画像1: 都内初のドルビーシネマ専用館丸の内ピカデリーで、『ジョーカー』を最速体験。作品の内面にまで描き出す“絵”と“音”のクォリティに、思わず……

 思わず息を呑んだ。

 映画の幕切れに3秒間ほどフェイドアウト(暗転)をする場面がある。映画全体の構成を占う主人公アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)の独白へつづく重要なショットなのだが、その暗転で場内が完全に闇に支配されるのだ。

 明度が完全に沈み、スクリーンから漆黒という「色」が滲み出ている感覚! 今回の丸の内ピカデリーDolby Cinemaでの鑑賞の前に、他誌の原稿執筆もあり試写(2K上映)を2度観させてもらった。テーマ、演技、デザイン共にすばらしい作品なのだが、改めてドルビーシネマで接すると伝わってくる情報量がそうとう、いや正直に言えばまるでちがうのだ。ドルビービジョンとは何かを考えるとき、しばらくは今回の映画『ジョーカー』の暗転を思い出す気がする。

 4Kツインレーザープロジェクター、HDR効果恐るべし。新装なったピカデリー劇場は座席数255席でスクリーンも平均サイズの小振りな映画館だけれど、ドルビーアトモスにも余計な誇張や音圧がなく、作品への没入感を高めてくれた。椅子や壁にも光を反射しない素材が使われているはず。それが漆黒の発現をサポートしている。贔屓の映画館にしよう。

画像: 『ジョーカー』©2019 Warner Bros. All Rights Reserved.

『ジョーカー』©2019 Warner Bros. All Rights Reserved.

 劇中で明示はされないけれど、今回の『ジョーカー』の時代背景は1970年代の中盤だ。それを伝えるため、監督のトッド・フィリップスはわざわざオープニングに、1972年から84年にかけて使用されていたワーナー・ブラザース映画の第十代ロゴ(Wのマークが貼られたシンプルな図案。『燃えよドラゴン』などで使われていた)を配置し、その12年の間に作られた『タクシードライバー』(1976年)と『キング・オブ・コメディ』(1983年)から影響を受けたことを明言している。

 ロバート・デ・ニーロに助演を仰いだのもそのためだろう。『ジョーカー』と『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』は、同じ恒星の周りを回る夢想と孤独の星なのだ。

 事務所の支度部屋。アパートの廊下。アーサーの母親の病室。蛍光灯に照らされた侘びしい場面が多く、そこでは画調が緑色に寄っている。苔が生えたガラス水槽を覗き込んでいるようだ。一方で発色はよく、覚醒したアーサー(ジョーカー)の赤いスーツや、瞳に映るオレンジの炎、夕闇の深い気配に心が騒ぐ。

 データベースIMDbによれば、使用されたシネマカメラは6K/65mmのArri Alexa65、35mmフルサイズ4Kセンサーを搭載したArri Alexa LF、横幅185mm、高さ140mmほどのキューブ型4K小型カメラArri Alexa Miniの3種類。

 どこかで観た気がすると思っていたが、今回のドルビービジョン鑑賞でこんな思いが生まれた。人生のように長くつらい階段で踊るジョーカーの山吹色のベストは、マンホールから吹き出す水蒸気の向こうからぬぬうっと姿を現わす『タクシードライバー』の黄色いタクシーが映り込んだものだと。

画像2: 都内初のドルビーシネマ専用館丸の内ピカデリーで、『ジョーカー』を最速体験。作品の内面にまで描き出す“絵”と“音”のクォリティに、思わず……

 来年のアカデミー賞で作品&主演男優賞ノミネートは確実だろう。脚本と編集賞の候補にもなるかもしれない。チャップリン『モダン・タイムス』(1936年)の主題曲「スマイル」や、フランク・シナトラの「ザッツ・ライフ」、ゲイリー・グリッターの「ロックンロール・パート2」が使われている映画。もうひとつ、ブリティッシュ・ロックの名曲が流れ、血が沸騰する。

 熱狂と拒絶の両方を生む作品かもしれない。それを含めていちどは観るべき映画だろう。ドルビーシネマでの出会いをお奨めする。

『ジョーカー』
●監督:トッド・フィリップス●出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ●配給:ワーナーブラザース

丸の内ピカデリー(ドルビーシネマ)の概要
●鑑賞料金(税込):
 ドルビーシネマ 作品 鑑賞料金+一律¥600
 ドルビーシネマ3D作品 鑑賞料金+一律¥1,000
●住所:東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン新館5階(旧・丸の内ピカデリー3)

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