静電気の影響を受け、表面にチリやホコリが付着しやすいアナログレコード。2018年に発売されたユキムSAA(スーパー・オーディオ・アクセサリー)のASB-1は、最先端の芯鞘構造アクリル繊維を伝統的な製法で国内生産したオーディオ用除電ブラシで、アナログレコードの表面だけでなく、CDやBDの表面、あるいはオーディオ/AV機器の端子部をさっと拭くだけで確かなクリーニング効果と除電効果が得られると評判になった。
2020年発売のASB-2ionはその進化版で、ブラッシングでチリやホコリを除去する際にどうしても発生してしまう新たな静電気を取り去る「イオナイザー」が柄の部分に装備されているのが画期的なポイントである。
さっそく自宅のレコード棚からアナログレコードを取り出し、ASB-2ionの効果を試してみた。30ミクロンという極細の毛先が、レコードの音溝に溜まったホコリをかき出してくれる。軽く表面を撫でるようにブラッシングするだけで明らかにS/Nが向上し、音像の彫りが深くなったように感じる。普段使っている湿式クリーナーよりも手間がかからず、それでいて効果が大きい。一緒に借用したASB-1でも同じように試してみたが、ここまでのパフォーマンスに明確な違いはない。
その後、ASB-2ionの持ち手部分にあるレバーを使ってイオナイザーの効果を試してみる。レバーを押した時にプラスイオンが、レバーが戻る時にマイナスイオンが放射されるとのこと。レコード盤面から10cmほど離れたところで柄の先端を盤面に向け、時計回りに4ヵ所、レバーを押す/はなすという動作を繰り返してイオンを放射する。このイオナイザーは電源のいらない圧電素子のため、半永久的に使い続けることができる。
実際に再度同じ曲を聴いてみると、これだけの作業でこんなに変わるの!?という劇的な効果が得られた。聴いたのは、2月に亡くなった高橋幸宏さんの1985年のアルバム『ONCE A FOOL,…ー遙かなる想いー』からB面ラストに収録される「今日の空」。
もともとドラムの音が驚くほど大きな曲だが、ASB-2ionでひと拭き&イオン放射後のスネアの鳴りっぷりはより痛快に。ゲートリヴァーブのかかった特徴的なサウンドが引き立つことで、楽曲そのものの魅力が増す。それでいて騒々しい印象はなく、幸宏さんのヴォーカルも分厚いバックトラックに埋もれることなく、グッと前に出てくる。切なさをたっぷり含んだ個性的な歌を指でなぞれるほど近くに感じることができるので、嬉しさや楽しさと同時に寂しさも込み上げてくる。このレコードを初めて聴いた時の感激が、何倍にもなって再現されていると感じた。
前述のように、ASB-2ionの使い道はアナログレコードだけに留まらない。CDやSACDの再生時にも使ってみたが、これも想像以上の効果だ。音場の見通しがよくなり、低域の解像度が確実に上がる。ライブラリーのディスクメディアを片っ端から拭いて聴き直したいという気にさせてくれる。この効果を考えると、2万円前後の価格はまったく高くない。