HiVi6月号の特集「ネットワークプレーヤーの最先端」でフィーチャーされたのはオーレンダーのACS100。そのいっぽうで、「夏のベストバイ」ネットワークトランスポート部門で第1位となったのはACS100の上位モデルACS10だった(ACS100は同部門第5位)。つまり、オーレンダーの新製品がとても注目されているということ。ここでは、かねてからのオーレンダーユーザー小原由夫さんの自宅でACS10の試聴テストを実施。その魅力を解説していただこう。(編集部)
Aurender
ACS10
¥770,000+税
●接続端子:デジタル音声入力1系統(USB)、デジタル音声出力1系統(USBタイプA)、LAN3系統
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜768kHz/32ビット(PCM)、〜22.5MHz(DSD)
●再生キャッシュ用ストレージ:240Gバイト(SSD)
●楽曲保存用ストレージ:16Tバイト(8TバイトHDD×2)
●寸法/質量:W430×H96×D355mm/12.3kg
●問合せ先:(株)エミライ http://www.aurender.jp/contact/
私がオーレンダーのネットワークトランスポートW20を自宅システムに導入したのは今から6、7年前で、国内では早かった方だと思う。初めてその音を聴いた時の衝撃は今でも忘れない。クリアーな見通しのステレオイメージの中に整然と奏者が居並び、声や楽器の質感がひじょうにリアルな上、音像定位の克明さにハッとさせられた。当時はハイレゾ音源が市民権を得始めた頃で、ネットワークトランスポートというカテゴリーの製品がまだ定着する以前に、そのイノベーターとしてオーレンダーは一躍脚光を浴びる存在となったのだ。
CDリッピングからファイル管理、再生を1台で完結できる新製品
今回、CDリッピング機能を内包したサーバーシステムACS10や姉妹機ACS100が突如ベストバイの上位に食い込んできたという印象を持つ読者が多いかもしれないが、同社の足跡は既に10年以上。新製品がここ数年出てこなかったのには理由があり、母国の業務用映像機器製造企業の傘下に入ったり等、いくつかの紆余曲折があった。現在は創業者が会社を買い戻し、開発とセールスの拠点を新たに米国に置くことでグローバルなビジネス展開を推し進め始めたところである。輸入元のエミライも、今年は「Aurender 2.0」のスローガンの元、拡販に注力するとしている。
コンパクトにまとめられた姉妹機ACS100
W20は先頃大幅刷新を受けてW20SEとして生まれ変わって早くも話題になっているが、いっぽうで私は、ACS10にも大いに着目している。似たような性格のマシンは既に市場に出回っているが、本機の特徴はオーディオに特化したネットワークハブ機能や、240Gバイトの再生キャッシュ用SSDを搭載している点にある。前者は、二重絶縁による2系統のLANポートによって高品位なネットワーク・ルーティングが可能となる。後者は、内蔵ストレージからの音楽データ再生時、一時的にそれをキャッシュすることでストレージ側をシャットダウンさせ(あるいは切り離し)、よりハイクォリティな音楽再生を図ったものである(W20やW20SEにも同様の機能が内蔵されており、後述する効能も無視できない)。
本機に搭載されたドライブメカはティアック製CD-ROMドライブ。スロットローディング方式のACS100とは異なるトレイ式である点が興味深い。インターネット接続しておけば、CDリッピング時にはメタデータやカバーアートを自動的に検索・反映してくれる。ファイルコーデックは、FLAC/WAV/AIFFから選択する仕組み。対応フォーマットはDSD22.5Hz/PCM768kHzと、申し分ない最新規格対応。ファイル保存用の内蔵HDDは16Tバイト(8Tバイト×2基)と、よほどのCDコレクターでも必要充分な大容量である。内蔵電源はリニア回路方式で、万が一の停電時にデータを保護するUPS機能の内蔵が嬉しい。
操作は独自の専用アプリ「Aurender Conductor」にて行なう。以前はiPadのみの対応だった同アプリだが、今回の新製品数の登場に合わせ、iPhoneやアンドロイド端末上でも利用可能となった。私は愛用中のW20でiOS(iPad)用を日常使用しているが、ひじょうにわかりやすいUIで快適に操作できている。なお、同アプリ内にてQobuzとTIDALのストリーミング再生にも対応可能だ。また、オプションにてMQAコアデコーダーに対応しており(アップグレード対応)、MQAレンダリング対応DACとの連携で完全なMQAデコーディングが可能となる仕様である。
CDリッピング等については、もうひとつの専用アプリ「ACS Manager Companion」を使うことでスマートに管理できる。これはリッピングの他に、スマートコピー、移動、削除、重複チェック、スマートタグエディターなどのシステム設定を容易にしている。
同アプリは、W20SE(W20も同様)などの同社トランスポート/プレーヤーと連携させることで、ファイルのバックアップ(コピー)も自動化できる。一般的な環境ではミラーリング等の処置が必要だが、ドメスティックな連携とはいえ、私のような既存のオーレンダー機ユーザーにはひじょうに有益な機能だ。
なお、本機は同社製品との組合せやスタンドアローン使用を前提としており、DLNA/UPnP対応NASとしては使えないので注意していただきたい。
多機能を支えるのは優れた独自アプリ
オーレンダーの製品のコントロールには、iPad/iPhone(iOS)もしくはAndroidのタブレットを使う。基本操作には「Aurender Conductor」、データ編集やCDリッピングの設定用には「Manager Companion」というアプリが用意され、どちらも無料。メーカーによっては操作アプリは完全に外部に委託することもあるが、完全オリジナルで使いやすさを追求する稀有な存在だと言える。(編集部)
精悍な外観とスムーズな動きに感心。特にリッピングは「載せるだけ」でOK
外観は既存の同社製品と同様、両側面に放熱用ヒートシンクを備えたシルバー/ブラックのツートンで、梨地仕上げのアルミパネルが渋さと精悍さを兼ね備えている。前面左側に搭載されたカラーディスプレイにメタデータやアルバムアートが表示される。今回の試聴テストに当たり、自宅で愛用のアルミ合金製オーディオラックALVENTO(アルベント)のW20の下の段に収めたが、視覚イメージとバランスが揃って真に素晴らしく、しばし見惚れてしまったほどだ。
CDをトレイに載せてクローズすると、アルバムタイトルやアーティスト名等のメタデータやアルバムアートが表示され(もちろん文字化け等は皆無)、自動的にリッピングがスタートする。進捗状況はバーグラフで表示され、リッピング完了後は自動的にCDが吐き出される。
操作はW20で使い慣れたアプリ「Aurender Conductor」にて、W20と同じフィーリングで行なえた。始めにW20かACS10のいずれかを選択すると、ストレージに収納された音楽データがジャンルやアーティスト名、ファイルコーデックごとに表示される。ちなみにCDリッピングされた音楽データは、『Ripped Albums』のフォルダーで管理されていた。
今回の自宅試聴では、ACS10と愛用するソウルノートのディスクプレーヤーS3のUSB入力に接続して試聴した。当然のことながら、CDリッピングの音楽データは、S3のディスプレイにはCDのサンプリング周波数である「44.1」と表示される(使用機器の都合でMQAの試聴はしていない)。
ダイナミックレンジが滅法広い!“音の強さ”がACS10の魅力だ
普段W20を使っている私の耳に、ACS10の音は何の違和感もなく入ってきた。それは紛れもない“オーレンダー・サウンド”であり、汎用的なリッピングソフトを用いたPC操作でNASに入れた音源に比べ、ACS10のそれはダイナミックレンジが滅法広く、きわめて精巧に感じられる。
不思議なことに、CDを直に聴くよりもACS10にリッピングした音の方が遥かに精巧なのだ。ディスクの回転に伴なう何か、あるいはエラー補正等から解放されることもあるのだろうか、44.1kHzの音がよりダイナミックで生き生きとした鮮度の高さに感じられるのが凄い。スケール感も大きく違う。種明かしをしなければ、CDが元の音源とは誰も言い当てられないのではないだろうか。
ヒラリー・ハーンの独奏による「ショーソン/詩曲」では、オーケストラの重厚な響きの中でヴァイオリンの音色が強く感じられ、哀切的な情緒や抑揚が明瞭なコントラストにて再現される。組み合わせるD/Aコンバーターに依存する面もあるが、総じてオーレンダーの製品にはそういう性格の音であると私は思う。端的に言えば、それは“音の強さ”だ。話は少々逸れるが、曲の途中でトラックを飛ばした際にブチッと切れて次の曲に変わるのでなく、フェードアウト/フェードインで切り替わる辺りも実に心地よい(セットアップメニューから詳細を設定できる)。
聴き慣れたジェニファー・ウォーンズの「トゥモロウ・ナイト」のイントロのベースが強靭に響くが、そうかといってウォーンズの声が筋骨隆々になっているわけではなく、年齢相応のしなやかな色艶を伴なってステレオイメージの中央にくっきりと屹立している。その音像フォルムがすこぶる生々しい。
上原ひろみの「カレイドスコープ」は、まさにタイトル通りの千変万化するメロディーがダイナミックかつカラフルに表情を変えていくのがわかる。と同時に、上原ひろみが卓越したテクニックの持主であることが再生音から伝わってくる。冒頭記した“オーレンダー・サウンド”には、そういうところまでリスナーに伝えてくれる力があるのだ。
今回ACS10を自宅テストして感銘を受けた点は、前述した音質のよさはもちろんだが、ファイル再生中であってもCDをトレイに載せれば、まさにポンポンと小気味よく、自動的にリッピングしてくれたことにもある。つまり音楽鑑賞しながらどんどんデータを貯めていくことができるのだ(しかも前述したように、終われば自動的にディスクがイジェクトされる)。これもデータ再生時にファイルをキャッシュすることの恩恵なのだろうか。重宝する機能で嬉しくなる。
ACS10。こんなCDストリーマーを待っていたという人は多いのではなかろうか。斯く言う私もその一人である。