前回の本連載では、麻倉怜士さんが8K放送をどんなシステムで、どんな風に楽しんでいるかについてご紹介した。しかし麻倉さんによると、8K放送には、まだまだ語り尽くせないくらいの注目作品があるという。そこで今回は麻倉さんが気になった番組について、さらに具体的に解説していただくことにした。究極の8K映像で観る作品の魅力とは、いったいどれほどのものなのだろうか。
時々刻々と姿を変える富士山に感動する
私が8K放送で感動したのはまずは『富士山 森羅万象 大山行男が撮る神秘の素顔』でした。大山行男さんは富士山を30年に渡って撮影しており、今は富士山の麓に住んでいる富士山専門カメラマンです。
8K/HDRで観る富士山の映像は観たことがないほどの荘厳さと美しさです。大山さんは2014年から8Kの映像づくりのためにデジタルカメラでタイムラプス撮影しているそうですが、時々刻々と姿を変える様子が実にリアルに描き出されています。
番組では大山さんが南アルプスの北岳に上って富士山を撮影していますが、そこでは距離感、雲や背景の空の広さが感動的。天候が荒れて嵐になるのですが、その際の雲が沸いてくる様や消えていく様子、一瞬輝く雷など、本当に凄い8K映像でした。
嵐が去った翌朝は空気が澄み、朝焼けの光の色が黄色、赤と変化していく風景がいっそうドラマチックです。色の素晴らしさ、遠景なのにクリアーな描写性、嵐の恐怖感など、8Kが持っている感情喚起力が素直に感じられる映像でした。これほどの映像は毎日富士山と対峙している大山さんだからこそ撮影できるもので、それが8Kでしっかり再現されている点に驚きました。
これにはテレビ側の黒の締まりも重要です。黒が締まっていて、階調があって、かつBT.2020の広い色域を備えている、そのどれが欠けても恐怖感はでてこないでしょう。その意味ではシャープの8T-C80AX1はバランスのいい映像を再現していました。
乃木坂46は“8K的な興奮”を感じさせてくれた
また、前回のコラムでも紹介した『乃木坂46
神宮球場8Kライブ!』もたいへん面白かったですね。引きの画面がとても繊細で臨場感もしっかり出てきますし、広角のパンフォーカス撮影ならではの距離感も再現されていました。
歌番組だけあって8Kでは珍しく、ステージ前のレール移動やクレーンカメラで躍動感を演出しています。曲に合わせるためスイッチングも多用されていますが、それでも地デジに比べると抑制気味でした。いい意味での8K的な興奮も感じられました。
具体的にはステージ上の興奮、メンバー同士のコミュニケーションなどが映像を通じて感じられます。また放送が8K/60pでHEVC圧縮なので、動きが速くてもブロックノイズは気になりません。80インチ画面で観ても圧縮ノイズがほとんど分からないのは大きなメリットですね。
ムジークフェライザールの細部まで再現される
クラシック作品では、『世界三大オーケストラの響き ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団』は必見です。8Kではロイヤルコンセルトヘボウとベルリン・フィル、ウィーン・フィルの3つを紹介していますが、8Kとしての作品性ではウィーン・フィルが圧倒的でした。
ムジークフェラインザールの美しさ、装飾や彫刻の黄金の色はまさに8Kのためにあるようです。これまでも2Kの中継やブルーレイでも観ることは出来ましたが、8Kになるとまさに神々しいのです。壁の彫刻の立体感、黄金色の目にも嬉しい再現、楽器の反射の光沢感が素晴らしい。
演奏も圧倒的でした。彫塑が見事で、ウィーン・フィルならではの豊潤さが両立していました。音楽的に細部の質感が豊かで、鮮鋭感がシャープ。現代的な情報量の多い第九でした。高画質は演奏情報を見事に雄弁にビジュアルで描きます。細部まで彫りの深いネルソンスの音楽指向と、徹底的に細部を描く8Kが見事にマッチングし、音のノリは8Kでこそよく分かりました。まるで音が「観える」ようでした。
演奏が進むにつれ、熱気で出る汗が、楽器にしたたり落ちます。楽譜がクリアーに読め、観ながら演奏できるほどです。弦楽器の飴色に乗る反射のシャープさ。さらに次第に高揚していく指揮者の顔色の変化など、感覚的な情報にも溢れていました。
また番組中に男性合唱団が付けているネクタイが映りますが、「Wiener Singverein(ウィーン学友協会合唱団)」というドイツ語が書いてあるのが読めるんです。もはや譜面が読めるのは当り前で、8Kではネクタイの文様までしっかり判別できるレベルに達しています。
スイッチングも見事でした。曲の始めは引きが多く、進むにつれ、ソロ、パートでその部分にズーム。さすがに8Kも引きだけでは物足りず、適切なタイミングでアップが入るのも、緩急自在なクラシック向けのお見事なスイッチング。
宝塚ステージで、舞台作品における8Kの意義を知る
ステージ作品では『8Kスーパーハイビジョン 宝塚スペシャルシート 月組公演「BADDY−悪党は月からやって来る−」』もたいへん素晴らしかった。ここでは舞台作品における8Kの意義が分かりました。
舞台作品には全体像とディテイルというふたつのポイントがあります。しかし今までの2K映像はアップが中心で、全体を捉えるという見方はできませんでした。そもそも引きの映像では情報が判別できず、特に宝塚のような凝った舞台での臨場感を得ることが難しかったのです。
でも8Kでは、主役はこんな演技をしているときに脇役はどんな演技をしていて、さらに舞台袖ではこんな動きをしているといったことがすべてひとめで分かります。かつアップ時でも顔であれ衣装であれ、ひじょうにインプレッシブです。
宝塚は独得のメイクをしていますが、その細部まで本当によくわかります。男役なら、衣装やメイクが大胆で確かに男らしいのです。そのキラキラしている感じが8Kでは説得力があり、宝塚とはこんなに面白いのかと感心しました。ヅカファンになってしまいそうです。
日本庭園が持っている凜とした清々しさが8Kで蘇る
最後は『庭は一幅の絵画である 足立美術館 世界一の庭の四季』です。足立美術館は、アメリカの日本庭園専門誌「The Journal of Japanese Gardening(ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング)」が、15年連続日本一に選んでいる名庭園です。
これがまた素晴らしい! 庭園内の「白砂青松庭」は、白州の上に松が植わっている絵を現実に再現しようという思いで作られているのですが、8Kで観ると自分自身がまさにその庭に足を踏み入れたかのような驚きが体感できます。
さらに庭の近景、中景、遠景が見事に感じられ、そこに植えてある植物や岩の細かなしつらえまで分かりました。額縁の形をした窓から庭を観るという演出では、HDRの効果が鮮烈に発揮されます。室内は暗く、庭の外は明るいのですが、どちらも潰れず、飛ばずに再現できていました。
もの凄くディテイル感もあるし、HDRらしい光方向の描写性も高いのです。決して派手な色づかいではありませんが、日本庭園が持っている凜とした清々しさが8Kではよく表現できいるなぁと感じました。
8K映像を観ないで死ぬわけにはいかない!
最後にひとこと、8K映像はホームシアターに最適です。22.2chサラウンド番組も数多く放送されていますが、既に22.2chをドルビーアトモスなどに変換するソフトウェアが開発されていますから、近い将来AVセンターで再生できるようになるでしょう。
8Kを見ていると、ひとつひとつの番組が持っているコンテンツパワーがとても大きいと感じます。ぜひ今後は8Kが録画できる製品を増やして、さらにはディスクに保存できる、ホームサーバーに保存して家庭内どこでも楽しめるといった仕組みを考えて欲しいと思います。
4Kまではパッケージと放送というふたつがホームシアターの柱でしたが、8Kのパッケージは期待できませんから、放送の役割も大きくなります。HDMI2.1対応製品が登場すればケーブルも使いやすくなりますから、ぜひトライして欲しいです。8Kレコーダーで8K BDパッケージを作って我が物にするのが、これからのオーディオ・ビジュアルの最先端ですね。
8Kこそは人類が手にいれた最高の映像ソースです。これを観ないで死ぬわけにはいきません。ぜひ皆さんも8Kの素晴らしさを体験しましょう。