KEF、インフィニティ、TADと、世界の名門スピーカーブランドで名を馳せたアンドリュー・ジョーンズ。約6年前、独エラックに活躍の場を移し、ADANTEライン、Uni-Fi SLIMライン、Debutライン、そしてエラック伝統のJETトゥイーターの流れを汲むJETフォールデッド・リボンを搭載したCARINAシリーズと、順調にラインナップを拡充している。
いずれもアンドリューならではの高度な技術、作り込みによって仕上げられたスピーカーシステムで、実際、日本のみならず、世界の市場で高い評価を得ている。ここで紹介するDebut Referenceラインは、エントリーラインのDebutラインの上位シリーズという位置付けで、開発エンジニアはもちろんアンドリューだ。
昨年2月、ブックシェルフのDBR62がシリーズの中でいち早くリリースされ、この春、そこにトールボーイのDFR52とセンタースピーカーDCR52が加わり、シンプルなステレオ再生から、本格的なマルチチャンネル再生まで、多彩なニーズに応えられる環境が整えられた。
今回はDBR62およびDFR52のステレオ再生と、そこにセンター用のDCR52、さらに25cmウーファーを最大400Wのハイパワーで駆動するサブウーファーDebut SUB3010を加えたDebut Referenceのマルチチャンネル再生のパフォーマンスについても検証していく。
大人気も納得のDBR62。高品位で気持ちよく鳴る
すでに市場で高い評価を得ているDBR62は、25mm径シルクドームトゥイーターと、165mm径アラミドファイバーコーンのウーファーによる2ウェイシステムで、扁平なスリット状のバスレフポートが特徴的だ。トゥイーター周りには、上級シリーズのVELAラインで実績のあるウェイヴガイド技術が取り入れられ、高域成分のより自然な放射特性を約束している。
家具調のウォルナット模様のエンクロージャーはなかなかお洒落だが、実際に手にとるとズシリと重く(質量8.2kg)、そのつくりのよさが実感できる。ブラックバッフル部分には、グレーのサランネットがマグネットで装着され、ユニットを露出しない柔らかで落ち着いたイメージで設置することも可能だ。
無駄のない、洗練されたデザインもなかなか素敵だが、DBR62の最大の魅力は、間違いなくその音のよさにある。新製品の試聴で私が必ずと言っていいほど再生するジェニファー・ウォーンズ「First We Take Manhattan」は躍動感に富んだ軽快なリズム感が特徴的で、微細な響きが空間高く拡がり、音場の見通しが実にいい。特に感心させられたのは、彼女の声のニュアンスの生々しさ。開放的ではあるが、適度な重みと、歯切れのよさを両立させていて、このサイズとしてはレンジも広い。
レナード・コーエンとのデュエット曲「Song Of Bernadette」でも、コーエン独特の低い歌声と、多彩な表情を秘めた彼女の歌声のコントラストが鮮やかで、情緒に富んだ2人の表現がダイレクトに心に響き、浸透する。
私は仕事柄、年間数十以上のスピーカーの新製品を試聴するが、ペア10万円に届かない価格でありながら、高級スピーカーに通じるクォリティ感で、ここまで気持ちよく鳴ってくれるモデルは、本当にひさしぶり。いまも品薄の状態が続くほどよく売れているようだが、このサウンドがなら当然と言えば当然、さすが日本のオーディオファンは感度が高い。
まとまりよく解像力充分の音。大スケールも魅力のDFR52
続いてこの春、デビューしたDFR52。外観はブックシェルフのDBR62を縦方向にそのまま伸ばして、トールボーイ型として仕上げられたイメージで、トゥイーター、ミッドレンジ、ダブルウーファーによる3ウェイシステムとしている。
ウォルナット調のエンクロージャーに、ブラックバッフルという組合せもDBR62譲り。一見、トゥイーターとウーファーはDBR62と共通品と思われるかもしれないが、後者は130mm径と、ひとまわり小振りで、本体サイズもこれに合わせて、横幅、奥行もややコンパクトに仕上げられている。
ただトップパネルとサイドパネルを強固に接合し、エンクロージャーの剛性を高めるフル・ペリメター・ブレースという手法や理想に近い高域の放射特性を約束するウェイヴガイド、アルミニウムダイキャスト製の高剛性フレームと、共通する技術は少なくない。
さて気になるそのサウンドだが、重く、厚みのあるベースの躍動といい、輪郭のにじみを感じさせないS/N感のよさといい、随所でスピーカーとしての素性のよさを感じさせる。重厚な響きと、適度な湿り気を湛えた落ち着きのある質感で、腰砕けにならない。ジェニファー・ウォーンズの歌声はより艶っぽく勢いが増して、目の前に拡がる空間がひと回り大きくなる印象だった。
ジャズトリオはほどよい弾みと、力感を伴なったベース、バスドラの躍動が実に楽しい。そしてピアノの響きはきめが細かく、繊細。このクラスのスピーカーではなかなか体験することのできない品位の高さを感じさせてくれる仕上がりぶりで、全体のまとまりがいい。
明快な解像力を感じさせながら、不自然なピーク感がなく、肌合いのいいサウンドが耳にスッとしみこむ聴き心地のよさは、DBR62に通じるもの。同一シリーズということもあって、聴感上の音色が近く、帯域バランスの取り方や、響きの拡がり方なども、よく似ている。
おのずとマルチチャンネルシステムへの発展も考えやすく、しかも今回、センタースピーカーDCR52まで用意された。このモデル、トールボーイ型のDFR52と同じトゥイーター、ダブルウーファーを投じた2ウェイシステムで、アンドリューがDFR52/DBR62との組合せを想定して開発した自信作だ。
シームレスかつ一体感に優れた見事なサラウンドサウンド
ではさっそく、DFR52をフロントL/Rに、DBR62をサラウンド用にそれぞれ配置し、そこにセンタースピーカーDCR52とサブウーファーDebut SUB3010を加えたDebut Referenceシリーズのマルチチャンネル再生を聴いてみよう。なおオーバーヘッドスピーカーは、HiVi視聴室常設のイクリプスTD508MK3を6本使用。AVセンターはデノンAVC-X8500Hを使った。
北米版UHDブルーレイ『パラサイト半地下の家族』のドルビーアトモス音声を再生してみたが、全体に刺激臭のない肌触りのいいサウンドで、セリフの質感もなめらかだ。刺々しさがなく、輪郭も穏やかに聴かせるため、センターに定位するセリフと、その背後に広がる音楽、効果音の関係性も把握しやすい。
パク家の豪邸で誕生日のパーティの準備が進む中、家庭教師の長男ギウが山水景石を持って地下室を訪れ、大騒動となるが、この時、階段から岩が落ちるときの衝撃音の生々しいこと。サブウーファーDebut SUB3010ではスマホで再生環境を測定し、各帯域を自動で調整する「ELAC Sub コントロール2.0」という機能を備えているが、その効果をまざまざと見せつけられた感じだ。
UHDブルーレイ『アリー/スター誕生』のアトモス音声再生では、声の質感の緻密さ、ニュアンスの豊かさに加え、まるで生き物のように収縮する空間の描き分けは聴き応えがある。チャプター7「Shallow」では2人の熱い歌声が、ステージ中央から客席へと拡がっていく様子が実にスムーズで、一体感のあるライヴ空間として描き出された。
このシームレスな広がり、一体感は、まさに音色/反応が整えられた純正Debut Referenceシリーズならでは。特にニュアンス豊かなセリフ、歌声を中心にして、その周辺に階層的に拡がっていく効果音、音楽とのバランスがいい。このプライスで、ここまでのパフォーマンスを演じてくれるとは—— 。驚き以外の何者でもない。
DFR52
¥200,000(ペア)+税
●型式:3ウェイ4スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ミッドレンジ、130mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m
●インピーダンス:6Ω
●クロスオーバー周波数:90Hz、2.2kHz
●寸法/質量:W185×H1,016×D242mm/16.7kg
●問合せ先:(株)ユキム TEL.03(5743)6202
DBR62
¥80,000(ペア)+税
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:86dB/2.83V/m
●インピーダンス:6Ω
●クロスオーバー周波数:2.2kHz
●寸法/質量:W208×H359×D275mm/8.2kg
DCR52
¥65,000+税
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ウーファー×2
●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m
●インピーダンス:8Ω
●クロスオーバー周波数:2.2kHz
●寸法/質量:W527×H185×D242mm/10.1kg
Subwoofer
Debut SUB3010
¥95,000+税
視聴に使った機器
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:スチュワート StudioTek130G3(123インチ/シネスコ)
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニック DP-UB9000(Japan Limited)
●AVセンター:デノン AVC-X8500H
●スピーカーシステム:イクリプス TD508MK3×6