オーディオテクニカ始まって以来の高額な製品がデビューした。しかもそれがヘッドホンアンプとあっては驚かずにはいられない。先般、東京での発表に合わせてこの注目モデルを体験してきたので、そのインプレッションをお届けする。

 今年8月11日から開催された「Hong Kong High-End Audio Visual Show 2023」で初めてお披露目されたこの製品は「HPA-KG NARU」といい、専用ヘッドホン「AW-KG NARU」が付属した総称を「鳴神(NARUKAMI)」と呼ぶ。本体価格¥13,200,000(税込)と言う超弩級モデルである。

画像: 「鳴神(NARUKAMI)」のヘッドホンアンプ部「HPA-KG NARU」。正面と側面のパネルに黒柿を使用

「鳴神(NARUKAMI)」のヘッドホンアンプ部「HPA-KG NARU」。正面と側面のパネルに黒柿を使用

 「Hong Kong High-End〜」での発表当日、僕もウルトラアートレコード「エトレーヌ」のSACDをデモするため同じ会場に居合わせたので実機を目にすることはできたが、残念ながら試聴は叶わなかった。今回ようやくサウンドを聴くことができたわけだ。

 香港で製品のアウトラインは教えてもらったが、正直その時はとんでもなく高価に感じていた。しかし今回、東京で改めて解説を聞き、なぜこれほどのプライスになったのか、納得した。

 HPA-KG NARUは全段バランス設計の管球式ヘッドホンアンプだが、シングル駆動で贅沢にも4本の300B出力管をあてがっている。さらにこのモデルにはスペアの真空管も同梱されているが、これらはすべて国産の高槻電器製TA-300Bで、市場価格は1本20万円を越える。

画像: 天面の装飾は枯山水をイメージした紋様があしらわれている。フロント側のメタルパネルには日本伝統の綾杉と呼ばれる装飾が施された

天面の装飾は枯山水をイメージした紋様があしらわれている。フロント側のメタルパネルには日本伝統の綾杉と呼ばれる装飾が施された

 さらに出力トランスは純銀製巻き線とアモルファスコアを使ったルンダール製を4基搭載しており、価格は1基数十万円だという。これだけでもざっと見積もって300万円を遥かに超えている。当然ながらこうしたハイエンドの部材、チープな抵抗やコンデンサー、真空管のソケットを組み合わせるわけにはいかない。そこでもコストはアップすることになる。

 外装も凝っており、なんと黒柿の板を使い、シャーシやボンネットにも和風の意匠が凝らされている。こうしたことを考え合わせると、鳴神(NARUKAMI)はもっと高価な製品になってもおかしくない。受注生産と言うのも頷ける。

 そしてぼくがなにより驚いたのは、鳴神(NARUKAMI)の梱包箱である。重量50kgの高価な機材を運搬するためとはいえ、これほどがっしりとしたハードケースに入ったオーディオ製品は見たことがない。しかも設置にはオーディオテクニカのスタッフがもれなくついてくると言う念の入れようである。

画像: 「HPA-KG NARU」に搭載された300B真空管は、ヘッドホンアンプ用に選別されたもの。本体下部には「TAKATSUKI」と「AUDIO TECHICA」のダブルブランドを明記

「HPA-KG NARU」に搭載された300B真空管は、ヘッドホンアンプ用に選別されたもの。本体下部には「TAKATSUKI」と「AUDIO TECHICA」のダブルブランドを明記

 試聴は、AW-KG NARUとの組み合わせで行なった。TA-300Bをシングルで動作させる仕様ながら、出力を2Wに抑えた超安全設計なので、真空管のロングライフも確実だし、音質にもプラスに働く。管球式でありながらきわめてS/Nが高く、マイクロフォニックノイズも皆無だ。TA-300Bとルンダールのトランスがもたらす音世界には、一切の“はったり”がなく成熟の域に到達していると言ってもいいだろう。

 女性ヴォーカルでは、歌い手の情感や熱量をていねいに描き出すし、直熱型3極管らしいクリアーなサウンドか味わえる。空間描写も実に自然で懐が広い。

 贅を尽くすということは、無駄遣いするということではない。最後の最後まで妥協しない物づくりへの挑戦でもある。トライしてみなければわからない世界がある限り、可能性を求めることの意義は大きい。オーディオテクニカが次にリリースするであろうハイエンドモデルへの期待が大きく膨らむ。

画像: オーディオテクニカ「鳴神(NARUKAMI)」を、潮 晴男さんがチェック! TA-300Bとルンダールのトランスがもたらす音世界は、一切の “はったり” がない成熟の域に到達している

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