70年代、独自の音楽性と、傑出したパフォーマンスにより、日本の音楽シーンに大きな足跡を残した伝説のグループアリス。デビュー当初、なかなか知名度は上がらず苦労したようだが、地道なツアー活動の積み重ねにより、着実にファンを獲得。

 「今はもうだれも」のカバーヒットを契機に、「帰らざる日々」「冬の稲妻」「ジョニーの子守唄」「遠くで汽笛を聞きながら」「チャンピオン」「秋止符」などなど、ヒット曲を連発、その多くはいまもなお受け継がれ、大切に歌い続けられている。

 ここで紹介するアナログレコード『堀内孝雄≪ベスト≫』は、谷村新司とのツインヴォーカルとして存在感を示した“べーやん”こと堀内孝雄のベスト盤である。アリスのヴォーカルと言うと、どうしても谷村のイメージが強いが、でしゃばりすぎず、ほどよい距離感を保ち、しかも確かな仕事をこなす堀内を支持する声は根強く、この作品も「味わい深い堀内の声を良質なアナログレコードで楽しみたい」という要望に応えて、制作、リリースされている。

堀内孝雄≪ベスト≫ (LP) SSAR-051

画像: ■型番:SSAR-051 ■仕様:アナログレコード 33回転 180g 重量盤 ■価格:¥8,800(税込) ■完全限定生産 ■カッティング エンジニア:武沢 茂(日本コロムビア株式会社) www.stereosound-store.jp

■型番:SSAR-051
■仕様:アナログレコード 33回転 180g 重量盤
■価格:¥8,800(税込)
■完全限定生産
■カッティング エンジニア:武沢 茂(日本コロムビア株式会社)

www.stereosound-store.jp

 世の中、歌のうまい人は星の数ほどいる、プロ歌手といえば、なおさらのこと。しかし心に響く、魂を揺さぶるような魅力的な歌声となると、そう多くはない。私がこのレコードで堀内の歌声に触れて新鮮だったのは、彼の声には歌のうまさだけではない、心の琴線に触れるような、喜び、心地よさを呼び起こしてくれる不思議なエネルギーが感じられたこと。

 収録された10曲、すべて彼自身が作曲しているということもすくなからず関係していると思うが、これはやはり堀内の温かみのある人柄、豊かな人間性によるところが大きい。間違いない。

『堀内孝雄≪ベスト≫』収録曲
[SIDE-A]
1. 影法師
2. 河
3. ガキの頃のように
4. カラスの女房(ニューバージョン)
5. 冗談じゃねえ

[SIDE-B]
1. 恋唄綴り
2. 東京発
3. 遠くで汽笛を聞きながら(ゴスペル・バージョン)
4. 恋文
5. 灯(ともしび)

 日本歌謡大賞を受賞した「影法師」、モーニング娘。のリーダーだった中澤裕子に提供した「カラスの女房」、そしてNHK「紅白歌合戦」での熱唱が話題となった「東京発」と、聴きどころ満載のアルバムだが、実際にターンテーブルにセットして、針を盤面の溝の上に落とすと、躍動感に富んだ質の高い演奏と、浸透力のある若々しい歌声に魅了される。

 まずテレビ朝日系列で放送された人気ドラマ『はぐれ刑事純情派』の主題歌に起用されたヒット曲「ガキの頃のように」を再生してみたが、その確かな歌唱力はもとより、ひとつひとつの言葉を丁寧に歌い上げていく様子が実に清々しい。

 声は落ち着いていて、実に心地よく、安心感のようなものを与えてくれるが、同時に、私の脳裏には藤田まこと演じる安浦吉之助刑事(やっさん)が帰りがけに立ち寄るバーで、和服姿のママ、片桐由美(眞野あずさ)相手にくつろぐシーンが、鮮明に浮かび上がった。

 聴いていた当時の情景が蘇る、まさに歌のもつ力だが、良質な音源を吟味し、カッティングから徹底してこだわって仕上げられた重量盤レコードがもたらす、熱いエネルギーに満ちた堀内の歌声と無関係ではないだろう。

 日本レコード大賞と日本歌謡大賞のダブル受賞に加えて、全日本有線放送大賞を獲得した「恋唄綴り」もなかなか聴き応えがある。もともとは麻生詩織への提供曲だったが、後に堀内のセルフカバーシングルが発売され、『はぐれ刑事純情派』の主題歌に採用されている。

 人情味あふれるドラマのストーリーと、離れてしまった恋人への想いを綴る素敵な歌詞内容だが、その歌唱力、演技力の非凡さが際立つ。女性の思い、胸の内を堀内が女性の語り口で歌っているが、まったくと言っていいほど違和感がない。わずかなくすみを感じさせつつ、伸びやかに聴かせるサビの歌声が、なんともせつない。

 続けて大ヒット曲「遠くで汽笛を聞きながら」を再生。ここではコーラスとのハーモニーを意識した“ゴスペル・バージョン”として収録されているが、その空間の広さといい、響きの緻密さといい、レコードに収められた絶対的な情報量の豊かさを実感させられる。

 感性豊かな堀内の声もあって、日々思う後悔の気持ちや、前向きに生きようという感情が複雑にからみあい、男性特有のセンチメンタリズムが刺激される。ただ最後まで聴き終えると、心の中にくすぶっていた苦悩、不安、煩しさはキレイさっぱり押し流され、清々しさだけが残った。不思議な感覚だ。

 高品質のレコードと堀内孝雄というアーティストの相性のよさを痛感した瞬間だった。

●関連ソフト 『アリス(アナログレコード)』

●関連ソフト 『Stereo Sound ORIGINAL SELECTION Vol.8「アリス」(SACD)』

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