オーレンダーのW20SE(スペシャル・エディション)は、4TバイトのSSDを内蔵したミュージックサーバーで、内部のストレージに保存した音源を再生できるほか、各種のストリーミング音楽サービスなどの再生にも対応する。D/Aコンバーターと接続するための出力は各種のデジタル音声出力とUSBオーディオ出力を装備。そして、高精度なデジタル伝送を実現するため、外部クロック入力も備える。
電源も凝っていて、2組のLFPバッテリー電源を採用し、電源からのノイズの侵入やAC/DC変換で生じる歪みを低減している。しかも予備のバッテリーは無停電電源装置として機能するという念の入った作りだ。そして、クロックも恒温槽付き水晶発振器(OCXO)を採用し、完全デジタル制御のPLLシステムでほぼジッターを無視できる精度を得ている。
このほか、FPGAを使ったDSD音源のPCM変換出力、MQA音源のコア・デコード機能を備え、流通する音源を自在に再生可能だ。
試聴では、編集部のリファレンスであるデノンのDCD-SX1リミテッドにUSBで接続し、D/Aコンバーターとして使用した。アンプはPMA-SX1リミテッド、スピーカーはモニターオーディオのPL300Ⅱだ。操作はiPadにインストールした専用アプリである「Aurender Conductor」を使っている。
鮮度がきわめて高く生々しく豊潤な音
まずは、宇多田ヒカルの『One Last Kiss』(96k㎐/24ビット、FLAC)を再生した。包まれるような伴奏に明瞭なヴォーカルがフワリと浮かぶ、音場がより深みのある立体的な再現になった。声に実体感があり、生の歌声を直接聴いていると錯覚するような感触も素晴らしいが、ひとつひとつの音の鮮度が高く、実に生々しい。単に情報量が多いというよりも豊潤な音だ。
試しにDCD-SX1リミテッドにUSBメモリーを直接挿入して音源を聴き比べてみたが、再生された音場のたたずまい、声の出方の生々しさは明確に違いがある。いちばんわかりやすいのはリズム楽器の出音のスピード感で、これが生々しい音の理由だろう。
聴き慣れたテオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナの『チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」』では、序盤の抑えた演奏でも個々の楽器の音が鮮明でひじょうに純度が高い音だと感じる。雑味のない澄んだ音色だからこそ、強弱の変化がよく出るし、きれいに揃った音の出方からたくさんの楽器による合奏の魅力がよく伝わる。
本機前面にはディスプレイがあるが、表示機能をカットし、また内部的にも音楽再生に不要な動作をオフにすることでさらに高音質化を果たす「クリティカル・リスニングモード」がある。これの効果もかなりのもの。宇多田ヒカルで試してみたが、S/N感がさらに良好になり、音の奥行と伸びやかさが増す。音の定位がさらにシャープになって音場も立体的になるのだ。操作自体はiPadのアプリですべて行なえるので、ディスプレイの点灯や本体のボタン操作は必須ではない。この機能は常時オンで使っていいと思うほどだ。
さらに、外部クロックに、ソウルノートのX3を使ってW20SEに入力してみると、さらに音そのものの品位が増す。低音域の解像感が向上して自分でベースの弦を弾いているようで、まさしく再生音が生音に近づいていると感じた。
この状態で、TIDALも聴いてみた。宇多田ヒカルの楽曲はCD音質となり、ハイレゾ版とはやや違いもあるが、それでもCD品質とは思えない別格の音に驚く。リッピングして保存した楽曲も同様にCDとは思えない音になるだろう。CDをたくさん所有している人にはありがたいはずだ。
MQA音源は使用した機器の都合でコア・デコードのみの88.2k㎐音源としての再生になったが、ビリー・アイリッシュの「ノー・タイム・トゥ・ダイ」のゾクッとするような生々しい声の定位や包み込まれるような伴奏の空間感には、ステレオ再生の表現力の底力を思い知らされたような凄みがあった。まさにネットワーク再生時代のハイエンドと断言できる音だ。