これからのデジタルオーディオをネットワークに託している私は、自宅のオーディオシステムでネットワークオーディオを実践している。近年はハイレベルなピュアオーディオの視点で設計されている、優れたネットワークプレーヤーや周辺機器が増えてきた。英国リンがDS(デジタルストリーム)の名称で世界初の本格的ネットワークプレーヤーをリリースしたのは今から14年も前の2007年のこと。それをスタートポイントにして、ネットワークオーディオ関連機器は急カーブを描くように進化を遂げてきている。

 ここでは私が注目している高音質ネットワークトランスポートを紹介しよう。一般的なUSB DAC(D/Aコンバーター)と組み合わせて使うそれは、SOtM(ソム)の「sMS-200ultra Neo」と「sMS-200 Neo」である。横幅が約11cmとコンパクトなサイズながらも、リファレンスクラスの優秀なネットワークトランスポートと称賛されている製品だ。

 両者は同一のネットワークトランスポート基板(マザーボード)を搭載しているため機能的な違いはなく、ブラックパネルで奥行の長いsMS-200ultra NeoのほうはsCLK-EX2425という高性能な内部クロック基板を追加搭載している、クロック強化仕様になっているのが特徴。そのsMS-200ultra NeoとsMS-200 Neoに、興味深いスペシャル・エディションがそれぞれ2種類加わったというから、音を比べてみた。

ネットワークトランスポート
SOtM sMS-200ultra Neo

●ノーマルバージョン
¥203,500(税込、マスタークロック入力なし)、¥236,500(税込、マスタークロック入力付)
●スペシャル・エディション 銅線仕様
¥242,000(税込、マスタークロック入力なし)、¥275,000(税込、マスタークロック入力付)
●スペシャル・エディション 銀線仕様
¥247,500(税込、マスタークロック入力なし)、¥280,500(税込、マスタークロック入力付)

画像: sMS-200ultra Neo、sMS-200 Neoは同一ネットワーク上にあるミュージックサーバーの信号をLAN経由で入力し、接続したUSB DACに送り出すネットワークトランスポートだ。本体設定によってミュージックサーバー以外にUSBデバイスやストリーミングサービス、Roonなどの音源も再生できるので、目的に応じてマルチに活用できるだろう。

sMS-200ultra Neo、sMS-200 Neoは同一ネットワーク上にあるミュージックサーバーの信号をLAN経由で入力し、接続したUSB DACに送り出すネットワークトランスポートだ。本体設定によってミュージックサーバー以外にUSBデバイスやストリーミングサービス、Roonなどの音源も再生できるので、目的に応じてマルチに活用できるだろう。

●OS:Linux
●利用可能なオーディオ再生ソフトウェア:MinimServer、LibreSpot、BubbleUPnP Server、Roon Ready、DLNA renderer、Music Player Daemon(MPD)、Logitech MediaServer(LMS)、Squeezelite他
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:リニアPCM 768kHz/32ビット、DSD 512(22.4MHz)
●接続端子:USB Type-A×3(ハイエンドオーディオグレードUSBポート×1、USB 2.0ポート×2)、LAN端子(RJ45 GigaビットEthernet)※オプション外部マスタークロック入力:10MHz、50ΩBNC端子
●内部クロック:sCLK-EX2425 board
●寸法/質量:W106×H48×D227mm/1.5kg

画像: sMS-200ultra Neoの背面端子。写真はオプションの外部マスタークロック(中央のBNC端子)を取り付けたモデル

sMS-200ultra Neoの背面端子。写真はオプションの外部マスタークロック(中央のBNC端子)を取り付けたモデル

 SOtMは韓国の天安市に本拠を置いている小規模なオーディオメーカーだ。ソムというブランド名は、SOtM=Soul of the Musicを略したもの。すなわち「音楽の魂」という意味である。私がSOtMの存在を知ったのは2013年の米国ラスヴェガスだった。CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)にSOtMが初めて出展しており、私は彼らのブースを訪れたのである。

 SOtMを主宰しているのは、Il-Won Lee (イル・ウォン・リー=이일원)という才能豊かな好人物。研究開発から商品企画、そして回路設計に至るまでのすべてを彼が行っている。オーディオに特化したPC用のUSB出力カードやSATA用ノイズフィルターから製品開発をスタートさせたSOtMは、USBやネットワークオーディオに関連した製品をリリースしてきている。

 拙宅では、SOtMによるネットワークスイッチの「sNH-10G」(オプションのマスタークロック入力基板を搭載した仕様)が2台稼働している。それにマスタークロックの「sCLK-OCX10」から10MHz正弦波クロックを供給した状態で使っている。加えて、テレガートナーの「M12」スイッチIEゴールドがSOtMのネットワークスイッチと組み合わされていて、NASやネットワークオーディオ機器とのLAN接続(銅線のRJ45/SFPポートを活用したシングルモード光伝送)を適材適所に行っている。

 ネットワークトランスポートのsMS-200ultraNeoとsMS-200 Neoは操作系がまったく同じなので、ここからはsMS-200ultra Neoを使って説明していこう。接続はいたって簡単。ネットワークに接続されているLANケーブルを本機につないで本機のAudio USBとUSB DACをケーブルで接続、そして電源供給を行うだけである。ここでは同じサイズのハイグレードな別売電源「sPS-500」を用意してもらって音を聴いている。sPS-500の電源を起動させると、しばらくしてsMS-200ultra Neoが立ち上がってくる。背面にあるmicro SDカードにLinuxベースの専用ソフトウェアが書き込まれているので、そこはノータッチ厳守のこと。

画像: 同一ネットワークにつないだPCのブラウザに所定のURLを入力すると、「Eunhasu Music Player」画面が表示される。画面上の各項目を設定することで、様々な使い方が可能。ミュージックサーバーを使う場合は上段中央の「MDP & DLNA」を選べばいい(写真ではActiveと表示されている)

同一ネットワークにつないだPCのブラウザに所定のURLを入力すると、「Eunhasu Music Player」画面が表示される。画面上の各項目を設定することで、様々な使い方が可能。ミュージックサーバーを使う場合は上段中央の「MDP & DLNA」を選べばいい(写真ではActiveと表示されている)

 ゼロからのスタートでは、最初にsMS-200ultraNeoに与えられているIPアドレスをウェブブラウザに打ち込むと、SOtMオリジナルの「Eunhasu Music Player」画面が現れる。これが各種の設定を行うところだ。Eunhasu(ウナス)とは、韓国語で銀河(River of Silver Stars)を意味するらしい。

 この画面の上部に掲げられているのが、sMS-200ultraNeoとsMS-200 Neoで利用できるオーディオ再生ソフトウェアだ。

「Roon Ready」(roon server)
「LMS & Squeezelite」(LMS=Logitech Media Server)
「MPD & DLNA」(MPD=Music Player Daemon)
「HQPlayer NAA」
「Shariport」

 ここでは私が使い慣れているDLNAにしておこう。MPD DLNAにカーソルをあてるとスタートの「▶」と設定の「⚙」があらわれるので、まずは設定から。

 いろいろな項目があるけれども、重要なのは「Audiodevice config」でUSB DACが表示されているかどうかと、そのDACでのDSD再生をチェックすること。私はDSD再生をDoPにしておいた。そして、「MPD & DLNA feature config」のところでOpenHomeをチェック。それでOKなら左下にある紫色のSave changesをクリック。そうすると再び「Eunhasu Music Player」画面になるので、今度は「MPD &DLANA」のところのスタート「▶」をクリックすれば、MPD & DLNAの表記がActiveになるので設定終了。この画面はもう閉じてしまっていい。

 私はiPhone用のアプリ「mconnect player」や、iPad用のアプリ「mconnect HD」を好んで使っている。自分にとって使い勝手がよく、直感的な操作感が気にいっているのだ。USB DACとの組み合わせでは、sMS-200-USBというデバイス表示になっている。

取材時の試聴システム

画像: 今回のsMS-200ultra Neo、sMS-200 Neoの取材では、StereoSound ONLINE試聴室の常設機器を使っている

今回のsMS-200ultra Neo、sMS-200 Neoの取材では、StereoSound ONLINE試聴室の常設機器を使っている

画像: 試聴時のシステム接続図。DELAのミュージックサーバーN1Aからの信号をsMS200ultra Neoに入力し、USB出力はアキュフェーズのD/Aコンバーター、DC-950につないでいる。sMS-200ultra NeoとDC-950の間をつなぐUSBケーブルにはSOtMのdCBL-UF-C(¥143,000、税込、UPOCC銅線USB給電ライン無、1.0m)を使った

試聴時のシステム接続図。DELAのミュージックサーバーN1Aからの信号をsMS200ultra Neoに入力し、USB出力はアキュフェーズのD/Aコンバーター、DC-950につないでいる。sMS-200ultra NeoとDC-950の間をつなぐUSBケーブルにはSOtMのdCBL-UF-C(¥143,000、税込、UPOCC銅線USB給電ライン無、1.0m)を使った

画像: 取材時は別売電源ユニット「sPS-500」(写真左、近日発売予定)を各モデルにつないでいる。LANケーブルもSOtM製を使用

取材時は別売電源ユニット「sPS-500」(写真左、近日発売予定)を各モデルにつないでいる。LANケーブルもSOtM製を使用

 sMS-200ultra NeoとsMS-200 Neoの試聴では、ステレオサウンド試聴室のリファレンス機器を使っている。USBDACとしては、アキュフェーズの「DC-950」を使用。プリアンプとパワーアンプもアキュフェーズ製で、それぞれ「C-3900」とモノーラルの「A-250」(2台)。スピーカーシステムはB&Wの「800D3」である。

 さてさて、冒頭でお伝えしたとおり、sMS-200ultraNeoとsMS-200 Neoには高音質を目的とした興味深いスペシャル・エディションがそれぞれ2種類加わった。それらを交えて、標準仕様と音質がどう変化しているのかを実際に聴き比べてみよう。

 2種類が用意されているスペシャル・エディションの内容は以下のとおり。

●カッパー仕様
電源基板からメイン基板に至る配線材を、7N UPOCC純銅線に換装。
電源基板からクロック基板に至る配線材を、7N UPOCC純銅線に換装。
電磁波シールド材であるeABS-200を採用。
要所に高音質化の目的でEvox Rifaコンデンサーを採用。

●シルバー仕様
電源基板からメイン基板に至る配線材を、7N UPOCC純銀線に換装。
電源基板からクロック基板に至る配線材を、7N UPOCC純銀線に換装。
電磁波シールド材であるeABS-200を採用。
要所に高音質化の目的でEvox Rifaコンデンサーを採用

 私が試聴に用いたのは以下の楽曲。これらをノーマルバージョンのsMS-200ultra Neoでひととおり聴いてから、スペシャル・エディションのカッパー仕様とシルバー仕様をそれぞれ接続して音質を聴き比べている。

●今回の主な試聴曲

手嶌葵「月のぬくもり」
 CDアルバム『コレクション・ブルー』からのリッピング音源
イーグルス「ホテル・カリフォルニア」
 CDアルバム『ヘル・フリーゼス・オーヴァー』からのリッピング音源
マヌ・カッチェ「キープ・オン・トリッピン」
 ハイレゾ・アルバム『サード・ラウンド』より(88.2kHz/24ビット)
河村尚子(ピアノ独奏)「ベートーヴェン:ピアノソナタ 第7番 第1楽章」
 ハイレゾ・アルバム『ベートーヴェン:悲壮&月光』より(2.8MHz/1ビットDSF)
アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団「ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番 第2楽章」
 ハイレゾ・アルバム『ショスタコーヴィチ:交響曲 第5番 第8番 第9番 ハムレット組曲』より(96kHz/24ビット)

 sMS-200ultra Neoのノーマル仕様を組み合わせた音は本格的な音質が得られていて、ごく自然な音の感触という印象を与えた。主たる音質はUSB接続されているDC-950に委ねられているわけだから、DC-950のサウンドキャラクターが反映されているはず。

 それがスペシャル・エディションのカッパー仕様に交換して聴いてみると、構築される音場空間の空気感が澄みわかってきたのがわかる。たとえば手嶌葵の声色の表現や伴奏するピアノの響きも総じて質感が高まって、音の品格がグレードアップしたと実感できるのだ。イーグルスでは全体的に音の雑味が減ってきたようでギターの倍音も豊かになり、聴衆の拍手や口笛の音もクリアーに感じられる。

 マヌ・カッチェが叩くドラムスの打音もより明確になって、スプラッシュと呼ばれる小口径シンバルの鋭い音色もスピード感が増したようだ。ショスタコーヴィチの交響曲は音場の深みが増してきて、より立体的な演奏になったことに驚かされる。この第2楽章の聴きどころでもあるヴァイオリンとハープによる旋律の美しさを響きの余韻も深々と感じられるようになり、見通しのいい視覚的な音へと音質が進化している。

 圧巻は河村尚子のピアノだった。力強い演奏の迫力が増してきて、収録現場の緊張感まで伝わってくるような迫真のパフォーマンスなのである。ベーゼンドルファー製コンサートグランドの一音一音が克明に描写される、見事な演奏にスッと心が引き寄せられるリスニング体験だった。

画像: sMS-200ultra Neoはタブレット等のアプリから操作が可能。取材時にはルーミンアプリを使って、選曲などの操作を行っている

sMS-200ultra Neoはタブレット等のアプリから操作が可能。取材時にはルーミンアプリを使って、選曲などの操作を行っている

 カッパー仕様よりも僅かにハイプライスなスペシャル・エディションのシルバー仕様は、前述したカッパー仕様が聴かせた音の鮮明さや雑味感の少なさはそのままに、デリケートな表現力を身につけた色彩的にも鮮やかな美音を魅せるという好結果に。

 手嶌葵の囁くようなボーカルは精細さが増したような肌理細やかな発声になり、伴奏するグランドピアノは低音域が拡張されたような深みのある響きに感じられた。音像描写がより緻密になって空間の密度が高まってきたという印象を受けるのだ。イーグルスは音場空間がクリアーに感じられるようになりギターの倍音に輝きが加わったかのよう。パーカッションによる低音も僅かながらスピード感が増したような反応のよさが伺える。

 マヌ・カッチェは音のアタックが鋭くなってシンバルの音色がより鮮やかに。ショスタコーヴィチはオーケストラの臨場感が高まってきた。聴きどころのヴァイオリンが鮮やかな表情になりハープの音色もクリアーだ。河村尚子のピアノは、芯のある克明な音色がよりいっそう明確化していき、ピアノの響きにほんのりと煌びやかさが加わっている。迫力も増していて、特に左手で弾く低音弦の鳴りがしっかりとしてきた。

ネットワークトランスポート
SOtM sMS-200 Neo

●ノーマルバージョン ¥82,500(税込)
●スペシャル・エディション 銅線仕様 ¥121,000(税込)
●スペシャル・エディション 銀線仕様 ¥126,500(税込)

画像: sMS-200 Neoは、対応対応サンプリング周波数/量子化ビット数等については上位モデルsMS-200ultra Neoと同等のスペックを備えている。sMS-200ultra Neoとの違いはクロック周りで、より手軽に高品位なハイレゾ再生を楽しみたい方にはお薦めだ

sMS-200 Neoは、対応対応サンプリング周波数/量子化ビット数等については上位モデルsMS-200ultra Neoと同等のスペックを備えている。sMS-200ultra Neoとの違いはクロック周りで、より手軽に高品位なハイレゾ再生を楽しみたい方にはお薦めだ

画像: 背面端子部。sMS-200 Neoには外部クロック入力モデルは準備されていない

背面端子部。sMS-200 Neoには外部クロック入力モデルは準備されていない

両モデルとも、スペシャル・エディションへのアップグレードに対応

 ノーマルバージョンを愛用中の方は、スペシャルエディション仕様にアップグレードも可能だ。価格はsMS-200 Neo、sMS-200Ultra Neoとも共通で、以下のアップグレード料金プラス送料¥22,000(税込)が必要。
●スペシャル・エディション 銅線仕様 ¥38,500(税込)
●スペシャル・エディション 銀線仕様 ¥44,000(税込)

 こうして入念に比較試聴するまでは、私はノーマル仕様とスペシャル・エディションの違いがこれほど大きいとは思っていなかった。スペシャル・エディションによる音質向上にはカッパー(7N UPOCC 純銅線)とシルバー(7N UPOCC 純銀線)という配線材によるサウンドキャラクターが反映されているのは間違いないけれども、実はsMS-200ultraNeoの音声信号ラインに使われているのではなく、電源供給のところの線材が純銅線か純銀線なのかという違いなのである。根本的な音質改善にはeABS-200という高周波領域に効く電磁波シールド材やEvox Rifaコンデンサーの採用が大きく反映されているのは間違いないだろう。

 私個人がスペシャル・エディションから選択するとしたら、ウ〜ンと大いに迷ってしまうけれどもカッパー(7N UPOCC 純銅線)を選ぶかもしれない。でもまあ、カッパー仕様とシルバー仕様の差額は5千円ということだから、思いきってシルバー仕様にしてしまうかも……。

 抜群のコストパフォーマンスを誇る、sMS-200 Neoにも注目していただきたい。ブラックフェイスの高級機であるsMS-200ultra Neoと根幹的なネットワークトランスポートの回路基板は共通しているので操作性もまったくイコールで、なによりもリーズナブルな価格設定が最大の魅力といえよう。

 しかも、sMS-200ultra Neoと同じく、スペシャル・エディションとしてカッパー仕様とシルバー仕様の2種類も用意されているという。音質が気にいっているUSB DACがあって、これからネットワークオーディオを始めてみたいというオーディオファイルには、私はもっとも安価なノーマル仕様のsMS-200 Neoをお薦めしておきたい。

画像: SOtMのネットワークトランスポート「sMS-200ultra Neo」は選ぶ楽しみのあるアイテムだ。ノーマルバージョンと、2種類のスペシャル・エディションの進化を聴き比べた

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