「HiViベストバイ」ナンバーワンモデルの実像
ネットワークトランスポート部門 第1位 N150、N20
オーレンダーの勢いが止まらない。昨年夏に発売された、CDリッピングシステム搭載のサーバーシステムACS10とACS100に続き、今年に入ってネットワークトランスポートのN150とN20がデビュー。こうした矢継ぎ早の製品投入に、このカテゴリーにおける同社の先駆者としての自信と矜持を感じるのは、私だけではないだろう。
ACS100やACS10、あるいはA30と、Nシリーズとのもっとも大きな相違点は、大雑把にいえばCDリッピング機能の有無だ。これまで愛聴し、貯まってきたCDを音楽ファイルデータとしてストレージできることが、ACSやAシリーズが有する一番のフィーチャーである。いっぽうストリーミング再生やハイレゾファイル再生をメインとするオーディオファイルにとっては、CDリッピング機能は不要である。そういう人たちにNシリーズはミートしたわけで、そこに存在価値がある。
MUSIC SERVER / STREAMER
Aurender
N150
¥544,500 税込
●接続端子:デジタル音声入力2系統(USBタイプA×2)、デジタル音声出力1系統(USBタイプA)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜384kHz/32ビット(PCM)、〜22.4MHz(DSD)
●再生キャッシュ用ストレージ:240Gバイト
●楽曲保存用ストレージ:最大8Tバイト×1(別売り)
●寸法/質量:W215xH63xD355mm/5.3kg
MUSIC SERVER / STREAMER
N20
¥1,870,000 税込
●接続端子:デジタル音声入力2系統(USBタイプA×2)、デジタル音声出力5系統(USBタイプA、AES/EBU、光、同軸、同軸BNC)、クロック入力
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜384kHz/32ビット(PCM)、〜22.4MHz(DSD)
●再生キャッシュ用ストレージ:500Gバイト
●楽曲保存用ストレージ:最大16Tバイト(8Tバイト×2、別売り)
●寸法/質量:W430xH111xD355mm/13.5kg
●問合せ先:(株)エミライ https://www.aurender.jp/
今回テストしたN150とN20は、HiVi6月号の「2022年夏のベストバイ」のネットワークトランスポート部門において、同点1位を獲得した。同じメーカーの製品が同一カテゴリーで1位を分け合うというのはひじょうに稀。価格分けがない部門であるが、価格差は実に3倍以上。ベストバイというお買物ガイドの性格からすれば、安価なN150に軍配が上がっても誰もが納得するところ。
しかしそうならなかったのは、N20にも抗しがたい魅力があったからだ(かくいう私はN20に☆を献上)。評価を分けたそのポイントは、機能面の違いよりもむしろサウンドパフォーマンスにあったのではないかと私は思う。その辺りをこのテストで解き明かしていきたい。
スペックから判別できる両者の相違点とは
まずはN150とN20双方に共通したフィーチャーとスペックを見ていこう。双方とも再生可能な音楽ファイルのフォーマットは同じ。DSD22.4MHz、PCM384kHz/32ビット。ストリーミングは、TIDAL/Qobuz/Spotifyに対応し、AirPlayにてApple Musicも楽しめる。MQAに関しては、別途アップグレードの有償サービスにてコアデコードまでの対応となる。背面に備わったUSB端子は、音声出力のほか、USBメモリーを差しての音源再生にも対応している。
電源部はリニア電源を内蔵するほか、スーパーキャパシターで構成される無停電電源装置(UPS)が組み込まれており、非常事態でも本機のオーディオ回路やデータを保護してくれる。
専用の再生アプリ「Aurender Conductor」の使いやすさも双方共通。タブレット等iPad OS/iOS/Android端末で操作可能なそれは、メタデータの管理はもちろん、本体の各種設定、コントロールも可能。日本語の表示もまったく違和感のない仕上がりだ。
梨地仕上げのアルミ製筐体は、水平方向に配された放熱フィンを両サイド備えたエルゴノミクスが共通した意匠で、電源スイッチや必要最小限の操作キーなど、フロントパネルはたいそう洗練されたコスメティックになっている。
では、違いは何か。双方ともデータ保存用ストレージが付属せず、ユーザーが別途用意して販売店または自身でインストールを行なう必要があるのだが、搭載可能な容量が異なる。格納できるのは、N150が空きスロット1基で最大8Tバイト、N20が2基で最大16Tバイト(SSD/HDDいずれか)。この辺りは筐体サイズとも大いに関連があるだろう。
一時的に楽曲をストレージする再生用キャッシュの容量も違う。いずれもM2ストレージ(SSD)だが、N150は240Gバイト、N20が500Gバイトだ。この部分が再生音に違いをもたらすかどうかは不明だが、曲の切替え時のレスポンスが異なってくるかもしれない。
装備の部分に関しては、ハーフコンポサイズのN150は前面のディスプレイが小さく、表示できる情報に差が当然ある。具体的には、アルバムのアートワーク表示はN20は可能だが、N150にはなく、文字データのみ。
背面に目を移すと、出力端子の構成が異なるのがわかる。N150はUSB端子のみだが、N20にはAES/EBUやRCA同軸、BNC同軸、TOS光など、豊富な装備。おまけに44.1kHz/ 48kHz系のワードクロック、10MHz/12.8MHz系のマスタークロック入力端子(BNC)まで備え、ハイエンドオーディオ機器との親和性の充実ぶりがうかがえる。
天板を開けてみれば、リニア電源の規模の違いが一目瞭然。電源用トロイダルトランス3基を配したN20に対して、N150はトランスが1基のみ。この辺りはストレージ数の違いも反映されているのかもしれない。
N20内蔵のクロックは、恒温槽付き水晶発振器(OCXO)であり、N150のそれよりもずっと高品質。安定した基準クロックを長期に渡って維持してくれる。これと対となる、FPGAベースのADPLL(オール・デジタル・フェイズ・ロックド・ループ)は、デジタルデータの伝送タイミングを精密に管理し、ジッターを最小限に抑えるもの。これもN20だけの特権である。また、FPGAを活用したDSD/PCM変換機能もN20のみである。
ちなみに、再生時の高音質化機能「クリティカルリスニングモード」は両機に備わる。フロントディスプレイの消灯や、不要な回路パートへの電源供給をシャットダウンするもので、ピュアダイレクトモード的な動作と思われる。
歌声や楽器の音をていねいに、伸びやかに描き出すN150
今回あらかじめN150、N20双方にSSDストレージを取り付けて同じ音楽ファイルを保存し、まったく同じ条件で試聴を行なった。試聴システムは別掲の通りだが、今回は有償サービスのMQAコアデコードの再生は試していない。また、N20と10MHzマスタークロックの組合せも実施していない。
ではまずN150から。ホリー・コールの2.8MHzDSD音源だ。膨らみのあるベースとブロックコードを多用したピアノの響きの明瞭さ。それらを背に、瑞々しい質感を伴なったヴォーカル音像が浮かび上がる。実に有機的な再生音だ。
男の色気とダンディズムが同居した井上陽水の歌声にも魅了された。コーラスの女声の包容力、間奏部のトランペットの柔らかなフレーズ、ガットギターの優しい調べもいい。
Ryu Mihoの11.2MHzの歌声は、耳元で囁かれているような生々しい感覚を味わった。ピアノの透明感と音場のクリアネスも格別だ。
上原ひろみのピアノ・トリオは、ベースラインのダイナミクスと、太鼓の数の多いドラムが織り成す圧倒的な音数の多さ。それを実に精巧に分解してみせた。エネルギーバランスの偏りもなく、ピアノの打鍵もトランジェント抜群だ。
ショスタコーヴィチの交響曲第10番第3楽章では、畳み掛けるような打楽器の勢いと力強さが感じられた。クレッシェンドしていく弦と管のパワーも圧巻。
上原ひろみはTIDALでも聴いてみた。音の密度がファイル再生とは異なる印象だったが、ワイドレンジ感があり、ストリーミングでもここまでの高解像サウンドが楽しめれば充分であろう。
より深く、より広く。音場の表現力に優れたN20
では、続いてN20。ホリー・コールの声の質感にN150と大きな違いはないが、伴奏のピアノやベースにおいて、中域から低域にかけての音の厚みと緻密さが異なる印象。そこには電源回路の規模の違いや筐体の差もありそうだ。
Ryu Mihoを聴いてもうひとつ気付いた点は、ステレオイメージの見通しの違い。特に奥行方向の表現に関しては、N20の方がいちだんと深い表現力を持っている印象だ。声の質感は首筋がゾクゾクっとするような感覚で、ブレスの様子も克明。ピアノの音色も実に優しい。
井上陽水ではリズムがより太く厚くなり、ギターのアルペジオやパーカッションが一段とクリアーになっている。デュエットが実に甘いムードに感じられた。
上原ひろみのピアノトリオは、ドラムのフロアタムの響きがいっそう力強くなる印象で、6弦ベースの開放弦Bの音程がきわめてクリアーに響いたのに驚かされた。ピアノの音もたいそう鋭敏で、楽曲後半にいくに従って演奏がどんどん白熱していく感じが鮮明に伝わってきた。
ショスタコーヴィチは、勇壮かつ雄大なオーケストラが聳そびえ立つがごとく。音程の昇降を繰り返しながらの緩急のついたハーモニーは、一糸乱れぬアンサンブルである。
ここで「Aurender Conductor」のメニュー〈高度2〉から、「クリティカルリスニングモード」を有効にして聴いてみた。差としてはわずかだが、音場の見通しがクリアーになった。極端な差がないのは、デフォルト状態であっても音質に影響のないよう、シグナルパスの状態がしっかりと管理されている証といえなくもなく、より厳密に音を聴きたい時にオンすればよいだろう。
ベストバイ同点1位は両者の評価の裏表を示した
以前にHiViでも書き記したが、私はオーレンダーのネットワークトランスポートの初代機W20を愛用して既に8年ほどが経つ。同機は現在、細部のモディファイを受けてW20SEへと進化しているが、機能面では今回テストしたN20やN150と大差ない。また、ソフトウェア等の無償アップデートも頻繁に行なわれており、そのインフォメーションの着実性とクォリティアップも、私が同社をずっと信頼している一因である。
そうやってW20を長年使ってきた身から今回のNシリーズ2機種を俯瞰すると、パフォーマンス面では遜色ないし、サウンド面でもかなり肉薄しているように思う(特にN20)。それでもしかし、W20の圧倒的な静謐感と、重厚かつ安定したエネルギーバランスにはおよばない。さすがに2倍強のコスト(N20比)がモノをいっているのである。
それと同様な論旨からN20とN150の音の差も語ることができよう。使い勝手の快適さは同じ。音のテクスチャーもかなり近似しているが、重心の安定感、音の密度に歴然と違いがあり、その差をどう見たかがベストバイ同点1位という結果に反映されたと思うのだ。すなわち「上位機にここまで肉薄しているのだからN150は凄い」という評価なのか、「値段に倍の開きはあるN20の説得力はやはり大したものだ」という評価の違いである。後は実際に触れて、聴いて、読者各人に判断して頂くしかない。
注目技術
Aurender Conductorの操作性
オーレンダーの専用操作アプリAurender Conductorは、楽曲の管理やフィルターでの絞り込み、検索などの操作性に優れている。TIDAL、Quboz、Spotifyのストリーミングサービスと連携させ、さらに広範な楽曲にアクセスできるのもポイントだ
設定(歯車マーク)画面から、ストレージのフォーマットやテーマカラーの変更、ゲインコントロール、クリティカルリスニングモードの切り替えが行える
N150評価のポイント
・サクサクと動くアプリの操作性のよさ
・瑞々しく、実在感のあるサウンド
・上位機に肉薄するスペックと音づくり
N20評価のポイント
・フラッグシップW20SEを踏襲した作り
・豊富なデジタル出力による、ハイエンド機器との接続性
・奥深い表現力を備えた、密度感のあるサウンド
試聴ソフト
●デジタルファイル:『UNITED COVER 2/井上陽水』
『怒り オリジナル・サウンド・トラック/坂本龍一』
『ショスタコーヴィチ:交響曲第10番/ネルソンス指揮ボストン交響楽団』
『Spark/上原ひろみ』(以上、96kHz/24ビット FLAC)
『夜/ホリー・コール』(2.8MHz DSD)
『ミスティ フィーチャリング 宮本貴奈/Ryu Miho』(11.2MHz DSD)
リファレンス機材
●スピーカーシステム:モニターオーディオ PL300Ⅱ
●プリメインアンプ:デノン PMA-SX1 LIMITED
●D/Aコンバーター:ソウルノート S-3 Reference