昨年に続いてCES出展を果たしたシャープ。昨年同様に「8K+5GエコシステムとAIoTで世界を変える」というビジョンの下、「8K+5G」や「AIoT」に関連した様々な展示を行なった。ここでは昨年からさらに具体化が進んだ同社の取り組みについて、シャープ株式会社 取締役 副社長執行役員 ICTグループ長の石田佳久さんにお話をうかがっている。(編集部)

麻倉 今日はよろしくお願いいたします。CES2020のプレスカンファレンスも拝見しましたが、今回はリアライズというか、これまで示されていた計画図が具体化してきたように感じています。

石田 プレスの皆さんからは、ここ数年ずっと同じ事を言われています。今年は何が新しいのですか、という質問をされてきました。確かに新しいネタというと、最近はほとんどありませんでした。

 今回の発表も、まったく新しいことはほぼありません。ただし、それらを皆さんにご覧いただける形に進みました。手に取れる形になってきたことを皆さんに実感していただきたいと思い、お話したのです。

麻倉 御社がCESに戻ってきたのが2年前でした。その頃から8Kエコシステムについて言及されていましたが、当時そんな話をしているのはシャープくらいでした。今では8Kという言葉が当たり前に飛び交っていて、8Kでないとテレビじゃないといった雰囲気まで感じられます。

石田 8Kが、われわれが期待できるようなスピードで動いているかというと、そこまでではありません。ただ、海外メーカーの頑張りもあって、8Kそのものの認知度は高くなっていると認識しています。

画像1: 【麻倉怜士のCES2020レポート17】「8K」や「AIoT」への取り組みを進めるシャープ。その詳細を、取締役 副社長執行役員 ICTグループ長の石田佳久さんが語る
画像2: 【麻倉怜士のCES2020レポート17】「8K」や「AIoT」への取り組みを進めるシャープ。その詳細を、取締役 副社長執行役員 ICTグループ長の石田佳久さんが語る
画像: 「AI圧縮なしの85Mbps伝送」と「AI圧縮ありの35Mbp伝送」を比較

「AI圧縮なしの85Mbps伝送」と「AI圧縮ありの35Mbp伝送」を比較

麻倉 シャープが他社と違うのは、8Kの最初から最後まですべて自社でやりますというところですね

石田 液晶をずっとやってきた会社ですから8Kパネルは作れますし、テレビ、ディスプレイも作ることができます。しかし必ずしも8Kエコシステムを弊社だけで構築できるわけではありませんし、実際にビジネスとして展開しようと考えた時に、自分たちだけではできないことがたくさんありました。

 例えばパソコンを使った8K編集システムも、やろうとすれば他社さんも実現可能でしょう。しかし単品販売されているPCやHDD、外付けグラフィックカード、編集ソフトなどが必ずしも8Kの動画編集用に最適化されているわけではありません。

 それらをひとつずつ最適化して、本当に使いやすいものに変えていく必要があると思っています。それを通じて、これを買っていただければ確実に使えますよ、とシャープが安心を提供しようという考えです。

 その意味で、単品のハードウェアを発売するだけではなく、システムとかアプリケーション、サービスをきちんとお客様に届けたいです。

麻倉 確かに、メーカーのあり方も変わってきています。昔は、メーカーは部品を含めて自社で製造していたけれど、今は他社と協力して効率的な物作りを進めていこうという発想だと思います。

 ちなみに、CESではアドビのソフトを使って8Kの編集をデモされていました。しかも動作がとても速かった。

石田 デモ自体はそれほど難しい内容ではありませんでした。現状でも、あれくらいのことはできますという紹介です。それをさらに最適化し本当に使いやすい製品にして、自信を持ってお客様に届けたいと思っています。

麻倉 8Kエコシステムといっても、誰かがコンテンツを作らない限りそれを見ることはできないわけで、その意味では8K素材をどうやって制作していくかがひじょうに重要になります。

石田 コンテンツといっても、色々なものがあります。例えば映画を8Kで撮影して下さいといっても、機材投資を含めてそう簡単には進まないでしょう。

 でも、パーソナルコンテンツは別です。今後はスマートフォンにも8Kカメラが搭載されていくでしょうし、5Gが普及すれば伝送も瞬時に可能になります。

 さらに、スポーツなどで色々な角度から撮影した映像を同時に配信し、見る人がアングルを選べるといった提案もあります。そんな提案がどんどん出てくれば、面白いことになるのではと思っています。

麻倉 YouTubeなどでは他サイトとの差別化でいち早く4Kを導入しました次は8Kに飛びつくユーチューバーもでてくるでしょう。

 昔は放送だけ考えていればテレビビジネスはできましたが、今は放送以外のコンテンツもたいへん多いので、メーカーもそこをうまく捉えればビジネスチャンスが広がります。

石田 8Kは色々なものに使っていただきたいです。

 美術館でも展示物とは一定の距離がありますが、8K映像なら近接して見ることもできる。美術を学んでいる学生なら、画家の筆遣いがわかることで、さらに多くのことを学べる。

 また、医療分野でもっと使って欲しいと思っています。特に遠隔医療はぜひ実現して欲しい。そのためには通信ネットワークが必要で、そこは弊社だけでは難しいのですが、他社さんと協力できることがあればぜひ、と考えています。

画像: 8K配信の系統図

8K配信の系統図

麻倉 ところで、プレスカンファレンスでは8Kスマホ登場のような発言がありましたが、これはどういうものなのでしょう?

石田 8Kカメラを搭載したスマホはもちろん試作しています。具体的な時期は未定ですが、日本でも今年の春には5Gのネットワークができあがるはずですので、それに合わせた商品化を検討しています。

麻倉 8Kカメラとなると、センサーやレンズなど、ハードウェアとしてもかなりハードルが高いのではありませんか?

石田 センサーは不可欠ですし、8Kに最適化したレンズを開発する必要があります。信号処理はなんとかなると思いますが、その後に本当に5Gのネットワークで伝送ができるのかなどの検証が問題になるでしょう。

麻倉 8K対応スマホの用途としては、情報を伝送することと、スマホ自体で8Kの撮影や編集をするといった使い方があると思います。そうなるとこれまでの4Kスマホとはまったく違うものになるのではないでしょうか。

石田 残念ながら、8Kの編集ができるスマホはまだ難しいです。最初は8K撮影した素材をUSBや5Gネットワーク経由で取り出して、PCなどで編集することになるでしょう。

麻倉 8Kは放送以外にも色々な展開がありそうですね。そうなると、案外凄いスピードで8Kワールドができあがっていくのかもしれません。

石田 ゲームのクリエイターさんも8Kに関心を持っていて、弊社の研究所にも多く見学にいらっしゃっています。8Kの映像を使ったゲームなども出るといいですね。

麻倉 もうひとつ面白かったのが、8Kを4Kに変換して伝送し、それを受信側で復元するという提案でした。以前NHKが技研公開で似たアイデアを発表していましたが、今の通信インフラでの伝送としては現実的なやり方だと思います。

石田 今回のCES会場でも、通信環境がなかなか厳しくて困りました。その意味では、8Kがどこでも通信できるという仕組みを作ってあげれば、普及にも役立つと思うのです。実際にこの方式なら30Mbpsくらいの帯域があれば8Kを送れます。

画像: 1月7日のプレスカンファレンスで発表会されたAI圧縮伝送

1月7日のプレスカンファレンスで発表会されたAI圧縮伝送

麻倉 端末がいくらきちんとしていても、通信インフラが貧弱では意味がありませんからね。

 そうして8Kの世界が広がってくると、いよいよ次はIoT、AIoTといったところに入っていくわけですが、そこの展開はいまひとつ具体性が見えていないようです。

石田 色々なことにチャレンジしてはいるのです。まず昨年の10月に(株)SHARP COCORO LIFEと(株)AIoTクラウドを分社化しました。COCORO LIFE社はシャープのハードウェア向けのサービスが中心で、さらにEコマースの領域を拡大していきたいと考えています。

 一方のAIoTクラウド社は、シャープのアプライアンス向けサービスのプラットフォームという位置づけで、機器に組み込むためのハードウェアも作っています。プラットフォームは基本的にオープンにしますので、シャープの家電データを活用してセコム様がサービスプロバイダーとして活用するとか、KDDI様がネットワーク側のインフラやサービスで参画してくるといったことが既に始まっています。

 AIoTクラウド社はシャープだけで運営していくつもりはなく、他社の資本を受け入れてもいいと考えています。そこまでやれれば、ニュートラルな形でプラットフォームとして成立できるでしょう。

 例えば、グーグル様とデータをつなぐような展開も検討しています。先方はグーグルアシスタントでホームネットワークを作りたいと思っていますし、われわれも自分のデバイスだけでは先が見えています。

 そもそもシャープにはヘルスケアや湯沸かし器などのデバイスはありません。しかし他社との協業でそれらがすべてつながるようになれば、とても面白い展開ができると思うのです。

麻倉 それがスマートホームへの展開につながるのですね。今まではシャープという会社の差別化サービスでしたが、今後は家庭内すべてを見据えたニュートラルなサービスになっていくということですね。

石田 私は以前から、テレビとか電子レンジには画面がついているのに、そこにシャープが作った情報しか表示されないのはおかしいと言ってきました。そこをオープンにして、誰かが作ったコンテンツなり広告なりが表示できるようになれば、世界は変わるはずです。そういったことにチャレンジしていきたい。

麻倉 それは、VAIO以来オープンプラットフォームに慣れた石田さんならではの発想ですね。実際に社内の空気は変わってきているのでしょうか?

石田 変わってきていると思います。

麻倉 CESの展示では、どうしてもハードウェアが主体のように感じていましたが、今のお話のような展開が表に出てくると、シャープという会社の見え方が変わってきそうです。

画像: シャープ株式会社 取締役 副社長執行役員ICTグループ長の石田佳久さんと

シャープ株式会社 取締役 副社長執行役員ICTグループ長の石田佳久さんと

石田 変わってもらいたいと思っています。今までのようにハード単品を売って儲ける会社ではなく、システムやソリューションを提供することでシャープとして色々なものをギャランティする、もっと使いやすい世界を作っていくといった形に変えていきたいと考えています。

麻倉 機器同士の組み合わせやシステム化、プラットフォーム化は大切だと言われていながら、日本の家電メーカーではその方向に進む会社がなかなか出てきませんでした。

石田 確かに、不思議なことですね。

麻倉 石田さんのようにパソコン畑出身で、異業種の世界も知っている人だからこそ、新しい視点が持ち込めたのではないでしょうか。時期的にもそれが必要になったタイミングでもあったわけです。

石田 去年の4月から組織が変わって、私はICTの担当になりました。ICTの中にはパソコン事業とスマートフォン事業、COCORO LIFE社、AIoTクラウド社の4つが入っています。さらに社内ITという組織もあり、ここは今までアウトソースが中心だったのですが、オープンソースを使って自分たちで何でも作れと指示をしています。

 具体的には、会計のシステムから営業、顧客管理システムなどのすべてを開発しています。そうすることでコストも下がるし、ノウハウも蓄積されていきます。さらに社内のコミュニケーションもメールからチャットに変更したのですが、そのシステムを内製しました。チャットだけでなくビデオ会議もできます。こういったシステムは将来的に外販もできるのではないかと考えています。

麻倉 新しい組織では8Kはどなたの担当なのでしょう?

石田 8Kは会長兼社長の戴 正呉の直轄です。8Kの中にはテレビ、ディスプレイ、B to Bが含まれています。

麻倉 なるほど、社長直轄ですか。担当がはっきりしていると、物事を決める判断スピードも上がっていきそうですね。

石田 そうですね。成長に向かって次に何をするべきかを考えるようになってきたと思います。

麻倉 8Kは伸び盛りだと思いますが、それに合わせてシャープという会社も成長させていこうという発想ですね。明確に成長ステージに入ったということでしょうし、そうなるとますます色々なことが実現できそうですね。

石田 できますし、やらなくてはならないでしょう。

麻倉 シャープの8K展開にも期待しています。

画像3: 【麻倉怜士のCES2020レポート17】「8K」や「AIoT」への取り組みを進めるシャープ。その詳細を、取締役 副社長執行役員 ICTグループ長の石田佳久さんが語る
画像4: 【麻倉怜士のCES2020レポート17】「8K」や「AIoT」への取り組みを進めるシャープ。その詳細を、取締役 副社長執行役員 ICTグループ長の石田佳久さんが語る
画像: 5Gスマホのプロトタイプ

5Gスマホのプロトタイプ

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