JET6トゥイーターの快進撃が話題のエラックだが、勢いに乗っているのはそればかりではない。エントリークラスとして人気のDebutシリーズも第3世代へと進化した。
ハードドーム型高域ユニットを Debutシリーズとして初採用
Debutシリーズではこれまでのソフトドーム・トゥイーターを採用していたが、25mmアルミ製ハードドーム・トゥイーターをシリーズとして初めて採用しているのが注目だ。このカスタムメイドのトゥイーターには、見た目にも印象的なフェイズプラグが組み合わされている。トゥイーターユニットを支えるフレームは、浅いすり鉢状の形でウェイブガイドの機能も持つ。中心にあるトゥイーターのドームに重なるように細い銀色のラインを描くフェイズプラグが配置される。シンプルでモダンなデザインだが、どことなくレトロな印象もあり、魅力的な顔付きだ。
ウーファー/ミッドレンジには、前作から改良を加えた135mmアラミド・ファイバー振動板を採用。磁気回路を大型化し38mm口径のボイスコイル・エンジンにより正確で力強い低音再生を追求している。
シンプルな形状のエンクロージャーは、厚さ16mmのMDF材で構成され、トゥイーター/ミッドレンジ部分を密閉して独立した空間を確保する。これは強度を高めるブレーシングとしても機能しており、サイズの大きいフロアー型ではさらに下部にもブレーシングが入っている。外観の仕上げは艶消しのブラック。シンプルだが無駄のないすっきりとした外観だ。
また、ケーブル接続用の端子は金メッキ仕上げの大型タイプで、バナナプラグやYラグ端子などに対応。バスレフポートは両端が広がったデュアルフレア形状で風切り音を抑制。重要なパーツは決して手を抜いていない。
なお、保護用のグリルはマグネット式になっていて、取り付け用の穴はない。こうした意匠もモダンな印象を高めている。
Debut3.0シリーズは、フロアー型のDebut F5.3、ブックシェルフのDebut B5.3、センター用のDebut C5.3、そしてドルビーアトモス再生のためのイネーブルドスピーカーのDebut A4.3がラインナップされるが、ユニット構成こそ異なるものの、すべて上記のトゥイーターとウーファーを使用している。これは、ドライバーユニットの共用によるコスト削減の意味もあるだろうが、シリーズでサラウンド再生システムを組んだときの音のつながりの良さにも貢献すると思われる。
もちろん、印象的なトゥイーターを中心とした見た目も揃っているのでシステムとしての統一感もある。あまり外観にコストをかけられないエントリークラスながらも、統一感のあるその姿はなかなかスマートだ。
Debut B5.3とF5.3をステレオ再生で試す
まずはブックシェルフのDebut B5.3からステレオ再生の状態で聴いた。再生システムは、SACDプレーヤーのデノンのDCD-SX1 LIMITEDとAVセンターの同AVC-A1HDを使い、バランス・アナログ接続で聴いている。
Debut B5.3/クセのない溌剌サウンド
アニメ映画『ルックバック』のサントラCDから主題歌「Light song」を聴く。透明感のある澄んだ歌声がクリアーに響く。声の質感も出るし、ウーファーとのつながりがよく、厚みもある。ミュートピアノの独特な音色は少し硬質になるが、これがDebut 3.0シリーズの音の個性と思われる。鮮明でクリスピーな高域だが、音の輪郭をなぞるような強調感はなく、クセのない明るく溌剌とした音だ。低域はブックシェルフとしては十分に出ているが、過度に突出することもなくスムーズな鳴り方。あまり目立たずに中高域をしっかりと支えている。後半のコーラスもしっかりと奥に広がり、音場感も豊かだ。
SACD『over/オフコース』は、小田和正の高い声をしなやかに聴かせてくれる。センターにフワリと浮かび、一歩前に出てくるような独特な音像定位が印象的だ。発声は明瞭でリヴァーブの感じや強弱のニュアンスもよく出る。もちろん男性らしい落ち着いた声に込めたエネルギー感もしっかりと出る。JET6トゥイーター搭載の上級機とは感触が異なるものの、こちらもまとまりがよく、魅力的な再現だ。
Debut F5.3/クリアーで強力な音
続いては、フロアー型のDebut F5.3。同じ135mmのユニットをスタガー駆動でミッドレンジ、ウーファーとして使っている。「Light song」のクリアーな歌声がフワリと浮かぶような再現はDebut B5.3と近い印象で、低域はよりローエンドまで伸びるが、バランスとしては控えめ。過度な量感の膨らみを抑えたタイトな低音と感じる。ミュートピアノのペダルを踏む感触、低音域の深い沈み込みなど存在感のある鳴り方だ。コーラスの広がりもより奥行を増し、教会録音のような天井の高さを感じる空間の描写などもなかなか上手い。
『オフコース/over』から「言葉にできない」でも、ハイトーンな歌声をクリアーに、そして力強く描く。低域は控えめとも感じるが、男声の厚みやボディ感をしっかりと出し、等身大で現れる音像がリアルだ。低音が張り出しエネルギーたっぷりに鳴らすのではなく、落ち着いたトーンでしかし、不要な虚飾なしに音楽を表現するタイプ。音楽再生でもジャンルを選ばないし、映画でもリアルな音をストレートに鳴らすタイプだ。
サラウンド再生を試す最新映画の強烈な低音も緻密に描写
今度はサラウンドを試す。フロントにDebut F5.3、サラウンドにDebut B5.3、センターにDebut C5.3、イネーブルドスピーカーとしてフロントのDebut F5.3の天面にDebut A5.3を設置。Debut F5.3とDebut A4.3は横幅/奥行が同寸なので重ねて置いてもすっきりとしたフォルムが崩れないのもいい。サブウーファーは既存製品のDebut S10.2とした5.1.2構成で聴いた。
『オッペンハイマー』のトリニティ実験のシーン。緊迫感を盛り上げるBGMがくっきりと描かれ、動き回る人々の動きも明瞭な定位で移動感も豊か。チャンネル間のつながりは予想通り良好で、監視所として使われている狭い小屋内のざわざわとした感じの空間感がリアルだし、屋外で実験を見守る政府高官や兵隊らの落ち着かないそぶりを細かな音まで明瞭に再現する。
爆発直後のほぼ無音になる場面での、人々のため息にも似た息づかいも生々しい。そして遅れてやってくる強烈な衝撃音はややタイトではあるが十分にパワフル。そして、揺れ動く小屋の中であちこちが軋む様子や吹き付ける爆風音などをきめ細かくリアルに描写する。高域だけでなく、低音域の解像感も高く、細かな物音のひとつひとつに重量感がある。
神の領域とも思われた原子核分裂を実証した喜びと、その威力の大きさに怖れを抱くオッペンハイマーの心情がよく伝わる音だ。力強さで押し通すのではなく、爆音の中の細かな音の再現、緻密な表現力で、映画が投げかけるメッセージを伝えるのは見事だ。
『デューン 砂の惑星 PART2』では、ポール・アトレイデスが砂の民の戦士としてサンドワームを乗りこなす最後の試練に挑む場面を見た。サンドワームが近づくときの地鳴りにも似た空気の震える感じがリアルだ。タイトな感触だが、まさに地を這うような低音の響きはしっかりと出て量感や広がりにも不満なし。思った以上に大物のサンドワームが現れ、見守る砂の民が動揺する様子もよく伝わる。眼前にまで迫ってくるときの音圧の上昇もエキサイティングだ。
サンドワームに飛び乗り、スパイクを使って頭頂部を目指すときの砂嵐のような向かい風のうなるような低音や砂の音の包囲感、移動感も生々しい。こうした重低音が長く持続するような厳しい音響にも負けずに鳴動するウーファーの底力もなかなかのものだ。
●
最新のムービーサラウンドの肝心なポイントである低域の解像感までしっかりと聴けたことには感心した。こうした緻密な再現はエントリークラスとは思えない。
エラックではどうしてもJETトゥイーター搭載機に関心が集まるが、第3世代に進化したDebutシリーズも、価格を超えた価値を持った魅力的な存在としてお薦めしたい。
リファレンス機器
●プロジェクター : JVC DLA-V9R
●スクリーン : キクチ Dressty 4K/G2
●SACDプレーヤー : デノンDCD-SX1 LIMITED
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
●AVセンター : デノンAVC-A1H
>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』