IIJ(インターネットイニシアティブ)は昨日、世界初の試みとなる4K/HDRとハイレゾ音源(96kHz/24ビット)のインターネット・ライブ配信の視聴体験会を開催した。
同社は1995年に日本初のストリーミングサービスの提供を始めて以降、2007年にはアクトビラと共同でHDコンテンツの配信を手がけ、2015年にはDSD 5.6MHzの音源配信実験を実施、そして2017年にはDSD 11.2MHzでの音楽配信サービスをスタートするなど、常にストリーミングサービスの最先端に取り組んできている。
今回の体験会もそのひとつで、日本から約9,000km離れたベルリンフィルハーモニー管弦楽団のホールで行なわれるコンサートのゲネプロ(通し稽古)を、ライブ配信で上映するという内容だった。
冒頭、IIJ代表取締役会長CEOの鈴木幸一氏から今回の取組についての解説があった。鈴木氏によると、通信市場の拡大によりパブリックビューイングやSNSでの「共有」「同時性」が求められるケースが増えているという。
この「同時性」にもっとも適したコンテンツは「ライブ(生中継)」だが、それを高品質な4K画質とハイレゾ音源で楽しもうとすると、放送では受像機やアンテナの通線といったインフラが追いついていないのが現状だ。
これに対し、インターネットのストリーミングなら4K映像とハイレゾ音源に対応したSTB(セット・トップ・ボックス)も登場しており、高速インターネット回線があれば導入への障壁は低いという。さらに将来的に5Gが普及すれば、モバイルで再生できる可能性もある。
鈴木氏は、“放送ではできなかった、まったく違う形のライブ体験”として高品質ライブストリーミングを位置づけているようで、「初めて4K/HDRとハイレゾの組合せにトライできました。本当はもう少し早くやりたかったのですが」と笑っていた。さらに「ネットは進化をし続けます。今後は4Kと8Kを組み合わせるなど、新しいメディアとして追求していきたい」と語ってくれた。
続いて、ベルリンフィルメディア取締役のローベルト・ツインマーマン氏が登壇した。氏によると、ベルリンフィルハーモニーは、常にテクノロジーに関心を持っていたという。古くは1940年代に磁気テープでコンサートの録音に着手し、その後カラヤンの時代には演奏会の映像化にも取り組んでいる。
そして2009年からは映像配信ポータルサイトの「デジタルコンサートホール」をスタートし、ネット経由でライブやアーカイブ映像を楽しめるようになっている。これらは当初720pだったが、その後1080pに進化し、今では4Kでの配信も実現されている。
ちなみに麻倉怜士さんのIFAリポートなどでもご紹介しているのでStereoSound ONLINE読者はご存じだろうが、ベルリンフィルハーモニーはパナソニック/テクニクスとも協業しており、4Kカメラや編集機材はパナソニック製が導入されている。今回もそのシステムを使って撮影が行われたそうだ。
さて今回の視聴会は、先述した通り4K/HDR(HLG)の映像と96kHz/24ビットの2chハイレゾ音声をベルリンからライブ・ストリーミングで伝送するという企画だ。収録はベルリンフィルハーモニーのコンサートホールで、現地時間3月2日に開催される公演のリハーサル風景(指揮はズービン・メータ)を中継していた。
ホールに設置されたマイクと4Kカメラでリハーサル風景を撮影し、音の同期等を整えてから両者を統合する。この状態では非圧縮のため転送レートは1.3Gbpsに及ぶという。それをHEVCで20Mbpsに圧縮し、ベルリンのストリーミングサーバーに保存する。
そこからロンドンのサーバーを経由して日本のサーバーに送られるが、この間はすべてIIJが自社で管理しているネットワーク回線が使われている。今回は20Mbpsのデータがスムーズに送れるように、データの転送効率を上げるなどのカスタマイズも加えたそうだ。これも自社管理のネットワークだからこそ可能なことだろう。
こうして日本のサーバーに届いたデータは、公共回線(今回はフレッツ光)を使って視聴会場に送られ、再生用アプリであるラディウス「NeSTREAM」をインストールしたパナソニックのBS 4Kチューナー「TU-BUHD100」でデコードしている。
ちなみに再生機器はモニターがパナソニックの有機ELテレビ「TH-65FZ1000」、アンプはテクニクスの「SU-R1」と「SE-R1」、スピーカーが「SB-R1」という構成だ。映像はTU-BUHD100からHDMIで出力、音声はUSBケーブルでSU-R1につないで、USB DAC機能を使って再生している。
65インチ画面に映し出された映像は、ネイティブ4Kらしい精細感で、楽譜の内容まできちんと識別できる。またバイオリンの光沢感や金管楽器の輝きなど、HDR撮影の恩恵も充分感じられた。
この映像を観たツインマーマン氏は、「楽団員が普段着で写っているのがちょっと恥ずかしかったです」と語って笑いを誘っていた。確かに普段はスーツを着ている団員がGパン姿で演奏している様子は珍しく、貴重な映像だったといえるだろう。
サウンドもハイレゾらしい、ひじょうに細やかな再現性で、弦の力強さや消え際の余韻感もきちんと再現される。ホールの響きも自然で、(行ったことはないけれど)ベルリンフィルホールの演奏はこんな感じで聴こえるのかと、わくわくしてしまった。
4K/HDR&ハイレゾ音源ライブ配信サービスは、IIJが通信設備やエンコーダーなどのソリューションを提供し、コンテンツホルダーや通信事業者と連携してサービスを提供するという流れが想定されている。つまりエンドユーザーはプロバイダー等と契約してコンテンツを楽しむことになるわけで、そのための視聴環境も既に開発が進んでいる。
再生アプリには、今回同様ラディウスNeSTREAMを使う予定だが、既にアンドロイドTV(Android7.0以降)、PC(マックOS 10.10以降、ウィンドウズ7 SP1/8/10)、スマホ・タブレット(iOS10.0以降、アンドロイド7.0以降)向けの開発が行なわれており、一般向けのアプリ発売もこれから検討される模様だ。
実際に視聴会場にはNeSTREAMをインストールしたNTTぷららのSTBも置かれ、サーバーに保存した4K/HDR&ハイレゾソースを再生していた。こちらはHDMI端子から映像・音とも出力される予定という。
STBの細かい仕様の違いはあるにせよ、アプリをインストールするだけで4K/HDR&ハイレゾ映像を楽しめるようになるのは、幅広い普及のためにはとても有効だと感じだ。
最後に会場で確認したところ、今回の音声は96kHz/24ビットのリニアPCM信号を、MPEG-4 ALSで圧縮しているとのことだった。これは伝送する際にMPEG-TSのフォーマットを使っているためで、もちろんロスレス圧縮となる。
将来的には4K映像とDSDで配信できないかという質問もしてみたが、技術的には可能ですという回答だった。DSDについては映像と組み合わせて送信する仕様が確定していないのが要因のようで、映像と音声を別々に送って、デコーダー側で同期を取るなどの仕組が必要になるのだろう。もちろんDSDを使うことで転送レートが増える可能性もある。
とはいえ、IIJではDSDの音声配信も既に手がけているわけで、ユーザーとしては4K/HDR&DSDハイレゾサウンドでベルリンフィルハーモニーの名演奏を聴いてみたいと思うはず。ぜひ前向きな取組を期待したい。