札幌 キャビン大阪屋にて、ステレオサウンド高音質ソフト特別体験会開催
去る3月16日(土)、札幌市中央区、時計台そばに店舗を構えるキャビン大阪屋・6階特設会場にて、ステレオサウンド高音質ソフト特別試聴会が開催された。当日午前中は、札幌ではおよそ半月ぶりの降雪となったとのことだが、試聴会が始まる午後2時前には曇り空となり、定刻通りのスタートとなった。
今回は、今年初めてとなるステレオサウンド高音質ソフト特別試聴会。昨年秋から今年1月にかけて続々とリリースされたポップス、クラシックを網羅してお聴きいただくために、新しいプログラムを組んでの実施となった。
試聴会前日、会場入りしたスタッフは、まず店舗6階に設けられているイベントルームへ。そこにはすでにリファレンスの王道ともいうべきオーディオシステムがセッティングされており、ほんの数枚、持参したソフトをかけただけで、ここが素晴らしい音を聴かせる部屋だということがわかった。
さて試聴当日、会場に用意された30席には、開演20分ほど前から続々とご予約いただいたお客様が着席。これから再生されるステレオサウンド制作高音質ソフトへの期待が、運営スタッフサイドにもひしひしと伝わってくる。キャビン大阪屋で主にソフト販売を受け持ち、今回の開催にあたってもその労をとっていただいた鈴木弘文さんによる開演の挨拶に続き、イベントの進行と解説を受け持つ、ステレオサウンド編集長 染谷一へとバトンが渡された。
高級オーディオ専門誌の出版社が、なぜ、音楽ソフトの制作を手掛けるのか? イベントは、この疑問に対する回答で口火を切った。それは通常行なわれる、あらゆる環境や装置で聴いてもアーティストの思いが届く音づくり(マスタリング)を排し、愛好家であるみなさんがお持ちのオーディオ装置で再生することを前提にしたマスタリングにより、世界の名曲・名演奏・名録音をソフト化したらどんなものができるか? という、半ば実験的な試みからスタートしたもの。結果として、それは「できる限りマスターテープのサウンドそのままをパッケージ化する」という基本コンセプトとなり、ステレオサウンド制作の音楽ソフト全体に貫かれることになっているのだ。
プログラムは、まず昨秋一挙にリリースされたポップス篇から。ホリー・コール 『ドント・スモーク・イン・ベッド』、カーラ・ボノフ 『ささやく夜』という女性ヴォーカルのSACD2枚をお聴きいただいた。ホリー・コールについては、オーディオ評論家の故菅野沖彦氏が、生前、試聴取材のとき、このCDを使って、スピーカーのセッティングや各機器の音質評価を行なっていたというエピソードなども語られた。
オーディオ評論家といえば、昨年リリースされた山本浩司先生選曲・構成のSACD『東京・青山骨董通りの思い出』に続いて、この日がちょうど発売日となった小原由夫先生選曲・構成のSACD『クロスオーバー黄金時代1977~1988』も再生された。クロスオーバー黄金時代1977~1988では、CD層とSACD層で異なるマスタリングが施されていることから、その聴き比べを実施。PCMとDSDという器の大きさの違いを実感すると同時に、シンバルや金属系のパーカッション、あるいはバスドラムのアタック音などで、異なる方向性のマスタリングを確認することができた。
続いて紹介されたのは、菅野沖彦先生が選曲・構成した[『ステレオサウンド リファレンス・レコード Vol.1』[(https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/rs_lp/3027)のアナログ盤。本作品はステレオサウンドがその威信をかけ、徹底的に音質にこだわった作品。そのマスタリングやカッティングにおいては、制作スタッフ全員が納得するまで、作業を先に進めないという決意のもと、特に時間がかけられている。再生したのは1枚目1曲目ヴェルディの歌劇「マクベス」:前奏曲。針が下されるやいなや、荘厳な管楽器を追いかけるように奏でられる弦楽器の響きにより、会場の空気は一変。客席のみなさんも緊迫の表情を浮かべていた。
ここで試聴プログラムは折返し。発売前の新作紹介へと話題が移された。今回はキャビン大阪屋からの要請もあり、新作2タイトルを発売に先駆けて披露することに。1作目は3月31日発売予定の薬師丸ひろ子のアナログレコード『Cinema Songs』 2作目は3月30日発売予定のテレサ・テンのSACDだ。ともにオーディオ愛好家にファンの多い女性アーティストだけに、染谷編集長の制作プロセス解説に耳をそばだてていた。
フィナーレとなるのは、ステレオサウンドがもっともマスターテープの音を大切にして制作している、クラシックのSACD 2作品。「マーラー:交響曲第三番」と「ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 」だ。前者はまさにこの日のハイライト。やや大きめの音量にして、その第一楽章を再生すると、空間が何倍にも広くなったように感じられ、それは1971年のロイスホールが札幌のこの地に再現されたかのごときナマナマしさだった。全く頭打ちしないその伸びやかな演奏は、ソフト、再生装置、そしてこの部屋、すべてが高い水準でバランスしたことの証左といえるだろう。
90分を超える試聴会は、こうして最高潮の感動のもとに無事終了。その後、多くのお客様が1階ソフト売場に設けられたステレオサウンド制作ソフトの特設コーナーで、印象に残った作品を思い思いに手に取っていた。春にはまだ少し時間がありそうな3月の札幌、北のオーディオ愛好家のみなさまに、いい音の記憶を一片でも残すことができたならば、これ以上の喜びはないだろう。