StereoSound ONLINEでは、単体4Kチューナーの画質・音質に違いがあるのかを検証するために、主要6モデルを集めて同時視聴を実施した。前篇では、麻倉怜士さんと酒井俊之さんのおふたりに、NHK BS 4KのSDRコンテンツを確認してもらったところ、予想以上の個性があることがわかった。続く後篇では、HDRコンテンツやサラウンド番組の音質についても検証する。果たして今一番お薦めの単体4Kチューナーはみつかるのだろうか?
※前編はこちら → https://online.stereosound.co.jp/_ct/17238807
HDRコンテンツでは、SDRと違った絵を観せた
−−続いては、6台の単体4Kチューナーを使ってNHK BS 4Kから『人類誕生・未来編「第2集 そしてヒトが生き残った」』『4K8KPR 新しい世界へ〜上原ひろみver.』をご覧いただきました。こちらは4K/HDR(HLG)の5,1ch番組です。まずは各チューナーをソニーの有機ELテレビKJ-65A1に直結して映像を確認していただいています。
酒井 HDRコンテンツになって、ピクセラPIX-SMB400の印象も変化しました。SDRではバランス志向の絵づくりと感じましたが、全体的にきりっとして力感が出てきた。このモデルはHDR前提で絵づくりされているのかなと感じたくらいです。
麻倉 HDR素材はもともと輝度レンジが広いし、表現力も増えています。それを素直にデコードした印象ですね。ピクセラはSDR、HDRのどちらであっても元の情報をストレートに出す絵づくりなのでしょう。番組中に骨の化石が登場しますが、そこに当たったライトの質感はとても綺麗でした。
酒井 確かに物体の表現などは、SDRコンテンツとは違う質感が出てきました。
麻倉 それに対してパナソニックTU-UBHD100は4Kの生成りのよさに加えて、精細感や繊細さ、グラデーションの細かさがあり、HDRコンテンツでも独得の表現力、味わいを感じさせてくれます。
酒井 SDR、HDRとも共通して、元の素材にちょっとだけ演出を加えるその案配がとても巧みですね。やりすぎず、でも生成りでもない独自の絵を作っている。目指す4Kの絵が決まっていて、そこに向かって絵づくりしているのでしょうね。
--次はアイ・オー・データのHVT-4KBCをご覧いただきましたが、いかがでしたか?
麻倉 本機もHDRコンテンツになって絵のパワー感、精細感がアップしましたね。SDRに比べると輝度レンジの優秀さが素直に再現された印象です。
酒井 ただし『人類誕生』はCGと実写が交互に出てきますが、それらの馴染みがもうちょっと自然だといいかもしれません。
--続いてシャープの4S-C00AS1をご覧いただきました。
酒井 シャープなりのテクニックが入っているようで、わかりやすくHDRらしい映像になっていた。素直に優秀だなぁと感じられました。
麻倉 力感があって、くっきり、かちっとした映像でした。コントラスト表現を上手く使って、HDRらしい押し出し感を再現しています。もともとS/Nがいいので、HDRの再現もとてもクリアーな印象です。
酒井 パナソニックとも違う、4Kとしての絵づくりのテーマがあって、とてもいいまとまりだったと思います。
−−ソニーDST-SHV1はいかがでしたか?
麻倉 ひじょうにワイドレンジです。絵も明快で、黒の階調再現がしっかりしているので、光の階調、精細感が見事に再現されます。HDRになると、さらにソニーらしい映像として表現されています。
酒井 絵に落ち着きがあり、やはりSDRと同様に品のよさが印象に残りました。HDR感を強調しすぎると人工的な絵になりやすいのですが、変に誇張されることもなく、光の強さもナチュラルに出ています。
麻倉 4K/HDRになると、電源の安定性といったアナログ的な部分のケアがより効いてくるのでしょう。
−−最後に東芝TT-4K100でもHDRコンテンツを確認していただきました。
麻倉 『新しい世界へ〜上原ひろみver.』はいかにも4K8Kは凄いぞ、というPRコンテンツです。東芝では、HDRらしい映像のレンジの広さ、テンション感もひじょうによくでているし、ピアノの鍵盤の白さや本体の黒などのレンジ感も素晴らしかった。ただこの映像を観ていると、少しだけ客観的な気分にもなりました。
酒井 確かにソニー機では色の派手さ、夜景の黒の沈みなど、見ていて思わず声が出てしまいますね。対して東芝は控えめでバランス志向の印象です。
麻倉 今日はディスプレイがソニーのKJ-65A1でしたので、組み合わせの妙もあったでしょう。TT-4K100はレグザと組み合わせることを想定した、何も足さない素直な絵を追求していると思います。
酒井 なるほど。既に4K対応テレビを持っている人は、まず同じブランドのチューナーと組み合わせることを考えますもんね。
麻倉 パナソニック、ソニー、東芝といったテレビを持っているメーカーのチューナーはやはりそれぞれのテレビを意識した絵づくりになっていると感じました。
−−東芝とソニーはHLGの放送をHDR10に変換する機能を持っていません。チューナーではSDRに変換して、その後はテレビに任せるというスタンスです。
麻倉 両社ともテレビの絵づくりに自信をもっていますから、チューナーで余計なことはしないで、元の情報を活かした信号を出してくれればいいということなのでしょう。
音質には、予想以上の違いがあった
--ここからは音の違いも検証してみましょう。『人類誕生』と『新しい世界へ〜上原ひろみver.』は5.1ch放送でしたので、各チューナーをデノンのAVセンターAVC-X8500Hにつないで、4.0ch環境で再生してみました。
麻倉 4K8K放送で問題なのは音質です。絵は情報量が増えて、有機ELテレビなども登場してグレードアップしているのに、音はあまり変わっていない。テレビ内蔵スピーカーではもはやクォリティ的に追い付いていけません。
そうした場合にAVセンターを追加して音のグレードアップを図るのは当然でしょうから、単体4Kチューナーもきちんとした信号を出力できるように頑張ってもらいたいですね。
--なお4K放送の音声はMPEG-4 AACで送られていますが、現在発売されているAVセンターはMPEG-4 AACのデコードに対応していません。そのため、単体チューナー側でリニアPCMなどにデコード/変換してHDMIから再生されます。今回は各チューナーのデフォルト設定で音声を出力し、X8500Hで再生するという流れにしています。
麻倉 同じAACではありますが、地デジや2KのBSで使われているMPEG-2 AACと今回のMPEG-4 AACでは違いがあるのです。しかしチューナーやレコーダーでデコード/変換してくれるので、実使用上は問題ないでしょう。
酒井 テレビとつないだ場合には自動的にリニアPCMの2chにダウンコンバートされるわけですね。
麻倉 ピクセラPIX-SMB400では、マルチチャンネル音声はドルビーデジタルプラスに変換して出力されました。音の体積感がやや小さく感じました。音圧も他にくらべると低めですね。
酒井 4Kの映像に組み合わせると考えると、音にも密度感が欲しくなります。
麻倉 絵はHDRとして頑張っているのですが、音がそこに追い付いていない気もします。ピクセラとしてはテレビにつないで、内蔵スピーカーで聴くことを前提にしているのでしょうが、もう少し頑張って欲しかったですね。
−−パナソニックのTU-BUHD100は、音声出力をオートに設定したところ5.1chリニアPCMで出力されました。
麻倉 音場がピラミッド型で、力があります。セリフや音楽も結構華麗に聴かせてくれます。ダイアローグも聞き取りやすかった。
酒井 ボリュウムは変えていないのに音量が上がったように感じましたが、結果的には好印象でした。ナレーションの声の骨格が出てきて、滑舌もいいように聴こえました。
--アイ・オー・データHVT-4KBCもリニアPCMで出力されていました。
酒井 サラウンド感のバランスがよく、マルチチャンネルらしい包囲感を楽しめますね。ただ、パナソニックに比べると声の輪郭などは少し曖昧になった気がします。
麻倉 リニアPCMならではのすっきりした音場で、これなら大画面と組み合わせても楽しめるでしょう。音の輪郭、剛性感があと一歩出てくると、さらにいいですね。
−−次はシャープ4S-C00AS1です。こちらもリニアPCM5.1chで出力されました。
麻倉 アイ・オー・データ機と同じ傾向だなと感じました。音の表情、明瞭感がくっきりした音で、聴いていて心地がいいですね。
酒井 『人類誕生』で風が吹き抜けていく様子もとても自然です。音の情報量がしっかり感じられて、男性のナレーションも太く実態感がありました。
--ソニーDST-SHV1もリニアPCM5.1chに変換して出力されています。
麻倉 絵と同じようなコンセプトで、力があって、ひじょうに力強く、自然な音と聴きました。とても生き生きしています。
酒井 今回の中では一歩ぬきんでたいい音でした。冒頭の女の子のナレーションがここまで明瞭に聴こえたのは、他の製品にはないポイントでした。
麻倉 電源や筐体といったアナログ的な部分を含めたトータルな設計方針が、この絵と音につながっているのでしょう。コンポーネントとして使って欲しいというソニーの思いがしっかり感じられます。
−−最後の東芝TT-4K100は、マルチチャンネル音声はドルビーデジタルプラスに変換して出力されますので、その音を聴いています。
酒井 情報量がちょっと物足りなかったですね。これはピクセラと同様ですが、ドルビーデジタルプラスへの変換ではなく、リニアPCMで出力する仕様が欲しいところです。
麻倉 確かに、絵にくらべると音はちょっと寂しかった。2chはリニアPCMで出力されていますから、基本的にはテレビと組み合わせ使ってくださいという発想なのでしょう。東芝ファンはブランドに対する信頼がひじょうに高いので、それをフィーチャーした物づくりともいえます。
これは4Kチューナーという製品の位置づけをどう考えるかということでもあり、それによって細かい仕様が違っているわけです。しかし東芝のTT-4K100はコンポーネントとしても使える仕様だと思いますので、マルチチャンネルもリニアPCMで出力できるよう、バージョンアップを検討してもらいたいですね。
どのチューナーを選ぶのが ”自分に”ぴったりなのか?
--では最後に、今の単体4Kチューナーを選ぶ際にどう考えたらいいのか、おふたりの感想を聞かせてください。
麻倉 画質という点では、細かい違いはありましたが、4Kとしての基本的な情報量や再現性には極端な差はありませんでした。逆に言えばどの製品を選んでも、4K放送の魅力は体験できます。それくらい各モデルの完成度は高い。
原則論としては、4K対応テレビを持っている人は同じブランドの単体4Kチューナーを選ぶと間違いがないでしょう。今日6モデルをチェックして、それぞれが自社のテレビにあった絵づくりをしていることが確認できました。
酒井 麻倉さんのおっしゃる通りですね。ぼくは今回の取材で、いわゆる家電メーカーと、IT系のメーカーでどんな違いがあるのかに注目していました。テレビディスプレイを作っているメーカーの製品には、やはり自社の絵づくりが活かされている。ブランドの個性、経験というものはしっかり反映されているということがあらためて確認できました。
麻倉 単体コンポとして考えた場合には、ソニーDST-SHV1の絵の強靱さ、力強さが印象的でした。画質もいいし、音もレベルが高い。その意味で活躍する場所が多いと思います。
酒井 AVコンポとして完成度が高いのはソニーですが、さて今の時期に単体4Kチューナーに5万円を出せるかというと、少々悩ましいようにも思います。そう考えるとパナソニックのTU-UBHD100あたりが気になります。あの絵と音がリーズナブルな価格で手に入るというのは魅力的です。それだけにUSB HDDへの録画機能の対応がずいぶん先まで伸びることになったのは残念です。
麻倉 4Kチューナーは、今後テレビ内蔵が進んでいくはずで、単体4Kチューナーは過渡期の製品といえるでしょう。じゃあ今後はどうなるかというと、8Kチューナーを内蔵していくしかない。
4Kテレビを買った人は多いんですが、それらで8K放送を楽しむ手段としては、8K放送を受信して内部で4KにダウンコンバートしてHDMIから出力するチューナーが欲しくなる。これは今後多くの人に求められる製品だと思います。
酒井 個人的には映画がメインソースなので、NHKだけでなくスターチャンネル4Kや日本映画+時代劇4Kでどんなラインナップを展開してくれるのか期待しています。パッケージや配信では観ることが出来ない作品がもっと4Kで放送されると、デジタルハイビジョン時代の黎明期のようにまたエアチェックに励むことになると思うんです。そういう気分にさせてくれるのを楽しみにしながら4K放送を見守りたいと考えています。
麻倉 4Kであれ8Kであれ、せっかくこれだけの番組が放送されているのに、楽しまないのはとても勿体ないことです。ぜひ4Kチューナーを手にいれて、年末年始の番組を楽しんで下さい。まずは大晦日の紅白歌合戦に注目ですね(笑)。