VRでの対話はアバターを通じて行うのが一般的だが、どうもいまひとつリアリティがない。アバターでない本物の相手の姿が見え、声が聞こえれば、VRヘッドセットを掛けていてもリアルな臨場感が得られるだろう。キヤノンUSAの、VRコミュニケーションシステム「KOKOMO」は、まさにそんな不自然を解消し、バーチャルなのだが、まるで目の前の相手と会話しているような気分にさせてくれる、VR対話ソリューションだ。
CANONブースで体験した。VRヘッドセットを掛け、机の上のスマートフォンが私を撮影する。相手はカリフォルニアのアーバインから交信している。背景はマリブ海岸のビーチハウス。会話はたわいないもの。本来は、ヘッドセットが完全に消え、相手の顔を見ながら話せるのだが、実際には時々、相手の顔のVRヘッドセットが現れる。
KOKOMOを企画したキヤノンUSAイノベーションセンター・マネージャーの今野隆平氏に聞いた。「『KOKOMO(ココモ)』はビーチ・ボーイズの有名なヒット曲です。とても気持ちのよい音楽ですね。そんな心地好く、バーチャルだけど生身のコミュニケーションが取れることにこだわりました。新型コロナウイルス感染拡大によって、リモートでも会話が増えましたが、実際の生の会話の代わりにはなれません。そこで、どこからでも “その場にいる” を実現するために、スマホ撮影とVRヘッドセットを組み合わせたシステムを開発しました」。
なぜキヤノンなのか。画像処理により、付けているVRヘッドセットを消し、そこにあらかじめ撮影しておいた、顔の上半分を貼り付けるという手業は、いかにも映像メーカーだ。いくら自然な対話をしようと思っても、VRヘッドセットを付けていると、相手の目が見えない。これではコミュニケーションも濃密に取れない。
そこで、相手の自然な顔をVR画像内に生成するのである。実際のデモでは、時々、ヘッドセットが現れたりしたが……。背景画像も現在はマリブ、ニューヨーク、ハワイなどに限られるが、家族の思い出の場所などのカスタマイズも検討している。
会えないなら、VRで自然に会おうという発想が、いい。コロナ禍前から海外赴任などで遠く離れて暮らす友人や家族と会いたいというニーズはあったわけで、コロナ禍という特殊な状況に限らず、一般的なコミュニケーション手段として、ニーズを見事にすくい取ったプロジェクトとして、大いに注目に値する。