練達のエンジニアが細部までていねいに作り上げた唯一無二のアナログレコード
1990年代初頭から、“クォリティ最優先”という明確なコンセプトのもとでスタートした『Stereo Sound REFERENCE RECORD』。以降、品質の向上、タイトル数の増加と、その内容は質、量ともに充実の一途をたどり、熱心なオーディオファンを中心に熱い支持を得ている。
ここで紹介する『安全地帯-40th ANNIVERSARY BEST』と『玉置浩二 LIVE 旭川市公会堂』の2作品も、同レコード企画としてリリースされたアナログレコードである。今年2022年は、玉置浩二のソロデビュー35周年、安全地帯としてはデビュー40周年を迎えた区切りの年であり、両作品ともに記念碑的な意味合いも少なからず含まれている。
ステレオサウンド・オリジナル・セレクション アナログレコード
『安全地帯 -40th ANNIVERSARY BEST-』
(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンド SSAR-071-072) ¥11,000税込
●45回転180g重量盤2枚組
●収録曲
[Disc 1]
SIDE A
1 ワインレッドの心
2 恋の予感
3 あなたに
SIDE B
1 夏の終りのハーモニー
2 碧い瞳のエリス
3 Friend
[Disc 2]
SIDE A
1 To me
2 夢のつづき
3 悲しみにさよなら
SIDE B
1 月に濡れたふたり
2 Juliet
3 ほゝえみ
●カッティング・エンジニア:武沢茂(日本コロムビア)
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まず『安全地帯~』だが、片面3曲ずつ、2枚のディスクに分けて、数あるヒット曲から選りすぐりの12曲を、45回転という贅沢な仕様で収めたベストアルバムである。45回転盤収録を想定し、音質チューニングを見直しているとのことだが、今回、マスタリングを手がけたのは日本コロムビアの武沢茂氏。アナログレコードの酸いも甘いも知り尽くす、マスタリングエンジニアの重鎮だ。
音質最優先でひとつひとつの作業が慎重に進められたというが、ここで注目したいのは、2枚全4面の片面に3曲ずつが、いずれも13分以内に収められている点だ。アナログレコードの場合、どうしても外周に比べると内周の方が音質的に不利になるという宿命があるが、この作品では45回転とし、さらに片面の収録時間を均一に揃えることで、その悩ましい問題を最小限に抑えようとしているのである。
まずDisc1からSideAの1曲目、「ワインレッドの心」を再生。安全地帯およびシンガー玉置浩二の存在を、世の中に知らしめた、お馴染みの大ヒットナンバー。ある種の翳りを感じさせるような新たな路線を切り開いたきっかけとなった曲でもある。伸びやかで、甘い響きを伴なう今の歌声もいいが、このアルバムでの歌唱は素直で、実直さを感じさせる若き日の玉置浩二の声が、目の前にスッと浮かび上がる。声の質感、ニュアンスは克明で、ギター、ドラム、ピアノと、厚みのある響きがその声を支えるように雄大に拡がる。
作為を感じさせない若きシンガーの歌声は、ややもすると淡白で、面白味に欠けるように聴こえがちだが、そこは玉置浩二のヴォーカルは、やはりひと味違う。豊かな感性、多彩な表情と、その声の魅力で聴き手をグイグイ引き込んで、離さない。ここまで吸引力を感じさせる声がレコードで聴けるとは……。
2曲目「恋の予感」は「ワインレッド~」同様、井上陽水と玉置浩二のコンビで誕生した楽曲。ロマンティックなフレーズが並ぶ井上陽水の歌詞と、切なさを感じさせるような深みのある玉置浩二のメロディーがなんとも不思議な世界観を創り出す。日本のみならず、アジアでも大ヒットした曲だというが、確かにどことなく、エキゾチックな雰囲気を感じさせる。ここでも玉置浩二の驚異的な歌唱力が炸裂する。あくまでも軽く、力まずに歌っているが、声に厚み、浸透力がある。そんな彼の歌声に、曖昧さを感じさせない盤石な演奏が強力にサポート。これぞバラードの醍醐味。この音の強さ、粘り、安定感に、45回転仕様が少なからず貢献していることは間違いない。
ステレオサウンド・オリジナル・セレクション アナログレコード
『玉置浩二 LIVE 旭川市公会堂』
(ユニバーサルミュージック/ステレオサウンドSSAR-073-74)¥11,0800 税込
●仕様:アナログレコード 33 1/3回転2枚組
●収録曲
[DISC 1]
SIDE A
1 あこがれ
2 花咲く土手に
3 カリント工場の煙突の上に
4 All I Do
SIDE B
1 aibo
2 ふたりなら
3 サーチライト
4 それ以外に何がある
[DISC 2]
SIDE A
1 しあわせのランプ
2 あの時代に…
3 君がいないから
4 太陽さん
SIDE B
1 MR.LONELY
2 田園
3 メロディー
●カッティング・エンジニア:武沢茂(日本コロムビア)
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続いて『玉置浩二LIVE 旭川市公会堂』。2015年6月から約3ヵ月に渡り、全国各地で開催された「玉置浩二〜故郷楽団〜Concert Tour2015」。そのファイナルとして、彼の故郷にある北海道旭川市公会堂で行なわれた公演の模様を収録したライヴ作品である。
すでに同一タイトルのCDがリリースされているため、お聴きになった読者諸兄も少なくないと思うが、作品から受ける印象は別ものと考えた方がいい。収録されている楽曲、並びともに変わらないが、本作品の制作に向けて、新たにマスタリングから行なわれ、アナログレコード用に音質を再調整している。ちなみにマスタリングおよびカッティングは『安全地帯-40th ANNIVERSARY BEST』と同様に武沢茂氏だ。
本作を再生してまず感じるのは、ライヴとアナログレコードの相性の良さだ。もちろん一発録音の難しさはあるが、魅惑的な玉置浩二の歌声、確かなピッチで、確実にリズムを刻むバンドの演奏、そして時間の経過とともにボルテージが高まる観客……。そんなライヴならではの興奮、熱狂ぶりが、聴き手の全身に、ダイレクトに伝わってくるのである。
Disc2のSideBから、ライヴでは必ずと言っていいほど歌われる定番ナンバー「MR.LONELY」を再生。全体的に落ち着いた雰囲気の曲調だが、イントロから質の高いファルセットで驚かされる。サビに入ると、まろやかさと切なさを併せ持った玉置浩二の魔法のような声が、心の深くに飛び込み、グッと引きつける。
そしてエンディングはアコースティックギターの柔らかな響きとともに歌い始める「メロディー」。エモーショナルな歌声は、最後まで健在で、声量も衰えない。場内の興奮、感動、そしてもうすぐライヴが終わってしまう寂しさ、感謝。玉置浩二自身も含めて、その場に居合わせた人たちの様々な気持ちが入り混じり、独特の心地良い空間を作り上げていた。
その感覚が「アナログレコードだから」生まれた、とは言わないが、その声の実在感、響きの生々しさ、そして場内の熱気、空気感と、CDでの再生とは明らかに異なる。オリジナル音源の質の高さを最大限に生かすべく、練達のエンジニアが細部まで気を遣い、ていねいに仕上げられた良質なアナログレコード。そのライヴ感は唯一無二のものと言っていいだろう。