑張れば片面2曲収録できなくはないんだけど、溝のピッチが狭くなってしまうので、それが嫌で片面1曲ずつしか収録していません。回転数的には33回転に比べると2.34倍早くなり、それだけクォリティアップにつながります。さらに溝の幅も広いという、レコードとしての音質的有利さを極めたつもりです。

船橋 “超” がつく、贅沢な仕様ですね。

画像2: 脳が喜ぶいい音を聴こう! 五輪真弓やアリス、78回転LPシングルを、老舗オーディオショップ、ホーム商会のリファレンスで体験し、アナログレコードの深みに触れた

 回転速度が速い分、針飛びや針圧調整が難しいのではないかと心配したのですが、実際には針飛びよりもディスクの反りと偏心が問題でした。製造過程でセンターがずれてしまうと、ワウ・フラッターになって現れるんです。

 JISの規格では偏心は0.2mmまで許容されているのですが、それだとイントロのピアノでぶれが分かってしまいました。そのためプレス工程も厳しく管理してもらい、0mmを目標に追い込んでいます。反りに関しては、溝のスタート位置を最外周より少し内側にすることで対策しています。

船橋 昔のSP盤は針圧が20gほどあって、針を手に乗せると痛かった覚えがあります。最近は針圧2〜3gですから、そこも違いますね。

 カートリッジにも負荷がかかるんじゃないかと心配したのですが、そこは問題なかったですね。発売前に、78回転を再生できるほとんどのプレーヤーでテストしたところ、どれもきちんと再生できていました。

船橋 それにしてもこのレコードは、音の立ち上がり、ピアノのタッチの再現が凄かったですね。すぱっとタイトな響きにも感動しました。これはいい体験をさせていただきました。

 自分でいうのも何ですが、音の実在感が違うでしょう。このリアルさが欲しかったのです。これを聴いてもらえれば、アナログレコードのさらなる可能性を感じてもらえると思います。

 問題は78回転を再生できるプレーヤーの数が少ないことですが、テクニクス、デノン、ラックスマンやエリプソンからも対応機が出ています。対応プレーヤーをお持ちでない方は、ぜひホーム商会で78回転が再生できる製品をお求めください(笑)。

画像: 5月24日に発売したピンク・レディーの『阿久悠 作品集』。SACDとCDの2枚組で、それぞれに「ペッパー警部」から「恋愛印象派」までの16曲を収録

5月24日に発売したピンク・レディーの『阿久悠 作品集』。SACDとCDの2枚組で、それぞれに「ペッパー警部」から「恋愛印象派」までの16曲を収録

--アナログレコードというテーマからは外れますが、弊社から5月24日にピンク・レディーの『阿久悠 作品集』を発売しました。こちらは2008年に発売された同タイトルのCDとはマスターが異なり、複数のアナログマスターテープを聴き比べた結果、状態が最良だったというLP時代のベスト盤用のアナログマスターから製作したSACDとCDの2枚組です。今日はぜひこのSACDも聴いて下さい。

 いいですね〜。それにしても、ホーム商会の試聴室でピンク・レディーを聴く日がくるとは思ってもみなかったなぁ。

船橋 確かに、ピンク・レディーは68年の歴史の中で、お初です(笑)。SACDプレーヤーのエソテリック「K-03XD」がつながっていますので、これを使いましょう。

--では、1曲目の「ペッパー警部」と6曲目の「UFO」を再生します。

 僕も自宅にピンク・レディーのレコードがあるはずだけど、このSACDはレコードよりも音が綺麗で抜けがいいですね。クリアネスが際立っているというか、当時のアイドルの楽曲にこれほどの情報が入っていたと言うことにも改めて感心しました。

船橋 ふたりの声がとても生々しいですね。それにしても潮さんがピンク・レディーのレコードを買っていたというのが驚きでした。

 たまたまですよ(笑)。このディスクもSTUDIO Dedeのスタッフの吉川昭仁さんと松下真也さんがマスタリングに関わっていますね。このSACDには、いい音で聴いて欲しいというステレオサウンド社の思いがこもっていますね。SACDシングルレイヤーとCDの2枚組という点からも、音にこだわっていることが伝わってきます。

船橋 せっかくオーディオを楽しむのなら、いいディスクをいいハードウェアで聴いて欲しいですからね。

画像: アナログレコードのセッティングやオペレーションは、カジハラ・ラボの梶原弘希さんにご協力いただいている

アナログレコードのセッティングやオペレーションは、カジハラ・ラボの梶原弘希さんにご協力いただいている

 確かにそれは、僕らのような小さなレーベルもそうだし、ホーム商会のようにハードウェアを販売しているお店でも大切なテーマです。ところで、船橋さんが今日の音で一番印象に残ったのはどれでしたか?

船橋 もちろん『BULLUCHON78』も凄かったし、他もどれもインパクトがありました。五輪真弓もあんなに透明感のある音だとは思ってもみなかったので、びっくりしました。当時は録音にもお金をかけていたんですね。

 懐かしい名曲たちをこんな風に楽しめるのは、とても嬉しいことだと思います。しかもすべて当時のクォリティを遙かに凌駕した高音質なのだから、ファンがこれを聴かないのはあり得ない!

 個人的には、オーディオファンであろうとなかろうと、家庭ではスピーカーシステムで音楽を聴いて欲しいと思っています。それもMP3のような圧縮音源ではなく、CD以上のクォリティで。そうすると、きっとヘッドホンだけでは気がつかなかったオーディオの楽しみが分かってくると思うんです。

 “いい音” を聴くと脳が活性化されて、体も元気になる。これは今の時期だからこそ大切です。またいい音というと、イコール、高いシステムと思われがちだけど、実はそうではない。高価でなくてもいいから、ちゃんとしたスピーカーやアンプをきちんとセットして、くつろげる環境で聴く。それで充分です。そこで音質に配慮して作られたソフトを聴いてみて下さい。

船橋 今日聴かせてもらったアナログレコードやSACDはうちのお店に常備していますので、潮さんが聴いた音を体験してみたいという方はぜひ予約してご来店ください。お待ちしています。

 そうですね、この記事を読んで興味を持ってくれた方はぜひ。ディスクも購入できますよ。

ホーム商会
東京都目黒区鷹番3-21-21 Tel:03(3711)0600
Eメール:info@homeshokai.jp

画像: 東急東横線・学芸大学駅から徒歩3分、商店街の中に出現するハイエンドな空間がホーム商会だ。ビンテージの名機から、比較的手頃な価格帯の中古モデル(どれも状態がいい)まで豊富に揃っているのも魅力だ

東急東横線・学芸大学駅から徒歩3分、商店街の中に出現するハイエンドな空間がホーム商会だ。ビンテージの名機から、比較的手頃な価格帯の中古モデル(どれも状態がいい)まで豊富に揃っているのも魅力だ

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