パナソニックは、毎年CES会場でヨーロッパ向けのビエラ新ラインナップを発表している。今回のCES2023でも有機ELビエラ「MZ2000」シリーズを展示、新パネルの搭載で輝度が向上している点などが注目を集めた。麻倉さんはCES会場で、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 副社長執行役員ビジュアル・サウンドビジネスユニット長 阿南康成さんと、ビジュアル・サウンドビジネスユニット 技術センター長の清水浩文さんにインタビューを実施、以下でその詳細を報告する。(StereoSound ONLINE編集部)

画像: CES2023のパナソニックブース

CES2023のパナソニックブース

麻倉 今日はよろしくお願いいたします。私はパナソニックのプレスカンファレンスを最前列で拝見しましたが、そこにあったMZ2000は素晴らしい映像でした。白の突き上げに優れているとでも言いますか、映像がとにかくクリアーです。しかも眩しいという感じではなく、透明感があって抜けがいい。ハリウッドの山頂から撮影した映像も、空気がとても澄んでいる印象でした。特に高輝度部分の再現が大きく進化していましたね。

阿南 ありがとうございます。お聞き及びとは思いますが、MZ2000ではパネル自体も大きく進化していますし、そこに弊社独自のチューニングを掛け合わせて商品を仕上げています。

麻倉 META パネルですね。開発メーカーのLGディスプレイにも取材をしましたが、パネル自体のピーク輝度が2000nitsまで再現できるようになったとのことで、絵づくりにも大きな違いがあったのでしょうか?

阿南 ひじょうに大きな革新だと思います。パネルの輝度が上がったのは、製品づくりにとっても大きなアドバンテージですから、このよさをしっかり打ち出していきたいと考えています。

麻倉 高輝度は画質の資源です。高輝度であれば、単に画面を明るくできるだけでなく、それを色再現に振り分けることもできます。

阿南 ダイナミックレンジが広がりますので、弊社が得意とする色々な再現について、余裕を持ったチューニングができています。

麻倉 もうひとつの進化ポイントは放熱とのことでしたが、この点についてはもう5年間くらいずっと取り組んでいますね。

阿南 歴代の2000シリーズでは、独自の放熱構造を備えたパネルを開発することで高輝度を実現してきていますので、今回もその技術を活かしています。

麻倉 では、今回のMZ2000シリーズに新たに搭載された技術について詳しく教えていただけますか。

清水 今回のパネルは高輝度が特長ですが、自発光パネルの場合、明るくなると焼き付きの問題が出てきます。今回も焼き付きの低減と高画質をどう両立するか、パネル開発の部分にまで入り込んで模索しました。

 また、低階調の暗部の見え方にも注意しました。忠実な黒が出せれば、より高輝度の白が活きてきます。画質処理では低輝度部分にもしっかりこだわりつつ、ピークを活かし、かつ焼き付きのケアをどう行うかに注力しています。

麻倉 ニュースリリースには、放熱ではマルチレイヤー構造を採用したと書かれています。これはどういったものなのでしょう。

清水 独自に開発した放熱のための特殊なシートを追加しています。これは、同じ世代のパネルを使っている他社製品にも採用されていません。

麻倉 そういったシートはこれまでも使っていましたが、構造が進化したということですか?

清水 有機ELパネルのセルが変わっていますので、それに合わせてチューニングを行っています。映像のピークは出しつつ、どれくらいの時間であれば高輝度と放熱を両立できるかといったバランスも見ながら画づくりをしています。映画はAPL(平均輝度)が30%以下という場合が多いので、そういった場合は、ピークは出しながら、APLが高いシーンではそこまでピークを強調しないといった画づくりを行いました。

麻倉 テレビとしての平均輝度も上がっているのでしょうか?

清水 はい、平均輝度は少し高くなっています。

画像: マイクロレンズアレイの構造

マイクロレンズアレイの構造

麻倉 先ほどお話にあったように、ピーク輝度をずっと表示するようなコンテンツはあまりないわけで、われわれがテレビを見ている時は平均輝度の方が影響は大きいと思います。平均輝度が高くなったことで、絵づくりに変化はありましたか?

清水 WRGBパネルの場合、単純に画面を明るくすると色が抜けていくことがありますので、そうならないように色補正をしっかりかけながら、明るさ感を出しています。

阿南 去年モデルと比べていただくと、明るさの違いは一目瞭然だと思います。

清水 黒が締まりつつ、ピークは出ますので、冒頭におっしゃっていただいたように、見通しがいい映像になったのではないかと感じています。

麻倉 2000シリーズは登場以来、ほぼ毎年輝度がアップしてきています。ただ個人的には、黒の再現性も段々よくなってきて、しかも階調再現も改良されている点も重要だと思っています。

清水 ありがとうございます。黒側についても独自のチューニングを追い込むことによって、ブラッシュアップを続けています。

麻倉 さてビエラと言えばハリウッドでの画質チューニングも特長ですが、今回はどんな点が変わったのでしょう?

清水 今回もカラリストのStefan Sonnenfeld氏にお願いしていますが、高輝度というよりも、黒とか色の再現性、忠実性についての指摘が多いので、これまで作り上げてきたことをやりきるといったスタンスで開発しています。

麻倉 とはいえ、毎年そんなに違うことをやるわけじゃありませんよね。決まったチェックポイントはあるんですか?

清水 チェックポイントは共通していますので、前年モデルとの違い、改善効果は認めていただいております。黒再現や色再現はちゃんとできている、そこにピークのきらめき感が加わったのがいいと言っていただきました。

麻倉 黒がしっかり再現されるだけではなく、ピークが出るというのも重要なんですね。となるとMZ2000でピークの立ち方が改善されたということで、トータルでの感動力、画質が上がったのは間違いなさそうです。

 さて一方で音については、昨年のLZ2000はラインアレイスピーカーを搭載して大きな進化を果たしました。今回はどんな進歩があったのでしょうか?

阿南 最近は高齢者の方がテレビの音が聞きづらいという声も聞きます。あるいはコロナ禍以降、家族が一緒にいる時間が増えていますので、リビングで他の人に迷惑にならないテレビの音の鳴らし方という点についてももう少し工夫していきたいと思っています。

麻倉 MZ2000での音のブラッシュアップ、機能的な変化はあったのでしょうか。

阿南 機能的な部分としては、ゲームユーザーに使いやすい、聞きやすい音を工夫しています。

麻倉 ゲーム用というと、映像や音の遅延がありませんといった提案が多いのですが、ゲームにふさわしい音というものはあるのですか?

阿南 ゲームの種類に応じて、最適なチューニングを行います。ロールプレイングゲームのように作品に入り込んだ形で使われるモードと、シューティングゲームのように音が情報として求められるもので再現を変えています。

麻倉 音の雰囲気感を出すか、クリアーな情報性を優先するかということですね。これまでは音声モードというとドラマ用とか音楽用といったものが中心でしたが、今度はもっとアクティブな再現を狙っているのですね。

阿南 より色々な使用シーンで音を楽しんでいただけるように工夫をしました。

画像: 2023年OLEDパネル「Master OLED Ultimate」の構造

2023年OLEDパネル「Master OLED Ultimate」の構造

麻倉 さて、今回のCESで私が注目したのが、LGの透明ディスプレイでした。透明ディスプレイは、パナソニックが過去にIFAで冷蔵庫の扉を透明にするという展示がありましたが、それ以降ほとんど見かけません。そのあたりはどうお考えですか?

阿南 当社も業務用分野で透明ディスプレイを販売しています。事務室用途とか、後ろに展示物を見せながらその前に情報を映すといった使い方が多いようです。

麻倉 家庭用としての展開は考えていないのでしょうか?

阿南 家の中での透明ディスプレイの在り方は難しいですね。部屋の中にブースを作って、そこの窓をテレビにするといった使い方は検討していますが、その辺りについてはもう少し考えたいと思っています。

麻倉 パナソニックホームズと一緒に、最初から透明ディスプレイをインストールした家という提案もあると思うのですが。

阿南 お客様がお店で透明ディスプレイを買って自分で設置するということは考えにくいので、そういう形になるのではないでしょうか。

麻倉 透明ディスプレイもそうですが、今後はテレビがスタンドアローンの製品としてではなく、インテリアの中にいかに自然に入ってくるかが重要になっていくと思います。

 その意味では、パナソニックが先日発売したウォールフィットテレビも注目すべきアイテムですが、発売後の評判はいかがですか?

阿南 お客様の反応はひじょうにいいですね。インテリア関係や、ハウジング関係の方からお声がけいただいています。弊社としても、この製品は大きな価値を持っていると思いますので、大事に育てていきます。

麻倉 今年のCESではテレビ単体での展示は減って、ライフスタイルとかインテリアの中でのテレビの在り方をどうするかといった打ち出し方に変わってきているように思いました。

阿南 これはテレビメーカーとしての自己否定でもあるんですが、テレビはリビングですごく存在感があって、映像を映している時は価値があるけれど、使っていない時は大きな黒い物体になってしまうのです。

 これをどうやって生活の中に溶け込ませていくかということで取り組んでいるのが「くらしスタイルseries」で、こういった提案を新しいユーザーに届けていきたいですね。

麻倉 映像を映している時は最高の没入感を味わえて、使っていない時は存在が消えるというが、ある意味で理想のテレビと言えるかもしれません。壁掛テレビも、電源を切ったら見えなくなる、というところまで徹底できるといいですね。透明テレビはそのひとつのソリューションですね。

阿南 存在感のないテレビということですね。確かに、今後の重要な切り口になりそうです。

麻倉 ではそろそろMZ2000の映像を拝見させてください。

阿南 かしこまりました。ではこちらのブースで順番にデモをご紹介します。

河野 海外のマーケティングを担当している河野です。このエリアは実機の紹介と新しいパネルの説明に加えて、私たちの画質に対する考え方を解説しています。

 今回使っているパネルモジュールは「Master OLED Ultimate」という名前で、昨年の「Master OLED Pro」からさらに進化しました。一番の進化点はマイクロレンズアレイの採用です。

麻倉 METAテクノロジーを採用したLGディスプレイの第3世代パネルということですね。マイクロメートルサイズの凸レンズの層を有機ELレイヤーの上に置くことで、光の利用効率が格段に向上します。パネルの構造としては、まずベースがあって、そこに有機EL層が載って、マイクロレンズアレイはその前に付いていると。

河野 一枚のシートのような形で、細かいレンズが並んでいます。このシートで、今まで内側に入っていた光を強制的に前方に向けています。

 パネルの放熱機構については、昨年からメタルプレートが一枚増えて、2枚のメタルプレートで、独自のアドバンストヒートマネジメントマテリアルを挟み込むことで、放熱効率がよくなっています。

画像: パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 ビジュアル・サウンドビジネスユニット 技術センター長の清水浩文さん(右)と記念撮影

パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 ビジュアル・サウンドビジネスユニット 技術センター長の清水浩文さん(右)と記念撮影

麻倉 映像プロセッサーは同じということでしたが、パネル側が進化したことによって、プロセッサーの能力をより引き出してきたということですね。

河野 こちらが輝度のデモになります。昨年のLZ2000と今年のMZ2000を並べていますが、いかがでしょうか。

麻倉 見た目は随分変わりましたね。MZ2000では、映像が立体的になって丸みが出てきた感じです。光の煌めき感も出てきて、シャンデリアのディテイルも細かい。ひとつひとつのクラリティがよいです。冷たい輝きもでていて、いいですね。

河野 明るさと同時に、色再現性もよくなっていますので、それがわかるコンテンツも用意をしております。

麻倉 確かに違いますね。色の透明感が出てきたのと、ガラスの丸みが出てきています。

高城 商品企画を担当している高城です。こちらでは新しい映像モードをごらんいただきます。今回は「トゥルーゲーム」という、従来の「シネマプロ」のゲーム版といったモードを搭載しました。特にHDRゲームを最高画質で見えるように工夫しており、HDRのトーンマップ処理をテレビ側ではバイパスするようにしています。

 最近のXboxなどでは、ゲーム機側でトーンマップ処理を調整するようになっていますので、二度掛けして画面が黒くなるのを避けるという狙いもあります。ユーザー側ではそういったところを意識しなくても、このモードを選択するだけで自動的に最適な画質でゲームを楽しんでいただけます。

 マニアックな点としては、このモードはキャリブレーションもできるようになっていて、Calmanというソフトウェアで画質調整をした後に、このロゴが表示されますが、おそらくテレビメーカーとして初めての対応になります。

麻倉 キャリブレーションというのは、元のゲームが持っているパラメーターに合わせ込むといった処理なのでしょうか?

高城 いえ、これまで同様にHDMIで入ってきた信号をセンサーで測定して正しく再生できているかをチェックするというもので、ゲーム機と連動するといった内容ではありません。

 NVIDIA 社のG-Sync Compatibleという、グラフィックゲームカードと接続した場合の認証を取得もしました。こちらはパナソニックとして初めての対応になります。これによって、フレームレート高いゲームでも、映像が同期して表示できます。

 音質についてもゲームのジャンルに応じたモードで楽しんでいただけるようなものを搭載しています。ゲーマーの方々はヘッドセットをお使いになりますが、テレビ内蔵スピーカーでもそういった成分が聞こえやすくなるような処理をしています。例えばFPS(First Person Shooter)ゲーム向けのモードでは、周波数を調整して、足音がどっちから来ているかを聞き取りやすくしています。

麻倉 さて、MZ2000の日本版の発表はいつ頃になりそうですか?

阿南 今回はヨーロッパ向けモデルの発表ですので、それ以外の国についてはまだ検討中です。

麻倉 ラインナップとして、2000シリーズがフラッグシップで、その下に1000シリーズがあるという構成は同じですか?

阿南 ヨーロッパでは今と同じラインナップで発売することを検討しています。

麻倉 LZ2000シリーズは、トップモデルの「TH-65LZ2000」がHiViグランプリで<ゴールド・アウォード>を受賞するなど、日本国内でも評価が高かったのですが、海外での評判はどうでしたか?

阿南 お陰様で、LZ2000はイギリスの専門誌でも受賞しています。

麻倉 今年のMZ2000はその画質がさらによくなっているわけですから、どんな仕上がりになるのか、とても楽しみです。

阿南 はい、期待していただきたいと思います。

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