本格的にハイレゾストリーミング時代を迎えて、本腰を入れてハイレゾストリーミング再生を実践しているオーディオファイルは、既に多数いらっしゃるようである。音楽配信を行なう各社の中でも、以前から音質の良さで話題になっていた、2007年にフランスで設立された音楽配信サービス「Qobuz(コバズ)」が、昨年の10月下旬に、この日本でもついに正式にサービス・イン。コバズの音質と、ハイレゾストリーミング再生の楽しさについては、ステレオサウンド234号で、『ハイレゾストリーミング時代の到来』と題して詳しく紹介しているので、是非、そちらも併せて読んでいただけると幸いである。
ストリーミング再生の可能性を感じさせてくれた再生機器

●ミュージックストリーマー:エバーソロ DMP-A10 ¥825,000(税込)
●スイッチングハブ:sNH-10GPSMC ¥1,320,000(税込、銀線仕様)、¥1,210,000(税込、銅線仕様) ※クロックはsNH-10GPSにつないでいます
今回の試聴では、ミュージックストリーマー「DMP-A10」とネットワークスイッチ「sNH-10GPS」間をつなぐLANケーブルによって音がどんな風に変化するかに注目した。DMP-A10はSFPコネクターを備えており、変換アダプターなどを準備しなくても光ケーブルでの接続ができるのもポイント。
組み合わせたネットワークスイッチは、SOtM「sNH-10GPSMC」(銀線仕様)。これは、光LAN対応モデルとして定評のある「sNH-10GPS」(電源強化版)とマスタークロック スペシャルエディション「sCLK-OCX10」、クロックケーブル「dCBL-BNC50」、オーディオみじんこ特製Y字電源ケーブル(1.5m)をセットにしたものだ。評論家諸氏からの評価がひじょうに高いことを受けて、昨日発売されたものとなる。
今回の試聴テストは拙宅リスニングルームで行なった。各社のストリーミング再生を行なうハイレゾストリーミングの司令塔となるのは、音のよさで現在高い人気を誇るエバーソロのミュージック・ストリ—マー/プリアンプ/ネットワークプレーヤー「DMP-A10」である。
実はDMP-A10が発売される以前に、同じくエバーソロから「DMP-A8」という、DMP-A10と基本設計を同じくするプリアンプ機能付きのネットワークプレーヤーが先行してデビューしていた。そしてこのDMP-A8も、筆者は、昨年に自室にて試聴テストを行なって、とても使いやすく音の良いネットワークプレーヤーだなと好印象を抱いたのだった。
新たに発売されたDMP-A10は、各所がDMP-A8からいっそうアップグレードされている。中でも注目点は豊富な入力端子が用意されていることで、特に今回のテストでは重要なアイテムのひとつであるデジタル入力に、「光LAN」(SFP)が装備されたことである。
試聴時の接続については、下コラムの「試聴時の接続図」を参照されたい。今回の試聴テストでは、主役はDMP-A10であるが、加えて、光LAN接続で重要なネットワークスイッチとして、SOtM(ソム)の「sNH-10GPSMC」を輸入元のブライトーンから拝借して使った。使いやすく音質も良好な「sNH-10GPS」に、付属のマスタークロック「sCLK-OCX10」を接続することで、S/Nと透明感が大幅アップ、空間感も一気に広大となり、結果はきわめて良好で、クロックは必須アイテムと思い知った。
その他の試聴システム
●プリアンプ:ソウルノート P-3 ¥605,000(税込)
●パワーアンプ:ソウルノート M-3 ¥1,738,000(税込、1台)
●スピーカーシステム:YGアコースティクス Hailey 2.2

なお、DMP-A10とプリアンプのソウルノート「P-3」間はアナログ・バランス(XLR)接続である。DMP-A10のプリアンプ機能は「パススルー」に設定。したがって、ボリュウムコントロールは、プリアンプで行なっている。DMP-A10のプリアンプ機能をオンにして、DMP-A10側で音量調整を行なうと、こちらの音もまったく悪くなく、充分使えることが分かった。パワード・スピーカーをお使いの方にはたいへん便利な機能と言えるだろう。
【検証1】格安メタルLANケーブルでも、彫琢に優れた、明快で闊達な音が聴けた

エレコムのLANケーブル CAT6A LD-GPA/BK3 ¥683(税込、3m)
ネットワークスイッチのsNH-10GPSとDMP-A10との間のデジタル接続は、最初は普通のメタルケーブル、エレコム「CAT6ALD-GPA/BK3」を使用。この普通のメタルケーブルは、価格が驚くほど安いので、正直「ホントにこれで大丈夫か?」と危惧したが、ビートルズの「レット・イット・ビー(96kHz/24ビット)」を聴いてみると、あっけないほど良い音が飛び出してきてビックリ。
これだけ彫琢に優れた、明快で闊達な音が聴けるのならば、ハイレゾストリーミング再生をやらない手はないなと強く印象付けられた。よく整備されたネットワーク環境の中に設置した、優秀なネットワーク・ストリーマー/プレーヤーを使えば、特に高価ではない普通のLANケーブルを使っても、良い音を聴くことができたのである。
【検証2】光ケーブル+お手頃価格のSFPトランシーバーの音質を確認
エレコム製メタルケーブルに替えて、光ケーブルの10Gtek「OS2/OS1(シングルモード)」+SFPトランシーバーを使う。ここでも光ケーブルは一般的な低価格のケーブルを使用。
さらにSFPトランシーバー、TP-Linkの「ギガビット/SFP10km」(シングルモード)も5000円以下の、特別な高級品というわけではない手頃な価格の製品だ。

光ケーブルは、10Gtek OS2/OS1 シングルモード ¥1,099(税込、3m)を使用。トランシーバーは、左がTP-Link ギガビット SFP 10km シングルモード ¥4,797(税込、1個)で、右がStarTech.comのHP製品互換SFP+モジュール ¥11,689(税込、1個)
ダイアナ・クラール『ターン・アップ・ザ・クワイエット』から「ライク・サムワン・イン・ラブ(192kHz/24ビット)」を聴いてみると、ここまでニュアンス豊かで、瑞々しく生々しい音が聴けるなんて、正直、想像を大きく超えた驚きだった。本アルバムは、米国の録音史上最強と言える、アル・シュミット、トミー・リピューマのゴールデン・コンビが録音制作した超傑作アルバムなのだが、その“超”の付く録音の素晴らしさを思い知らされた。
気がつけば、クラール嬢が眼前にスックと立ち現れて、私の耳元に息を吹きかけて、そっと歌っている。手を伸ばせば触れそうな音像のリアリティ。彼女の体温も心臓の鼓動まで感じられる。これには誰しも鳥肌ものの感動があるはずだ。

和田邸の再生機器。今回はソウルノート「P-3」+「M-3」と、YGアコースティクス「Hailey 2.2」をお借りした
光接続の効能は何か。光接続では、LANを通じて混入するノイズを電気的に遮断する。バックグラウンドノイズが減少して、音像が明瞭となって前に現れるようになるのだ。ヴォーカリストや、ソロ楽器に実在感を強く感じたい人には、光アイソレートは有効な手段と言える。
確かにメタルケーブルと比べて差はあるが、それほど音が激変するものではない。大切なのは、ネットワーク環境がよく整備されていること。その環境に置いたネットワーク・ストリーマー/プレーヤーが優秀な製品で、間違いのない接続を行なえば、ネットワーク・オーディオ/ストリーミング再生では、「本当にこんなに良い音が!」と驚くハイレゾストリーミング再生が叶うことが良く分かった。
さらに、アナログオーディオと違って、ケーブル類に過大な投資をしなくても一般的なケーブルで、充分に満足できる良い音が聴けるということが分かったのも大きな収穫だ。
【検証3】SFPトランシーバーで、“こんなに音が変わっていいのか!”

「DMP-A10」のSFP端子に光LANケーブルをつないでいる
最後に、StarTech.comの「HP製品互換SFP+モジュール」を試してみた。5000円くらいの製品から1万円越えの高級品に替えた訳だが、光ケーブルはそのままである。結果は、SFPトランシーバーで、「こんなに音が変わっていいのか!」と、大きな驚きがあった。しかも、音が変わっただけではない、良くなっているのだ。
ダイアナ・クラールが目の前で歌っているように感じられる生々しさはそのままに、ダイアナ嬢が弾くグランドピアノは、正にグランドピアノというサイズ感と重量感を伴って眼前に現れた。ギター、ドラム、ベースと、ダイアナ・クラールがバンドを引き連れて突如現出したのである。LPやCDのようなフィジカル・ソフトを再生しているのではないにも関わらず、このように、手応えがある音楽再生が叶ったことに、今更ながら驚いている。
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良く整備されたネットワーク環境に、高性能のネットワーク・ストリーマー/プレーヤー(今回はエバーソロDMP-A10)があれば、充分に意を尽くしてお金をかけたオーディオシステムで聴くフィジカル・ソフトを再生した音に、遜色の無い再生が叶うことがわかった。
恐らく僕の場合は、中古レコード店にゆく回数が減りそうだが、それはちょっと寂しい気がする。中古レコード探しは僕の元気の源である。と言いながら、コバズでアルバム検索に熱中していると、あのLPは持っていない、このLPも探さなくてはと、物欲は止まることがない。ソフトのコレクションは、オーディオの重要な楽しみのひとつだから。

和田さんは先日、自身の音楽遍歴を綴った書籍「楽しい音の鳴るほうへ: はちみつぱい・和田博巳の青春放浪記1967-1975」(¥2,200、税込、アルテスパブリッシング刊)を上梓した。オーディオ評論家とはまた違う、和田さんの横顔が楽しめる一冊を、ぜひお読みいただきたい
今回の試聴テストでは、ハイレゾストリーミングの高音質再生に、光ケーブルやSFPトランシーバーの選び方で、さらに大きな活路が見出せそうなことが分かった。フィジカル・ソフトには、気が向いた時にいつでも戻れば良い。
私はとにかく、エバーソロDMP-A10を注文してしまった。ここ当分は、DMP-A10を使った、まだ聴いた事のない、新旧とり混ぜた、魅力的なアルバムの発掘に熱中することになりそうだ。ジャズ、クラシック、ロックを合わせれば、そのタイトル数は膨大なものになるに違いない。
音楽中心主義を貫く私には、DMP-A10はかけがえのない強い味方となると思う。あと10年も生きれば充分と思っていたが、何と言っても1億曲が聴き放題なのだ。食べ放題や飲み放題にはまったく興味がないが、聴き放題となれば、しかも、音質はすこぶる良くできる可能性が大となれば、話は別である。
DMP-A10が、技適の認証をクリアー! WiFi&Bluetooh機能が使えるようになる

DMP-A10はこれまで、WiFiやBluetoothを使った再生には対応していなかった。これは技適(技術基準適合証明等)の認証を取れていないためだったが、今回それを無事クリアーし、無線機能が使えるようになった。5月以降に出荷されるDMP-A10には「技適ステッカー」が貼られ、写真のアンテナが付属してくるとのことだ。なお今回、ジドゥの「UHD8000」も技適の認証を受けたとのことで、こちらも5月以降に出荷される製品には技適ステッカーとアンテナが付属する。