映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第86回をお送りします。今回取り上げるのは、同世代の青春を振り返ること必至(?)の『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』。当時のご自身を思い出しながら観ると、より一層作品の世界に没入できるかも? とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』
10月21日(金)、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

画像1: 【コレミヨ映画館vol.86】『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどの個性派バンドを生んだ英国レーベルの盛衰記

 いきなりプライマル・スクリームの荒々しいヒット・チューン「ロックス」が流れ出し、1980~90年代のロンドン・ポップ・カルチャーをとらえたさまざまな絵面がコラージュされる。

 おお、こりゃ懐かしいなあ、と思われる向きもいるのではなかろうか。俺も若いころは新宿・歌舞伎町のASBホールなんかに通って、いまは亡き遠藤ミチロウにブタの血をかけられたりしたものよ、とか。

 1983年にイギリスで設立されたインディ・レーベル、クリエイション・レコーズを率いたアラン・マッギーの半生を追った劇映画。グラスゴー出身の赤毛の小男アランの今昔を追いながら、その波乱に満ちた、いまとなっては運まかせでドラッギーだったとも思える生活を描く。

 前述のブライマル・スクリームやオアシス、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ジーザス・アンド・メリーチェィンなど所属バンドによるヒット曲が全篇に散りばめられ、そられのグル―プとの出会いなども描かれるが(個人的にはちらっと出てくるギター・ポップの伝説的バンド、テレヴィジョン・パーソナリティーズが好きだった)、それらとの交流は90年代初期のもので、やや駆け足の構成になっている。

 印象に残るのは、まるで未来など見えない10代のアランが中道左派政党である労働党支持者の父親にひっぱたかれながら、自室で歌をガナる青春時代の姿。

「おまえはホモか。なぜ化粧なんてしているんだ。男なら外へ出てサッカーをやれ!」

 部屋の壁にはT・レックスやデイヴィッド・ボウイのポスターが張られており、地元のレコード・ショップにはコックニー・レベルなどのLPが並んでいる。

 そんなある日、テレビでセックス・ピストルズのライヴを観たアランは、部屋で踊り狂いながら自分もロンドンへ出ようと考える。こんな場所にいてもベイ・シティ・ローラーズ止まりじゃないかと。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.86】『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどの個性派バンドを生んだ英国レーベルの盛衰記

 これはパンク・ロックの爆発で生き方を決めたダニー・ボイル(製作総指揮。1956年生まれ)や、演出のニック・モラン(『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』のエディ役など俳優出身。1969年生まれ)など多くのスタッフにも共通した思いだろう。

 もうひとつの『トレイン・スポッティング』ともいえる。ぼくらは遠く離れた東洋の小島からこんな景色を夢想していた。

映画『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』

10月21日(金)より、新宿シネマカリテ、新宿シネクイントほかにて全国ロードショー公開

出演:ユエン・ブレムナー、スーキー・ウォーターハウス、ジェイソン・フレミング、トーマス・ターグーズ、マイケル・ソーチャ、メル・レイド、レオ・フラナガン、ジェイソン・アイザックス
監督:ニック・モラン
脚本:アーヴィン・ウェルシュ、ディーン・キャヴァナー
撮影:ロベルト・シェイファー
音楽:チャド・ホブソン
製作総指揮:ダニー・ボイル
原題:Creation Stories
配給:ポニーキャニオン
2021年/イギリス/ビスタサイズ/110分
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