液晶テレビの最新高画質化技術として、「RGB Mini LEDバックライト」が話題を集めている。ひとつのチップの中にRGB 3色のセルが並んだLEDを搭載し、バックライト自体で様々な色を再現できるのが一番の特長だ。

この技術を搭載したモデルは既に各社から発売されており、ソニーからも「BRAVIA 9 Ⅱ」「BRAVIA 7 Ⅱ」が登場している。それらに搭載されたRGB Mini LEDバックライトには、他社とは違うソニー開発陣の強いこだわりが込められているという。今回はそのこだわりについて、ソニー株式会社 ホームプロダクト事業部門 シニアマネージャー 相馬邦彦さんと、技術センターディスプレイシステム技術部門主任技師 本地秀考さんにお話を聞いた。

麻倉 今日はよろしくお願いします。ソニーから、RGB Mini LEDバックライトを搭載したブラビアがいよいよ登場したということで、どんな画質なのか楽しみにしていました。

相馬 今日はおいでいただきありがとうございます。前回、麻倉さんにRGB Mini LEDバックライトについてご紹介したのはちょうど一年前でした。

麻倉 技術発表の直後でしたね。その時はRGB Mini LEDバックライト試作パネルの映像を拝見しましたが、なかなか頑張っているなと思っていました。

相馬 ありがとうございます。そこから1 年を経て、今年6 月から、RGBMini LEDバックライトを搭載した「BRAVIA 9 Ⅱ」「BRAVIA 7 Ⅱ」を順次発売しました(K-115XR90M2 とK-98XR70M2 はこれから発売予定)。

麻倉 実際のセールスも好調と聞いています。

相馬 世界的にも順調ですし、日本市場でも、RGB LEDバックライト搭載機種の売り上げの中でソニーがひときわ存在感を示すなど、好調な売り上げをいただいています。

画像: RGB Mini LEDバックライトを搭載したBRAVIA 9 Ⅱ「K-85XR90M2」(市場推定価格¥1,320,000 前後、税込)

RGB Mini LEDバックライトを搭載したBRAVIA 9 Ⅱ「K-85XR90M2」(市場推定価格¥1,320,000 前後、税込)

麻倉 ユーザーにもRGB Mini LEDバックライトのメリットが理解されてきたということですね。

相馬 本日はバックライトがどんな風に光っているかがわかるように、「BRAVIA 9 Ⅱ」のバックライト基板を一部取り出したセットを準備しました。これで、RGB Mini LEDバックライトが実際にどんな動作をしているかをご確認いただこうと思っています。

麻倉 なるほど、確かにこれなら表示されている映像とバックライトの関係がよくわかります。いいアイデアです。

相馬 われわれは、「True RGB」および「RGB Backlight Master Drive Pro」をキーワードに、RGB Mini LEDバックライトにすることで輝度が上がります、視野角が広がります、消費電力が低くできますということを訴えてきました。RGB Mini LEDバックライトでは、主に色域の拡大が訴求されていますが、ソニーとしては、それ以外の価値も提案していきたいと思っています。

麻倉 色域拡大は当然として、視野角とか消費電力といった、いろいろなところでRGB Mini LEDバックライトは違うぞ、ということですね。

相馬 そういう風に考えております。何はともあれ、映像をご覧ください。

麻倉 なるほど、確かにバックライトに色がついている。RGB Mini LEDバックライトだと、こんな風に光るんですね。

相馬 RGB Mini LED搭載製品の中には、バックライトに色がつかず、ほとんどの場合白色に近い表現をしているものもあります。もちろん、RGB LED なので色域拡大の効果があるのは間違いありませんが、RGBを独立駆動してバックライトで色を表現するというところまでは行っていないと思います。制御自体もLEDディスプレイ寄りの印象があります。

画像: 写真のようなモノトーンに近い中にも、細かな色の階調がある映像では、RGB独立駆動をすることで明るさと低消費電力を実現できるそうだ

写真のようなモノトーンに近い中にも、細かな色の階調がある映像では、RGB独立駆動をすることで明るさと低消費電力を実現できるそうだ

麻倉 LEDディスプレイ寄りというのは、どういう意味でしょう。

相馬 液晶テレビのバックライトの光は拡散します。レンズから出た光はある程度幅を持って広がっていくので、そういう点もちゃんと考慮して、どういう輝度や色を視聴者に届けたいのかを逆算し、バックライトの光り方を決めないといけないんです。

麻倉 ソニーとしては、そこの制御にもこだわったんですね。具体的にはどんなシーンで違いが出るのでしょう?

相馬 比較的モノトーンの映像です。例えば、このように背景が緑色で、手前に同じく緑色の球体が並んでいるようなケースですね。この絵の場合、基本的に緑が大半ですのでバックライトとしては赤や青のLEDは光らせる必要がほとんどないんです。そこで赤と青のLEDを消して、バックライトは緑で光らせています。すると電力に余裕が出ますので、それを緑のLEDに集めて明るくすることもできます。明るさと消費電力の低減を両立できるんです。

麻倉 白色発光だと、こういう映像でもRGBの3色が光っているから、消費電力は抑えられない。

相馬 消費電力的な恩恵を受けるのは難しいでしょう。さらに弊社では、球体の影のグラデーション部分についても、ある程度はバックライトで再現しています。

麻倉 確かにブラビアの場合、バックライトだけでも色が分かりますね。

相馬 もうひとつ、RGB Mini LEDバックライトは、色ムラを抑えるためにLEDの配置や向きを工夫する設計が取られることもあります。一方でソニーでは、RGBの光がムラなく混ざるようにバックライトの設計段階から配慮しているため、セルの配列を変える必要はありませんでした。

麻倉 なるほど、だからどの角度から見ても色が変化することがない。

相馬 先ほど、バックライトだけで色がわかると言っていただきましたが、それこそ、今回われわれが言いたいことです。今まではバックライトで輝度を、液晶パネルで色を作っていました。しかしRGB Mini LEDバックライトなら、バックライトと液晶パネルの両方で色が作れることになり、液晶の開口率もちょうどいいところが選べるようになります。

麻倉 確かに、去年も液晶パネルとバックライトを精密に制御することで、RGB Mini LEDの能力をフルに引き出せるとおっしゃっていました。

画像: RGB Mini LEDのイメージ。右の図のようにひとつのLEDチップの中にRGBのセルが並んでいる。多くのメーカーでは色ムラを抑えるために一列ごとにRGBの向きを変えているが、ソニー製品では同じ配置でも問題ないとのこと

RGB Mini LEDのイメージ。右の図のようにひとつのLEDチップの中にRGBのセルが並んでいる。多くのメーカーでは色ムラを抑えるために一列ごとにRGBの向きを変えているが、ソニー製品では同じ配置でも問題ないとのこと

相馬 例えば赤い背景で画面の真ん中から黒い部分が徐々に大きくなっていくような映像では、赤の面積が大きい時には他社のRGB Mini LEDバックライトも赤色で光ります。しかし黒いエリアが大きくなると、バックライトは白くなっていくんです。というのも、バックライトを特定の色で光らせた場合、画面内の他の色を正しく再現するためにはRGBの独立駆動がひじょうに難しくなります。

 それもあって、色数が増えてくるとバックライトを白く光らせているんだと思います。弊社ではそこについても細かく制御していますので、黒い部分の面積が50%を超えた場合でも、ちゃんと赤のエリアは赤色で光っています。

麻倉 以前、あるメーカーの技術者にインタビューした時には、RGB Mini LEDバックライトであっても、ほとんど白色で使っているという話でした。ソニーの場合、どれくらいの割合で色をつけているんでしょう?

相馬 弊社では、基本的にはRGB 独立駆動をしたいと考えています。そういう意味では100%を目指していますので、真っ白とか、色がすごくたくさん入った絵柄では白色で光らせていますが、それ以外ではちゃんとRGBで独立駆動しています。

本地 バックライトはローカルディミング(分割駆動)をしていますが、ひとつの分割エリア内にRGBすべての色が入っていた場合は、基本的には白色で光ります。一方で単色とか2色くらいであれば、バックライトで色を再現しています。パーセントでいうのは難しいですが、一般的な絵柄であれば、80〜90%は何らかの色がついていると思います。

麻倉 同一画面内の別々の分割エリアで、片方は赤一色、もう一方は他の色が混ざっていたとしたら、同じような赤のトーンは出しにくくはならないのですか?

相馬 そこについては、ある場所を光らせた場合の、別の場所に対する影響を計算して、それに応じた調整を行います。ですので、漏れ光や色ムラなども抑えられているはずです。

画像: バックライト基板の一部を取り出して、「K-85XR90M2」の前面に取り付けたデモ機で、再生している映像とバックライトの関係を確認した

バックライト基板の一部を取り出して、「K-85XR90M2」の前面に取り付けたデモ機で、再生している映像とバックライトの関係を確認した

麻倉 そこまで細かい制御を行うとなると、エンジンの開発もたいへんだったでしょう。

相馬 今回バックライトをRGB Mini LED化するにあたって、XRプロセッサーのメインチップは同じですが、バックエンドのチップは新しいものに変更しています。さらに、いちからアルゴリズムを作り直す覚悟で取り組みました。

麻倉 ソニーでは、2004年の「QUALIA005」や2008年の「XR1シリーズ」でRGB LEDバックライトを搭載していました。あの時は白色発光でしたが、そこからRGB LEDバックライトに対しての研究開発はお休みしていたんですか?

相馬 弊社としては、RGBバックライトの他にもQD(量子ドット)などのいろいろな広色域、高輝度再生技術を研究してきました。その中でも、LEDバックライトの制御技術については地道に開発を続けてきました。その実績があるので、RGB独立駆動になってもちゃんとコントロールできているのです。

麻倉 RGB Mini LEDバックライトテレビでは、バックライトだけでなく、液晶パネルの制御もしなきゃいけないわけです。さらに最終的にはカラーフィルターで色を再現するわけだから、この3つをどう合わせ込むかはひじょうに難しいでしょう。

相馬 そうですね。さらにブラビアではクリエイターズインテントも意識して、輝度も制作者が意図した通りに出していけように考えています。そうすると、どこまでの領域を光らせるべきかなど、いろいろなことを考える必要があります。

麻倉 カラーフィルターは、RGB Mini LEDバックライト用ですか?

本地 従来と同じです。ただおっしゃる通り、カラーフィルターもRGB Mini LEDバックライトに最適化した方が色が良くなる可能性はあるので、今後も検討していきたいと思います。

相馬 もうひとつ、BRAVIA 9 Ⅱには新開発の低反射フィルムが貼られています。画面の前に立っても自分の顔が映り込むことはありませんし、こういうところで映像への没入感を上げていきたいと思っています。周りから来た迷光が視聴者側に反射しないように設計しています。

本地 アンチグレア処理の方が映り込みは少なくなるのですが、どうしても黒が浮いていました。今回のフィルムは低反射と黒浮き防止が両立できているのが強みで、視聴の妨げにならない点が好評をいただいています。

画像: 製品版の「K-85XR90M2」で、UHDブルーレイの映像もチェックしている

製品版の「K-85XR90M2」で、UHDブルーレイの映像もチェックしている

相馬 ではここから映像をご覧いただきたいと思います。麻倉さんにお持ちいただいたUHDブルーレイを再生します。

麻倉 では、『ラ・ラ・ランド』のチャプター5 からお願いします。

 なるほど、エマ・ストーンの黄色いワンピースも、バックライトは黄色くぼわっと光っているのに、映像では輪郭がくっきり再現できている。バックライトはある程度大まかに光らせて、色が混ざっているところについては画素単位で制御して、きちんと4K解像度の映像に仕上げているんですね。この液晶コントロールはすごい。

相馬 液晶の制御方法は従来のままでRGB Mini LEDバックライトを使うのなら、白色で光らせたほうがいいでしょう。ただソニーとしては、よりよい品質のために、バックライトと液晶の両方を制御することに取り組みました。弊社では以前からBacklight Master DriveでMini LEDバックライトを細かく制御していました。今回もこれをベースにしています。

麻倉 一方で液晶パネルもバックライトに合わせた制御が必要になるわけですが、ここでもRGBごとに液晶をどれくらい開くか、絞るかなど難しそうです。

本地 理論的には、バックライトで輝度と色をきちんと再現できれば、液晶パネル側で光を絞る必要はなくなります。ですので、全体としては液晶パネルは開く方向になっていきます。

相馬 LEDがある輝度で光った時に、どういうふうに映像が表示されるかを事前にキャリブレーションしています。そこに合わせて液晶パネルを制御するという技術の積み重ねになります。

麻倉 確かに、同じRGB Mini LEDバックライトを搭載しているといっても、制御の良し悪しによって表示される画質に違いが出てきそうですね。では、続きを再生して下さい。

画像: インタビューに対応いただいたおふたり。写真右がソニー株式会社 ホームプロダクト事業部門 シニアマネージャー 相馬邦彦さんで、左が技術センター ディスプレイシステム技術部門 主任技師 本地秀考さん

インタビューに対応いただいたおふたり。写真右がソニー株式会社 ホームプロダクト事業部門 シニアマネージャー 相馬邦彦さんで、左が技術センター ディスプレイシステム技術部門 主任技師 本地秀考さん

相馬 画質モードは「ビビッド」ですが、このままでよろしいでしょうか?

麻倉 「ビビッド」モードの方がバックライトの違いがわかりますから、このままでいきましょう。

 赤いバッグはバックライトも赤くなっていますね。RGB Mini LEDバックライトの恩恵がよくわかります。一方で黄色いワンピースは細かい柄が入っているためか、単純な黄色ではない。こういった絵柄ではバックライトも白っぽくなるんですか?

本地 ワンピースが黄色一色だったら、バックライトももっと黄色くなるんですが、柄も含まれているので少し白っぽい色になっているようです。

 続いて、「映画」モードもご覧ください。このモードもバックライトはRGB独立駆動で動かしています。なお「映画」モードでは色温度を6500K(D65)に設定しています。バックライトが白色発光の場合は、6500Kを実現するために青の信号レベルを下げて調整しますが、BRAVIA 9 ⅡではRGB Mini LEDバックライト自体を6500Kに設定しているので、階調がひじょうによくなっています。ここには技術者としてこだわりました。

相馬 RGB Mini LEDバックライトで一番難しいのは、「シネマ」モードのような忠実再現だと思います。こういうところでもRGB独立駆動のメリットを活かせるところが、ソニーとしての強みになります。

麻倉 「シネマ」モードが難しいというのは、輝度のダイナミックレンジが狭いからですか?

相馬 忠実な色再現という点が一番難しいですね。RGB Mini LEDバックライトをどう光らせるか、そこに対して液晶の開口率の割合はどうするかといった精度が高くないと、正しい色にならないのです。

麻倉 その他に、RGB Mini LEDバックライトになって画質面で変化したことはありますか?

本地 暗いところの色再現性は良くなったと思います。白色バックライトの場合、暗部の色が判別しにくくなるんですが、RGB Mini LEDバックライトでは暗いところでも色がきちんと表現できています。
(まとめ・撮影:泉 哲也)

※後編に続く

https://www.sony.jp/bravia/special/bravia9m2_XR90M2/

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