最も思い入れが深い8人のDIVAたちと青春時代に聴き馴染んだ名曲コンピレーション
自分が選曲・監修した作品についてこうして書き連ねることは、少々気恥ずかしいのだが、販促につながるようならば多少の恥をしのんで……。
今般リリースの『ビクター/JVCレーベルを彩ったDIVAたち』を制作するに当たって、最も難儀したのは選曲だった。実は当初こういう形の企画ではなかったのだが、ビクター系レーベルのヴォーカリストに絞って選曲するに当たり、既発『クロスオーバー黄金時代』とアーティストが重なることに対する懸念があったのと、アルバムを満たす分の楽曲が揃えられるのかという不安があったのだ。同作のライナーノートにも記したが、ヘレン・メリルとカーメン・マクレエのLPは所有しておらず(後にカーメン盤は中古で入手)、聴き込んでいないことから、選曲は悩みに悩んだ。最終的にはいい形で落着したという自負はあるが、収録する順番も含め、ああでもないこうでもないと考えあぐねた時期もあった。
『ビクター/JVCレーベルを彩ったDIVA(ディーヴァ)たち』
SACD/CDハイブリッド盤
『クロスオーバー黄金時代 1977-1987 FUSION』
LP 2枚組 180g重量盤 33 1/3回転/SACD/CDハイブリッド盤
『ビクター/JVCレーベルを彩ったDIVA(ディーヴァ)たち』
(ビクターエンタテインメント/ステレオサウンド SSMS-084)¥3,960 税込
『クロスオーバー黄金時代 1977-1987 FUSION』
(ビクターエンタテインメント/ステレオサウンド)
LP SSAR-061/062 ¥11,000 税込
SACD/CD SSRR-12 ¥3,850 税込
[ビクター/JVCレーベルを彩ったDIVAたち収録曲]
1.アントニオの歌|サリナ・ジョーンズ
2.スキンドゥ・レ・レ|阿川泰子
3.ザ・ワード|ヘレン・メリル
4.セサミ・ストリート|イッツ
5.カム・レイン・オア・カム・シャイン|秋本奈緒美
6.アズ・タイム・ゴーズ・バイ|カーメン・マクレエ
7.レフト・アローン|笠井紀美子
8.キリング・ミー・ソフトリー|中本マリ
9.マイ・ラヴ|サリナ・ジョーンズ
[クロスオーバー黄金時代1977-1987 FUSION収録曲]
1.モーニング・アイランド│渡辺貞夫
2.キーピン・スコア│イッツ
3.スーサイド・フリーク│松原正樹
4.センチメンタル・ジャーニー│阿川泰子
5.ハイ・プレッシャー│マルタ
6.サイレント・コミュニケーション│秋本奈緒美
7.スーパー・サファリ│ネイティブ・サン
8.ステイ・クロース│中本マリ
9.ソープ・ダンサー│山岸潤史
10.ジェントリー│日野皓正
11.サンバーストt│サンバースト
12.ウィズ・アワ・ソウル│本田竹曠
13.マイ・ディア・ライフ│渡辺貞夫
※2枚組LPの収録曲・曲順はSACD/CDハイブリッド盤と同一
●マスタリングエンジニア:山﨑和重、袴田剛史(ビクター青山スタジオ)、
●カッティングエンジニア:松下真也(PICCOLO AUDIO WORKS)
▼『ビクター/JVCレーベルを彩ったDIVA(ディーヴァ)たち』
購入はこちら
▼『クロスオーバー黄金時代 1977-1987 FUSION』
LP盤購入はこちら
SACD/CD盤購入はこちら
アルバム全9曲中、個人的に最も思い入れが深いのは、最初と最後に収録したサリナ・ジョーンズだ。LPは、それこそ摺り減るほど聴き込んできたが、今回収録した2曲は、オリジナルLPではデジタル・マスタリングとクレジットされている。それ故、もしかしたらアナログマスターテープがなく、デジタルアーカイヴからの編集作業になるかもしれないと心配になった。幸いにもアナログマスターテープが保存されていてそれは杞憂に終わったが、音楽文化保存という観点からのビクターの姿勢に感服した思いだ。
最終的に出来上がった音には大いに満足している。というか、これほどいい音になったことが我ながら驚きで、マスタリングを担当してくださったビクター青山スタジオ「FLAIR」の山﨑和重氏にたいへん感謝している(ちなみに3作品ともスタジオでの作業に立ち合わせていただいた)。山﨑氏は私と年齢が近いこともあって、この時代の音楽に何らかの共通認識があったのかもしれない。こちらの意図する音の方向性を十二分に理解してくださり、音をまとめあげてくださった。というのも、最初に送信されてきたマスタリングデータの音を聴き、その素晴らしい仕上がりに感激したのである。
音源を所有していなかった2曲の出来栄えにはとりわけ感動した。ヘレン・メリルはあの独特のハスキー・ヴォイスが生々しく蘇っている。リズムセクションもダイナミクスがあり、非常に躍動的だ。カーメン・マクレエのライヴも臨場感たっぷりで、あの頃の新宿「DUG」の空気感を濃密に感じ取っていただけるのではないだろうか。
一方『クロスオーバー黄金時代』の音質も、二人のエンジニアに大感謝だ。
SACD盤のマスタリングを担ってくださったのが、ビクター青山スタジオの袴田剛史氏。マージングテクノロジーズの「Horus」A/Dコンバーターを始め、スチューダーの「A820」オープンリールテープレコーダー等、使い慣れた機器による見事な手捌きで音をまとめてくださった。
一方のLP盤は、PICCOLO AUDIO WORKSの松下真也氏が担当してくださった。彼とはプライヴェートでも親交があり、若くしてヴィンテージオーディオにも精通し、機材のメンテナンスも自身でやってしまうビルトゥオーソだ。スカーリーのカッティングレースを操るその姿は実に頼もしく見えた。
それぞれのメディアに精通しているお二人だからこそ、SACD、LP各々にふさわしい(的確な)音で仕上げてくださった。ここで改めて感謝申し上げたい。また、この3枚のアルバムに収録された全楽曲の半数以上でオリジナル録音に携わられたのが、当時ビクター青山スタジオ在籍で、現在は「ミキサーズ・ラボ」に所属されている高田英男氏だ。あの伝説のドラマー、村上“ポンタ”秀一をして『裏のバンマス(注:バンドマスター)』と言わしめた高田氏は、後述するスタッフ・クレジットへの私のこだわりの早い段階から注目してきたエンジニアである。
『クロスオーバー黄金時代』の選曲は苦労はしなかった。何故なら、私の青春時代に聴き馴染んだ曲ばかりで、選んだ曲はすべてLPを所有していたからだ。ナベサダやヒノテルは、私の音楽遍歴の中でヒーローたちだし、阿川泰子や中本マリの歌声でヴォーカルの魅力をより深めることができた。
クロスオーバー/フュージョンに限らず、70年代から80年代の私の音楽の聴き方はちょっと特殊だったかもしれない。というのも、アルバムのリーダーだけでなく、参加したバックのミュージシャンや録音エンジニアの名前、録音スタジオといった制作に絡むクレジットをじっくり眺めては、知らず知らずのうちにそれを覚え、その情報を頼りに次に聴きたいアーティストや録音エンジニアの作品を追い掛けるということをしていた。ヒノテルのバックでベースを弾いているアンソニー・ジャクソンや、この時期のナベサダの相棒として大車輪の活躍をしていたデイヴ・グルーシンなどは、彼らが参加したアルバムを熱心に調べて新譜や中古盤を探したりもした。後にアル・シュミットやビル・シュネー、ダグ・サックスやバーニー・グランドマンといった裏方の巨匠たちに注目し始めたのも、前述のようなアルバムの音質に対する興味からだ。
オーデオ小僧だった頃の私は、そんな感じでアルバムのリーダーだけでなく、音質を司る裏方への興味からいい音を探し求めていた。そうした思いをこうしてコンピレーション・アルバムにまとめることができたのは、本当に僥倖である。そんな思いをどうか汲み取って、楽しんでいただけたら幸いだ。






