スペクタキュラーなSFアドベンチャー作という括りでは、到底推し量れない雄大なスケール感を有した『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。
その非現実の映像空間に張り巡らされたサラウンドサウンドは、ほぼすべての情報が想像・創作の上で成り立っている。それをマルチチャンネル再生環境で鳴らしてこそ、仮想現実のようなバーチャル・リアリティ感が醸し出されるわけだが、私が今回臨んだのはステレオ再生。しかもハイエンドスピーカーを核とした超弩級システムでの大画面再生である。エステロンのXB Diamond Mk IIがその主役だ。
SPEAKER SYSTEM
estelon
XB Diamond Mk II
¥6,380,000(ペア) 税込 ※
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mm逆ドーム型トゥイーター、158mm逆ドーム型ミッドレンジ、220mm逆ドーム型ウーファー
●クロスオーバー周波数:85Hz、2.1kHz
●出力音圧レベル:87dB / 2.83V / m
●寸法/質量:W420×H1,260×D590mm/69kg
●問合せ先:(株)アーク・ジョイア TEL.03(6902)0480
※2023年10月20日から¥8,140,000(ペア)税込に価格改定
大型フロアー型スピーカーをメインとしてサラウンドシステムを組むには、それなりの広いスペースが必要となるが、最も厄介なのは、そのメインスピーカーにマッチするセンタースピーカーやリアスピーカーが揃えられるかという点。同じブランドからそれに該当するモデルがラインナップされていれば何の問題もないが、ハイエンドスピーカーメーカーの多くがそうしたケースには消極的なことが多い。しかしエステロンは積極的で、将来的にそのラインナップが発表、拡充されるとの由。ここでは一足早くその適性を見ておこうという目論みもある。
私はこれまでエステロンのスピーカーを数機種聴いてきて、いずれも映像とのマッチングに適したスピーカーというイメージを抱いてきた。立体的なスケール感再現に優れ、位相管理や音像描写にも工夫がされていると感じていたからだ。何より目を閉じて聴いていると、スピーカーの存在感が消え、再生している音楽の情景がホログラムのように浮かんでくるのである。そう、エステロンのスピーカーの表現力は、『情景型』という言い方が最もしっくりくると思うのだ。
その後ろ盾は、エンクロージャーに採用された特殊なコンポジット材による無共振思想と、ディフラクション(回折現象)が発生しにくい造形、そしてドライバーユニットの配置/取付けの工夫にあるように思う。一方では本機の名称の由来にもなっている逆ドーム形状の25mmダイヤモンド・トゥイーターを始め、各ドライバーユニットがいずれも定評のあるEUの専門メーカー(ドイツのティール&パートナーによるaccuton)によるカスタマイズ品であり、音色の整合性は見事という他ない。
合わせてこの取材では願ってもない伴侶が用意できた。ソウリューションのインテグレーテッドアンプ330である。強大な電源回路の恩恵もあって、駆動力の高さと圧倒的なS/Nのよさで評価されるスイス生まれのモデルだ。今回はここにオプションのDACモジュールを組み込んで、UHDブルーレイ再生を受け持つ4Kレコーダー・パナソニックDMR-ZR1からのリニアPCM信号を同軸デジタル入力で受ける形とした。プロジェクターはJVC DLA-V9R、スクリーンはキクチのグレースマット100の120インチワイドである。
ユニットはすべて逆ドーム型(コーンケーブ)で、特にトゥイーターは製品名にもある通り、ダイヤモンド素材が用いられている。CVD(化学気相蒸着法)と呼ばれるプロセスで作られたユニットで、これはエステロンの最上位機「Forza」と同様のドライバーだ。キャビネット最上部にマウントされるミッドレンジユニットは、セラミック系振動板による特別仕様だ。ウーファーユニットも、ミッドレンジと同じセラミック振動板を、ケブラー複合材をコアにサンドイッチ構造としたカスタム仕様のダイヤフラムが使われている
本機の内部構造。本体上部には、ミッドレンジとトゥイーターが近接して配置されているが、トゥイーターをわずかに奥まった位置に搭載することで、リスニングポイントで高域の位相が最適な状態で到達する工夫が盛り込まれている。内部的には、ミッドレンジとトゥイーターは密閉型チャンバーに組み込まれ、濁りがなく、分解能の高い状態での発音を目指す。一方で低域ユニットは、キャビネット底部にミッドレンジ/トゥイーターよりもわずかにせり出すように配置され、3つのユニットの正確なタイムアライメントが追求されている。キャビネットは強固なリブで高い剛性を確保、解像度の高さを保ちつつ、十分な量感と力感を両立すべくバスレフ方式が採用されている。ネットワークは底面の専用空間内にマウント、ウーファーからの影響を最小限に抑えている。パーツも徹底的に吟味された高品位部品が選定され、ハンドクラフトされている
INTEGRATED AMPLIFIER
soulution 330
¥2,695,000 税込 ※
●型式:インテグレーテッドアンプ
●定格出力:120W×2(8Ω)、240W×2(4Ω)
●接続端子:アナログ音声入力4系統(RCA×2、XLR×2)
●寸法/質量:W432×H145×D518mm/18kg
●備考:視聴は、オプションのDACモジュール(¥638,000税込)を組み込んで行なった
●問合せ先:(株)アーク・ジョイア TEL.03(6902)0480
※2023年10月23日から¥3,410,000 税込 に価格改定。DACモジュールも¥825,000 税込 に改定
エステロンの高品位スピーカーを駆動するのは、スイスメイドのソウリューションのステレオプリメインアンプ330。ボリュウム回路/入力切り替え回路/増幅回路をそれぞれ専用の回路に分離、さらにデジタル回路とアナログ回路も物理的に分離した構造を採用するなど、信号のピュアな処理に徹底的にこだわっているアンプだ。増幅段も、左右のチャンネルを物理的にセパレートした「デュアル・モノーラル・レイアウト」設計を施し、一体型ステレオプリメインアンプでありながら、チャンネルセパレーションを高度に追求した。今回はオプションのDACモジュールを組み込んで、4KレコーダーDMR-ZR1からのステレオデジタル同軸PCM信号をつないでいる
ソウリューション330の接続は、電源ケーブル/デジタル同軸ケーブル/スピーカーケーブルのみと超シンプルな状態での再生だ。電源ケーブルとスピーカーケーブルは、HiVi視聴室常備品のステレオサウンド・リファレンスケーブル(いずれも生産完了品)、デジタル同軸ケーブルも視聴室常備品のオーディオテクニカ製AT-ED1000/1.3を用いた
接続図
システム全体の接続は非常にシンプル。DMR-ZR1は音声設定にて「PCM出力」を選択、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のドルビーアトモス音声をZR1側で2chリニアPCMに変換、デジタル同軸端子から出力した
その他のシステム
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
立体的かつ、迫真性に優れた音響が映像と見事にシンクロし本当に凄い
UHDブルーレイ『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』で初めに見たのは、チャプター5の貨物列車の襲撃シーン。爆発炎上音はサブウーファーなしでも迫力がある。しかもその爆音の中に細かな情報がみっちり詰まっていることも実感できた。この辺りがエステロンの凄いところで、効果音の構造や実在感、その分解能がすこぶる高いのがわかる。また、弓矢や機関銃の音にもスピード感があり、対角線移動の軌跡が明瞭。ここにはダイヤモンドトゥイーターやセラミック振動板のスコーカーなど、振動伝播速度の速いマテリアルを採用したドライバーユニットの威力が現われているように思う。
飛行体の描写もエステロンは実体感に満ちている。オマティカヤ族が移動手段として操る翼竜イクランの羽ばたく音のサイズ感の表現に優れるし、チャプター10のブリッジヘッド・シティから「リコンビナント」として復活したクオリッチ大佐たちが出陣するシーンのティルトローター機の大きさや重たさがそのローター音から実感できる。ステレオ再生にも関わらず、水平方向のみならず垂直方向に移動する様子も克明に再現された。こうした点もスピーカー単体としての全帯域に渡る位相管理がしっかりしていることが伺える。
チャプター11、鬱蒼としたジャングルに降り立つクオリッチ大佐の一行。虫や鳥、獣の声が四方八方から聴こえる。その様子もまたステレオ再生でも充分に立体感が得られた。ジメジメとした強い湿気が、彼らが踏み均す草木の足音とともにスクリーンに投写された映像にしっかりシンクロしている。こういう微かな効果音のリアリティ、迫真性がエステロンは本当に凄い。もちろんそれは、ソウリューションの類い稀な高S/Nと駆動力に負う面も大きいとは思うが。
部族の存亡のため、自ら部族を去る決意をしたジェイク一家。放浪途中に遭遇する嵐や雷鳴、強烈な波飛沫の音が縦横無尽に行き交う様も圧巻だった。やがてナヴィの海洋民族・メトカイナ族の村に身を寄せることとなるが、その海中シーンは、水圧に伴なう閉塞感の中に泡、呼吸といった海中の物音にさらに音楽が重なって、まるで私たち視聴者も海の中に一緒に居るような錯覚を味わった。こうした同一空間性の表現もまた、ステレオ再生ではなかなか味わえない。エステロンのパフォーマンスには感心させられることしきりだ。
チャプター30で狂暴な魚に襲われるロアク。珊瑚を噛み砕く音に緊迫感を煽る音楽が重なってのスリリングな場面では、早まる鼓動や剣を落とす音、群れから離れたトゥルクンのパヤカンの鳴き声など、大小様々な効果音が重なり、そのリアリティも生々しい。
凄まじいスケール感に圧倒された!効果音の質感の違いも明瞭に表現
トゥルクン狩りのシーンとなるチャプター46。地球人が乗る母船シードラゴンから数々のロボットやボート、潜水艇が発進する。それら機械の無機的な音に加え、爆雷の発射音の迫真性が素晴らしい。
チャプター55では、メトカイナ族とともに奇襲攻撃を仕掛けるパヤカンの巨大なサイズが、飛び跳ねて船上に乗って暴れる様子からイメージできる。飛び交う機関銃の音、砲弾の音の描き分けもたいしたものだ。前者は細くてスピードが速く、後者はそれに比べて太くてやや速度で劣る。その迫力もサブウーファーなしでの再生だと思うと立派である。
チャプター57では、爆発炎上した母船の沈没が始まる。金属の塊がけたたましい軋み音を立てながら沈んでいく様子は、轟音と合わせて凄まじいスケール感だ。その中で主人公ジェイクとクオリッチ大佐の一対一の死闘が繰り広げられるわけだが、ナイフが当たる甲高い音、殴打の鈍い音など、ぶつかる音の質の違いの描き分けも明瞭だ。
やがて二人は海中に放り出され、水圧を受けながら殴り合い、クオリッチをジェイクが羽交い締めするに至るのだが、こうした状況の変化も効果音にきっちり反映されていて、水中内では全体にナローレンジの鈍い印象となる。さらには息する際の気泡の様子なども迫真的に描かれているのだ。
母船の室内に閉じ込められて危機一髪のジェイクの妻ネイティリやその娘トゥクの苦悶も、閉塞空間特有の息苦しさに沈んでいく母船の崩落音なども伴なって、シーンのテンションを煽る感じが実に上手い。さすがに音量を上げ過ぎたようで、ところどころでウーファーがボトミングを起こしてクリップしたが、それでもエステロンの再生音から窮屈さや限界オーバーの印象は受けなかった。
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結論を述べると、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のスペクタキュラーな空間音場を、ステレオ再生であっても素晴らしい絵とともに楽しむことができた。しかしそれは、すべての“2chシステム”で同じレベルで満喫できるかというと違うだろう。エステロンXB Diamond MkⅡの卓抜した設計方針が高い次元の“リスニング・プレジャー”をもたらしたといってよく、すべてはそのポテンシャルがものをいうのは確かであるといいたい。
本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』