国際的なインテリア展示会「DESIGN TOKYO」のJOLED/アトモフブースに出品された、有機ELパネルを搭載した“デジタル窓”。前回は、その製品誕生にまつわるいきさつを紹介した。後編ではなぜこの製品に有機ELパネルが採用されたのか、その秘密についてうかがった。対応いただいたのは、アトモフ株式会社 共同創業者の中野恭兵さんと、株式会社JOLED常務執行役員CTOの竹澤浩義さんだ。(編集部)

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画像: 会場では印刷方式有機ELパネルを使ったデジタル窓に、京都の風景が映し出されていた。桜の花びらや下を流れる小川のせせらぎなど、実にリアルだった

会場では印刷方式有機ELパネルを使ったデジタル窓に、京都の風景が映し出されていた。桜の花びらや下を流れる小川のせせらぎなど、実にリアルだった

麻倉 さて今回、JOLEDさんの印刷方式有機ELパネルが採用されたきっかけを教えてください。

竹澤 弊社の有機ELパネルも、医療用やハイエンドモニターとしてお使いいただけるようになってきました。しかし今後は、パネルに新しい価値を加えていかないといけない、もっと人に喜んでもらえるような展開が必要だと考えていました。そんな折り、アトモフさんのお話があったわけです。

 まず社長さんの「窓を作りたい」という言葉に驚きました。有機ELパネルを使ってテレビやタブレットを作ろうというのが普通の発想だと思うんですが、「窓」なんですから。そこでこの1年くらいコラボレーションを進めてきました。

 今回初めて有機ELパネルを使った製品を展示していただきましたが、今後は加速度的に市場を創造していく動きに変えていきたいと考えております。

麻倉 そうだったんですか。ではアトモフさんとして、初めてJOLEDさんとコンタクトを取ったときは、どんな印象だったのでしょうか?

中野 おそらく弊社がこんなに小さい会社だとは思っていなかったんじゃないでしょうか(笑)。

竹澤 そんなことはありません。JOLED自体もそれほど大きな会社ではありませんから、お客様にも一緒に有機ELで新しい市場を作りませんかというスタンスでご提案しています。その意味ではアトモフさんも面白いことをされている、一緒にやっていける同志という考えでした。

麻倉 テレビはブラウン管から液晶、プラズマ、有機ELと進化してきましたが、いずれもデバイスが変わっただけという側面が強かった。でも今回のアトモフさんの提案は、いわゆるテレビとは違う新しい使い方、価値の創造を目指しています。

 今回のリリースを観て直感したんですが、家の中のディスプレイとしてはテレビやタブレット、スマホなど沢山あります。しかしそれらは情報を得るための道具なんです。個人的にはそれは問題なのではと考えていました。

 例えば家とくっついているような「家財」としてのディスプレイがあってもいい。家とくっついたディスプレイで、京都やナイアガラ、宇宙、深海と様々な風景が楽しめるのはいいですよね。180インチくらいになると、自分がそこに居るというイリュージョンまで体感できるのではないでしょうか。

中野 今おっしゃったことは、われわれが社内で語り合っていることそのものです。将来的には壁一面をデジタル窓にして、宇宙の様子を写したいと思っていました。実際にCGでアンドロメダ銀河のコンテンツも製作しています。

麻倉 いい発想です。素晴らしい。

画像: 60インチクラスの4K液晶パネルを使った大型デジタル窓も展示されていた

60インチクラスの4K液晶パネルを使った大型デジタル窓も展示されていた

中野 デジタル窓の向こう側を本物のように感じてもらうためには、映像の精細さ、リアルさがとても重要です。そのためにパネルは有機ELに必ずなるでしょうし、だからこそ表示するコンテンツも4Kで製作を進めてきました。

麻倉 こういった映像は刺激を狙ったものではないので、テレビとして観ると物足りないのだけど、デジタル窓で流れていると、自然に楽しめますね。

中野 ディスプレイは、そこにある理由が必要です。テレビは使っていない特は消されてしまいますが、窓なら消すことはありません。だから、僕たちは窓という形で映像を提供したいと考えました。

麻倉 テレビが大きくなるほど、映像を映していない時の存在感が気になりますからね。また今回のデジタル窓は縦長で使われているのも、目から鱗でした。

竹澤 16対9のパネルですが、縦置で使うと結構新鮮です。最近はこういった縦長の窓も増えていますし。

麻倉 さて、今回JOLEDさんの有機ELパネルが製品に使われたということは、いよいよ量産の目処が付いてきたということでしょうか?

竹澤 印刷方式の有機ELパネルで本当に量産に耐えるのかという声を聞いていましたので、それを実証することがまず必要と考えました。そこで石川の工場内に量産のためのパイロットラインを作ったわけです。

 数量的にはそれほど多く作れるわけではありませんが、実際に出荷させていただいてから現在まで、品質に関する問題は一切ありません。それを踏まえて本格的な量産工場を設立することにし、施工も始まっています。

麻倉 ちなみに今までのラインは生産数としてどれくらいだったのでしょう?

竹澤 G4.5世代のガラス基板ベースで月産2,000枚前後です。新しい量産ラインはG5.5世代となり、月産20,000枚となります。G5.5世代のガラス基板は1,300×1,500mmで、これを分割して必要なパネルサイズにするので、実際のパネル数はこの数倍になります。

画像: 取材に協力いただいた、アトモフ株式会社 共同創業者の中野恭兵さん(右)と、株式会社JOLED常務執行役員CTOの竹澤浩義さん(左)

取材に協力いただいた、アトモフ株式会社 共同創業者の中野恭兵さん(右)と、株式会社JOLED常務執行役員CTOの竹澤浩義さん(左)

麻倉 それなら相当な数のデジタル窓が作れますね。ところで、デジタル窓自体はどれくらい売れているんですか?

中野 液晶パネル搭載機は、世界中で1500台ほど販売しました。

麻倉 有機ELパネル搭載機が加わったら、ユーザーはもっと増えることでしょう。

竹澤 次回は有機ELパネルのデジタル窓を4つ並べて両脇にカーテンを付け、本当の窓のようにして展示したいです。

麻倉 朝はグランドキャニオンの朝焼けが観られて、寝る前には月から観た風景が映し出される、そんなこともできたらいいですね。

中野 既に、実際の天気に応じて風景を切り替えるといった機能は提供しています。スマホだけに頼るのではなく、映像を活かした自然なコンピューティングを作っていきたいと考えています。

麻倉 今は基本的には本物の映像、リアリティを尊重していますが、時にはファンタジー、映画のような風景が出てきてもいいですね。雨の日には『シェルブールの雨傘』の現地の様子が見えるとか。

中野 それもいいですね。いつか将来、独自のスタジオを持って、面白いコンテンツを作りたいと夢を見ています。

麻倉 有機ELパネル搭載機は今年中に発売されそうですか?

中野 そうなるといいんですが……(笑)。

竹澤 弊社も、アトモフさんと一緒に頑張りたいですね。

麻倉 製品としての魅力は充分ですし、潜在需要はきっとあると思います。新しい使い方の製品なので、ほとんどの人はテレビと何が違うのと考えるかも知れませんが、実際に体験すれば魅力を分かってくれることでしょう。印刷方式有機ELパネルのデジタル窓の発売をとても楽しみにしています。

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