イマーシブオーディオに対応した音楽配信サービス「Pure Audio Streaming」(ピュアオーディオストリーミング)で、WOWOW制作のコンテンツが楽しめるようになった。それを受け、前回の連載ではWOWOWのPure Audio Streamingへの取り組みについて、同社技術センター コンテンツ技術ユニット エンジニアの柳平直徳さんと小寺里佳さんにお話をうかがった。さらに今回、合同会社アーツリッジの濱﨑公男さんの協力により、Pure Audio Streamingを運営するStefan Bockさんと、AURO-3Dの技術を提供しているGoer Dynamics B.V.のBert Van Daeleさんへのリモートインタビューを行うことができたので、その様子を紹介する。(まとめ・撮影:泉 哲也)
配信で新しい体験ができる! 「Pure Audio Streaming」とは
Pure Audio Streamingは、2025年にスタートした、イマーシブオーディオを中心とした音楽ストリーミングサービスだ。一般的な2chステレオ配信ではなく、AURO-3Dとバイノーラル、マルチチャンネルPCMというフォーマット(今のラインナップはAURO-3Dとバイノーラルの2種類)で、没入感に優れたイマーシブオーディオを配信している。
現状は英語のサイトからアクセスすることになるが、日本からも契約は可能で、料金は月額4000円、年間契約で35,000円。対応デバイスとしては、NVIDIA「SHIELD TV Pro」やAmazon「Fire TV」シリーズ、クロームキャスト、Android TVなどが紹介されている。
今回の取材ではSHIELD TV ProとマランツのAVプリアンプ「AV8805」をHDMIケーブルでつなぎ、アムクロンの業務用パワーアンプを経由してイクリプスのTDスピーカーによる9.1chシステムをドライブしている。
―― さてここからは、StefanさんとBertさんにも加わっていただき、リモートインタビューを行います。Pure Audio Streamingを運営しているおふたりに、より詳しいお話をうかがいたいと思います。
麻倉 私は一昨年のCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショウ)の取材時に、おふたりにお会いして、新しいコーデックAuro-Cxについてうかがったことがあります。まずはPure Audio Streamingとはどんなサービスなのかについて教えてください。
Stefan 麻倉さん、今日もありがとうございます。Pure Audio Streamingは、ピュアオーディオブルーレイ(AURO-3Dなどのイマーシブ音源を収録したパッケージ)の後継のサービスで、高品質の音楽、イマーシブサウンドをユーザーに届けることを目的にしています。他の配信サービスは曲ごとの販売が主ですが、Pure Audio Streamingではアルバムというくくりを大事にしています。現在200タイトルほどのアルバムを楽しんでいただくことができます。
Pure Audio Streamingでは、Artist Connection(アーティストコネクション=アメリカのStreamsoftが提供する、高音質配信プラットフォーム)の技術を使っています。Artist Connectionについては以前からAURO-3Dとコラボレーションを実施しており、高品質のイマーシブオーディオを送れる環境を整えています。
例えばAURO 9.1音源の場合、Auro-Codecで一端5.1chにエンコードし、さらにFLACで再エンコードして送るという仕組みです。さらに新しいストリーミング専用コーデックのAuro-Cxでは、ロスレスのハイレゾからロッシーまで幅広いビットレートで送れます。これならハイレゾ・イマーシブオーディオも配信できます。

セット・トップ・ボックスのNVIDIA「SHIELD TV Pro」にインストールした「Artist Connection」アプリから「Pure Audio Streaming」を再生できる
麻倉 通常の配信サービスでは圧縮効率を優先して、イマーシブオーディオであっても、コーデックにはドルビーアトモスやDTSを選んでいます。しかしPure Audio StreamingではAURO-3Dを採用しました。これはなぜなのでしょうか?
Stefan ふたつの理由があります。まず96kHz/24ビットのイマーシブオーディオに対応できるのはAuro-Codecだけです。これはPure Audio Streamingにとっては必須です。もうひとつは、アルバムを聴く時に他のコーデックでは再生中に止まってしまうことがあります。ここについてもAuro-Codecならシームレスで再生できるのです。
麻倉 2年くらい前に、NHK交響楽団のコンサートをDTSとドルビー、AURO-3Dの3つの方式で配信したことがありました。その時は、圧倒的にAURO-3Dが音が良かった。音楽ファンにとっても、Pure Audio Streaming がAuro-Codecを選んでくれたのは素晴らしいと思います。
さて、現在は200タイトルのイマーシブオーディオをラインナップしているということですが、これらの楽曲はどんな基準で選ばれているのでしょう?
Stefan ジャンルは限定していませんが、クォリティについてはきちんとした基準があります。まず、アップミックスで作られた楽曲は受け付けません。我々のポリシーとしてもそうですが、Pure Audio Streamingを聴いているお客さんは品質の高いものを求めていますので、アップミックス音源を配信してしまうと、がっかりされてしまうんです。ですので、イマーシブオーディオのために新規に録音された、クォリティの高い音源を提供していただいています。
麻倉 サンプリング周波数は96kHzに絞っているのでしょうか? それとも44.1kHz 、48kHzでも大丈夫なんですか?

Pure Audio Streamingを運営している、Stefan Bockさん
Stefan 新作については96kHzをお薦めしています。ただ、44.1kHzや48kHzでも駄目ということではありません。もちろん、44.1kHzや48kHz音源だからといって96kHzにアップサンプリングすることもありません。ただしシステムの関係から、96kHzを超えるサンプリング周波数の音源については、今のところ96kHzにダウンサンプリングして配信している状態です。
麻倉 サービスが始まって1年が過ぎました。現時点の加入者は何人くらいで、ユーザーはどこの国や地域が多いんでしょうか?
Stefan ユーザー数は、現状は3桁ぐらいですが、これから増えていくでしょう。地域については、一番ユーザーが多いのはアメリカで、その次はヨーロッパと日本が同じくらいです。現状は、アメリカ、日本、ドイツ、フランスでの人気が高いですね。
麻倉 日本の話が出たところで、今回WOWOWのコンテンツがPure Audio Streamingで聴けるようになりました。なぜWOWOWのコンテンツを採用したのか、どういうところに期待しているのかをお話しください。
Stefan WOWOWさんにコンテンツを提供していただくのはひじょうに名誉なことで、日本発信のコンテンツには大きな意味があります。日本の、伝統的な音楽に則った宗教的な音源は、ヨーロッパのユーザーにはとても興味があるんです。Pure Audio Streamingはクラシックやポップスが中心ですが、ジャンルの幅を広げるという意味でも重要なコンテンツだと期待しています。

Pure Audio Streamingは、月額4,000円、1年契約の場合35,000円で試聴できる
麻倉 WOWOWのマリンバやアンサンブルカペラは響きがひじょうに綺麗で、イマーシブオーディオの完成度も高いと思います。また、東京交響楽団の「The Orchestra Surrounds You」のように、オーケストラをサラウンドで聴くのも新しい体験です。これらのコンテンツについての感想をお聞かせ下さい。
Stefan 録音の品質について、感銘を受けています。さらに、オーケストラに囲まれるようなレコーディングもひじょうに意欲的ですね。コンサートのイマーシブ収録は、実際のコンサートホールのように正面にステージがあって、周囲から響きに囲まれるという録音方法が中心です。
その意味で今回のWOWOWのアプローチには、賛成・反対それぞれの人がいると思います。ただ我々としては、様々なアプローチのコンテンツを提供してもらえるのはありがたいし、ユーザーがどっちが好きかを決めるという意味でも、いろいろなスタイルがあるのはいいことだと思っています。
麻倉 BertさんとCESでお会いした時にAuro-Cxのお話を聞いたことがあって、とても面白いと思いました。今回そのAuro-CxがPure Audio Streamingに採用されたことで、ストリーミングの品質も向上していくのは間違いないでしょう。ただしAuro-Cxに対応したハードウェアがまだありませんので、メーカー各社に採用を働きかけていただきたいと思います。

AURO-3Dの技術を提供しているGoer Dynamics B.V.のBert Van Daeleさん
Bert 実際に今、いくつかのSOC、プラットフォームにAuro-Cxを組み込む作業を進めています。デバイスの準備はできていますので、メーカーさんにも採用していただけるようお願いしている状況です。
対応製品はまだありませんが、Auro-Cxで送られてきた信号は再生デバイス側でデコードし、Auro-Codecで再エンコードして出力しています。過渡的な方法ですが、AURO-3Dに対応しているAVアンプであれば、Auro-Cxで配信されたとしても、きちんと鑑賞できます。
麻倉 CESでデモを聴いた時は、Auro-Cxはビットレートが低いのにすごく音が良かったんです。それもあり、対応製品が登場するのを楽しみにしています。
柳平 弊社としては、日本からもっとたくさんの音源を発信していきたいと思っています。そこについて、Pure Audio Streamingではどんな音源を期待していますか?
Stefan できれば、日本ならではの音楽、ヨーロッパでは聴くことができないようなコンテンツを提供していただけるとひじょうに嬉しいですね。
小寺 今回は音楽コンテンツを配信していただきましたが、WOWOWでは環境音というか、山の中の自然の音なども素材として持っています。そういった音源も配信してもらえますか?
Stefan 是非お願いしたいです。実はフィールドレコーディング専門の人たちとも話をしていて、それに見合ったジャンルを作ろうと考えていたんです。WOWOWの音源を提供していただければ、すぐにでも公開できると思います。

今年8月から、Pure Audio StreamingのWOWOWコンテンツとして「長谷寺の声明」の配信がスタートしている
麻倉 アプリについて、日本語対応をしていただけるとユーザーに喜ばれると思います。
Stefan 日本語だけでなく、複数の言語対応に取り組んでいます。ただし、もう少しだけ時間をください。今は支払いなどの基本的なインターフェイスの対応が終わった段階ですので、一段落したら複数言語対応を進めます。
麻倉 もうひとつ、再生デバイスについてAndroid以外のプラットフォームには対応しますか?
Bert 我々からプラットフォームの対応についてお話することはできませんが、アプリは常に新しいバージョンを検証しています。Apple TV用のアプリについても、Apple側のOSアップデートのタイミングに合わせて開発を進めたいと思っています。
麻倉 Apple TV用のアプリも開発中なんですね。でもApple TVでは、ストリーミング出力は48kHzまでしか出力されません。その点はどうでしょう?
Bert Apple TVはハードウェア的な制限があって、Pure Audio Streamingでも48kHzにリサンプリングする作業が必要になります。ただ、Apple TVを使いたいという要求は一定数ありますから、対応は必須だと思っています。一方で音質面では、Android TV、Fire TV Stickなどもお薦めです。
麻倉 ということは、Fire TV StickでもPure Audio Streamingを楽しめるんですか?
Stefan はい、大丈夫です(編集部注:アメリカ仕様の場合)。

イマーシブオーディオのコンテンツを200アルバムほどラインナップしている(2026年8月時点)。配信されているフォーマット別に検索もできる
麻倉 今回のお話を聞いて、Pure Audio Streamingに対する期待がさらに膨らみました。
一方で市場を見渡すと、イマーシブオーディオはまだ普及してないと思います。これはどういうところに問題があるのか、あるいはどんな対応をしていかなくてはいけないとお考えですか?
Stefan おっしゃる通りです。数週間前にウィーンのハイエンドショウで同じ感想を持ちました。そこではイマーシブオーディオのデモはきわめて限られていて、ほとんどがステレオです。
そこにはいくつか理由があると思います。まず、高価なステレオスピーカーを使っている人が、イマーシブオーディオ用に同じグレードのスピーカーを増やすのは難しいでしょう。また若い人たちが、5000ドルや1万ドルという予算をオーディオシステムにつぎ込むのは、今の時代では難しいと思います。
もうひとつ、音楽ストリーミングサービスは多くありますが、残念ながら品質はいまひとつで、ストリーミング・イコール・音が悪いという印象を持たれている方もいらっしゃると思います。でもPure Audio Streamingでは、イマーシブオーディオでこれだけのクォリティを実現しているということを知ってもらう機会を作っていかなければいけないと思っています。
イマーシブオーディオについてはまだ初期段階で、ステレオに比べると始まったばかりです。もう少し時間をかけて普及に尽力しようと思っていますので、お待ちいただきたいというとこです。

今回はWOWOW放送センターからリモートインタビューを実施した。写真左から合同会社アーツリッジの濱﨑公男さん、株式会社WOWOW 技術センター コンテンツ技術ユニット エンジニアの小寺里佳さんと柳平直徳さん、麻倉さん
Bert Stefanが説明した通り、イマーシブオーディオを聴いてもらう機会を増やすこと、さらにイマーシブオーディオについて知ってもらうことが必要だと思います。
そこでのプラスな傾向としては、電気自動車でイマーシブオーディオシステムをオプションではなく、最初から搭載している車がでてきていることです。特に中国ブラランドの電気自動車では、イマーシブオーディオシステムを積んでいる車種が増えていくと思います。
麻倉 イマーシブオーディを体験する機会を作るという発想はいいですね。また車というのも良いアプローチです。車は閉鎖された空間ですから、イマーシブオーディオを楽しむにはぴったりです。最後に、日本のユーザーに向けておふたりからメッセージをお願いします。
Stefan 今回は取材の機会をいただきありがとうございました。私どものプラットフォームに対する日本のユーザーの反応を見ていて、Pure Audio Streamingにとって、日本が重要だということを感じております。
配信でも高品質なイマーシブオーディオに触れていただきたいですし、今回WOWOWさんに音源を提供していただいたことで、Pure Audio Streamingを聴いてくれる方が広がっていくことを期待しております。
Bert 今回WOWOWさんのコンテンツを提供していただけたのは、たいへん重要な出来事でした。そのくらい、日本ならではのコンテンツには価値があると考えています。今後とも、日本独自のコンテンツを増やしていただき、AURO-3Dの音を多くの方に体験していただけることを期待しています。
麻倉 ありがとうございます。Pure Audio Streamingが日本で成功することを応援しています。


