「HiViベストバイ」ナンバーワンモデルの実像
スピーカー部門Ⅲ(ペア20万円以上40万円未満)第1位 URF52
スピーカー部門Ⅱ(ペア10万円以上20万円未満)第4位 UBR62
KEF、インフィニティ、TADと、世界の名門で名を馳せたスピーカーエンジニア、アンドリュー・ジョーンズ。独エラックに移籍して早7年、高度な技術、ノウハウを駆使し、順調にラインナップを拡充しているが、ここで紹介するUni-FiReference Lineの2モデル、ブックシェルフ型のUBR62とフロアスタンディング型のUFR52も、アンドリューが精根込めて開発した意欲作だ。
SPEAKER SYSTEM
ELAC
UBR62
¥148,500(ペア)税込
●型式:3ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター+100mmコーン型ミッドレンジ/同軸、165mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:260Hz、1.8kHz
●出力音圧レベル:85dB/2.83V/m
●インピーダンス:6Ω
●寸法/質量:W208×H359×D334mm/11.7kg
UFR52
¥297,000(ペア)税込
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター+100mmコーン型ミッドレンジ/同軸、130mmコーン型ウーファー×3
●クロスオーバー周波数:220Hz、1.8kHz
●出力音圧レベル:86dB/2.83V/m
●インピーダンス:6Ω
●寸法/質量:W234×H995×D338mm/23.8kg
●問合せ先:㈱ユキム TEL.03(5743)6202
実は本シリーズが、彼にとってはエラックで手がける最後の製品群になるという。他ブランドに移籍するのか、引退するのか、現段階では明らかではないが、アンドリューの卒業作となる記念碑的なシステムだけに、おのずと期待は高まる。
この両モデルを紹介するうえで、避けて通れないのが、エラック独自の同軸ユニットUni-Fi COAXドライバーである。いまから約5年前に登場した初代Uni-Fiシリーズ(具体的にはUni-Fi SLIM Line)で実用化されたUni-Fi COAXの進化版で、名称はNew Uni-Fi COAXドライバーとしている。
25mm径ソフトクロス(布)トゥイーターと100mm径アルミ振動板ミッドレンジの組合せは、オリジナルと変わらない。ただ細部を見ていくと、トゥイーターの振動板の外周、エッジ部分が改良され、再生周波数帯域が従来の25kHzから35kHzに拡大。同時に、低域側のレスポンスが向上し、ミッドレンジとのクロスオーバー周波数は、従来の2.7kHzから1.8kHzにシフトしている(いずれもFS U5 SLIMとの比較)。
トゥイーター部の高性能化に合わせて、ミッドレンジについても強化している。具体的には、エッジ部分を改良したモールド・アルミニウム・コーンと呼ばれる新しい仕様となり、大型化されたボイスコイルは強力なネオジム・マグネットで駆動される。
これらの新鋭ユニットとの共演を果たすウーファーユニットには、形状の見直しとともに、剛性を向上させたアルミ単板の振動板を投入。駆動部であるマグネットとボイスコイルも大型化され、アルミ・ダイキャスト製バスケット・フレームでそのエネルギーを確実に受け止めるという設計である。
ここでひとつ見逃せないのが、世界的なヒットとなった「Debut Reference」シリーズでその確かな性能が認められたエンクロージャーデザインが取り入れていることだ。まずその構造だが、トップパネルとサイドパネルを引き付けあうように接合する「フル・ペリメター・ブレース工法」を採用。箱としての強度、剛性が向上し、不要な振動が抑えられたことで、特に低域の分解能に大きな恩恵が得られたという。
5cmほどの分厚い底板を円筒状にくりぬき、その部分からL字型のダクトをフロント・バッフル下部に配置したスリット型(フレア型)のポートにつなぐというデュアルフレアースロットポートも健在だ。
外観は「Debut Reference」とよく似ているが、エンクロージャーはひと回り大きく、本体重量もUBR62がDBR62比で約30%増、UFR52がDFR52で約40%増と、見た目以上に重い。必ずしも「重いスピーカーが高性能」と言うわけではないが、頑丈で、作りのよいエンクロージャーが、スピーカーの表現力に少なからず関係していることは明らかである。
透明感に溢れたUBR62の音。艶やかな歌声にも驚かされた
ではまず新設計のNew Uni-Fi COAXドライバーに165mm径ウーファーを加えたUBR62から検証していこう。見た目には完全な小型2ウェイモデルだが、ひとたび再生が始まると、そのイメージが一瞬のうちに吹き飛んでしまった。
新製品の試聴で重用する「First WeTake Manhattan /ジェニファー・ウォーンズ」は軽快にリズムを刻みつつ、雑味のない重厚な響きが、縦横無尽に描き出される。
特に驚かされたのが、彼女独特の艶やかな歌声。開放的ではあるが、適度な重みと、歯切れのよさを両立させていて、再生周波数レンジに余裕があるため、音階の表現がスムーズかつ正確。スピーカーとしての作りのよさを、透明感に溢れたサウンドからそのまま感じ取ることができた。
昨年のショパンコンクールで日本人として過去最高の2位入賞という快挙を成し遂げた反田恭平のデビュー作『リスト』から「ラ・カンパネラ」を再生してみても、重厚な響きといい、余韻の拡がりといい、ワイドレンジ再生の優位性は明らかだ。「グンッ」と浸透するように拡がるペダルのリリース音の表現も曖昧にならず、収録に使ったホールの広さが感じとれるくらい明瞭度が高い。このサイズで、その空間の気配、そしてサイズ感まで表現できるスピーカーは、きわめて貴重だ。
UFR52は落ち着いた質感と豊かな表現力が魅力
続いてNew Uni-Fi COAXドライバーと130mm径ウーファー3基による3ウェイ・バスレフ型のUFR52。DebutReferenceシリーズのフロアー型モデル、DFR52に比べても、横幅、奥行ともに大きく、上級機としての風格のようなものを感じさせる。
さてそのサウンドだが、明確な声の定位といい、重厚感のある濃密な響きといい、ブックシェルフ型のUBR62とよく似ている。明るく、開放的に鳴り響くというよりも、適度な湿り気を感じさせる落ち着きのある質感で、響きが厚く、より深く浸透する。
それでも随所でフロアー型ならではの余裕を感じさせるが、特に男性の歌声でその違いが顕著だ。試しに「デスペラード」をリンダ・ロンシュタットとイーグルスのそれぞれのバージョンを聴いてみたが、伸びのある声で朗々と歌いあげるリンダのヴォーカルも聴き応えがあるが、UFR52の持ち味をより感じさせるのは明らかにイーグルスだった。
独特の枯れた声でドン・ヘンリーが友人に語りかけるように歌うが、哀愁を帯びたハイトーンのハスキーボイスも、ザラつくことなく自然なタッチで描き出し、その声から喉の震え、胸板の厚さまで感じさせるほど。このあたりはやはりフロアスタンディング型スピーカーならではの表現力と言っていいだろう。
最後に使いこなしのアドバイスをひとつ。UBR62、UFR52ともにバイワイヤリング接続対応だが、標準の状態ではシングルワイヤリング接続が可能になる金属プレートを装備している。一般的な仕様ではあるものの、両機を導入するようなこだわりの方なら、スピーカーケーブルでジャンパー線を自作して使うことをおすすめしたい。
このひと手間で、響きの質がグンと向上し、肌合いのいいサウンドが耳にスッと染み込む。ワンランク上のサウンドに、にんまりとするに違いない。今回のリポートも、付属プレートは使わずに、スピーカーケーブルをジャンパー線として使った際のサウンドと理解していただきたい。
注目技術
①New Uni-Fi COAXドライバー
25mmソフトドーム型高域ユニットと100mmコーン型中域ユニットを同軸化。ベースとなったUni-FiCOAXユニットと比べて高域、低域ともに再生レンジ(UFR52の場合)を拡大。220Hzから35kHzの超広帯域再生を実現し、シリーズの中核となっている
②アルミニウムコーンウーファー
高剛性のアルミニウム単板を振動板に用いたウーファーを採用。ブックシェルフのUBR62は165mm口径をシングルで、トールボーイのUFR52は130mm口径を3基パラレルで搭載している
③強固なエンクロージャー
両モデルともにシンプルな外観のスピーカーだが、高剛性を追求した構造により、低域の解像度を高めている。底板を円筒状にくり抜き、ダクトを貫通させたうえで本体下部にあるフレア型のバスレフポートを構成。なおトールボーイのUFR52はリア側にもポートを配置
スピーカー端子は、両モデルともにバイワイヤリング接続対応。シングル接続時には付属の金属プレート(写真上)を使わずに、手持ちのスピーカーケーブル等を活用してみるとよいだろう。今回の取材では視聴室に常備しているジャンパーケーブルを用いた(写真下)
評価のポイント
・外観からは想像できない広帯域再生
・生々しく、ニュアンスに富んだ歌声
・透明感に溢れた濃密な響き
視聴したソフト
●CD:『Famous Blue Raincoat/ジェニファー・ウォーンズ』、『Don't Cry Now/リンダ・ロンシュタット』、『デスペラード/イーグルス』
●SACD:『リスト/反田恭平』
リファレンス機器
●SACD/CDプレーヤー:デノン DCD-SX1LIMITED
●プリメインアンプ:デノン PMA-SX1LIMITED