5月末に発売されたソニーのワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM6」は、3年ぶりに登場したWH-1000Xシリーズの最新モデルだ。今回は、高音質ノイズキャンセリングプロセッサー「QN3」(以下、QN3)を搭載し、“世界最高クラスのノイズキャンセリング性能” をさらに進歩させたという。また音作り面でも、マスタリングエンジニアと協業するなど新たな工夫も盛り込まれている。そんなWH-1000XM6に込められた思いを、開発陣にじっくりお話しいただいた。(StereoSoundONLINE)
ワイヤレスヘッドホン:ソニー WH-1000XM6 (ソニーストア価格¥59,400、税込)

●型式:密閉型
●使用ユニット:30mmダイナミック型
●感度:103dB/mW(有線接続/POWER ON時)
●再生周波数帯域:4Hz〜40kHz(JEITA)
●インピーダンス(1kHz):48Ω(有線接続/POWER ON時)、16Ω(有線接続/POWER OFF時)
●対応Bluetoothコーデック:SBC、AAC、LDAC、LC3
●連続再生時間:最大30時間(ANC ON時)、最大40時間(ANCOFF時)
●コード長:1.2m(片出し、着脱式)
●質量:約254g

キャリングケースはジッパー式からマグネット式に変更され、より簡単に開け締めができるようになった
麻倉 今日はよろしくお願いします。「WH-1000XM6」の評判がいいとのことで、改めてこの製品の特長をうかがいたいと思っています。
中西 WH-1000XM6の商品企画を担当した中西と申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします。WH-1000XM6は、WH-1000Xシリーズの6代目として5月30日に発売しました。音質と世界最高クラスのノイズキャンセリング性能を極めて、アーティストが届けたい音を忠実に再現できるというところを目指しております。
訴求ポイントは大きく5つあります。まず初めに、ノイズキャンセリングです。前モデルの「WH-1000XM5」も世界最高クラスのノイズキャンセリング性能を実現していましたが、WH-1000XM6では7年ぶりにノイズキャンセリング性能に関わるチップを変更しました。
新たに開発した「QN3」プロセッサーを搭載し、同時にマイクの数も増やしたことで、ノイズキャンセリング性能はWH-1000XM5を上回るスペックを達成しております。
音質については、ソニーのワイヤレスヘッドホン/コンスーマー向けヘッドホンとして初めてマスタリングエンジニアとの協業を行いました。またドライバーユニットの改良と、QN3チップの搭載に伴う「先読み型ノイズシェーパーD/A変換」機能の追加、映画向けの立体音響機能や通話品質に関しても改善を加えています。
その他、装着性の向上、脆弱性の改善に加えて、WH-1000XM6は折りたたみデザインを採用し、キャリングングケースも小型化しています。またWH-1000XM5と同様にBluetoothコーデックのLDACや高音域補完技術のDSEE Extremeも搭載しております。また LEオーディオなど最新の接続方式にも対応しました。
麻倉 基本スペックを細かく進化させた上で、新たな音作りに取り組んでいると。
鷹村 音質周りを担当した鷹村です。ここから各機能について詳しくご説明します。まず、WH-1000XM6では、ノイズキャンセリング性能について、これまでのシリーズ同様に、世界最高クラスを達成しました。

村上 ノイズキャンセリングを担当した村上です。今回、WH-1000XM6でも最高クラスのノイズキャンセリング性能を実現するために、複数のテーマに取り組みました。
ノイズキャンセリング処理では、ユーザーの装着状態や周囲の環境に応じて高精度なキャンセル波を作ることが重要ですが、ここは環境の影響を受けやすく、難しい点でした。そこで新たに「アダプティブNCオプティマイザー」を開発し、環境音や気圧の変化、メガネや帽子といった装着状態まで監視して、どんな時にも精度の高いノイズキャンセリング性能を実現しています。
これまでの「オートNCオプティマイザー」では低域を重視した処理を行っていましたが、アダプティブNCオプティマイザーでは、高域も含めてより広い範囲でノイズをキャンセルできるようになりました。結果として、街中や人混みの中でも優れたノイズキャンセリング性能を提供できるようになっています。
麻倉 アダプティブNCオプティマイザーでは、具体的にはどんな処理を行っているのでしょう?
村上 従来はフィードバックマイクは1個だったんですけれども、WH-1000XM6ではもうひとつ追加しています。新たに追加したフィードバックマイクは鼓膜に近い位置にあり、実際にユーザーが聞いているものと同じ音を集音することができます。その音をリアルタイムに監視することで、ノイズキャンセリング性能を高めました。
麻倉 マイクの収音とフィードバックの精度が上がったのが大きな違いなんですね。高域ノイズにも対応できるようになったのは、何か工夫があったのですか?
鷹村 フィードバックマイクに加えて、イヤーカップ外側のフィードフォワードマイクも6個から8個に増えていますので、環境ノイズも正確に捉えることができます。センシング精度が高まったことと、アルゴリフィードバックの進化が大きなポイントかなと思います。
田森 チップの開発を担当した田森です。高い周波数では、ノイズキャンセリング処理のスピードが大事になってきます。そこに対して今回は、QN3というこれまでの7倍の処理速度を持ったチップで対応できているところもポイントになっています。

高音質ノイズキャンセリングプロセッサー「QN3」の試作チップ
麻倉 ここまでの進化を達成するためにはやっぱりチップから起こさないと難しいでしょうね。QN3による処理速度の進化は他にどんなメリットがあったのでしょうか?
村上 先ほど申し上げた装着状態の検出にも有効でした。例えば、女性で髪の毛の上からヘッドホンを付けている時とか、メガネをかけている人の場合は、厳密にはイヤーパッドが密閉できていなくて、必ずどこかに隙間があります。これではノイズキャンセリング効果も落ちてしまいます。
中西 ラフにヘッドホンを付けている方も多いんですが、イヤーパッドがちょっと浮いているだけでも、そこから色々なノイズが入ってきます。今回はそれに対しても効果的に対策しています。
麻倉 今までそういった部分には、あまりケアしていなかったんですね?
鷹村 対策はしていましたが、高い周波数のノイズというのは結構難しかったのです。でも、やっぱりそこにも対処したいよねということで、QN3チップの開発だったり、マイクを増やすといった対策を行いました。
麻倉 高い周波数というのは、どれくらいの帯域をイメージしているのでしょう?
村上 具体的な数値は公開していないのですが、街の中、人混みのノイズには案外高い周波数も含まれています。
鷹村 街中のノイズには低域成分も多く含まれていますが、その部分を消しても残ってしまうノイズもあるんです。WH-1000XM6では人の声や雑踏、足音などのノイズも減っています。
麻倉 WH-1000XM6のノイズキャンセリングで、一番苦労したところを教えて下さい。
村上 フィードバックマイクの位置です。耳の近くなればなるほど、鼓膜で聞いている音が検出できるのでノイズキャンセル用としてはいいんですが、うっかりすると耳に当たってしまうので装着感が悪くなります。
装着感に影響を与えずに高い精度で鼓膜の状態を監視するには、マイクをどこに配置したらいいのかについて随分悩みました。実際に多くのリサーチを行い、幅広い人に合うような場所を探しました。

WH-1000XM6の音決めに強力したマスタリングエンジニアの皆さん
麻倉 さて、音質面ではマスタリングエンジニアと協業したとのことでしたが、これまでソニーミュージックのエンジニアと同様の作業はやっていなかったんですか?
高田 プロジェクトリーダーの高田です。これまでもソニーミュージックのエンジニアと一緒に音作りを進めることはありましたが、ここまでしっかり協業して、フェイス・トゥ・フェイスで開発するというのは、家庭用モデルではできていませんでした。
鷹村 まずは、なぜマスタリングエンジニアだったのかというところから説明させていただきます。
我々が目指しているヘッドホン体験は、アーティスト、クリエイターの意図通りの音を届けるというところですが、それって必ずしも録音されたそのままの音を再現することではないと思っています。音楽として最終的に届けたい状態を、リスナーに伝えることが大切だと考えました。
音楽を作る作業としては、レコーディングで音を収録し、ミキシングでバランスを取っていきます。そして最後に、音楽としての聴き心地とか音圧、アルバムとしての一貫性といった作品としての完成度を高めるのがマスタリング作業だと考えています。
つまりマスタリングが音楽の最終作業であって、アーティストがユーザーに聴かせたい音を把握しながら調整を行うのがマスタリングエンジニアだと考えたわけです。彼らの知見を取り入れることで、アーティストの意図通りの音を届けるという目標に近づけるのではないかと思っています。
具体的には3つのスタジオ、4名のマスタリングエンジニアにご協力いただきました。Battery Studiosはソニーグループのスタジオで、以前から同様の取り組みを行っていました。しかし他にも著名なスタジオは沢山ありますので、彼らの意見もうかがってみようと考えたのです。
そのひとつ、Sterling SoundのRandy Merrillさんはアリアナ・グランデやテイラー・スウィフトのマスタリングを、Chris Gehringerさんは、R&BやBTSなど様々なジャンルを手掛けています。Coast MasteringのMichael Romanowskiさんはアリシア・キーズであったり、『スター・ウォーズ』のサントラ、クラシック音楽なども担当しています。今回は、これらの方々の意見を取り入れてチューニングを行いました。
最初は、スタジオもエンジニアも違うので意見がまとまるのか心配していたんですが、音作りで大事なところ、この低域はこうあるべきだとか、ヴォーカルのプレゼンスはもっと前に出てくるべきだといった部分は、全員の意見が近かったのです。それをWH-1000XM6にしっかり、このヘッドホン落とし込めたのではないかと思っています。
麻倉 手順としては、エンジニアにWH-1000XM6の音を聴いてもらって、コメントを聞き、後日修正した音を確認するという流れですか?
鷹村 コメントをもらったら、その場でチューニングを変えて、聴き直していただきました。それを最大で5〜6回ほど繰り返しました。

左ヘッドホン(写真の上側)には電源ボタンや3.5mmアナログ端子を備える。右側には充電用USB-Cコネクターもあり
麻倉 4名のマスタリングエンジニアが指摘した点は、ほとんど共通していたんですね?
鷹村 これまでの音作りをダメ出しされたらどうしようと心配していました。しかしそんなこともなかったので、これまでやってきたことは間違っていなかったと自信を持つことが出来ました。
麻倉 一番印象的だったコメントは、どんな内容だったのでしょうか?
鷹村 全員からヴォーカルのプレゼンス、明瞭度はもっと出るべきだと言われました。もちろん音が刺さってはいけないんですけど、今の音づくりよりは声が前に出てきた方がいいという意見でした。
あとは、ドラムスやベースの音がステレオっぽいと言われました。最初は意味がわからなかったのですが、どうやら音像が左右に広がって鳴っているように聴こえたみたいで、もっとセンターに定位したほうがいいというアドバイスでした。他にもちょっとタイミングが遅いとか、もっと量感が欲しいといった感覚的な表現で指摘されることも多く、どうしたらいいのか悩みました。
麻倉 感覚的な表現を数値に落とし込まなくてはいけないから、たいへんでしたね。そこまでやったのなら、音の進化は大きいでしょうね。
鷹村 はい、そう信じています(笑)。
中西 ここまでが協業についての解説ですが、他にドライバーも改良しております。そこについて、担当の牟田からご紹介します。
牟田 WH-1000XM6のドライバーは、WH-1000XM5をベースにしています。WH-1000XM5のドライバーも充分いい製品だと考えていましたが、周波数特性のガタつきをもう少し滑らかにするとか、歪み成分を抑えられるのではないかというところもありましたので、今回は3点を修正しました。第一は振動板の進化で、もうひとつがボイスコイルボビンの工夫、最後がドライバー背面にある通気レジスターを変更しています。
振動板に関しては、真ん中のドーム部分を硬くし、外周のエッジ部分を柔らかくした、分離タイプの構造を採用しています。WH-1000XM5からの進化点としては、ドーム部分の剛性をさらに高めて周波数特性のガタつきを滑らかにしています。特に高域部分が改善できております。
第二点として、ボイスコイルを巻き付けているボビン部分に複数の穴を開けました。この方法はスピーカーなどで使われることもありますが、ヘッドホン用の小型ドライバーで採用している例は今までなかったので、加工方法、穴をどうやって開けるかというところからチャレンジしました。

専用設計されたドライバーユニットの内部構造。右から3つ目のボビンに穴が空いているのが見える。均等に綺麗な穴を開ける方法をみつけるのに苦労したとのこと
麻倉 ボビンの素材は何を使っているんですか?
牟田 今回は紙系です。
麻倉 紙だと比較的簡単に穴も開けられそうですが、どこが難しかったんでしょうか?
牟田 綺麗に、均等に開けるというのが難しかったですね。さらにそれを量産できなくてはいけません。穴のエッジが綺麗じゃないと空気がスムーズに通らなくなって、逆に歪みが増したりするんです。綺麗な穴を開けることで、高域の周波数特性のガタつきを滑らかにすることができました。
麻倉 空気の流れがスムーズになることで、振動板の動きがより活発になったということですね。
牟田 おっしゃる通りです。ボイスコイルの内側の空気を外に逃がしやすくなった結果、高域の再現性も向上しています。
麻倉 いわゆる背圧が抑えられることで振動板の動きは軽やかになるでしょが、低音がロスしたりはしないんですか?
牟田 穴を開けすぎると、剛性が落ちて低音感が減ってしまいます。その辺りのバランスを細かく検証し、穴の数や大きさがどれくらいで、ボビンにはどんな材質の紙がいいのかを選んでいきました。
麻倉 穴径が大きすぎるとダメだけど、小さいと空気が抜けないし、バランスが難しいわけだ。
牟田 おっしゃる通りです。
麻倉 ドライバー開発で一番苦労した点はどこでしたか?
牟田 ボイスコイルを巻き付けているボビン部分に複数の穴を開ける点です。ボビンに穴を開けるにしても、部品メーカーさんもここまで小さい穴あけ加工を試したことがなかったので、どうやって綺麗に開けるか苦労しました。

柔らかいエッジと、従来よりも剛性の高いドーム部を備える振動板も新開発された
鷹村 WH-1000XM6ではWH-1000XM5を踏襲しつつ、細かい工夫も盛り込んでいます。そのもうひとつが先程のQN3チップで、ノイズキャンセリング以外に音質面でも新しい機能を追加できました。
田森 音質改善のために、QN3に先読み型ノイズシェーパーD/A変換を搭載しています。一般的にノイズシェーパーとは、D/A変換される信号を再量子化する時のノイズ処理を工夫して、可聴帯域のS/Nを良くする技術です。ノイズシェーパー処理をしないとノイズが全帯域で高くなってしまうので、例えば20kHzまでのノイズを小さくして、高い周波数に追いやっているのです。
麻倉 ノイズを除去するのではなく、聴こえない帯域に追いやっている。
田森 QN3では、デジタル信号を音として出力するためのD/A変換も行っています。そのD/Aコンバーター内の量子化処理に関して、今回は “先読み” という手法を盛り込みました。名前の通り、量子化ノイズを先読みして計算し、最適な処理を加えて再生信号を正確に表現できるようにするものです。
麻倉 これまでは処理をした際に出てきたノイズに対して対策していたけど、事前に予測して対策すると。この方式ならオーバーシュートが出ないんですよね?
田森 はい、今回はそこが大きな特徴です。時間軸でオーディオ波形を評価した場合、従来のタイプではどうしてもオーバーシュートは避けられませんでしたが、先読み型では付加される量子化ノイズの最大振幅を指定しているため、波形品質を良くできるのです。
麻倉 確かに、従来方式では時間的な遅れは出ます。でもそんなにうまくノイズの先読みができるのですか?
田森 先読みするサンプル数にもよりますので、今回は最適な値を選定しました。D/A変換される信号については、サンプルごとにリアルタイムで処理をしていますので、どんな音が来ても追随していきます。入力信号を数サンプル先読みし、次にはこんな音が来るんだと判断し、それに対して付加する最適な量子化ノイズを計算しようというものです。

麻倉 なるほど、それなら的確な処理が可能になりそうです。先読み型ノイズシェーパー処理は、デジタル領域でやっているんですか?
鷹村 D/A変換する直前で行っています。
麻倉 最近はDACチップも外部調達するケースが多いようですが、今回のQN3は自社開発されています。田森さんがQN3の開発で苦労した点はどこでしょう?
田森 処理量の多さ、精度も高いレベルで求められますので、汎用チップでは対応が難しいということは検討段階で見えていました。そういった面でも今回、QN3 という新しいチップを起こせたのはよかったです。一方で、アンプ、アナログ部分の性能についてもきちんと設計し、トータルとして高いオーディオ品質を実現するのがたいへんでした。
麻倉 今回はQN3を開発できたから先読み型ノイズシェーパーを搭載したのか、それとも逆だったのか、どうなんでしょう?
田森 オーディオ再生技術の進化軸として研究開発をスタートしており、QN3に搭載すべくアルゴリズムを最適化していった流れになります。
中西 再生モードとして、映画向けの「360 Upmix for Cinema」も搭載しています。ヘッドホンの利用方法を調べてみると、音楽試聴がもちろん多いんですが、次に映画やYouTubeなどの動画コンテンツ視聴も増えていました。今回はそれを受けて、動画視聴で使えるモードとして企画しました。
麻倉 2チャンネル音源をサラウンド変換する機能ですね。
中西 その他に、折りたたみ機構も採用しています。本体デザインはWH-1000XM5のフォルムを踏襲しました。ただ細いデザインのため、折りたたみ機構の耐久性とバーターになってしまう部分もあります。今回はその部分に開発時間をかけ、さらにアクセントにすることで折りたたみ機構を実装しております。
キャリングケースも小さくなりました。こちらに関しては、インクルーシブデザインのワークショップを開催するなどして開発を進めました。キャリングケースは今まではジッパー式だったんですけれど、それでは開けづらいという意見があったので、マグネット構造を採用して片手で簡単に開けられるように改良しています。

左がWH-1000XM6で、右が前モデルのWH-1000XM5。折りたたみ部分にはMIM(金属射出成形)加工を施した金属を採用し、洗練されたデザインと高い耐久性を両立させている
ヘッドバンドも、敢えて前後非対称にして太くしています。というのも、ヘッドホンの右左を間違えやすいという意見もあったので、形状で前後左右が分かるようにしました。同様の理由で、ふたつあるボタンを、ふたつとも細長い形状だったものから、丸形と楕円形に変えて、表面に凹凸をつけることで、手で触ればどちらのボタンか分かるようにしました。
鮫島 構造メカ設計を担当した鮫島と申します。今回は世界最高峰のノイズキャンセリング機能というところで、メカ設計として寄与できた部分もあります。
ひとつは、装着性を落とさずにフィードバックマイクの追加ができたことです。またイヤーパッド部分も工夫しました。プラスチックの部品をちょっと薄くして、イヤーパッドの厚みを増やすことで、頭の形に追従しやすいような構造になっています。
またWH-1000XM5では内部にY字ハンガーが入っていたんですけど、今回は金属のヒンジを根元だけにつけ、フィードフォワードマイクを最適な位置に持っていけるように内部構造も変えています。お客様はほとんど気がつかないでしょうが、実は内部構造も大きく変わっているのです。
麻倉 なるほど、本当に細かい修正を行っていたんですね。その努力が音にどう反映されているか、楽しみです。
中西 では、ウォークマン「NW-WM1ZM2」と組み合わせた音をお聴きいただきます。
麻倉 なるほど、この組み合わせは相性がいいですね。BluetoothのLDAC接続でノイズキャンセリングも入れた状態ですが、解像度がひじょうに高い。音場感というか、音の情報量がリッチです。
『情家みえ/エトレーヌ』のベースの切れ味もいいし、スピード感もある。ヴォーカルに込められた情感も再現されていますし、グロッシーな感じも出てきています。オーケストラ楽曲も、自然な感じで強調感が少ない。それぞれの楽器の発音タイミングが揃っていて、俊敏さもあります。
有線接続では、さらによくなった。音のスピードが早くて、エッジの切れ味だけではなくしなやかさも出てきて、音の粒立ちもよくなっています。Bluetooth接続時の音も悪くないけれど、有線接続とは違いがあるので、ここはもう少し頑張って欲しいですね。
鷹村 ありがとうございます。そこはBluetooth伝送にまつわる部分だと思いますので、検証します。
麻倉 音づくりはスタンダードな方向で、元々の音に寄り添っている感じはします。その意味で、個性がないと言われればそうかもしれない。
そこについて、WH-1000XM6が発する音ってどんなものなのかという意思表示も欲しいですね。ディレクターズインテンションも大切なんだけど、趣味のオーディオとしては、そこにプラスして機器が持っている表現力、個性を楽しみたいわけですから。

インタビューに協力いただいた皆さん。左から村上さん、鷹村さん、田森さん、中西さん、麻倉さん、鮫島さん、高田さん、牟田さん
鷹村 貴重なご意見、ありがとうございます。WH-1000Xシリーズは世代を重ねるごとにユーザー数も増えてきています。当然再生される音楽ジャンルも多様になっていますので、それら多くのお客様にどんな音をお届けするかはひじょうに難しい問題でした。
特定の音楽ファンにアプローチをする際には個性を打ち出した物作りもできるんですけれど、これだけ多くのユーザーに向けてとなってくると難しいですね。弊社としてはアプリでイコライザー機能を提供しており、WH-1000XM6では10バンドの調整が可能ですので、ここで好みの音を探していただきたいと思っています。
麻倉 先ほどお話のあった360 Upmix for Cinemaは、どんな処理を行っているのでしょうか?
鷹村 スクリーン裏にスピーカーが仕込まれている映画館の音とはどういうものかを考えて、低音の量感とか響きなどの調整を取り入れています。そのためのアルゴリフィードバックも、今回新しく開発しました。同様の機能はXperiaにも搭載されていますが、スマホとヘッドホンではメモリーとかCPUの違いもありますので、処理量としても差がでてきます。そのために、体感を落とさずに、いかに少ない処理に落とし込めるかを工夫しました。
中西 YouTubeの映画作品を360 Upmix for Cinemaでご覧ください。
麻倉 過剰な演出はしていないから違和感もなく、2ch再生ながら劇場の雰囲気が楽しめました。シンプルな効果ですが、雰囲気的なところ、響き成分の変化がありますね。こういったモードはユーザーの好みもあるから、効果量を調整できるといいですね。
鷹村 そうですね。実際にはユーザーの前には画面があるはずなので、そのサイズに併せて、効果量を変えられると使いやすいかもしれません。
麻倉 YouTubeをタブレットで見る時と、リビングで動画配信を見る時で360 Upmixfor Cinemaの効果が最適化されるといいですね。
では最後に、WH-1000XM6に注目している読者にひと事お願いします。
中西 WH-1000Xシリーズは、毎回新技術を詰め込んで、常に最高を目指してきました。今回WH-1000XM5からどう進化させるか難しかったんですけれど、ベーシックな部分に立ち戻って、音質とかノイズキャンセリング性能を、チップやアルゴリフィードバックを含めて見直しました。さらに、コンスーマー向けヘッドホンで初めてマスタリングエンジニアの皆さんの声も反映して進化したモデルになっています。今までWH-1000Xシリーズをお使いいただいている方にも、新しいサウンドをぜひ聴いてみていただきたいと思います。
高田 WH-1000XM6は、3年ほどかけて開発しました。そこでは今日お伝えした通り、新しいチップ、新しい技術といった要素を盛り込みました。今日麻倉さんに音を聴いていただいて、嬉しいコメントもいただけましたので、我々としてとても励みになりました。評価いただいたポイントを次の製品作りに生かしていければいいなと思っています。
麻倉 WH-1000Xシリーズは、ファンの多い人気モデルです。WH-1000XM6も様々な点で進化を果たしていることが今日確認できました。今後はこれをベースに、ソニーヘッドホンとしての音の個性、名機に相応しいサウンドとは何かも追求していただきたいと思います。
(まとめ・撮影:泉 哲也)




