AMT(エアー・モーション・トランスフォーマー)トゥイーターとMDS(マキシマム・ディスプレイスメント・サスペンション)コーン型ウーファーによる組合せ。ピエガの新エントリーラインを形成するAceシリーズは、これら熟成されたドライバーユニットを採用した優美なアルミ製キャビネットをまとっている。それはほぼシームレス構造の、同社の伝統といってよいアルミ押出し材によるスリムなフォルムで、フロントバッフルをウーファーのフレームのギリギリまで絞り込むことで回折現象(ディフラクション)の悪影響を回避し、楕円形断面のフォルムと相まって理想的な音波の放射を実現している。
通常の使用状態ならば、前方から見えるのはきっちり填め込まれたグリルネットのみ。その後ろにドライバーユニットが整然と収まっている。AMT1リボントゥイーターは、24 mm×36 mmのひだ(プリーツ)状に折り畳まれたアルミ製振動板。ネオジウム磁石の強力なエネルギーにて、微細な動作で必要充分な音圧をきわめて低歪みに繰り出すことができる。
MDSウーファーは新設計の振動板に特殊なサスペンション(センタリング・スパイダーとラバーサラウンド等)によってロングストロークと高耐入力を実現。小口径とはいえ、パワフルなディープバスを放出する。
今回は5.1ch(サブウーファーのみ、旧シリーズのTMicroを使用)をセッティングしてサラウンド適性も確認した。フロントに用いたAce50はスリムなフロアー型で、円形のスタンドが一体化されている。3基の低域ユニットはすべて同じ12 cm径だが、一番上のそれはミッドレンジ用に最適化されたもの。下の2基が低域を受け持つ。
リア用にはコンパクトなブックシェルフ型2ウェイのAce30。Ace50と同一のドライバーを搭載し、同社ラインナップの中では最も小型だ。
横置きデザインのセンター専用機Ace Centerは、AMT1+12 cmウーファー2基という構成。密閉型キャビネットはシリーズ中、本機のみ。
音のつながりは良好
センターも違和感なくマッチ
サラウンドでのAVセンターのスピーカー設定は、Ace50がラージ、Ace30がスモールとした。
UHDブルーレイの『ジョーカー』は、地下鉄、マレー・フランクリン・ショーのそれぞれの惨劇を視聴。地下鉄のシーンでは、前方から後方、あるいはその逆の列車がすれ違うフレーム外の音がシームレスにつながっている。つまりAce50とAce30のサウンドはきっちり統制されているということがわかった。銃声の反響もきれいに拡散するし、耳鳴りのような効果音の存在もはっきり実感できる。駆け込んだ公衆便所でのダンスシーンも、チェロの歪んだ音や、メロディーの悲哀感がとてもよく出ていた。
マレーのテレビのシーンでも、観客の悲鳴や嗚咽が後方から包まれるようにサラウンドしている。セリフの定位は克明で、イラつく主人公アーサーの強めの語気、冷静に努めようとするマレーのそれぞれの心情をしっかり映し出していた。Ace CenterはAce50の音ときっちりマッチしていることが確認できたし、そのポテンシャルはこのサイズにしてはかなり高そうだ。
『フォード vs フェラーリ』の新車発表会の場面では、プロペラ機が大きく旋回する音がチャンネル間をクリアーに移動する。前方から後方に向かって上空を飛び去る音も、機体の大きさや重さを感じさせた。シェルビーのスピーチのシーンも、AceCenterから通りのいい声がグッと迫り出して聴こえる。
フォードGT40のテスト走行シーンでも、エキゾーストサウンドの水平方向のつながりは申し分なく(アトモス再生ではないので、垂直方向のつながりはほとんどない)、その遠近感をしっかりイメージさせながら、首脳陣の会話をセンター付近に明瞭に定位する。
クライマックスシーンでのル・マンにおけるフェラーリとのつばぜり合いは、やや甲高いフェラーリのエキゾーストサウンドに対し、フォードのそれは中低域にエモネルギーを感じる音で、その違いを明瞭に出した。また、ブレーキを踏むペダルの音や、ギアチェンジ時のシフトの動作など、機械音のリアリティもなかなかのものだ。
ステレオ再生で発揮する
空間再現能力の高さ
Ace50/Ace50それぞれのステレオ再生を確認してみよう。
Ace50は、その細身のデザインから受ける第一印象をいい意味で裏切る。ローエンドは充分なエネルギー感と音圧をキープしており、重厚な低音というものではないが、安定感のあるしっかりとした低音が楽しめた。ヴォーカルの音像フォルムも克明。クールな外観とはいえ、質感再現はウォームに感じる。発声のニュアンスや色艶の再現もていねいで、華奢な感じは一切ない。ジャズにおいては、ソロとリズムセクションの距離感をきっちりと維持した上で、それぞれの楽器を立体的なステレオイメージの中に明瞭に配列していく印象。クラシックも同様で、音場の三次元的な広がりがあり、ハーモニーがとても柔らかい。この辺りは、一体成型のアルミ製キャビネットの振動の少なさや(箱の内部のブレーシング処理)、細身ゆえのディフラクション(回折現象)の優位性もありそうだ。音が箱にまとわりつかず、フワッと周囲に拡散するイメージなのである。
Ace30は、汎用的なスピーカースタンドを併用し、ほぼ耳の高さにトゥイーターがくるセッティング。さすがにAce50と比べて低音は薄めではあるが、決して不満を抱かせるようなことはなく、低音感をそれらしく聴かせてしまうところがチューニングの上手さだろう。ジャズもクラシックも、常識内の音量の再生であれば不足を感じるようなエネルギーバランスではない。ベースの量感/ピッチともきっちり再現するし、ヴォーカルの定位感と質感再現の温かみも、Ace50に引けをとらない。そして、やはり本機も兄貴分同様に空間再現力に秀でたものがある。ヴァイオリンの微細なニュアンスを細やかに再現しながら、オーバートーンをリッチに響かせ、オーケストラのハーモニーも立体的に広がる。この音を聴くと、Ace30+Ace Centerでサラウンドを組んでもおもしろそうと想像を巡らせてしまう(ただし、良質なサブウーファーが必須だろう)。
総括すると、日本住宅事情にすんなり収まるこのビエガのエントリー・ラインは、デザイン面での個性もさることながら、サウンド面においても2ch/5.1chともしっかりとした主張を有していると実感することができた。
Master
ピエガの持てる技術を集大成したフラッグシップ・ライン。シンボリックな存在であるリボン型ドライバー(一部は同軸型2ウェイユニット)をふんだんに採用。しかも世界初のシングル・ダイポールシステムという点が強力なセールスポイントだ(Master Line source/同2)。ウーファーまで含め、複数個のドライバーユニットを縦一列に配置したラインソース型を形成している。アルミ材によるキャビネットは、内部にMDFや粘弾性フィルムなどを組み合わせたもの。そのていねいな仕上げを含め、スイス・メイドならではの品質・品位の高さも見逃せない。
Coax
現時点で2世代目となるCoaxラインは、押出し成型によるキャビネットに、長年に渡ってモディファイが実施された同軸型リボン・ドライバーを搭載している点が特徴。高域と中域を同一素材で、しかも同一の発音点から放出されると見做してよいこのドライバーは、シームレスな音のつながりや周波数特性だけでなく、音像定位の明確さにおいても大きなアドバンテージを有する。上位2モデルは、ウーファーユニットを複数個配したフロアー型で、スリムなフォルムながらも、がっちり安定したローエンドのエネルギーを繰り出してくる。
Premium
ピエガの中堅ラインで、日本の住宅事情に最も馴染みやすいモデル群といっていいだろう。スイスのデザイナー/ステファン・ヒュルレマンによって新設計され、優美なフロントカバーを含めて、どんなインテリアともマッチする佇まいが完成している。なお、仕上げにはアルマイト処理されたシルバーの他、ホワイト塗装とブラック塗装が揃っているのも、本シリーズの特徴である。トゥイーターは、同社のオリジナルであるリボン型LDR。これにMDSウーファーを組み合わせ、フロアー型の床面の設置はスパイク付きベースプレートを採用している。
Ace
ペンシル型と形容したくなる細身のアルミ押出し材キャビネットを採用したエントリー・ラインで、従来のMicroシリーズに代わるポジションだ。デザイナーは、ステファン・ヒュルレマン。リボン型トゥイーターとMDSウーファーという同社のアイデンティティを継承しながら、価格を抑えた点が嬉しい。特にトゥイーターは、AMT1という新設計タイプで、小型ながら充分な面積のアルミ製振動板をプリーツ状に折り畳んだ構造となっている。Ace50は円形スタンドと一体の自立型。全体の佇まいを崩すことなく、安定感を保つ。