映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第70回をお送りします。今回取り上げるのは、地下室で進行する極上のミステリー作『マヤの秘密』。果たして“マヤ”の記憶は正しいのか? その行方を、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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『マヤの秘密』
2月18日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

画像1: 【コレミヨ映画館vol.70】『マヤの秘密』わたしの封印した記憶は本物なのか。戦中の迫害体験に揺れる女がめざしたもの

 1950年代の中ごろ。平和なアメリカ郊外の町。近所の芝生で幼い息子と休んでいた母親のマヤ(ノオミ・ラパス)の耳に、指笛の音が届く。それは記憶の奥底にこびりついた忌まわしい音色だった。愛犬を連れ、何も気づかぬ男の背中が遠ざかってゆく。

 2009年の『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』でヒロインの刺青女、リスベットを演じて鮮烈な印象を残す。その後もリドリー・スコット監督の『プロメテウス』やガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム』、七つ子の姉妹を演じ分けたSF『セブン・シスターズ』などで注目されたノオミ・ラパス主演のサスペンス・スリラー。

 スウェーデン出身の彼女は、アイスランド語やノルウェー語、英語など5か国語を話す才人だ。フラメンコ・ダンサーだった父親とは幼いころに別れたが、その父からロマ(ジプシー)の血も受け継いだという。

 本作でプロデューサーを兼任したラパスは、これは私の映画と語って撮影にのぞんだ。戦争の記憶が薄れかけたころ。新天地アメリカで夫と出会い、生活を始めたラパス演じるマヤは戦時中に妹を殺め、自分をレイプした(と信じる)ドイツ兵のひとりに出会うのだ。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.70】『マヤの秘密』わたしの封印した記憶は本物なのか。戦中の迫害体験に揺れる女がめざしたもの

 トラウマになりこころに鍵をかけてきた記憶の男は、いまでは平和な家庭を持つその隣人なのか。自宅をうかがい、仕事場も突き止めた彼女は思いもかけぬ行動に出る。

 トーマスと名乗る男を演じるのは『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』で、リック・フラッグ大佐を演じていたジョエル・キナマン。そこでは悪さのなかにも人間味のある軍人を演じていたが、ここでは善悪が容易にわからぬ男を演じる。

 彼はマヤが言う死に値する人間なのか。あるいは……?

 物語は妻の過去を知って動揺する夫のルイス(クリス・メッシーナ)を巻き込んで、容易に明暗が識別できぬ世界に落ちてゆく。

 ひとつの答えは出るのだが、それが正しいものかは分からぬ幕切れ。観終わったあとも長く尾を引く作劇だろう。その景色はマヤの妄想が生んだもののようにも思える。クセのある女優、ノオミ・ラパスの新たな代表作ともいえるだろう。

画像3: 【コレミヨ映画館vol.70】『マヤの秘密』わたしの封印した記憶は本物なのか。戦中の迫害体験に揺れる女がめざしたもの

映画『マヤの秘密』

2月18日(金)より、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほかにて全国ロードショー

監督・脚本:ユヴァル・アドラー
製作総指揮:ノオミ・ラパス
出演:ノオミ・ラパス、ジョエル・キナマン、クリス・メッシーナ、エイミー・サイメッツ
原題:The Secrets We Keep
配給:STAR CHANNEL MOVIES
2020年/アメリカ/シネスコ/5.1ch/97分/G
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