高純度にして高密度な音
映像システムにも好適な逸品
ELAC(エラック)のスピーカーというと蛇腹型振動板による「エアー・モーション・ドライブ方式」のJETトゥイーターが看板技術だ。軽量振動板を屏風のように折り曲げて大面積から放射。またピストンモーションを排した駆動原理から、抜群の過渡特性を誇っている逸物だ。CL310 JET以来の小型2ウェイ型式、つまり300LINEは今でも大人気だ。トゥイーターは目下JET Vにまで進化し、ウーファーもダイヤカット風のクリスタル・ラインが施された振動板を有したAS-XRコーンに代替わりして現行高級機ラインを形成している。
大型のFS=フロアスタンディング型の開発はじっくりと間隔をもたせている。その根本的な理由は、あまりに過渡特性が優秀なトゥイーターに見合った中低域ユニットが常に課題になるからだ。現代の大型機となれば、“ダイナミックレンジを制限する小出力アンプで鳴らしたい”という往年のコンデンサースピーカーのようなものでは許されないだろう。高域とのつながりを幅広いダイナミックレンジにて維持する必要があるのだ。
というわけで、通常の円錐コーンと比べてケタ違いに強靱なクリスタル・ライン振動板を起用したAS-XRコーンユニットが開発された次第。クルトミューラーの紙コーンとアルミニウムのコーンを重ねて強度と内部損失と軽量化を達成したものだ。
今回の400LINEのトップモデルVela FS409は、3種4ユニットによる3・5ウェイ構成になっている。つまりJET Vと150mmのミッドレンジ、180mmのウーファー2本を使用。ウーファーの受け持ち帯域は360Hz以下だが、最低域ユニットは140Hz以下を受け持つスタガー構成だ。さらにバスレフダクトは円筒形ではなく、エンクロージャー底部に傾斜型の広がりを持たせたフレア型になっている。部屋の後壁からの反射を嫌って床方向に広がりを持たせた放射パターンを採用したわけだ。360Hz~2・7kHzを受け持つ中域用ユニットは、トゥイーターに見合った過渡特性を得るために、駆動軸を支えるサスペンションを「フラット・スパイダー・ダンパー」としている。初動感度が高く、ピストンモーションの負荷にならないよう軽量化を図ったものだ。
エンクロージャーはすこし後ろに傾斜させたトールボーイ型であり、これは各ユニットから視聴位置への時間軸の差を調整するためだ。天板やバイワイヤリング端子の取り付け部など頑丈なアルミ板を使用。表面仕上げは黒か白の艶出しの他、ウォルナットの艶出し高級塗装板を用意している。
JETの優秀さに見合った 音のつながりを見事に達成
最低インピーダンスが3・4Ω/105Hzということで、アキュフェーズのステレオアンプで鳴らしてみたが、見事に高純度にして高密度な音の景観を満喫できた。
1950~60年代に活躍したヴィック・ダモンのスタンダードヴォーカルは、馥郁とした美声や伴奏楽器など、深く広く漂うエコーの減衰曲線が支援している録音手法が克明。そして広くて濃密な音場の形成と伴奏楽器を含めた極微の成分を析出する能力は、やはり過渡特性の優秀さに見合った帯域感のつながりが達成されているからだろう。女声のスーザン・グラハム『アーン歌曲集』も同様にすこぶるつきの細密描写をさりげなく見せつけてくれた。
またポール・パレー指揮:デトロイト交響楽団の『幻想交響曲』(SSHRS029~030)は、弦バスや大太鼓が実に荘重。やや膨らむ傾向でもあるが設置位置の調整で改善できるだろう。
BDの『女と男の観覧車』を2チャンネルにして視聴。往年のアメリカンポップスが甘みたっぷりに漂って時代の雰囲気がさりげなく濃厚だ。それに会話は語勢が明瞭。UHDブルーレイ『イノセンス』は、剛毅な男声に少し柔らかみが加わるのだが、声質は実によく描き分ける。効果音は細部まで克明で音場は広く深く、実質感があってやはり高密度な音だ。
これは本格的なオーディオ再生環境の上で映像システムを構築しようという要求にもよく応える逸品だ。
ELAC Vela FS409/¥980,000(ペア)+税
●型式:4ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:JET型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、
180mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:140Hz、360Hz、2.7kHz
●出力音圧レベル:89dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●再生周波数帯域:28Hz?50kHz
●寸法/質量:W276×H1307×D332mm/32.1kg
●カラリング:ブラック・ハイグロス(写真)、ホワイト・ハイグロス(同価格)、
ウォルナット・ハイグロス(別価格、¥1,050,000・ペア+税)
問合せ先:(株)ユキム103(5743)6202