アステル&ケルンのSP2000Tは、SP2000をベースにES9068ASによるクアッドDAC構成や「トリプルアンプシステム」を搭載したモデル。クアッドDAC構成もアステル&ケルン初だが、注目はオペアンプモードと真空管モードの切替えができ、しかも両者を組み合わせたハイブリッドアンプモードを選ぶことができる点。真空管にはコルグ製の「Nutube」を採用し、ノイズ発生を抑えるため、真空管をシリコンカバーで固定し、アンプ基板と物理的に分離する構造としている。これに合わせ、オーディオブロックへのノイズを抑えるシールド缶には超高純度銀メッキを施すなど、ノイズ対策を徹底している。
さっそくいつもの『チャイコフスキー/交響曲第6番/クルレンツィス指揮ムジカエテルナ』をオペアンプモードで聴いた。イヤホンはテクニクスのEAH-TZ700で、2.5㎜バランス接続としている。精密で情報量豊かなだけでなく、生き生きとした躍動感あふれる音はさすが最上位モデル。『鬼滅の刃 遊郭編』の主題歌であるAimerの「残響散歌」はスリリングなイントロをキレ味よく再現し、クリアーでしかもパワー感たっぷりに鳴らす。ややハスキーなヴォーカルもしっかりと前に出て、グルーヴ感たっぷりに聴かせてくれる。
アンプモードはディスプレイのパネルから随時切替え可能で、オペアンプモード/真空管モードのほか、ハイブリッドモードは両者のブレンド比を変えた5段階から選択ができる。まずは真空管モードに切り替えてみると、耳当たりのよい暖かみのある感触になる。情報量やデリケートなニュアンスの表現は変わらないがキレ味とかシャープな感触を控えた親しみやすい音だ。チャイコフスキーは音色のアコースティックな感触が増してよりナチュラルな印象になるし、Aimerは声がわずかにふくよかに、グラマラスな歌唱になる。ハイブリッドは中央値で聴くとちょうどいい感じのブレンド具合で、キレ味のよさを持ちながら、音色もナチュラルだ。
優れた性能を持ちながら、硬軟自在の音質が選べるのは面白い試みで、高性能というだけでない楽しさがある。ハイエンド級プレーヤーの新境地だ。