世の中には、Bluetoothスピーカーは、星の数ほど売られている。筆者は、かつてある新聞社が主催したBluetoothスピーカー一斉試聴会に参加したことがあったが、ほとんどが絶望的な低音質だった。でも、その中にはこれはと思わせる製品もあった。設計によっては、狭帯域であっても、ハイレゾ対応でなくとも、きちんとした音が出せると思った。
エラックから登場した創立100周年を記念するBluetoothスピーカー、NAVA100-WHはどうか。
音を聴く前に、本作のコンセプトを紹介しよう。それは「ファッション+音楽」だ。ニューヨークのファッションブランド、「Adsum(アドサム)」と提携し、そのセンスを形や色に採り入れたスピーカーなのである。
エラック+Adsumのコラボレーションは2024年の、DCB41 DSが嚆矢だ。オリジナルモデルのアクティブスピーカーDCB41がAdsum流に修飾。ボディ色が黒からつや消しの白に変わり、角の仕上げが直線的になった。
NAVA100-WHもシンプルだ。どこにも出っ張りのない、六面体。色はクリーム系の1色のみ。バッテリー内蔵にて、屋内外での持ち運びを想定。Bluetoothのバージョンは5.3。背面のUSB Type C端子から充電でき、通常充電は約4〜5時間、急速充電は約2時間(1.5A時)としている。バッテリー容量は5,000mAhで、最長15時間の再生が行なえる(音量25%時)。ユニットは7.5cmフルレンジドライバー1基とパッシブラジエーター2基を搭載する。

Bluetooth Speaker
ELAC
NAVA100-WH
¥49,500 (台)税込
●型式 : アンプ内蔵フルレンジ・パッシブラジエーター型スピーカー
●使用ユニット : 75mmフルレンジ、パッシブラジエーター×2
●アンプ出力 : 10W
●接続端子 : USB Type C(充電用)
●Bluetooth : Version5.3対応
●バッテリー駆動時間 : 15時間(25%ボリュウム時)、6時間(100%ボリュウム時)
●備考 : 2台使ってのステレオ再生可能
●寸法/質量 : W150×H78×D128mm/1.4kg
●問合せ先 : (株)ユキム ☎ 03(5743)6202
音を良く識るエラックらしい自然体のサウンドチューニング
2台をワイヤレス接続してステレオ再生できる「デュアル・プレイ」にも対応するということだが、まず1台で聴いてみよう。スマホのQobuzアプリで情家みえ「チーク・トゥ・チーク」のハイレゾ版を再生、そこからBluetoothで送り、NAVA100-WHで聴く。無理のないウェルバランスな音だ。冒頭に述べたように、多くのBluetoothスピーカーはもともと帯域の狭い伝送の弱点をカバーするために、かなり人工的な脚色を与えている。
ところが、NAVA100-NHは実に自然体だ。低域は追わず、中域も強調せず、高域をむやみに伸ばさず……とBluetooth伝送だから頑張って、それなりに聴けるようにという無駄な努力をせずに、中域中心の聴きやすい音づくりが採用されている。さすがエラックの音のまとめは上手い。Bluetoothはハイファイではないというなら、むしろワイドレンジを追うより、バランスの快適さに努めるべきという方針なのだろう。この小さなユニットに合った適度な聴きやすさが得られている。その意味ではBGM的だが、1.5mほど離した2台使いの音は驚いた。場の質感がまったく違ったのだ。

NAVA100-WHは2台使ったステレオ再生「デュアル・プレイ」が可能だ。スマホ等にまずNAVA100-WHを1台ペアリング、それをマスターにして、もう1台のNAVA100-WHをスレーブとして組み合わせる。ペアリング済のスピーカー(マスター)の本体上部にあるBTボタンを1回押し、次にペアリングされていないスピーカー(スレーブ)のBTボタンを1回押すと、自動的に接続される仕組みだ
2台使ったステレオ再生は情報量が格段に増す
1台ではウェルバランスな穏当な音だったが、2台ではハイファイとは言わないが、音の情報量が格段に増えた。まず音場感。そもそもステレオ再生なのだから、臨場感は当然、増すわけだが、1台の点音源的な音場より、はるかに質が上がった。つまり場が拡大されただけではなく、音調が向上したのである。具体的には<場の透明化>が感じられた。音像の実体感、音像イメージが確実に立つ。空間感が格段に濃密になり、場の空気感が豊かになった。センターの情家みえのヴォーカルは確実なファントムセンター定位を見せた。これは本格的なシステムの縮尺という感覚で、箱庭的なミニチュア感だ。
音色的にも質感が格段に向上した。微小信号の再現がクリアーになったのである。情家みえのヴォーカルは中高域にアクセントをつけるニュアンスが特徴だが、その部分の声の表情が心地好い。ピアノを始めとするアンサンブルもヴィヴィッドになった。2台配置では、強調感のない素直な質感がより美点として感じられた。
結論。エラックのBluetoothスピーカーNAVA100-WHは、ファッションブランドとの提携による<おしゃれ品>というだけでなく、生活を素敵な音楽で充たしてくれるライフアップスピーカーとして有用だろう。エラックならではの気持ち良く、心地好い音づくりも良心的だ。
>本記事の掲載は『HiVi 2026年冬号』



