2003年のセクハラ事件でうつ状態に。その後の長い低迷期から見事に復活!

 長きにわたり遠ざかっていた第一線にカムバック。“おめでとう! ブレンダン・フレイザー”。しかもアカデミー賞主演男優賞に輝いての復帰だから、華々しい栄光だ。

 受賞作となった『ザ・ホエール』は、ダーレン・アロノフスキー監督によると「人間としての極限状態。命を脅かすほどに深刻な状態」の272キロまで増量してしまった男の、最期の5日間を描いた人間ドラマだ。

 主人公はとにかく、デッカイ! 演じるブレンダンは、毎日4時間もメーキャップに費やし、45キロのファットスーツを身に着けていたそうで、動くだけでも物理的にキツかったということは想像できる。

 しかし、その容易に動くこともままならぬほどの巨体の奥に溜め込んできた、孤独な男の苦悩と懺悔を体現する演技力には圧倒されるばかり。ときにアロノフスキー監督のエグい演出(いい意味だけど)にもしっかり応え、こんなに深みのある感情表現をするなんて……。

 ブレンダンが、「ハリウッドの大物から2003年に受けたセクハラでうつ状態になり、それを機にキャリアが低迷した」ということはすでに伝えられている。その苦しい経験が、今回の演技に生きていると感じるのは酷だろうか? 当然、ご本人にすれば死ぬほど辛かったに違いないのだけど……。

画像: 毎日4時間もの時間をかけて、体重272キロの男になっていくブレンダン

毎日4時間もの時間をかけて、体重272キロの男になっていくブレンダン

画像: ブレンダンの表情がはっきり見えるよう、メーキャップには新しい手法が用いられ、血管までもリアルに引き出した

ブレンダンの表情がはっきり見えるよう、メーキャップには新しい手法が用いられ、血管までもリアルに引き出した

画像: ファットスーツは5人がかりで着脱しなければならなかったという。不自然さをまったく感じないメーキャップとブレンダンの演技には驚くばかりだ

ファットスーツは5人がかりで着脱しなければならなかったという。不自然さをまったく感じないメーキャップとブレンダンの演技には驚くばかりだ

澄んだ瞳と美しさに釘付けになった『青春の輝き』

 私がブレンダンを見初めたのは『青春の輝き』(92年)だから、はるか30年も昔のことだ。まだユダヤ人差別が色濃い1950年代を舞台に、最終学年で名門校に転入してきたフットボールの奨学生デヴィッドが体験する恋と友情が描かれる。主役を演じるブレンダンは、フットボール選手役にふさわしく、逞しいボディの爽やかイケメン。つぶらな大きな瞳が澄みきっていて、聡明さと美しさを際立たせていた(現在も、この眼差しは健在)。

 そして友人役には、同年制作の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』で、名優アル・パチーノに念願のアカデミー賞主演男優賞をもたらしたクリス・オドネル、5年後の『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)でハリウッドの寵児となったマット・デイモン&ベン・アフレックなどがキャスティングされ、いわば次世代スターの宝庫であった。

 クリスも気になったが、アイドルグループでもセンター推しの私としては、やっぱり主役のブレンダンに目が行く。以後、『きっと忘れない』(94年)や『ハード・ロック・ハイジャック』(94年)などの出演作を追いかけて、『ジャングル・ジョージ』(97年)あたりで「彼のキャリア、大丈夫かな?」と危惧しはじめた。

 そして、やっと『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(99年)が大ヒットしたのでひと安心。まぁ、正直なところ作品自体は『インディ・ジョーンズ』の二番煎じ感が否めないけれど、それでもブレンダンがブレイクしたのだからから“良し”とした。

『ハムナプトラ』のときのブレンダン。現在は外見がだいぶ変わっているが、キラキラと輝く瞳は昔のままだ。アカデミー賞の授賞式で、名前を呼ばれた瞬間大きな瞳を潤ませた姿を見て、思わず涙してしまった人も多いのでは

『ハムナプトラ2』(01年)と『ハムナプトラ3』(08年)でまるで別人に

 で、そんな大ヒット・シリーズの第2弾『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(01年)を携えての来日で、やっと実物にご対面できた。

 ブレンダンは、穏やかな微笑みをたたえて物静かにコメント。「第一作がヒットした作品の続編を作るのは、より難しい。ファンになってくれた方々をがっかりさせないために、前作の問題点をさらって、よりパワーアップさせようと努力しました。危険なアクションにもかなり挑戦しましたが、スタッフを信じていたからクリアできました」と、あくまでも礼儀正しい優等生だった。うん、イメージよりちょっと地味? 「かなりシャイだな」と、その時は納得したのだけれど……。

 ところが、7年ぶりに『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(08年)で再び来日したときはびっくりした。というのも、共演のミシェル・ヨーとイザベラ・リョンが同席した記者会見で、しゃべりっぱなしだったのだ。

 「今回は父と息子の戦いも見どころのひとつで」と言いながら、握った両手の拳をぶつけ合い「バシッ、バシッ!」と擬音も入れ、しまいにはマイクに噛み付いた。見かねたイザベラが「ブレンダン、be good boy(いい子にしてね!)」と笑いながらたしなめたにも関わらず、ミシェルの物真似までコミカルに披露して……。

 今にして思えば、うつ病と過激なアクション撮影が原因で、あの頃から身も心もボロボロになっていたことがわかる。だけど、いきなり躁状態ではしゃぐ姿を見て、当時はなんとも痛々しく感じていた。

 というわけで、そんな数々の苦境を乗り越えて、涙のカムバックを果たしたブレンダンの今後が気にかかる。いまのところ、監督マーティン・スコセッシ、レオナルド・ディカプリオやロバート・デ・ニーロが共演の『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』と、『パーム・スプリング』(20年)のマックス・バーバコウ監督でジョシュ・ブローリン&グレン・クローズと共演する『Brothers(原題)』が撮影終了。オスカー俳優となった現在、当然のことながら“いまのブレンダン・フレイザー”にフィットしたオファーも殺到していることだろうから、これからが本領発揮だ。

 おかえりなさい、ブレンダン!
 

★関連記事★ ⇒ 美貌のアクション女優ミシェル・ヨーが“地味なおばさん”に! ハリウッドを席捲中の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアカデミー賞に大手【映画スターに恋して:第28回】

『ザ・ホエール』

4月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ブレンダン・フレイザー/セイディー・シンク/ホン・チャウ/タイ・シンプキンス/サマンサ・モートン
原題:THE WHALE
2022年/アメリカ/117分
配給:キノフィルムズ
(c) 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

This article is a sponsored article by
''.