ジュディ・ガーランドの不安定さと天賦の才能を見事に体現

 レニー・ゼルヴィガーがアカデミー賞主演女優賞を受賞した『ジュディ 虹の彼方に』。本作はタイトルからもわかるように、伝説のミュージカル女優であり、天才パフォーマーとしても一世を風靡したジュディ・ガーランドの物語だ。

画像: 晩年のジュディ・ガーランドを、見事にスクリーンへと蘇らせたレニー・ゼルウィガー。アカデミー賞の受賞スピーチでは、彼女への尊敬と感謝を繰り返し述べた

晩年のジュディ・ガーランドを、見事にスクリーンへと蘇らせたレニー・ゼルウィガー。アカデミー賞の受賞スピーチでは、彼女への尊敬と感謝を繰り返し述べた

 それも栄光の日々ではなく、ハリウッドから追われ、パフォーマーとしての人気も信用も失いつつあった晩年、47歳で亡くなる半年前のロンドン公演にスポットを当てた脚本に新鮮味がある。経済破綻して、情緒不安定と不眠症に陥り長年にわたり常用している睡眠薬の弊害に悩まされ……。まさに満身創痍のヨレヨレ状態。それでも、ひとたびステージに立てば別人のように輝く見事なパフォーマンスで人々を魅了する。

 こんな複雑なキャラクター、しかも世界中が実物を知っているのだから、演じるのは至難の技。しかし、レニーは顔こそさして似てはいないものの、ふとした表情や佇まいがジュディにそっくり。そしてなにより、ジュディ・ガーランドが天から授かった“エンターテイナーとしての真髄”を、その身に宿したかのような堂々とした歌いっぷりで披露する! これには心打たれるばかりだ。

画像: 確かに、顔そのものはあまり似ていない。が……

確かに、顔そのものはあまり似ていない。が……

画像: レニーは正式なリハーサルが始まる1年も前から歌のトレーニングをスタート。その後はジュディの歌だけではなく、訛りや声色、仕草からステージでのパフォーマンスに至るまですべてをマスターしていったという

レニーは正式なリハーサルが始まる1年も前から歌のトレーニングをスタート。その後はジュディの歌だけではなく、訛りや声色、仕草からステージでのパフォーマンスに至るまですべてをマスターしていったという

96年の『ザ・エージェント』から快進撃が始まった

 レニーが“歌える女優”であることを証明したのは『シカゴ』(02年)。思えば、当時の彼女は、まさに破竹の勢いだった。

 96年の『ザ・エージェント』でトム・クルーズの恋人役に抜擢されたのをきっかけに、『ベティ・サイズモア』(00年)でゴールデングローブ賞の主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞。続く『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)でアカデミー賞主演女優賞に初ノミネートされ、翌年に公開された前述の『シカゴ』でも同賞候補になった。そして03年の『コールド マウンテン』では助演女優賞にノミネート、初めてアカデミー賞を受賞している。

 また、キャリアアップするにつれプライベートも賑やかに。『ふたりの男とひとりの女』(00年)で共演したジム・キャリーと婚約したが即お別れし、その後はジョージ・クルーニーやジャック・ホワイトとの交際もオープンにしていた。

対面し、ブリジット・ジョーンズとは真逆のイメージに驚いた!

 私が、初めて会ったのは04年。『コールド マウンテン』を携えての来日時。受賞作での役柄はヒロインに新しい生き方を教える流れ者の女なのだが、正直なところ、出番が少なめで印象が希薄。それより、ど~んと構えた太めの<ブリジット・ジョーンズ>のイメージが強烈だったせいもあり、驚いた。その体の細いこと、華奢なこと!

 雰囲気も、繊細で神経質そうで、脆い感じ。事実、インタビューは「気が散るから」と通訳さんと私のみが入室。とは言っても、質問には真摯に答えるし、内容も知的。「とても臆病なタイプ。いつ仕事をクビになるかとビクビクしているの」と言いながら浮かべた、弱々しい微笑みが妙にチャーミング。男ならみんな「守ってあげたい」って思うだろうと、納得した。

 その後、『ブリジット』シリーズ第2弾の『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』(04年)も大ヒットし、『シンデレラマン』(05年)、『ミス・ポーター』(06年)など良作もあった。が、そのあたりからキャリアは急降下。聞こえてくるのは、過激なダイエットや整形の噂ばかり……と思ったら、なんと2010年公開の『ケース39』以後は休業してしまった。

“勇気ある選択”があったからこその復活劇

 久しぶりに会ったのは、6年間の休養を経て復帰した『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』(16年)のプロモーション。ロサンゼルスのスタジオの一室に登場したレニーは、相変わらず華奢なボディだけど、雰囲気は明るく、軽やか。休業の理由についても、語ってくれた。

 「とても若かったの。全てに未経験で、名前が売れることがどういうことかもわからなかったし、この業界の中で自分を守る術も持っていなかった。もっと私生活を守るべきだったと反省しているけど。まぁ、そんな感じかなぁ(笑)」

 休みの間は「普通の人が営む生活をしながら、新しい経験や発見をして、人間としての成長を目指した」という。そんなコメントの中で、いま思えば「なるほど」という言葉があった。それは、「私の環境がすごくラッキーだったこともあるの。女優の仕事から遠ざかっても、経済的に心配することなく、やりたいことに挑戦できたから」というものだ。

 当時は「たくさん稼いだもんねぇ」と聞き流したが、この時、すでに『ジュディ 虹の彼方に』のプロジェクトが動き出していたと知れば、意味も違う。困窮し住む家も子供も手放してドサ廻りをしなければならなかったジュディ・ガーランドと我が身を比べていたとしても不思議はない。

画像: 経済的に追い詰められたジュディは、子どもだちを思い、やむを得ずふたりを元夫に預ける決意をする。こうした彼女の姿に、レニーは何を思ったのだろうか

経済的に追い詰められたジュディは、子どもだちを思い、やむを得ずふたりを元夫に預ける決意をする。こうした彼女の姿に、レニーは何を思ったのだろうか

 そして、ショウビズ界の危うい罠からサバイブしたレニーだからこそ、ジュディの悲しみもパフォーマーとしても矜持もリアルに体現できたのだ、と思う。休業という“勇気ある選択”があったからこその、見事な復活劇だったのだろう。

『ジュディ 虹の彼方に』

監督:ルパート・グールド
声の出演:レニー・ゼルウィガー/ジェシー・バックリー/フィン・ウィットロック/マイケル・ガンボン
原題:JUDY
2019年/イギリス/118分
配給:ギャガGAGA★
公開中
(c) PATHE PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2019

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