麻倉 話は変わりますが、今私の周りの映像技術者や評論家氏と一緒に、8Kを評価するための評価軸や、8Kの魅力を表す言葉を作ろうとしているんです。そうしないと、従来の言葉では8Kを表現できませんから。
鈴木 確かにそうですね。8Kになったら映像との接し方も変わってきて当然ですから。映し方にしても、50インチとか60インチのテレビサイズではなく、壁全体に環境の一部として再生してもいい。それでも8Kなら充分魅力的だと思います。
麻倉 アストロデザインさんは、数年前にLEDを使った大型ディスプレイも提案されていましたね。また今回の展示では8K画素のDLPプロジェクターもデモされています。
鈴木 8Kになると大画面は不可欠だと思います。ただ、LEDはなかなか部品の価格が下がらないので、大画面化はまだ難しいですね。価格を下げるためにはモノリシック構造で、大量生産の技術革新が進まないといけない。
一方でプロジェクターは比較的簡単に大画面が実現できます。今回展示したINSIGHT LASER 8Kでは、25,000ルーメン、頑張れば30,000ルーメンの明るさを実現できます。業務用なので価格は3,000〜4,000万円ですが、それでも8Kプロジェクターとしては安くなっています。
麻倉 その価格帯なら、パブリックビューイングや大学といった用途での採用も進みそうですね。
鈴木 既にあちこちの大学やプラネタリウムなどからお問い合わせをいただいています。実は、今回のワールドカップ・パブリックビューイングでも数ヵ所でお使いいただいています。
麻倉 ステレオサウンドオンライン読者の中にも、その際の映像を観た人がいるかもしれません。ところで映像の完成度には満足されていますか?
鈴木 正直言って、100%満足はしていません。開発当初からするとかなり画質もよくなっていますし、ファンノイズも抑えてきていますが、ダイナミックレンジ、黒の再現性はもっと改善したいですね。
麻倉 DLPプロジェクターを使った8K/3D上映にも感動しました。
鈴木 あの8K/3D映像はNHKメディアテクノロジーさんのコンテンツです。4月にアメリカのイベントで初お披露目したもので、日本では今日の上映が初めてだったはずです。
麻倉 プロジェクターを2台使った偏光方式でしたが、明るさも充分あるし、3Dの奥行再現も素晴らしかったですね。8Kだけあって自然映像などはまさに実物そのもの。これを観て、8Kと3Dの組み合わせにも大きな可能性を感じました。
鈴木 8Kは2Dでも立体的だと言われますが、3Dにしたらもっと凄いですからね。
麻倉 その他に、今回は88インチの有機ELパネルも展示されていました。
鈴木 あちらはLGディスプレイさんとの協業ですが、パネルを供給してもらえるなら、製品化も検討したいと思っています。
麻倉 これまでは4Kの4枚のタイルでしたが、今回は絵づくりとしては一枚パネルになったことで、ずいぶん変わったのでしょうか?
鈴木 まったく別物になりました。回路自体は8K信号をそのまま処理はできませんから、その絵づくりを田の字分割でやるか、短冊形にするかですが、それでもかなり違いがありました。
麻倉 さて、アストロデザインさんとしての今後の8Kへの取り組みですが、前回のインタビューでは、海外向けの8Kコンテンツ配信も検討しているとおっしゃっていました。
鈴木 目下、鋭意取り組んでいる段階です。すべてが順調とはいえませんが、着々と進めています。
麻倉 また8K用の機材を提供して、クリエイターに使ってもらうというお話もされていました。
鈴木 そちらについては既に動き始めています。まずはシャープ製8Kカメラレコーダーユーザー向けに、弊社の中に8K編集スペースも準備しようと考えています。その他にも、大阪芸術大学のキャンパスに8K編集室を作ることになりました。
麻倉 それはアストロデザインさんが機材を提供するんですか?
鈴木 弊社は大阪芸術大学さんと提携をしています。大阪芸術大学さんは大学として初めて8Kカメラを買ってくれたんですが、その窓口の赤木正和さんはプロの水中カメラマンでもあり、弊社の機材を以前からご愛用いただいていました。
今回8K撮影をやってみたいということでカメラをご購入いただいたんですが、編集機器までは難しいとのことだったので、弊社で機材を提供して学生さんに使ってもらうことにしました。
麻倉 映像を学ぶ若いクリエイターが8Kに触れる環境があるというのは、素晴らしいことです。
鈴木 今、日本の大学で8Kをテーマにしているのは、大阪芸術大学と東京電機大学です。東京電機大学はシャープの8Kモニターとレコーダー、チューナーを持っていて、既に研究を進めています。
麻倉 そこから8K時代のクリエイターが育ってきたら、先ほどお話しに出たような従来の延長ではない作品が登場するかもしれませんね。
鈴木 その他にも、8Kだから役に立つ用途への取り組みも進んでいます。代表的なのは医療用内視鏡です。こちらについては東京・砧の国立成育医療研究センター 臨床研究センター 副センター長だった千葉敏雄さんが8K内視鏡の開発を始めたんです。現在はそのためにカイロスというベンチャー会社を立ち上げて、8K内視鏡を開発していますが、そのお手伝いをしています。
麻倉 こういったジャンルの製品開発は大企業では難しいですからね。まさにアストロデザインさんらしい取り組みだと思います。
鈴木 ありがとうございます。
麻倉 そうそう、今年の展示のもうひとつの目玉がレーザー顕微鏡でした。あれは新しい切り口ですね。
鈴木 レーザー顕微鏡と、超高速カメラは今年の展示の目玉です。超高速カメラは1秒で1億枚撮影ができます。そんなカメラは今まではありませんでした。光は1秒で30万km動きますが、あのカメラはその光も撮影できます。間違いなく世界最高速です。
レーザー顕微鏡はレンズを使ってはいますが、動作的にはレーダーに近いものです。対象物に光を当てて、表面の反射情報を取ってくる。光が物体に当たって反射してくると、必ず変調しています。その変調した光を復調すると情報がとれるという発想です。
麻倉 なるほど、これは光学屋さんの発想ではありませんね。
鈴木 電気屋の発想です。だからあそこまでの物ができたんです。
麻倉 アストロデザインさんの発想は面白いですね。我々の周りにあるんだけど、見えていないものに気づかせてくれる。8Kでもそうだし、顕微鏡もそう。
鈴木 まだまだ世の中には面白いことが沢山あるので、それらにも取り組んでいきたいですね。アストロデザイン・イコール・8Kと思われても困りますし(笑)。
麻倉 今後は他ジャンルでのご活躍も期待しています。今日はありがとうございました。