パナソニックのOLED(有機ELテレビ)が欧州でも好調だという。最新モデルの「GZ2000」シリーズも、3つのHDR(HDR10/HDR10+/Dolby Vision)に対応するなど、必要にして充分なスペックを誇っている。麻倉さんは、先日開催されたIFA2019の会場で、そんなパナソニックのテレビ事業について、新しくアプライアンス社 スマートライフネットワーク事業部 ビジュアル・サウンド ビジネスユニット長に就任した豊嶋 明氏にお話を聞いていた。今回はその内容をお届けしたい。(編集部)
麻倉 今日はよろしくお願いいたします。豊嶋さんは今年4月から今の役職に就かれたそうですね。まずは豊嶋さんの経歴についてお聞かせください。
豊嶋 私は1993年に当時の松下電器産業のテレビ事業部に入社しました。当時は茨木に拠点がありましたが、後に門真に移動し、2012年までずっとテレビの品質管理を担当していました。その後2013〜2016年は海外赴任でインドに駐留しました。
麻倉 パナソニック製品はインドで人気が高いそうですね。
豊嶋 ありがとうございます。なんとか頑張っております。その期間は現地のテレビ製造会社の責任者として勤務しました。続く2017〜2018年の2年間はテレビ事業部から異動して白物家電の担当になりました。
この4月から再びテレビ事業担当部門に戻ってきました。今回は、テレビとホームエンタテインメント機器がくっついたビジュアル・サウンドビジネスユニットの責任者になりましたので、テレビとビジュアル機器、オーディオ機器を担当しています。
麻倉 パナソニックのテレビに関しては、有機ELの「GZ2000シリーズ」の画質がいい。ちゃんと力を入れて仕上げた成果が出てきていると思います。そこでお聞きしたいのですが、日本では有機ELがひじょうに人気です。これは欧州でも同じなのでしょうか?
豊嶋 そうですね。欧州でも有機ELテレビが受け入れられていて、とても人気が高くなっています。
麻倉 パナソニックのテレビは、プラズマの時代は欧州で人気だったけど、液晶テレビでは評判を落としてしまい、2015年頃からそれを取り返すために有機ELテレビに注力したという経緯があります。
その成果もあり、市場でも欧州のユーザーに認知が進んで、今はいいポジションにあると認識していますが、特に欧州で売れている理由は何だとお考えですか?
豊嶋 やはり画質ではないでしょうか。本当の意味での画質のよさを突き詰めて、明るいところはきちんと明るく、暗い部分は漆黒の黒や暗部階調まで出せるとなると、デバイスは有機ELになると考えています。弊社の有機ELテレビは、そんな絵づくりのコンセプトを含めて欧州の方に受け入れてもらえていると思います
麻倉 GZ2000シリーズでは、階調再現などの基本性能が向上しています。その点も欧州のユーザーにはきちんと認識されているのでしょうか?
豊嶋 それを含めて訴求しています。有機ELなら深い黒が出せるのですが、さらに暗い部分でもきちんと階調が再現できるということと、明部の高いピークも表現できるという点を改めてお伝えしたところ、たいへん好評をいただきました。
麻倉 有機ELテレビは日本と欧州で人気で、特に日本は有機ELテレビのシェアが世界で一番高いという話も聞きます。
豊嶋 確かに、市場ごとに見た場合は日本と欧州で有機ELが強く、日本は大きく有機ELにシフトしています。GZ2000も、本当にいい反応をいただいております。
麻倉 私は仕事柄、海外の人から、なぜ日本人は有機ELを好むのかという質問をよく受けます。その答として、日本のユーザーはテレビを長い間使うし、いいものが欲しいと考えるからだと話しています。
加えて、根源的に自発光デバイスに親しんでいるという事も大きいと思うのです。もともとブラウン管の自発光に慣れていましたし、2000年頃から液晶テレビが主流になっても、ユーザーはどこか自発光を意識していた部分もあるでしょう。そうした潜在願望を有機ELが掘り起こしたのではないかと思っています。
豊嶋 確かに、それはあると思いますね。画質や映像品質に重きを置いているお客様は、自発光デバイスで見たいという思いをお持ちなのではないでしょうか。弊社はブラウン管、プラズマといった自発光デバイスを長く手がけてきた経験があり、それが今回の有機ELにも引き継がれているからいい絵を出せているのだと考えています。
麻倉 そのストーリーはたいへんわかりやすい。パナソニックさんはブラウン管やプラズマをデバイスから作り、セットにまとめていました。そうしたデバイスの使いこなし技術はきちんと継承され、有機ELでもそれが活きている。
豊嶋 プラズマの時に自発光技術を進化させていたメンバーが有機ELテレビを開発していますので、積み上げてきた技術は活かされているのです。
麻倉 今回、豊嶋さんはビジネスユニット長に就任されたわけですが、今後はどんな物づくりを進めていこうとお考えですか?
豊嶋 映像と音響の技術については自信を持っていますので、これを有機ELテレビというデバイスを使って最大限高めていき、お客様に最高の臨場感を味わってもらえるような映像・音響体験をお届けすることです。あとは、それ以外の部分、全体の機能性等を含めてユーザーに感動を与えられるような製品づくりをしていきたいと考えています。
麻倉 画質・音質での感動は分かりますが、それ以外の部分での感動というと、どのような点をお考えなのでしょう?
豊嶋 お客様が買ってくれた時に、想像を超えた感動を与えたいと思っています。これくらいの映像や音だろうという予想を超えたクォリティに加えて、ご家庭に置いていただいた時のデザインとか、使い勝手、機能面などでも長く愛用いただける、愛される製品を作りたいと考えています。
麻倉 さて、4Kの有機ELはもちろんですが、これらからは8Kの時代でもあります。パナソニックにも当然8K製品を期待しているのですが、どのような展開をお考えでしょうか。
豊嶋 8Kについては、製品化を検討していますが、今後も市場性や状況を見ながら判断していきたいですね。
麻倉 市場性といっても、まだ放送もNHKの1チャンネルしかありませんし、ユーザーの数は限られています。しかし、そもそもテレビがないと視聴者も増えていきません。
豊嶋 まさにそれを含めて検討しているところです。技術的には確立していますので、後はマーケティングを含めてどう考えていくかだと思います。
麻倉 パナソニックがイメージしている8Kテレビには、どのような機能やスペック、感動性が必要だとお考えですか?
豊嶋 お客様には、4Kでもご満足いただける映像をお届けできていると思います。でも一度8Kを体験すると、あまりの綺麗さ、臨場感、本物感に驚かれるのではないでしょうか。それを踏まえ、4K有機ELテレビで培ってきた技術を活かした形で、8Kの持つ最大限のメリットを出せればいいと考えています。
麻倉 8Kの液晶テレビは考えていないのですか?
豊嶋 デバイスは両方の選択肢があると考えています。ただフラッグシップとして8Kを最大限活かそうと思うと、やはり有機ELとのマッチングがいいのではないでしょうか。
麻倉 これは私見ですが、画素が小さくなるほど明るさも厳しくなります。さらに黒がきちんと締まるかは、大きな見栄えの違いにつながります。いくら画素数が多くても、コントラストが足りないと、ありがたみのない映像になってしまいます。その意味では有機ELというのが8Kのフラッグシップとしての正しい選択だと思いますね。
豊嶋 感動を与える映像というのは、解像度だけではなく、コントラスト、特に黒の階調表現や、ピークが出ながらも全体として明暗がきちんと再現できているものだと思います。それが臨場感にもつながっているのです。そう考えると、有機ELが最適だと確信しています。
麻倉 豊嶋さんは1993年の入社とのことですので、ブラウン管テレビの「画王」の最後の頃に会社に入ったわけですね。それからプラズマ、液晶、有機ELのすべてのデバイスを体験されている。その豊富な経験から、これからのテレビのあり方をどう見ていますか?
豊嶋 テレビという製品自体は、常に形やデバイスを変えながら進化していますが、同時に周辺環境やコンテンツ、サービス、他の機器とつながることでより感動を膨らませることができると思っています。
麻倉 以前はテレビ単体でよかったけれど、今では様々な機器やサービスとつながっていかなくてはならない。
豊嶋 視聴者に感動を与えるアウトプットとして、テレビが能力を発揮できるのではないでしょうか。色々なものとつながって、サービスなりソリューションを達成するツールとして、テレビという存在があると思っています。
麻倉 テレビが周辺機器とつながっていく中で、新しいあり方を考えていくというミッションですね。
豊嶋 そういうことも踏まえて、弊社も単独のテレビ事業部ではなく、ビデオ・オーディオ製品もいっしょになったビジネスユニットとして組織を変更しました。
麻倉 そのコンセプトについて実際に組織を変更したということは、今後より融合を進めていくということですね。
豊嶋 当然ながらテレビ、オーディオだけで閉じるのではなく、家の中にあるものすべて、世の中にあるもすべてとつながることで、さらに価値が高まると考えています。
組織の形だけでなく、開発体制や検討テーマについても融合した形で進めています。これから新しい価値を生む製品を作り出していけます
麻倉 具体的にどんな製品を作るかといったアイデアはお持ちですか?
豊嶋 色々やり方はあると思います。従来のテレビ、ビデオ、オーディオとは違う、「どう呼んだらいいかわからない製品」を生み出したいです。
麻倉 さて、今回展示されていた透明テレビと100万対1「MegaCon」ですが、これはどういう切り口での製品になるのでしょうか?
豊嶋 テレビという製品は、映像・音声の質を究極まで高めるという一方で、暮らしの中でどういった形で進化していけるかもテーマです。そのひとつとして有機ELが持つ“透明にできる”という特長を活かして、色々な価値提案を進めていきます。
今回提案したのは、木枠に入ったスタイルで存在感を消したり、その中に映像を綺麗に映すことができるという、今までのテレビとは違うあり方です。透明になるということは、色々な意味で価値創造ができると思っています。
麻倉 2年くらい前の展示では、日本酒セラーの扉に透明ディスプレイを使っていましたね。
豊嶋 あれもひとつの使い方ですし、それ以外にもテレビとしての価値づくりができるはずと検討しています。今後はそれを具現化していきたいですね。
麻倉 スイスのデザイナーとコラボしたフレームを使った展示もありました。そうなるとテレビの映像を映すという機能以外に、インテリア性が強くなっていくようにも思います。
豊嶋 最近は、お客様によってテレビのデザインに求めるものが違ってきていますので、木のぬくもりや質感のあるもの、壁掛けスタイルなどをさまざまに模索しています。トータルのデザインコンセプトを保ちながら、色々なデザインを提案していきたいと思っています。
麻倉 CRTの時代は立方体なので6面を活かしたデザインが可能でした。でも今はフラットなので工夫の余地が少ない。さらに電源を消すと大きな板になってしまうのも困ります。
豊嶋 デザインというのはたいへん重要なキーワードだと思いますので、単純に映像を映すための枠や台ということではなく、生活の中に溶け込むようなデザインを検討しています。
麻倉 実際に製品になるのはいつ頃でしょうか?
豊嶋 2020年に向けて製品化を検討しています。
麻倉 もうひとつはMegaConですね。2016年今回と同様な2枚重ねのデュアルセル技術の発表がありました。
豊嶋 MegaConが持つハイコンストラストの映像は、マスターモニター用途を含めて要望が高いのです。それを受けて、こんな提案もできるのではないかと思っています。
麻倉 これまでは御社は有機ELパネルを使ったモニターをハリウッドスタジオなどに納品していましたよね。あれとは違うのですか?
豊嶋 スタジオさんには、現状でも有機ELのモニターを使っていただいています。それをひとつの核として、もっとハイコントラストで見たいといった要望をいただいた時に、それに応えるため技術として検討しています。
麻倉 さて、いよいよ来年は東京オリンピックです。オリンピックはテレビの大きな商機ですし、パナソニックさんからも8Kテレビが出てくると期待しています。
豊嶋
8Kテレビの商品化については未定ですが、オリンピックに向けていい製品をお届けしようと、全社で取り組んでいます。今年はGZ2000を含めて皆様にお褒めいただいている製品がありますので、その技術をさらに伸ばしていけるような仕込みをしています。