麻倉 お久しぶりです、今日は展示会にお呼びいただきありがとうございます。私は毎年アストロデザインさんのプライベートショーを楽しみにしています。特に去年は、鴻海精密工業さんとの提携という驚きの発表もありました。
【参考記事】http://www.stereosound.co.jp/column/av_trends/article/2017/08/17/59605.html
鈴木 あの件に関しては特に報道発表をしたわけではありませんので、きちんと紹介されたのは麻倉さんの記事だけでしょう。今でも「そうだったんですか?」と言われることもあります。
麻倉 あれから一年が経ったわけですが、その後の進展はどうでしょうか? 実際にシャープさんとの協業で8Kカメラの「8C-B60A」を開発したり、CEATECで合同ブースを出したりと、積極的に活動されています。今日もメ〜テレさん(名古屋のテレビ局)のセミナーを拝聴しましたが、地方局でも8Kカメラを導入して番組製作を頑張るぞと言う気合が伝わってきました。
鈴木 メ〜テレさんは、東京のキー局も含めてシャープさんの8Kカメラ導入してくれた民放局第一号です。そもそもネイティブの8Kカメラは製品数も限られており、NHKさん以外での導入例はありませんでした。
麻倉 セミナーを聞いていて、8Kカメラの先進性、取り組みの難しさがよくわかりました。
鈴木 その通りです。それでもメ〜テレの横井社長は、テレビがこれからどうなるかを真剣に考えて、8K導入に踏み切ってくれた。素晴らしい意識だと思います。
麻倉 そういった放送局が増えていってくれれば、8Kの本格的普及が始まるんでしょうけどね。
鈴木 残念ですが、8Kは業務用であれ家庭用であれ、市場はまだ成長途上です。日本国内の大手企業や、NHK以外の放送局は8Kと口にはしますが、実際に機材には投資してくれないんです。
麻倉 でもそこに今回のメ〜テレさんのように、8Kカメラを買って映像を撮り始める会社が出てきたというのはすごく大きな変化だと思います。
鈴木 やはり価格がいままでとは違うという点もポイントだと思います。またサイズについても現在可能な技術で頑張って、実際に運用できる大きさに収めています。弱点はまだ幾つかありますが、それはこれから克服していきます。
麻倉 民放としては8Kに取り組む義務はありませんが、当然メ〜テレさん以外にも注目している会社はあるんでしょう?
鈴木 そうですね。義務ではありませんが、8Kで撮影してはいけないということもありません。その気があれば8Kに取り組むことは可能です。でもその元々の問題は、4Kと8Kの区別が放送局にもついていないということだと思います。
麻倉 とおっしゃいますと?
鈴木 今店頭で販売されている大型テレビのほとんどにインターネット機能が組み込まれていて、YouTubeなどの動画サービスを楽しめます。その意味で、テレビは電波メディアだけの表示機器ではなくなっている。YouTubeもテレビの大画面で見たらまったく別物に見えますから、スマホで見ていた若者達もきっと驚くはずです。
麻倉 今回の展示にもありましたが、YouTubeでも4Kや8Kの映像がアップされていますし、それは大画面で見た方が楽しめるのは間違いない。
鈴木 既にシャープさんが家庭用8Kテレビの第一号を発売していますが、実際には試験放送はまだ受信できません。でもネット経由なら8Kコンテンツもあるわけで、その意味であの製品は8K画素数を持ったインターネットテレビでもあるんです。あの8Kテレビは時代の先端を走っている、意味のある製品だと思います。
麻倉 鈴木さんは以前から、8Kは従来の2K放送の延長ではなく、まったく新しい映像だと認識しておかなくてはならないとおっしゃっていました。
鈴木 ここ一年、8Kの仕事により深く関わるようになって、ますますその思いが強くなりました。逆に8Kコンテンツを作るときには、そこを意識しないと意味がなくなってしまうんじゃないでしょうか。
麻倉 それはどういう意味でしょうか?
鈴木 2Kや4Kと8Kは解像度が違うということだけではなく、8Kだと同じ画角の中に2Kの16倍、4Kの4倍の情報量が入っているという価値を知っておくべきだと思うんです。となると、8Kではそういう風にコンテンツを撮らなくてはいけないわけで、そうでないと8Kになる意味もない。
麻倉 おっしゃる通りです。
鈴木 映画などの昔のフィルムコンテンツ、ハリウッドの総天然色作品を8Kで、HDRプロジェクターで上映したら昔の映画館のような雰囲気で楽しむことは可能でしょう。そういう使い方はありますが、それは8Kの本当の価値ではないと私は考えています。
麻倉 単純な解像度ではなく、情報量にこそ意味があるんですね。
鈴木 今までのテレビ番組などでは、製作者が恣意を持って構図や画面を作っていたわけですが、8Kになると視聴者が画面の中の自分の観たいところを選んで観るようになるはずです。
野球やサッカー観戦に行った時は、グラウンド全体から自分が観たいところを選んでいるわけで、8Kならそれと同じ事ができるはずです。8K放送もそういう見方になるべきで、ディスプレイもそういった使い方に沿った製品になっていくことでしょう。
麻倉 映像に意味性をつけずに、あるがままを送りだすと言うことですね。
鈴木 大切なのは製作者側がそういう意識を持たなくてはいけないことです。カメラワークはほとんどしないで、固定で送る。その代わり受け側でもっと観やすい方法を工夫する必要はあるでしょうね。
今回も技術展示をしていますが、オリジナルの8K映像から一部を切り出して、4Kテレビやスマホなどのデバイスに写す機材も開発しています。元が2Kクォリティだと拡大すると絵がぼけてしまいますが、8Kなら切り出して充分綺麗な映像が楽しめます。そこで重要なのが、2Kと8Kの情報量の違いということです。
麻倉 そのあたりの情報量を意識した撮影方法の研究は、テレビ局などでもまだ不十分です。
鈴木 弊社でも色々な8Kコンテンツを撮影していますが、これが8Kの情報量を活かした映像です、という絵はまだ撮れていないんです。でも、その片鱗は感じていますので、これからもテーマとして追究していきます。
麻倉 全体もわかりつつディテイルも観える、そんな8K放送を大いに期待したいですね。
鈴木 あれだけの情報を楽しめつつ、かつ自分の観たいところを自由に拡大・抽出できたらいいですよね。弊社の切り出し技術はそこを目指しています。
麻倉 本来ならテレビに切り出し機能が入っていて、視聴者が任意に映像の拡大ができるといいんですよね。二画面機能で、ベースに画面全体を表示しつつ、子画面で気になる部分をアップにしてくれるとか。
鈴木 もうひとつの方法としては、ユーザーが気になる選手を選んだらAI技術でそれを自動的にトレースしていくようにする。今の技術ならできるはずです。カメラマンではなく、受像器側でカメラアングルを自動的に判断してくれる、8K時代はきっとそうなっていくでしょう。
麻倉 そうなれば放送の概念も大きく変わっていくし、変わらなくてはならないですね。これまではテレビ局のディレクターがここを撮ろうと指示して、カメラマンがそれを撮影していたわけですが、そうではなくなる。
鈴木 従来はテレビの撮り方や映画の撮り方について、様々な制約から来る約束事があって、それをどう観せるかディレクターやカメラマンといったプロの業だったわけです。
麻倉 映画やドラマのようなストーリー性の高いコンテンツなら、これまでのような撮影をすればいいのですが、そうではない、スポーツや自然紀行作品などは8Kになったらユーザー自身が監督として映像を積極的に楽しんだ方がいい。
鈴木 映画監督が8Kでどんな作品を撮るのか観てみたいし、あるいは8Kでなければできない映画もあるはずなので、そういうことを理解した監督が8Kで新しいコンテンツを作るとこれまでとは違う映画作品もできることでしょう。そういったコンテンツも観てみたいですね。