ネットワークオーディオの草創期である2010年創業、颯爽と登場したのがオーレンダーである。2013年にリリースされた同社のフラッグシップのネットワークトランスポートW20にして、既にデザイン/機能性/操作性が優秀、サウンドももちろん素晴らしく、私は早速導入し、現在も現役で稼動してくれている。

Network Audio Player
aurender
A1000
¥599,500 税込
●型式:ネットワークオーディオプレーヤー
●接続端子:デジタル音声入力5系統(同軸、USB Type A×2、USB Type B、ARC)、アナログ音声出力1系統(RCA)、デジタル音声出力2系統(同軸、USB Type A)、LAN端子1系統(RJ45)ほか
●主な対応ストリーミングサービス:Qobuz、Spotify、TIDALほか
●対応アプリ:Aurender Conductorアプリ
●備考:楽曲データ保存用ストレージスロット(2.5インチベイ)あり、AirPlay対応、Bluetooth(aptX HD)対応
●寸法/質量:W350×H97×D356mm/8.3kg
●問合せ先:aurender Japan
最新モデルA1000は、これまでリリースされてきた同社製品中で最もコンビニエントかつ多機能なネットワークプレーヤー。アルミを主とした筐体設計/デザインは、同社の流儀に則ったもので、シンプルな中にも精悍さのある、なかなかの“イケメン”ぶりだ。6.9インチのフルカラーLCDディスプレイの視認性も高く、背面に備わる入出力端子の内容も今日の水準からして過不足ない。
その内部には、旭化成エレクトロニクスのDACチップAKM 4490REQを左右独立で配したD/Aセクションが高精度に組まれている。ここに2.5インチストレージベイ(最大8Tバイト容量に対応)が組み合わされており、さらに再生時は120Gバイトの内蔵ストレージが音楽データを一旦キャッシュし、信号をトリートメントした後に再生される。これがオーレンダーの一番の真骨頂といえる部分だ。対応サンプリングレートは768kHz/32ビット PCMと、22.4MHz DSD。電源はデジタル/アナログ回路基板それぞれに分離されたトロイダルトランスから給電される構成。Bluetooth LE方式のリモコンが付属する。

DACセクションを搭載し、アナログ音声出力端子を備えている。筐体右上に2.5インチベイがあり、HDD/SSDなどのストレージを格納できる
一度キャッシュしてデータを再生。その手法がQobuzでも大いに有効
オーレンダーは早くから自社設計のオリジナルアプリ(iPad用)を提供していた。「Aurender Conductor」と命名されたそれは現在Ver.4まで進化し、より見やすく、使いやすくなっている。メイン画面からのストリーミングサービスはアイコンの選択で叶い、検索・再生への移行や内蔵ストレージからの再生を含め、キュー/プレイリスト表示が統一されていてわかりやすい。もちろん本体の設定や各種機能のコントロールもこのアプリ内で可能。私自身が日頃自宅でW20を使っていて慣れていることもあり、Qobuzで試聴した今回の取材も一切ストレスなく操作できた(iPhone版やAndoroid版もあるが、取材ではiPad版を使用)。

ネットワークオーディオ黎明期から長い経験を持つオーレンダーは、わかりやすく使いやすいアプリ「Aurender Conductor」を提供している。以前はiPad用だけが用意されていたが、現在はiPhone用、Android用アプリもリリースされている。アプリで「クリティカルリスニングモード」という音質重視の設定にすることが可能だ

女性ジャズ・ヴォーカリスト、サマラ・ジョイの新作では、若々しくて瑞々しい質感の声が宙にポッと浮かんだような感覚。抜けのよい、澄んだ声が手を伸ばせば触れられそうなリアリティで、これがキャッシュ後に再生するオーレンダー機共通の魅力といえよう。その独唱部から四管アンサンブルを軸とした伴奏が加わったところで、音場の左側からアルトサックス、トロンボーン、トランペット、テナーサックスの各々の配置がくっきり見通せ、実に生々しい定位感が現われた。
上原ひろみの新プロジェクトHiromi’s Sonicwonder「Go Go」では、アドリアン・フェローのベースのフィンガリングが実に緻密に表現され、そのビートは深々としたもの。キックドラムの重量感と合わせて、安定したリズムの上をピアノやトランペットが立体的に展開する様が印象的だ。A1000の解像力と空間表現力は大したものだと思う。
バレンボイム指揮ベルリン・フィルによる「フォーレ:ペレアスとメリザンド 第4曲」では、弦の和音のハーモニーが非常に美しく、響きの静謐さによっていっそうの奥行感がもたらされている。クレッシェンドしていく展開での高揚感が堪らない。
ここで本機に備わる「クリティカルリスニングモード」を働かせてみた(専用アプリから設定)。本体前面のディスプレイが消えるなど、回路/機能の一部がシャットダウンされる。これで聴く「ペレアス〜」は、音場の立体感と分解能が一段と高まった。フォルテシモではさらに力強く、ダイナミックレンジが増すような印象だ。
冒頭記したように、私はW20をずっと愛用してきたが、もしもオーレンダーのデビュー作がA1000だったとしても、私は本機の導入を検討していただろう。よくぞこの価格でここまでの完成度を実現したものだと、感心しきりの取材であった。
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>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』