視聴室は評価の基準であり生命線である。その基準が揺らいではならない

 HiVi視聴室のリファレンススピーカーが、替わった。これまでのモニターオーディオ・Platinum Series IIからBowers & Wilkinsの800 Series Diamond(以下、800 D4シリーズ)に変更になった。オーディオビジュアル専門誌の視聴室の標準スピーカーが替わることが、どれほどの意味合いを持つのか。

 リファレンスルームおよびリファレンスシステムのミッションは、評価の基準を成すことだ。それは、ハードウェア機器の性能を測る基準であり、同時にディスクや配信のコンテンツの画質、音質を評価する基準でもある。

 しかも雑誌やウェブ記事取材の場だけでなく様々なメーカー/代理店がその取扱う機材を評論家/媒体に導入する際の、製品披露の場にもなる。だから、その基準は徹底的に厳密でなければならないのである。基準が揺らいでいてはハードもコンテンツも正確なジャッジメントは不可能だ。

 では基準を形成するには何が肝要か。まず客観的な評価を可能にする条件を備えたスクリーニングルームでなくてはならない。それが録音スタジオ音響を目指して設計された約5.2×4.7メートルの寸法のHiVi視聴室だ。壁面には吸音板と反射板をバランスよく配置、残響特性は、かなりデッド(吸音指向)にしている。一般家庭のリスニングルームは「楽しむ音響」だからライブ(音が響く)環境が望ましいが、HiVi視聴室は「規範」であり、ハード、コンテンツを問わずその本質を探求する役割から、デッドを選んだ。音響でのリファレンス性に加えて、HiVi誌のコンセプトである「ホームシアターの規範」にも鑑み、視覚的対策も行なわれた。左右と後方の壁と吸音・反射板はベージュ、天井とスクリーン後方壁面は黒と、スクリーンや直視型ディスプレイへの反射の影響を最小限に抑制している。

 

リファレンス機器の3条件

 部屋の次は、リファレンス機器だ。その条件は3つある。

  その時代の機器として、再生する映像、音のクォリティが最上であること。この部屋で再生/チェックする対象機器の性能を正確に測るという意味からも、さらに機器が有する映像、音の表現力のレベルを測るというミッションのためにも、必要な条件だ。たとえば、UHDブルーレイプレーヤーをテストする場合、その映像出力、音声出力のクォリティ、さらには表現力を正確に測るリファレンス機器には基準性がなければならない。それは「原器」と言ってもいい。

  機器には普遍性がなくてはならない。特定のメディア、コンテンツに対して偏重性を持つ(音でたとえるとクラシックは良いがポップスは不得意とか、映像でいえばビデオ系は良いが映画は不向きなど)ことは、あってはならない。映画音響のD(ダイアローグ)、M(ミュージック)、S(サウンドエフェクト)の3要素で、Dは良いけれど、Sはだめというシステムでは、HiViでの用をなさない。

  モニター性とエンタテインメント性の高次のバランス。リファレンスルームは検証の場である。そこでは厳密な意味でのモニター性は絶対に必要だが、そもそもHiViのミッションが「本物のエンターテイメントを愉しむ」ことにあるわけで、単に技術的な検証用の映像、音再現のみでは、それは満たせない。コンテンツに含まれるエモーションを引き出して、それをどれぐらい濃密に感じさせるかという、エンターテイメント再現性も必要だ。

 

新たに加わったB&W800 D4シリーズは多種多様な機器、作品を扱うHiViにふさわしい資質を有する

画像: リファレンス機器の3条件

B&W 800 D4シリーズを新採用

 ではリファレンススピーカーについての条件を述べると、①音色再現の正確さ、癖のなさ、特定のコンテンツに偏重しない公平さ、②サラウンド音場再生のための、同系ユニットでサラウンド製品が展開がされていることである。そこで冒頭に述べた最新のトピックである。リファレンス機器のスターとも言うべき、スピーカーシステムが刷新された。これまでのモニターオーディオ・Platinum SeriesⅡからB&Wの800 D4シリーズに変わった。フロントL/Rが802 D4、センターがHTM81 D4、サラウンド/サラウンドバックが805 D4、サブウーファーがDB1Dだ。目をむくような高級機器だが、すでに世界的に録音、マスタリングのプロの現場で、モニター用途として広く使われている定評のある製品群だ。

 実はこれは編集部が勝手に独断で変更したのではない。HiViを支える評論家の各氏に諮問し、実際に聴いて、HiViのミッションに最適だと判断されたから選んだのである。各氏がどのようにこのB&Wシステムを聴いたかについては、2024年のHiVi誌面で紹介されているので、ご覧いただきたい。ちなみに私は潮晴男氏と、ジェームス・キャメロン監督作品の『タイタニック』などの旧作UHDブルーレイを聴き、B&Wの作品性を尊ぶ深い再現性に刮目したことは、記憶に新しい(2024年夏号)。

 今回、正式に稼働したタイミングで再度、HiVi的な観点から、B&W 800 D4シリーズが持つ意味合いと意義について再度、考察した。HiViは映像なしの2chステレオ音楽作品から、映像付きのサラウンド収録の音楽作品、映画の三次元立体音響作品まで、多種多様なコンテンツを扱う。リファレンススピーカーは、このすべてに対応しなければならない。

正確性に加わる感動と昂奮

 まず2ch音源を802 D4で聴く。SACD/CDプレーヤーとプリメインアンプは、HiVi視聴室のリファレンスである、デノンDCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITED。

 CD「チーク・トウ・チーク/情家みえ」(UAレコード)は、質感が格段に高い。それは音の表面がしなやかで、同時に内部に細かな音の粒子が蝟集し、音の核がリジッドに存在し、レンジ感の天井が高く、しかも、ここが大事なところだが、感情表現が豊潤で、ディテイルまでたいへん細やかだ。この表現については、UAレコードの作り手としても、とても納得するところだ。音場も豊か。空間が広く、深い。そして何より音色に非常に質感の高い艶が乗る。これはまさにB&W 800 D4シリーズのワン・アンド・オンリーの美点だ。HiViでのリファレンス性とは、モニターにスピーカーとして音の素性を厳密に検証することに加え、音楽であれば、どれほどの音楽性があるのか、映画であればどれほどの感情が持てるかこそが肝要なのだ。この「艶」の多少は、コンテンツにどれほどのエモーションがあるかのメルクマールでもある。

 ではマルチチャンネル音楽映像はどうか。UHDブルーレイ『Feel like Making Live!/ボブ・ジェームス』のドルビーアトモス。ベッドスピーカーが同一シリーズのスピーカーならではの緊密音場であり、オーバーヘッドスピーカーのイクリプスTD508MK4スピーカーとの繋がりも良く、包まれ感が心地好い。音場に高密度に充満したキーボードの表情の機微が、実に細やかに再生される。アコースティックとエレクトリックというピアノの使い分けによる音楽性の違いも明瞭。そうした正確性に加え、スイングやグルーブも高感度だ。

 次に映画。『トップガン マーヴェリック』のチャプター2。D/M/Sを実にリアルに再生するスピーカーだと、判断した。セリフの偉容な剛性感、効果音の飛翔音/移動感、ハンス・ジマーのせき立て畳みかける音楽の緊迫感……など、このチャプターが持つテンションの高さ、緊迫感、挑戦への切迫感……などの意味合いを、臨場感豊かに、しかもハイクォリティに聴かせてくれた。特に「凄み」「慶び」「驚き」……という感情表現が濃く、それが場の雰囲気、空気感を雄弁に物語った。マッハ10を超えたときの感動と昂奮は、スクリーンでの出来事と自分が共振するようだ。

 最新のB&W 800 D4シリーズで2ch、マルチチャンネル音楽、アトモスの映画をHiVi視聴室で聴いてきたが、HiViという多種多様な機器、コンテンツを扱うメディアのリファレンスにふさわしい資質を有していると、私は確信したのである。

 

>【HiVi視聴室の新リファレンスシステム】スピーカーシステム編〜B&W800 D4シリーズを語る

 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』

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