RGB Mini LEDバックライトを搭載したソニーの「BRAVIA 9 Ⅱ」「BRAVIA 7 Ⅱ」が店頭で評判がいいという。そこには、RGB Mini LEDバックライトの使いこなしを徹底的に追求した開発陣のこだわりが込められている(前編参照)。今回はいかにしてRGB Mini LEDバックライトの制御を極めたのかについて、ソニー株式会社 ホームプロダクト事業部門 シニアマネージャー 相馬邦彦さんと、技術センター ディスプレイシステム技術部門 主任技師 本地秀考さんにお話をうかがった。
麻倉 「BRAVIA 9 Ⅱ」「BRAVIA 7 Ⅱ」のRGB Mini LEDバックライトのメリットや、使いこなしノウハウの大切さはよくわかりました。では、実際の製品ではどんな映像が実現できているのか、次はそこを確認したいと思います。
相馬 製品版のK-85XR90M2も準備しましたので、こちらの映像もご確認ください。「プロフェッショナル」モードでご覧いただきます。
麻倉 先ほどと同じ、UHDブルーレイ『ラ・ラ・ランド』のチャプター5をお願いします。このシーンの夕景の空はバンディングノイズが出やすいんですが、綺麗に再現できていますね。
本地 はい、階調性の再現はこだわったところです。
麻倉 手前の木々も、いろんな緑色が混ざっているのがわかります。赤い皮のバッグと黄色のワンピースが象徴的なシーンですが、それらの色がとても細かく表現されています。エマ・ストーンの肌の階調もいいですね。
本地 RGB Mini LEDバックライトと、液晶パネルの掛け算で輝度階調を表現できるので、そこは有利になります。そこに色の成分も加わったということで、階調性はひじょうに良くなっていると思います。
麻倉 液晶パネルは、RGB Mini LEDバックライトに合わせて最適化する必要はなかったんですか?
本地 液晶パネル自体は従来と同じですが、液晶の階調性をフルに使えて、さらにバックライト側でも階調を作り出せることによって、階調性が改善されました。

従来のバックライトでは、青色LEDからの光を蛍光体や量子ドットフィルターで白色に変え、液晶パネルとカラーフィルターを通して映像を再現していた(左)。右のRGB Mini LEDバックライトでは、バックライトの光自体で色を再現できるのが一番の違いという
麻倉 液晶テレビでは、バックライトのローカルディミングの分割エリア単位で輝度をコントロールしています。そこでは分割エリアの細かさが重要になりますが、分割数は従来と変わらないんですか?
相馬 分割数は従来のBRAVIA 9と一緒ですが、RGB Mini LEDバックライトは3色になったので、理論的にはその分増えることになります。
麻倉 なるほど、輝度の調整範囲としては従来の3倍に相当するわけですね。確かに手前が道路で、画面奥にカリフォルニアの山並が視えるシーンでも、背景の階調性というか、黒に近いところから空に向けてだんだん明るくなっていっていく部分の再現が素晴らしいですね。
相馬 ありがとうございます。
本地 暗い部分での木々の緑は、従来の白色バックライトではだんだん白に寄っていくという特性があったんですけれど、今回はバックライトも緑に光ることで、暗いところでもしっかり緑色が再現できています。
麻倉 低輝度部分の色付きも有利になっているということですね。RGB Mini LEDバックライトの “色から絵を作る” というアプローチには、画質的な利点も結構ありそうです。
本地 黒も、より沈めることができたと思います。
麻倉 『ベン・ハー』のチャプター4 も再生しましょう。このシーンでは青空をバックに、赤い旗と緑の木々、人物が写っていますが、こういった絵柄ではバックライトは白色になるんですか?
本地 そうですね。空などであれば、バックライトも青で光っていると思います。そこから雲が増えてくれば、バックライトは白くなっていきます。街中のシーンで影の部分までしっかり色が再現できているのは、バックライトで色を作っている恩恵です。

空や川の水といった比較的単色に近い部分では、右上のバックライトも青く光っているが、色数が増えてくると白色発光に近づいていく
麻倉 今回BRAVIA 9がマークⅡになるにあたって、一番たいへんだったのはRGB独立制御の部分でしょうか?
本地 おっしゃる通りです。LEDバックライトは、輝度が変わるとそれに連れて色が変化してしまうこともあります、その部分の補正もたいへんでした。特に緑のLEDは変化しやすいので、リアルタイムに補正を入れています。
麻倉 特性が変わる流れを掴んで、逆補正をしているんですね。
本地 はい。温度や電流量を検出して、それに対する補正も行っています。
麻倉 画面に艶があります。作品中の兜の飾りやマントの赤のグラデーションもなかなか素晴らしい。今後の改良点としては、より細かな制御をしようというところですか?
相馬 そのように考えています。
麻倉 では最後に、『8K 空撮夜景 SKY WALK』と『マリアンヌ』を観てみましょう。なるほど、『8K 空撮夜景』の俯瞰映像のコントラスト感は凄いですね。ネオンのフレアが少ないから、画面がすっきりしています。
相馬 フレアに色がついていることもヌケのよさにつながっていると思います。
本地 正直、一番苦手なコンテンツではありますが、なんとかここまで再現できるようになりました。フレアが少ないわけじゃなくて、ちゃんと色がついているからフレアっぽくならないのが一番大きいですね。
麻倉 色の出方が精密ですね。東京にこんなに光があるっていうのも改めて認識できました。液晶テレビでここまでの絵は、なかなか観たことがありません。
ひとつだけ、私は『マリアンヌ』のUHDブルーレイを有機ELテレビで繰り返し見ていますが、黒の沈みというか、質感が有機ELテレビまでは追い込めていない感じがしています。そのあたりをさらに磨き上げると、もっと良いものになってくるんじゃないかと感じました。
本地 ありがとうございます。『マリアンヌ』については、私も同じことを感じていましたので、そこを改善していきたいと思います。
麻倉 昼間の屋外の色の階調がとてもいいですね。この再現もこだわった部分ですか?
本地 RGB Mini LEDバックライトは色の再現性が最大の強みですので、そこを活かしたいと思いました。特に色の正確さと、暗い部分からの階調をきちんと表現するところに一番こだわりました。

ソニー株式会社 ホームプロダクト事業部門 シニアマネージャー 相馬邦彦さん(右)と、技術センター ディスプレイシステム技術部門 主任技師 本地秀考さん(中央)に、RGB Mini LEDバックライトの使いこなしについて、詳しいお話をうかがった
麻倉 今までの液晶テレビは、色の階調感というところまではなかなか楽しめなかったんです。そういう意味では、色から絵作りした新しいテレビが登場したという感じですね。他社からもRGB Mini LEDバックライト搭載テレビが登場していますが、バックライトの色まで細かく制御している点が、ソニーの差別化ポイントだと思います。でもそれは、開発としてはたいへんなアプローチです。なぜ、あえて厳しい道を選択したのでしょう。
相馬 Mini LED採用の際もそうですが、我々としては輝度を上げて終わり、色域を広げて終わりではなく、LEDをうまくコントロールすることで、お客さんに提供できるメリットも増やせるというところを追求してきました。RGB Mini LEDバックライトについても、もっといろいろなメリットをユーザーに提供できると直感して、開発に取り組んだということです。
麻倉 QUALIA005やXR1シリーズは、白色バックライトでした。今回RGB独立駆動ができたのは、LEDの進化が大きかったのでしょうか。
本地 LEDもそうですし、信号処理も重要でした。ローカルディミングも、RGBなのでこれまでの3倍の処理をしなくてはいけませんし、さらにいろいろな補正技術を組み合わせています。
麻倉 今のテレビは液晶か有機ELかという二元論になっていますが、過去にはプラズマやブラウン管もあって、それらのデバイスの中からユーザーが選んできたわけです。その意味で、ユーザーに選択肢を提供するというのはとても重要です。
同じコンテンツであっても、違う映像として観えてくる。“こんなところにこういう階調があったのか!” といった発見ができるのはユーザーにとって嬉しい体験ですから、そういう可能性をすごく感じます。RGB Mini LEDバックライトによって、新しいカテゴリーのテレビ、表現力が来た! みたいな感じですね。
相馬 ひじょうに嬉しいお言葉です。ありがとうございます。
(まとめ・撮影:泉 哲也)
私の予測の上を行っている。RGBバックライトが持っている潜在能力をしっかり引き出した絵づくりに、テレビの新しい姿を感じました ……麻倉怜士
ソニーのRGB Mini LEDバックライト搭載液晶テレビについては、去年の4 月に、技術発表の段階で拝見しました。当時、RGBバックライトはこれからの新しい高画質技術だと脚光を浴びていましたが、同じRGBバックライトでも、ソニーはちょっと違うぞと感じていました。
というのも、バックライトの発光自体で色を再現しようという狙いがすごく効いているなと思ったんです。同時に、これを実際の製品に落とし込むのは難しいかもしれないと感じました。しかし今回、製品を拝見して、私の予測の上を行っているなという感じがしたんです。
RGBバックライトが持っている潜在能力をしっかり引き出しています。例えば他社製品はRGB Mini LEDバックライトであっても、白発光になる割合が高いんです。しかしソニーはそういうところでもきちんと色を保っていて、なおかつ色の良さが映像に反映されている。これは、技術開発というか、液晶のコントロールが相当うまくないとできません。

映像ソフトでは、UHDブルーレイ『ラ・ラ・ランド』のチャプター5を観ました。これは結構難しいシーンで、中途半端に暗いし、暗部階調に色が乗っています。そこで感心したのは、カリフォルニアのあの時間、マジックアワーにおける色の変化が、とても滑らかなんです。
手前に道路があって、それから暗く沈んだ山並みがある。さらに山際の夕焼けのオレンジから、上空の青い空につながっていく。その色の変化が、バンディングも少なく、滑らかに出ていた点は、他の液晶テレビでは観たことがありませんでした。エマ・ストーンの黄色のワンピースと、赤のバッグの質感もすごくよかったですね。ワンピースの布やハンドバッグの革の色と質感もとてもリアルでした。
暗い部分の階調感にも感心しました。全体的には暗いんだけども、一部に明るいところもある、その中で木の葉の緑色がヌケていないし、ひとつひとつの木々の細かさも出ているところなどは、試作機からさらに進化していました。
またローカルディミングで明るさを制御している液晶テレビでは、フレアやブルーミングは昔から大きな問題でした。このシーンでも、街灯などにフレアが結構出るんですが、そこも目につきにくくなっています。

同時発表の「BRAVIA 7 Ⅱ」もRGB Mini LEDバックライトを搭載する。写真は「K-85XR70M2」(市場推定価格¥825,000前後、税込)
『ベン・ハー』もよかったですね。このUHDブルーレイは、金色とか赤などの難しい色が多い。しかもそれらが画面のあちこちに散りばめられているんですが、そこでの色の違いとか反射の違い、素材の質感がひじょうによく出ていました。本作はテクニカラー撮影の色を完全に修復した、近年のレストア作品の傑作です。K-85RX90M2ではこの色の違いとか、質感や輝きの違いといったストーリー性、演出の狙いがしっかり出ていると感じました。
『8K 空撮夜景』もフレアが少ないことに驚きます。秋葉原の俯瞰シーンを見ましたが、細かいところの色付きもいいし、極端な話、画素単位まで色がわかる気がしました。豊洲の高層マンションも、窓の色の違い、形もよく出ていたと思います。
BRAVIA 9 Ⅱの映像は、従来の液晶テレビとも、有機ELとも違う、第3のカテゴリーだという感じがしたんです。そういう意味では、液晶テレビというよりも、新しいジャンルのテレビと呼んでいいんじゃないでしょうか。



