中国の大手家電メーカー、TCLがテレビ市場に参入したのは、いまから約30年前。以降、大型モデルを中心に順調に売上げを伸ばし、いまや世界の液晶テレビ市場において、韓国サムスンに次ぐ市場シェアを誇るまでに成長している。
同社の最大の強みは、テレビの心臓部とも言える液晶パネルはもとより、主要な信号処理回路、スピーカーのドライバーユニット、さらには本体キャビネットについても、TCLグループ内で開発、製造できることにある。
かつて日本メーカーが得意とした垂直統合型のモノづくりが可能で、商品力、生産コストの両面で断然有利になる。最先端の技術をいち早く製品に落としこむことができるだけでなく、世界の市場を見据えた生産スケールによって、開発コストも抑えられる。つまり先進的な技術を搭載した最新のテレビが、リーズナブルな価格で提供できるというわけだ。
自社工場で開発/製造する先進の液晶パネルを搭載
大型液晶パネルは同社のグループ会社、TCL-CSOT(Shenzhen China Star Optoelectronics Technology/華星光電技術有限公司)が開発/製造を手がけるが、先進的なふたつの技術を実用化している。
光の有効利用が可能な量子ドット(Quantum Dots、以下QLED)技術と、細かなLEDバックライトを多数配置して、きめ細かな部分駆動(ローカルディミング)を行なうMini-LEDバックライトという技術だ。
まずQLEDだが、光の波長変換によって、より効率的に高純度のRGBの発色を確保するという技術だ。具体的には、液晶パネルとバックライトの間に直径2~10 nm(ナノメートル)サイズの半導体微粒子を持つ量子ドット光学シートを配置して、青色LEDで映像を照らし出すというもの。微細な量子ドットによって、光の波長を制御(波長変換)して発色するため、一般的に広く使われている白色LED(青色LEDに黄色の蛍光体を塗布したタイプ)に比べて、光のロスが少なく、明るさ、色域ともに有利だ。
4K/8K放送やUHDブルーレイでは、映像のダイナミックレンジを拡張するHDR方式とともに、自然界に存在する色のほとんど(99.9%)が表示できるBT2020という広色域規格が導入されているが、カバー率は約80%。一般的な液晶パネルの場合、同率は70%前後にとどまるだけに、その優位性は明らかだ。
続いてMini-LED技術だが、これはミクロンサイズの小型LEDを透明度の高いガラス基板に数千個並べて、液晶テレビのバックライトを構成するというもの。プリント回路基板に配置した通常のLEDバックライトに比べると、高効率、寿命と輝度出力が有利になる。
また絵柄に応じてLEDの光量を制御し、高コントラスト化を図る部分駆動についても、光源が多くなるため、きめ細かな制御が可能だ。ちなみにTCLの2021年のラインナップでは最高峰のC825シリーズに限定して搭載した技術となるが、部分駆動のエリア数は55インチが128エリア、65インチでは160エリアに達する。
4K QLED LCD DISPLAY
65C825
●TCL製品の問合せ先:(株)TCLジャパンエレクトロニクス TEL 0120-955-517
4Kチューナー&アトモス対応。4Kテレビ7製品が一挙登場
さて注目の4Kテレビだが、同社が世界に誇る自慢の技術、QLED、Mini-LEDともに搭載した高級ライン「C825」(65/55インチ)、倍速駆動の液晶とQLEDを組み合わせたスタンダードライン「C728」(75/65/55インチ)、そしてノーマル駆動の液晶に広色域LEDを投じたエントリーライン「P725」(50/43インチ。43インチ機は通常色域パネル搭載)という布陣で、すべてBS/CS4Kチューナーを搭載。オーディオ面でもドルビーアトモスをサポートするなど、先進の技術を積極的に投入している。
OS(基本操作ソフト)はすべてグーグルが提供するスマートテレビOS、Android TV。多彩なネット動画配信サービスに対応し、購入後にでも「Google Playストア」からお目当てのアプリをダウンロードすることも可能だ。またGyao!、ABEMA、U-NEXT、TSUTAYA TV、Rakuten TV、FODなど、日本独自サービスのアプリについても対応、インストール済だ。
HDR映像に関してはHDR10をはじめ、HLG、ドルビービジョンに対応。テレビ内蔵アプリのネットフリックス再生でも、HDMI経由でのUHDブルーレイ再生でも、ドルビービジョン作品の持ち味を最大限に引き出し、楽しめるというわけだ。
TCL2021年新製品4Kテレビの主なスペック
4K LCD DISPLAY
50P725A
オープン価格(実勢価格8万円前後)
●寸法/質量:W1,112×H699×D300mm/11.1kg
ラインナップ
●43インチ 43P725B オープン価格(実勢価格7万円前後)
Profile
今期のTCL製4K液晶パネル搭載モデルはすべて ①BS/CS 4Kチューナー搭載、②Android TV OSを採用し多彩なネット機能の採用、③ドルビービジョン/ドルビーアトモス対応、④HDMI eARC対応などが共通する特徴になる。その中で、P725シリーズは、TCLの2021年新製品のエントリーラインながら、50インチ機は広色域パネルを搭載。シンプルデザインを訴求したスマート対応4Kテレビという位置づけだ。(編集部)
QLEDらしい鮮烈な発色が印象的な55C728
今回は55インチの主力モデル、55C728と65インチの高級モデル、65C825の2機種について、そのパフォーマンスを検証していく。まずこの両機種を設置して、内蔵アプリを用いた各種ネット動画を視聴してみたが、そのレスポンスのよさ、操作性の快適さに感心させられた。
どのテレビ/スマート端末を使ってもネットフリックスやU-NEXTなどの検索・操作画面は一緒になるが、画面の反応や検索速度となると、各社各様。待ち時間が長く、イライラがつのるケースも珍しくないが、この2機種についてはそうした不快さは皆無。ネット動画の鑑賞ではこの快適さは実にありがたい。
では画質、音質やいかに。まず4K仕様のQLED液晶を搭載した55C728から見ていこう。液晶パネルは正面コントラストに優れたVAタイプで、LEDバックライトはパネル直下に配置している。部分駆動は非対応だが、映像信号を分析し、絵柄に応じた最適処理を行なう独自の技術「マイクロディミング」を駆使し、明るく、メリハリの効いた映像を描き出す。
まず内蔵の4KチューナーでNHKおよび民放のニュース/通販/ドラマなどのBS4K番組を確認したが、一定の明るさ、鮮やかさを大切にした絵づくりで、すっきりとしてヌケがいい。色調としてはわずかに赤みが強い傾向だが、明るさと彩度のバランスは良好。フェイストーンも健康的で、グリーンや黄色に振られるような違和感もない。
続いてネットフリックスから、冷戦期を舞台に、チェスの天才少女の成長と葛藤を描いた『クイーンズ・ギャンビット』のドルビービジョン映像を「薄暗い動画」モードで再生してみたが、これが予想以上にいける。コントラスト感を演出することなく、フラットなトーンで暗部の情報をていねいに拾い上げる。知的かつ独特の雰囲気を持った魅力的な主人公のベスの表情も豊かで、彼女のチャームポイントとなるジンジャーヘア(赤毛)の描写も悪くない。
ここぞという勝負どころで身に着けるチェック柄の衣装は、コントラストが明確で、ゴワッとした質感の描写も本物っぽい。刺すか刺されるか、そんな厳しいチェスの世界を表現しているようだが、同時に、彼女の意志の強さのようなものが感じとれる。
全体の色調としてはやや濃い目のチューニング。フェイストーンは血色がよく健康的。色純度も高く、特に深いグリーン、鮮やかな赤と、QLED液晶が描き出す鮮烈な発色が印象的だった。
照明を落としたような暗めの視聴環境では、階調のきめ細かさ、黒を締まりと言った部分でもう一頑張り欲しいところだが、細い輪郭でディテイルを浮き上がらせるような細密なタッチはなかなか見応えがある。
音声は下向きのフルレンジスピーカーによるステレオ仕様。アナウンサーの声は自然で、明瞭度も良好。ニュース/ワイドショー/バラエティなどの番組視聴用としては不満を感じることはないが、映画作品や音楽ライヴの鑑賞用としては正直言って、やや物足りない。
ここはぜひ活用したいのが、非圧縮の5.1ch、7.1ch、あるいは最大32chに対応したオブジェクトベースオーディオもテレビ経由で伝送できるeARC(Enhanced Audio Return Channel/エンハンスト・オーディオ・リターン・チャンネル)機能だ。AVセンターやサウンドバーと接続すれば、操作性をほとんど犠牲にすることなく、音質面の強化が可能だ。
ドルビーアトモス対応のAVセンターとの組合せでは、トップスピーカーを設置した本格的なマルチチャンネルシステムも、テレビ付属のリモコンだけで快適に操作できるわけで、このシステムとしてのスマートさは格別。チャレンジしてみる価値は充分にある。
4K QLED LCD DISPLAY
55C728
オープン価格(実勢価格11万円前後)
●寸法/質量:W1,227×H768×D302mm/13.6kg
ラインナップ
●75インチ 75C728 オープン価格(実勢価格20万円前後)
●65インチ 65C728 オープン価格(実勢価格13万円前後)
Profile
TCL製4Kテレビでは、従来からQLEDパネル搭載モデルを強く訴求している。QLEDとは、量子ドットという半導体微粒子を用いて色純度を高めた液晶パネルで、鮮やかかつ豊かな映像の実現を目指して開発された技術だ。C728は、このQLED仕様の倍速駆動液晶パネルを採用したスタンダード4Kテレビシリーズ。バックライトは直下型LEDタイプを採用している(編集部)
HDMI端子は3系統。端子1は、eARC(エンハンスト・オーディオ・リターンチャンネル)に対応している。なお、今期のTCL製4Kテレビでは4K/120p信号の入力には非対応
安定した色再現が魅力の最高峰モデル65C825
続いて2021年のTCLテレビ・ラインナップの最高峰となる65C825。狭ベゼルのフルスクリーン下に、オンキヨーとの共同開発によるサウンドバーを配置したスタイリッシュなデザインで、本体背面には専用のサブウーファーを配置している。
前述の通り、ドルビーアトモス、DTS-HDマスターオーディオも対応済。豪華なスピーカーシステムを計60Wのハイパワーアンプで駆動し、65インチの4K映像に相応しい迫力のサウンドを提供しようという狙いだろう。
最高の技術を集約した高級機だけに、液晶パネルはもちろん色域が広く、より自然界に近い色彩表現が可能なQLEDと、画面直下に数千のきめ細かなLEDを配置したMini-LEDバックライトを組み合わせている。画面表面はわずかに反射を抑えた仕上げで、実際、65インチの大画面でも外光や照明の映り込みも気になりにくい。
ここで注目したいのは、QLEDと絵柄に応じてLEDの照度をきめ細かく制御できるMini-LEDとの相性のよさだ。QLEDの強みは冒頭で紹介した通り、一般的な白色LEDとカラーフィルターによる発色に比べると、RGB成分の取り出す時の変換ロスが少なく、より高純度の色彩が描き出せるところにある。
ただこの持ち味を最大限に引き出すには、パネル自体に充分なダイナミックレンジが確保できることが大前提だ。特に液晶の場合、バックライトからの光を完全に遮ることができず、どうしても黒が浮きやすく、悩ましい。
黒が締まりきらないということは、その部分の色再現についても少なからず影響を受けてしまうということ。つまりローライトから黒にかけて、QLEDの優位性が発揮しづらいという難しさを持ち合わせているのである。
この問題を解消するのがMini-LEDによるきめ細かなバックライトの部分駆動制御だ。65C825の場合、縦横8㎝前後のエリア毎にLEDの明るさを制御していくわけで、完全にオフにすることも可能だという。
暗い領域は暗く、そしてその電力的な余裕を明るい領域に振り分けられるため、黒が締まり、白ピークが伸びるというメリハリの効いた再現性が可能。明部/暗部を問わず、全帯域に渡ってダイナミックかつ安定した色再現が期待できるというわけだ。
実際の効果はどうだろう。ネットフリックス『クイーンズ・ギャンビット』(ドルビービジョン)を再生してみたが、ベスの髪の毛は細く、柔らかく、赤毛のグラデーションもなめらか。肌はほんのりとピンクがかり、透き通るような質感で、ナイトシーンの発色も安定している。
本作はライトグリーンからモスグリーンまで濃淡さまざまなグリーンの衣装を意図的に採用しているが、淡いグリーンのツイードのドレスは柔らかな生地の感触を的確に表現し、そこにほのかな緑色がスッと染み込む。
そして照明を絞ったダークな空間でも、フォーカス感が後退することなく、グリーンの発色も不自然にならない。随所でQLED液晶とMini-LEDの相性のよさを感じさせるパフォーマンスだった。
ここでもうひとつ、感心させられたのが単に色の鮮度が高いだけでなく、明るいシーン、暗いシーンを問わず、色相、彩度と、全体の色バランスが崩れにくく、安定していたことだ。
広色域を謳う液晶パネルの場合、確かに華やかな色彩表現を楽しませてくれる反面、ややもすると原色の鮮やかさばかりが際立ち、全体の発色バランスを崩してしまうケースも少なくないが、本機の場合、そうしたクセっぽさはさほど気にならない。さすがフラッグシップモデルだけのことはある。
続いて珠玉の名作ミュージカル作品『マイ・フェア・レディ』(北米版UHDブルーレイ)を再生してみたが、いかにもドルビービジョン収録らしいヌケのよさ、清々しさを感じさせる映像で、奥行方向にスッと拡がる空間描写が特徴的だ。
突然の雨を避けて、貴婦人たちが市場に紛れ込むコヴェントガーデンのシーンは、照明効果によって、水の反射や人影を浮かび上がらせているが、そうした微妙なコントラストの描き分けも意欲的だ。さらに暗がりの中、赤、ブルー、金色と、豪華なドレスが鮮明に浮かび上がり、質素な行商人との対比がより鮮明に浮き彫りになった。
ワーナーのスタジオ内に設けられたセットで撮影された、お馴染みアスコット競馬場のシーンは、きらびやかなドレス、鳥の羽をあしらった帽子、独特の光沢を放す宝飾品と、豪華な衣装、セットは見応えがある。オードリー・ヘップバーン演じるイライザの肌は透明感に富んで、血色がよく、きめが細かい。その美貌ぶりが際立った。
サウンドバー+サブウーファーによるサウンドは、必要以上に空間の広さを求めず、人の声を歪みなく、クリアーに再現するという正攻法の仕上がりだ。全体に刺激臭のない肌触りのいい聴かせ方で、セリフの質感もなめらかだ。
初々しさを感じさせるオードリーの歌声は、息づかいが生々しく、どことなくぎこちない雰囲気までしっかりと表現している。画面に寄り添うような響くスケール感は、大きすぎず、そして小さすぎず、65インチという画面サイズにちょうどいい。センターに定位する歌声、セリフと、その背後に広がる音楽、効果音の関係性も絶妙なバランスと言っていいだろう。
●
多彩なネット動画配信サービスへの対応に加え、4Kチューナーを標準装備し、機能面のハンディを完全に克服したTCLの4Kテレビ。私自身、この1、2年、同社のテレビの画質を都度確認し、その成長ぶりを目の当たりにしているが、今回のテストでは画質の進歩は止まることなく、より加速しているようにも思えた。特に最高峰の65C825については、これという致命的な弱点は見当たらず、テレビの本質とも言える画質、音質で勝負できるモデルに仕上がっていた。
「いよいよTCLが本気になった!」
それが視聴後の率直な感想だ。
4K QLED LCD DISPLAY
65C825
オープン価格(実勢価格25万円前後)
●寸法/質量:W1,446×H905×D290mm/32.2kg
ラインナップ
●55インチ 55C825 オープン価格(実勢価格20万円前後)
Profile
C825シリーズは今年のTCLテレビのフラッグシップモデルで、QLED液晶にMini-LEDという「画素サイズの小さなLEDライトを敷き詰めた」バックライトシステムと組み合わせて高コントラストを目指す。映像を認識しつつバックライトの部分駆動を行なう「ローカルディミング」機能により、映像の明暗比を高め、ダイナミックレンジに優れた映像表現を追求している。オンキヨーと共同開発したサウンドバーシステムの搭載も特徴のひとつだ(編集部)
テレビ後方向かって左側面に電源ケーブル以外の接続端子を集約している。HDMI端子は3系統を備えている
C825を始めとする2021年のTCL製全4Kテレビでは、OS(基本操作ソフト)にAndroid TV OS 9.0を採用。NetflixやAmazon Prime Video、YouTubeなど国際的サービスからU-NEXT、ABEMA、TVerなど日本独自のサービスまで幅広く対応している